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後日談3 嫉妬の行方
【1】Defence - ディフェンス -
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長冨に恋人ができた。
相手は、ここ一年くらい頻繁にバーに通っている常連客だった。
相川湊。
整った顔立ちはキレイというより可愛らしい。目が大きいからだろうか。
華奢で小柄な体形も相まってスーツを着ていなければ高校生に見間違えそうなくらいの童顔だが、実年齢は26歳だそうだ。
この店の常連客である相川の存在をオレが認識していたのも、最初バーカウンターで見たときに高校生かと思ったからだ。
ただ、長冨のバーは入店時に身分証の確認をされる。だから、高校生が紛れ込んでくることはないはずだ。こういった場所ではあまり見かけないタイプだったので目に留まったようだ。
先日、突然仕事帰りに呼び出されてバーに来てみると「大切な恋人だ」と長冨に相川を紹介された。
そしてその後、延々と惚気話を聞かされた。長冨は相川のことを溺愛しているらしい。こんなに甘い空気を出す長冨を見たのは初めてで、少々面食らった。
相川のことはこのバーで今までに何度か見かけたことがあったが、実際に話をしたのは長冨に紹介されたときが初めてだった。相川は、今まで長冨の周りには居なかったタイプだ。
バーで見かけたときも、二人の間に何か特別な関係を感じたことはなかったので少し意外な気はした。以前、「好きな人が居る」と言っていたのは相川のことだったのだろうか。
ただ本人たちが幸せそうなので、オレは素直に二人に祝福の言葉を贈った。
その日はオレのほうが仕事が早く終わったので、久我との待ち合わせまでに長冨のバーに立ち寄ることにした。
久我にはメッセージアプリで長冨のバーに居ることを伝えておいた。
「なぁ、お前Subだろ? オレとちょっと遊ぼうぜ」
店内に入ってカウンターに近づくと、カウンターの奥の方の席で相川が変な客に絡まれているのが見えた。
長冨の店ではあまり見ない、ガラの悪い感じの客だ。ツンツンに逆立てた短髪はピンクと黄色のツートンカラーで、身体も大きい。
相川はSubなので、絡んでいるのはDomなのだろう。相川はオレとは真逆でGlareを敏感に感じ取ってしまう体質らしく、心なしか青ざめているように見える。相手の男からGlareが出ているのかもしれない。
「彼には先約があるので」
オレは二人の間に割り込んで言った。
そのまま、相川の手前の席に座ってしまう。
「へぇ、おまえもSubなの? Subが2人も余ってんじゃん。オレが2人まとめて遊んでやるよ」
「興味ないんで」
酒臭い息が掛かって、オレは顔を顰めた。
「んなわけねーだろ。こんな店に来るくらいなんだから、溜まってんだろ?」
「この店だから来てるんですよ。招かれざる客はすぐに追い出されますから」
こんな無礼な客は、長冨が戻ってきたらすぐにつまみ出されるだろう。
「お高く止まってんじゃねーよ。Subなら断んなよ。お前はオレと今から遊ぶんだよな? ハイってSay」
いやいや、ないし。こっちにだって選ぶ権利はあるし。久我以外に興味ねーけど。というか、もしかして今のはCommandだったのだろうか。そういえば、こいつからGlareが出ている気もする。
「おい、お前!! Subなんだろ。なんでCommandに従わねーんだよ!!」
やっぱりCommandだったらしい。オレが無視していると、相手が怒り任せにカウンターを叩く。相川のグラスに注がれたカクテルの表面が揺れた。
「さっきも言いましたが、あなたに興味ないんで」
適当にあしらっていると、店の入り口に久我の気配を感じた。気配というより、正確には久我のGlareだ。長冨より久我のほうが先にこっちに来てしまったらしい。
それでも、久我が居ればこの無法者もさっさと諦めて帰るだろう。ようやくこの面倒な相手から解放される……と、息を吐いた瞬間、久我のGlareが膨れ上がった。
慌ててそちらを見ると、久我の顔には怒りの表情が浮かんでいた。これは……
──Defenceかよ!!
