やり直しの人生は、好きな人を全力で追いかけます。オギャー!

夏芽玉

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2話 オジサンの精一杯の口説き文句

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 オレはホッと息を吐く。今の体力では、揉め事になったときに勝ち目はなかったから。

「あ、あの……?」

 男が雑踏の中に消えていくのを見送ると、高校生がオレを見上げた。瞳が不安そうに揺れている。

「ああ。本当に警察に突き出そうなんて考えちゃいないから、安心して」

 そう言うと、彼はホッとしたような怒ったような表情をした。

「だけど、知らない大人にホイホイとついていくのは感心しないな」

 あのやり取りを見る限り、二人は出会い系か何かで待ち合わせをしていたのだろう。純朴な見た目の割に、随分思い切ったことをしたものだ。

「何も知らないくせに……」

 説教めいたオレの言葉に、悔しさを滲ませた言葉が零れる。この子は、そんなにもあの男とホテルに行きたかったのだろうか?
 心の中に、静かな怒りの火のようなものが灯った。

「……いくら?」

 あの男に比べると多少年寄りではあるものの、きっとオレのほうがマシなはずだ。妙な対抗心が湧き上がってくる。
 オレはズボンから財布を取り出して、少年に訊ねた。

「……え」
「あの男と、いくらで約束してたの?」

 財布を手にしたまま、オレは問いを重ねる。

「ご、5万ですけど……」

 どちらが言い出したのかは知らないが、また高い金額を吹っ掛けたものだ。だけど、あんな男がそんな大金を持っているようには見えなかった。やはり、あの男は追い払って正解だった。完全に偏見であることに気づかないまま、オレはそう決めつけた。

「じゃ、お金は払うから。一緒に晩メシ付き合ってくんない?」

 さっき、彼に忠告した口で、よくもまあそんなことが言えたものだ。
 だけど、財布の中を確認すると、ぎりぎり5万円入っていた。オレは紙幣を財布の中から全て取り出すと、彼に手渡した。

「え、でも……」

 急に手にした大金に戸惑っている様子に、オレはイタズラが成功したような気持ちになった。思わず笑みが零れる。

「メシ代はオレが持つよ。今日は記念日なんだ。だけど、生憎、一人ぼっちでね。キミに一緒に祝って貰いたいんだ」

 それが今のオレにできる、精一杯の口説き文句だった。
 彼は、「そういうことなら……」と言ってオレについてきた。見た目の良さだけでなく、そんな素直さもとても好ましい。
 出会ったばかりの下心がある大人を、そんなに簡単に信用したらそのうち悪い男に捕まっちゃうよ、なんて心の中で思いながら、随分前に会社の飲み会で行った、雰囲気の良いフレンチレストランに、彼を連れて行くことにした。



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