やり直しの人生は、好きな人を全力で追いかけます。オギャー!

夏芽玉

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10話 優しい拒絶

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『好きになっても、遠くから眺めてるだけで満足しちゃうんです。だから、恋人とかは居たことがなくて……』
『こんなに美人な子に好きって言われたら、誰でもすぐに嬉しくなっちゃいそうな気もするけれど』
『そんなことないですよ! でも、一度、自分に心を向けてくれた人にはどこまでも溺れていってしまいそうで、怖くて……』
『恋愛って、一人でするもんじゃないよ。互いに愛し合って、助け合って。きっとハルくんならそんな相手と出会えるんじゃないかな』
 
 あの日、彼がいつか出会うであろう未来の相手に、嫉妬する気持ちを抱えながらそう伝えた。彼に、幸せになってもらいたいと思ったから。

 先生は、あの時の会話のことを、まだ覚えてくれている……?


「いや、なんでもないよ。……そろそろ帰ろっか。遅くまで付き合わせちゃってごめんね」

 はるき先生はお誕生日カードを手に取ると、自分のカバンの中に入れた。
 オレが記憶の海を漂っている間に、いつの間にか机の上は片付けられてしまっていた。

「でも、作業が……」
「残りは僕が家でするから。今日の分の実習日誌は書けてる?」
「まだですけど……」
「それじゃあ、しんたろうくんは日誌を書かなきゃ。今日はもう遅いから、明日まとめて見せて」
「でも……」
「まずは実習のこと、しっかりしないとね」

 そう言われてしまうと、オレは何も言えない。
 この実習期間中になんとかして先生の恋人になりたいと思っていた。だけど、オレはここに先生を口説きに来ているのではなく、実習に来ているのだ。先生の言葉に、現実に引き戻される。

「遅くまで本当にごめんね。また、明日もよろしく」

 その日、はるき先生の優しい笑顔に保育園を追い出された。それは、オレの告白に対する拒絶だった。



 あの後、どうやって家まで帰ったのかなんて覚えていない。ただ帰宅してからは、はるき先生に嫌われたくない一心で、なんとかその日の実習日誌を書き上げた。
 赤ん坊のときのように、大泣きして先生が手に入るなら、オレは一晩中声が枯れるまで泣いただろう。だけど、そんなことをしてもどうにもならないと二十歳のオレは知っていた。

 オレは告白さえできれば、はるき先生の恋人になれると思っていた。先生に今まで恋人がいたことがないとは知っていたけれど、オレだけは恋人になれると何も疑うことなく信じていた。だから、自分が失恋するなんてことは、全くの想定外だ。

 自分の気持ちを、先生に受け取ってもらうことはできなかった。だからといって、オレの先生への想いが消えてしまうわけでもない。それに、振られるなら、前世の記憶ごと木端微塵になるくらい拒絶されない限り諦めきれそうもない。そもそも、あんなやんわりとした拒絶ごときで諦められるなら、こんなに長い期間、先生に対する恋心を抱き続けるわけがないじゃないか。
 そうだ。諦めきれないなら、先生のことは愛想が尽かされるまでとことん追いかけよう。前世から続く恋心と執着を舐めんなよ!

 オレは、長期戦で先生を口説く覚悟を決めた。といっても、実習は金曜日まで。残り4日だ。
 この4日間でなんとしても先生と恋人同士になるしかない。
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