オレは咄嗟に、相川を背後に庇った。
久我のGlareをまともに食らった目の前のDomが崩れ落ちる。他のDomをあっさりと圧倒するほどのGalreを久我が出していた。
「おい、久我やめろ!!」
怒りに我を忘れているのか、オレの声が届いている気がしない。
温厚な久我が怒っている姿は初めて見た。
そんなことよりも。
「Glareを出し過ぎだ、馬鹿」
オレの足元に転がっているDomが苦しそうにしている。こいつは自業自得なんでどうでもいい。
だけど、流石にこの量のGlareはヤバい。
言葉じゃ通じないと判断したオレは、怒りに任せてGlareを発している久我の元まで行くと、身体を押して店の外に追い出した。
半分扉を閉めて、店内を振り返る。ドア1枚でGlareの影響っていうのが抑えられるのかは知らんが。
「長冨、悪ぃ。埋め合わせはまた今度」
長冨がフロアのほうから戻ってきて、相川を抱きかかえているのが見えた。オレの声は届いたようで、長冨が頷く。申し訳ないけれど、後のことは長冨に任せよう。
それより、この状態の久我をここに留まらせるわけにはいかない。
久我の腕を引っ張って夜の街を歩いて、一番近くのホテルに押し込んだ。
ホテルの入口にある空き部屋を表すパネルの光っているボタンを適当に押した。
部屋を選んでる余裕なんて、オレにはなかった。
相手は、ここ一年くらい頻繁にバーに通っている常連客だった。
相川湊。
整った顔立ちはキレイというより可愛らしい。目が大きいからだろうか。
華奢で小柄な体形も相まってスーツを着ていなければ高校生に見間違えそうなくらいの童顔だが、実年齢は26歳だそうだ。
この店の常連客である相川の存在をオレが認識していたのも、最初バーカウンターで見たときに高校生かと思ったからだ。
ただ、長冨のバーは入店時に身分証の確認をされる。だから、高校生が紛れ込んでくることはないはずだ。こういった場所ではあまり見かけないタイプだったので目に留まったようだ。
先日、突然仕事帰りに呼び出されてバーに来てみると「大切な恋人だ」と長冨に相川を紹介された。
そしてその後、延々と惚気話を聞かされた。長冨は相川のことを溺愛しているらしい。こんなに甘い空気を出す長冨を見たのは初めてで、少々面食らった。
相川のことはこのバーで今までに何度か見かけたことがあったが、実際に話をしたのは長冨に紹介されたときが初めてだった。相川は、今まで長冨の周りには居なかったタイプだ。
バーで見かけたときも、二人の間に何か特別な関係を感じたことはなかったので少し意外な気はした。以前、「好きな人が居る」と言っていたのは相川のことだったのだろうか。
ただ本人たちが幸せそうなので、オレは素直に二人に祝福の言葉を贈った。
その日はオレのほうが仕事が早く終わったので、久我との待ち合わせまでに長冨のバーに立ち寄ることにした。
久我にはメッセージアプリで長冨のバーに居ることを伝えておいた。
「なぁ、お前Subだろ? オレとちょっと遊ぼうぜ」
店内に入ってカウンターに近づくと、カウンターの奥の方の席で相川が変な客に絡まれているのが見えた。
長冨の店ではあまり見ない、ガラの悪い感じの客だ。ツンツンに逆立てた短髪はピンクと黄色のツートンカラーで、身体も大きい。
相川はSubなので、絡んでいるのはDomなのだろう。相川はオレとは真逆でGlareを敏感に感じ取ってしまう体質らしく、心なしか青ざめているように見える。相手の男からGlareが出ているのかもしれない。
「彼には先約があるので」
オレは二人の間に割り込んで言った。
そのまま、相川の手前の席に座ってしまう。
「へぇ、おまえもSubなの? Subが2人も余ってんじゃん。オレが2人まとめて遊んでやるよ」
「興味ないんで」
酒臭い息が掛かって、オレは顔を顰めた。
「んなわけねーだろ。こんな店に来るくらいなんだから、溜まってんだろ?」
「この店だから来てるんですよ。招かれざる客はすぐに追い出されますから」
こんな無礼な客は、長冨が戻ってきたらすぐにつまみ出されるだろう。
「お高く止まってんじゃねーよ。Subなら断んなよ。お前はオレと今から遊ぶんだよな? ハイってSay」
いやいや、ないし。こっちにだって選ぶ権利はあるし。久我以外に興味ねーけど。というか、もしかして今のはCommandだったのだろうか。そういえば、こいつからGlareが出ている気もする。
「おい、お前!! Subなんだろ。なんでCommandに従わねーんだよ!!」
やっぱりCommandだったらしい。オレが無視していると、相手が怒り任せにカウンターを叩く。相川のグラスに注がれたカクテルの表面が揺れた。
「さっきも言いましたが、あなたに興味ないんで」
適当にあしらっていると、店の入り口に久我の気配を感じた。気配というより、正確には久我のGlareだ。長冨より久我のほうが先にこっちに来てしまったらしい。
それでも、久我が居ればこの無法者もさっさと諦めて帰るだろう。ようやくこの面倒な相手から解放される……と、息を吐いた瞬間、久我のGlareが膨れ上がった。
慌ててそちらを見ると、久我の顔には怒りの表情が浮かんでいた。これは……
──Defenceかよ!!
オレは咄嗟に、相川を背後に庇った。
久我のGlareをまともに食らった目の前のDomが崩れ落ちる。他のDomをあっさりと圧倒するほどのGalreを久我が出していた。
「おい、久我やめろ!!」
怒りに我を忘れているのか、オレの声が届いている気がしない。
温厚な久我が怒っている姿は初めて見た。
そんなことよりも。
「Glareを出し過ぎだ、馬鹿」
オレの足元に転がっているDomが苦しそうにしている。こいつは自業自得なんでどうでもいい。
だけど、流石にこの量のGlareはヤバい。
言葉じゃ通じないと判断したオレは、怒りに任せてGlareを発している久我の元まで行くと、身体を押して店の外に追い出した。
半分扉を閉めて、店内を振り返る。ドア1枚でGlareの影響っていうのが抑えられるのかは知らんが。
「長冨、悪ぃ。埋め合わせはまた今度」
長冨がフロアのほうから戻ってきて、相川を抱きかかえているのが見えた。オレの声は届いたようで、長冨が頷く。申し訳ないけれど、後のことは長冨に任せよう。
それより、この状態の久我をここに留まらせるわけにはいかない。
久我の腕を引っ張って夜の街を歩いて、一番近くのホテルに押し込んだ。
ホテルの入口にある空き部屋を表すパネルの光っているボタンを適当に押した。
部屋を選んでる余裕なんて、オレにはなかった。
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