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1話 早朝の呼び出し

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『この婚約は、なかったことにして欲しい』

 僕がそう言われたのは、とても天気が良い日だった。

 





 王城の廊下の窓から見える空は高く澄んでいて、ところどころに刷毛ではいたような薄い雲が浮かんでいる。
 こんなにも気持ちのいい朝なのだから、きっと今日はすごく良い一日になるんじゃないかと、僕は思った。

 案内の者に通されたのは、この城の中でも特に贅を凝らした部屋だ。壁から天井まで、有名な画家によって描かれた荘厳な絵画が目を楽しませてくれるし、高い天井からは大きくて煌びやかなシャンデリアがぶら下がっている。
  一番奥には数段高くなった場所があって、一際豪華な椅子が置かれていた。それは玉座と呼ばれるもので、座っているのは勿論、国王だった。
 
 僕は朝イチでこの玉座の間に呼び出されていた。朝イチというより、早朝と呼ぶ方が相応しい時間だ。
 王城内が活性化し始めるのはもう少し後だ。
 朝っぱらから、執務室とか謁見室じゃなくて、こんな堅苦しい部屋に呼び出されたのには何か意味があるのだろうかと、首を傾げる。

 国王と僕はそこそこ仲良しだ。
 というのも、玉座の後ろで国王の後ろに隠れるようにして立っている第一王子のアシュリーが僕の婚約者だからだ。
 
 この婚約は、子供の頃に決まった。それはアシュリーがアルファで僕がオメガだったからだ。政治的な理由での婚約だったけれど、僕はアシュリーのことが好きだったし、アシュリーも僕のことが好きだと何度も言ってくれた。学校にも同じ馬車で通って、卒業してからもずっと一緒に過ごすくらい、僕たちは本当に仲がいいんだ。
 
 先日、アシュリーが成人したので、次の発情期には番になる予定だ。ちなみに誕生日が半年ほど早い僕は、すでに成人している。

 アシュリーと番になるのを僕は楽しみにしている。アシュリーはアルファで優秀なんだけど、ちょっと気が弱いところがある。でも、そんな優しい性格も好きだ。だから、僕が色々リードしてあげなきゃと思っている。とくに、アシュリーが苦手な分野に関しては、サポートするのが僕の役目だなので、率先して勉強に励んだ。

 今日もその成果を発揮すべく、朝からアシュリーの部屋で奮闘していた。だけど、僕が城内に居ることが国王の耳に入ったのか、成果は十分に発揮できないまま呼び出されてしまった。まったく、こんなときに声が掛かるなんて。タイミングが悪すぎる。

 だけど、国王からのお呼び出しとなれば応じないわけにもいかない。もうすぐ国王の生誕祭だから、その打ち合わせか何かだろうか。突然の呼び出しの理由に心当たりがなかった僕は、首を傾げながらもそう結論付けて、案内役についてここまで来たのだった。
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