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11話 ヤバい薬

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 意識が戻ったとき、僕は屋敷の敷地内にある離れに居た。
 白い石造りの離れは、僕の寝室に使用人のための小部屋がくっついているだけの小さな建物だ。
 
 勿論、屋敷の中にも僕の部屋はある。だけど、父上と兄弟たちがアルファなのと、使用人や付き合いのある貴族たちにもアルファが多く居るから、万が一にも間違いが起こったりしないようにと、アシュリーとの婚約が決まったとき、父上が僕のためにわざわざこれを建ててくれたんだ。
 
 僕は、発情期はいつもここで過ごしている。
 だから、今、僕がここに居るってことは……

 さっき娼館で自分の身に起こったことを思い出す。

 あの男と出会って、無理矢理キスをされて、それで身体が熱くなって……多分、急な発情期になってしまったのだろう。
 本来であれば、こんなタイミングでくるハズではなかったのに。

 テオが緊急抑制剤を飲ませてくれたおかげで、焼けつくような飢餓感からは解放された。
 でも、まだ身体の奥で冷め切らない熱が燻っているような、ヘンな感じがする。

 なんで、こんなタイミングで発情してしまったのかはわからないけれど……いや。やっぱり、どう考えても原因はあの男だろう。
 あの男とキスをした瞬間に、僕の身体はおかしくなった。もしかしたら、あの時、何かヤバイ薬を飲まされたのかもしれない。
 確か、魔女の媚薬、とか言っていたはずだ。

 ブルッと身体が震えたのは、薬がまだ身体に残っているせいなのか、それとも……

 僕はベッドの上で身体を起こして、溜息をついた。
 
「テオ。居ないのか……?」

 ここに僕を連れてきたのは、多分テオだろう。
 もしかしたら、隣の小部屋に居るかもしれないと思って声を出してみたけれど、僕の呼びかけに返ってきたのは静寂だけだった。
 
 室内を見回せば、茶色の小さなチェストが視界に入る。
 
 この部屋にあるのは、一室を埋め尽くしそうなくらい大きなベッドと、簡単な食べ物を置くためのサイドテーブル、小さなクローゼットと、その隣には小さな茶色のチェスト────発情期用の道具を収納している棚だ。 

 あそこにあるものを使えば、この身体の疼きを治めることができるのだろうか……

 そう考えた次の瞬間、僕はぶんぶんと首を横に振った。
 
 発情期に身体を慰めるための道具は、閨教育の先生がくれたけれど、僕は使ったことがない。
 ハジメテのことは、全部アシュリーとするつもりだったから。

 僕は自分の唇に指先で触れた。
 本当は、キスだって……
 初めてのキスは、アシュリーとするんだと思っていたのに。

 あの男の唇は、見た目以上に肉厚で、柔らかかった。
 思い出しただけでも、また身体の奥に火が付いたような気がした。
 なんだかムズムズして落ち着かない。

 僕は起こした身体を再びベッドに横たえて、布団を身体に巻き付ける。
 自分の中の嵐が過ぎ去るのを、今はただひたすら一人で耐えるしかないのだった。

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