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6話 これまでと、これからと
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これは、何の涙なんだろうか。
アシュリーの婚約者じゃなくなってしまったことがショックだった?
それとも今まで僕なりに頑張ってきたことを、アシュリーに全否定されたから……?
僕は一生アシュリーの隣で生きていくんだと思っていた。そのためには、アシュリーとの子供を産まなきゃいけない。
だから、いろんな知識を身につけた。それだけじゃなく、できることは実際にやってみて、アシュリーの子供を早く産めるように準備をしていたわけだけど……それは僕の完全な空回りだったというわけだ。
そういえば、王立学園を卒業してから結婚が近づいてくると、僕に対するアシュリーの態度はだんだんぎこちなくなってきたような気がする。
小さい頃は「ここにぼくの証を刻んであげるね」って言って項に触れてくれていたのに、最近では手すら繋いでもらえなくなってしまった。
……もしかして。アシュリーはもう、僕とは番になりたいとは思っていなかったんだろうか?
「性の不一致。つまり、パートナー同士の性的欲求や性癖が合わない場合、婚姻生活に大きく支障をきたすことになります」
「あ……うん……」
声を掛けられて、テオが一緒に馬車に乗っていることを思い出した。僕は慌てて服の袖で目元を拭う。貴族たるもの、人前で簡単に涙を流すもんじゃない。
「平民であれば、離婚という手段が取れますが、アシュリー様は第一王子……王族です」
「そう、だね」
「王族の婚姻は、個人の感情よりも、政治的事情のほうが重要視されます」
「うん……」
僕の父上は、この国の権力者だ。
だから、僕とアシュリーとの婚約は出会う前から決まっていたんだ。
今までそのとこに不満を抱いたことはないけれど、もし気に食わない相手と婚約させられてたら、絶望の毎日を過ごさなければならなかっただろう。
「とくに、王族の場合は、一度婚姻を結んでしまうと離縁することは不可能です。心がすれ違ったまま結ばれても、感情を押し殺したまま一生を過ごさなければなりません」
「ん……」
「だから、このタイミングでの婚約破棄はお互いにとってそう悪いことじゃなかったのかもしれませんよ」
「……そうだね。ありがとう」
すごく回りくどい言い方をしているけれど、もしかしたらテオなりに僕を気遣って励まそうとしてくれているのかもしれない。
僕はエッチなことにも興味があったから、早くアシュリーと色んな事がしたいなって思ってたんだ。愛する人とそーゆーことをするのは、とっても気持ちがいいことなんだって教えてもらった。とくに、アルファとオメガが発情期にするセックスは格別なんだって。そんなのを聞いたら、好きな人とやってみたい、なんて思っちゃうじゃないか。
でも、アシュリーがそういったことは本当に嫌いで、セックスに対しては嫌悪感すら抱いているのだとしたら……悪いことをしてしまったな、と僕は反省した。
確かに、このまま僕たちが結婚していたら、心はどんどんすれ違っていって、修復不可能なくらい二人の間に亀裂が入っていただろう。
だけど、王子の配偶者には子作りの義務があるから、結婚直後から世継ぎを産むように圧力もかけられるはずだ。僕にはそれを拒むことはできないし。
それだったら、僕が無理矢理アシュリーと関係を持とうとしなければ、また、今までのように仲良くすることができるのだろうか。
もしかしたら、それも悪くないのかもしれない。多分、きっとそうなんだろう。
僕はそう思うことにした。
でも……困ったな。
急な婚約破棄によって今後僕の身に起こるであろうことに思いを巡らせて、僕はため息をついたのだった。
アシュリーの婚約者じゃなくなってしまったことがショックだった?
それとも今まで僕なりに頑張ってきたことを、アシュリーに全否定されたから……?
僕は一生アシュリーの隣で生きていくんだと思っていた。そのためには、アシュリーとの子供を産まなきゃいけない。
だから、いろんな知識を身につけた。それだけじゃなく、できることは実際にやってみて、アシュリーの子供を早く産めるように準備をしていたわけだけど……それは僕の完全な空回りだったというわけだ。
そういえば、王立学園を卒業してから結婚が近づいてくると、僕に対するアシュリーの態度はだんだんぎこちなくなってきたような気がする。
小さい頃は「ここにぼくの証を刻んであげるね」って言って項に触れてくれていたのに、最近では手すら繋いでもらえなくなってしまった。
……もしかして。アシュリーはもう、僕とは番になりたいとは思っていなかったんだろうか?
「性の不一致。つまり、パートナー同士の性的欲求や性癖が合わない場合、婚姻生活に大きく支障をきたすことになります」
「あ……うん……」
声を掛けられて、テオが一緒に馬車に乗っていることを思い出した。僕は慌てて服の袖で目元を拭う。貴族たるもの、人前で簡単に涙を流すもんじゃない。
「平民であれば、離婚という手段が取れますが、アシュリー様は第一王子……王族です」
「そう、だね」
「王族の婚姻は、個人の感情よりも、政治的事情のほうが重要視されます」
「うん……」
僕の父上は、この国の権力者だ。
だから、僕とアシュリーとの婚約は出会う前から決まっていたんだ。
今までそのとこに不満を抱いたことはないけれど、もし気に食わない相手と婚約させられてたら、絶望の毎日を過ごさなければならなかっただろう。
「とくに、王族の場合は、一度婚姻を結んでしまうと離縁することは不可能です。心がすれ違ったまま結ばれても、感情を押し殺したまま一生を過ごさなければなりません」
「ん……」
「だから、このタイミングでの婚約破棄はお互いにとってそう悪いことじゃなかったのかもしれませんよ」
「……そうだね。ありがとう」
すごく回りくどい言い方をしているけれど、もしかしたらテオなりに僕を気遣って励まそうとしてくれているのかもしれない。
僕はエッチなことにも興味があったから、早くアシュリーと色んな事がしたいなって思ってたんだ。愛する人とそーゆーことをするのは、とっても気持ちがいいことなんだって教えてもらった。とくに、アルファとオメガが発情期にするセックスは格別なんだって。そんなのを聞いたら、好きな人とやってみたい、なんて思っちゃうじゃないか。
でも、アシュリーがそういったことは本当に嫌いで、セックスに対しては嫌悪感すら抱いているのだとしたら……悪いことをしてしまったな、と僕は反省した。
確かに、このまま僕たちが結婚していたら、心はどんどんすれ違っていって、修復不可能なくらい二人の間に亀裂が入っていただろう。
だけど、王子の配偶者には子作りの義務があるから、結婚直後から世継ぎを産むように圧力もかけられるはずだ。僕にはそれを拒むことはできないし。
それだったら、僕が無理矢理アシュリーと関係を持とうとしなければ、また、今までのように仲良くすることができるのだろうか。
もしかしたら、それも悪くないのかもしれない。多分、きっとそうなんだろう。
僕はそう思うことにした。
でも……困ったな。
急な婚約破棄によって今後僕の身に起こるであろうことに思いを巡らせて、僕はため息をついたのだった。
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