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後日談2 トラウマ
【9】ご褒美
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「唯織さん、おはようございます。あの、ちょっと抱き潰しちゃったかもしれないんですけれど……大丈夫ですか? どこも調子悪くないですか?」
ベッドについている時計を見たら翌日の朝だった。
オレが目覚めたことに気づいた久我が顔を覗き込んで来たが、オレは頭から布団を引っ被ってやった。
「あっ、唯織さん!?」
煽れと言われたから煽ったけれど、流石に調子に乗り過ぎだ、馬鹿。
……言おうと思った言葉は飲み込んだ。
「……もしかして、拗ねてます?」
違う。
そう言おうと思ったけれど、やっぱり言えない。
昨日の恥ずかしすぎる行為のせいで、今更、久我の顔が直視できない。
「……ヤバい、拗ねてる唯織さん可愛すぎる……」
本人は小さな声で呟いたつもりだったかもしれないが、その言葉はオレの耳にしっかりと届いていた。
「……何言ってんだよ」
あまりにも通常運営な久我に、なんだか気が抜けてしまって、オレは渋々布団から顔を出した。久我は、もう一度「おはようございます」と言って、オレの額にキスを落とした。
「だって、長冨さんのバーで初めて出会ったときもそうでしたけど。待ち合わせの時も、オレが隣に居ないときはクールにしているのに、オレの前ではすごく感情豊かで。気を許してもらってるみたいで嬉しいなって……」
……確かに、普段は『無表情』だの『感情が読めない』だのよく言われる。オレのことを感情豊かだと言うのは久我くらいかもしれない。
「ところで、唯織さん。昨日のプレイのご褒美なんですけど……受け取ってもらえます?」
「ご褒美?」
久我の言葉にオレは首を傾げた。昨日、散々『愛してる』と言われたのは褒美ではなかったのだろうか。
ベッドから降りた久我が、壁にかけられたスーツの上着のポケットから何かを取り出して戻ってくる。
手を出すように促されて、その通りにすると、鍵がその手に乗せられた。
「鍵?」
オレがその鍵を眺めていると、「うちの合鍵です」と久我が言い添えた。
「オレは、週末だけじゃなくて、唯織さんにもっと会いたいです。唯織さんが帰って来たときに『お帰りなさい』って言いたいし、オレが遅かったら唯織さんに出迎えられて『ただいま』って言いたいです ……ダメですか?」
「……いいのかよ……そのまま居着いても知らねーぞ」
「……!! そうなったら、そのまま一緒に住みましょう! ……二人で住むには狭いかもですが……その時は、もっと広いところに引っ越しましょう!!」
「ちょ、そんな簡単に引っ越しだなんて!?」
「いいんですよ。もともと、血の繋がりしかない父親から相続税対策込みの生前分与でもらっただけのマンションですから。職場に近いので今は住んでいますが、別にこだわりがあるわけじゃありません」
「へ?」
なんかいきなり話がでかくなった。
もしかして、こいつ、とんでもない金持ちだったりするのか!?
オレの視線に気づいた久我が苦笑した。
「ちょっと大きな会社の経営者の愛人の息子ってだけです。認知はされてますが……それを、中学上がるタイミングで知って、青春真っ盛りなかんじになったときに唯織さんに出会ったんです」
「あー……金髪で、なんかツンツンしてたもんな」
「あの時、唯織さんに出会ったおかげで、人生掛けたはずの反抗期は2か月で終わっちゃいましたよ。その後は、唯織さんを探すのに必死でしたから」
思い出を懐かしむような顔で久我が言った。
「……見つけてくれてありがとうな」
「もう離しませんよ」
オレは返事の代わりに、久我の唇にキスをした。
ベッドについている時計を見たら翌日の朝だった。
オレが目覚めたことに気づいた久我が顔を覗き込んで来たが、オレは頭から布団を引っ被ってやった。
「あっ、唯織さん!?」
煽れと言われたから煽ったけれど、流石に調子に乗り過ぎだ、馬鹿。
……言おうと思った言葉は飲み込んだ。
「……もしかして、拗ねてます?」
違う。
そう言おうと思ったけれど、やっぱり言えない。
昨日の恥ずかしすぎる行為のせいで、今更、久我の顔が直視できない。
「……ヤバい、拗ねてる唯織さん可愛すぎる……」
本人は小さな声で呟いたつもりだったかもしれないが、その言葉はオレの耳にしっかりと届いていた。
「……何言ってんだよ」
あまりにも通常運営な久我に、なんだか気が抜けてしまって、オレは渋々布団から顔を出した。久我は、もう一度「おはようございます」と言って、オレの額にキスを落とした。
「だって、長冨さんのバーで初めて出会ったときもそうでしたけど。待ち合わせの時も、オレが隣に居ないときはクールにしているのに、オレの前ではすごく感情豊かで。気を許してもらってるみたいで嬉しいなって……」
……確かに、普段は『無表情』だの『感情が読めない』だのよく言われる。オレのことを感情豊かだと言うのは久我くらいかもしれない。
「ところで、唯織さん。昨日のプレイのご褒美なんですけど……受け取ってもらえます?」
「ご褒美?」
久我の言葉にオレは首を傾げた。昨日、散々『愛してる』と言われたのは褒美ではなかったのだろうか。
ベッドから降りた久我が、壁にかけられたスーツの上着のポケットから何かを取り出して戻ってくる。
手を出すように促されて、その通りにすると、鍵がその手に乗せられた。
「鍵?」
オレがその鍵を眺めていると、「うちの合鍵です」と久我が言い添えた。
「オレは、週末だけじゃなくて、唯織さんにもっと会いたいです。唯織さんが帰って来たときに『お帰りなさい』って言いたいし、オレが遅かったら唯織さんに出迎えられて『ただいま』って言いたいです ……ダメですか?」
「……いいのかよ……そのまま居着いても知らねーぞ」
「……!! そうなったら、そのまま一緒に住みましょう! ……二人で住むには狭いかもですが……その時は、もっと広いところに引っ越しましょう!!」
「ちょ、そんな簡単に引っ越しだなんて!?」
「いいんですよ。もともと、血の繋がりしかない父親から相続税対策込みの生前分与でもらっただけのマンションですから。職場に近いので今は住んでいますが、別にこだわりがあるわけじゃありません」
「へ?」
なんかいきなり話がでかくなった。
もしかして、こいつ、とんでもない金持ちだったりするのか!?
オレの視線に気づいた久我が苦笑した。
「ちょっと大きな会社の経営者の愛人の息子ってだけです。認知はされてますが……それを、中学上がるタイミングで知って、青春真っ盛りなかんじになったときに唯織さんに出会ったんです」
「あー……金髪で、なんかツンツンしてたもんな」
「あの時、唯織さんに出会ったおかげで、人生掛けたはずの反抗期は2か月で終わっちゃいましたよ。その後は、唯織さんを探すのに必死でしたから」
思い出を懐かしむような顔で久我が言った。
「……見つけてくれてありがとうな」
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オレは返事の代わりに、久我の唇にキスをした。
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