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5話 性の不一致
しおりを挟むこうして、僕はアシュリーの婚約者ではなくなってしまった。
「……ねぇ、テオ」
屋敷に向かう馬車の中で、僕は正面に座るテオに声を掛けた。
「なんでしょうか?」
茶色の目が僕を見る。テオの目は、いつもまっすぐ前を見ていて、なんでもお見通しなんじゃないかって思えるくらいに澄んでいる気がする。
テオは、二年ほど前から僕の従者をしてくれている。もっとも、これは僕とアシュリーが結婚するまでの期間限定の契約の予定なんだけど。あれ!? これって……僕がアシュリーと結婚しなくなったら、どーなるの? ずっとテオは従者をしていててくれるの? それとも、結婚する予定の時期がきたらいなくなっちゃうの……? って、えーっと……まぁ今はそれはいいか。
ちなみに、なんでテオが僕の従者をしてくれているのかというと、父上が知り合いに「世間知らずのテオに、世の中の色々なことを教えて欲しい」と頼まれたからなんだ。
その話を聞いて、最初は「どんなに役に立たない箱入り息子のお坊ちゃまがやってくるんだろう」と身構えていたんだけど、こげ茶色の髪をした二歳年上の青年は、僕が予想していた以上に優秀だった。
「これって……僕はアシュリーに振られちゃったってことなのかな……?」
「まぁ、そうなりますね」
「なんで? だってさ、僕たちはずっと仲が良かったんだよ!? プレゼントをあげたときも、デートに誘っときも、いつも楽しそうにしてくれていたのに……!!」
ここ最近は、アシュリーへのプレゼントを選ぶのも、デートの計画を立てるのも、テオに相談していた。テオは僕が知らないことをたくさん知っていて、僕たちはその知識に夢中になった。アシュリーも、すごく喜んでいてくれたと思っていたんだけど……
「これは性癖の不一致というやつではないかと」
「せいのふいっち……?」
聞きなれない言葉に、僕は首を傾げた。
「残念ですが……ユリエル様とアシュリー様の性的欲求の方向性が、合わなかったようですね」
「なんで!? それは、僕が積極的なのが良くなかったってこと!?」
奥手なアシュリーはそういったことが苦手だから、そっち方面は僕が頑張らなきゃって思ってたんだ。
「アシュリーから押し倒されるのを待ってたら、いつまで経っても番になんてなれないよ……!!」
だから、アシュリーにその気になってもらうために、アレやコレやと、閨教育で学んだことを片っ端から実践していたのに……
「それに、僕はアシュリーと番になったら、結婚して、子作りしなきゃいけなかったんだよ?」
子作りは、王太子妃の重要な役割だっていろんな人から何度も言われてきた。
僕は立派な跡継ぎを産まなきゃならない。
そう思って、僕は……
気が付いたら、ボロボロと涙が出てきた。
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