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本編
【29】おかえりなさい
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目が覚めたら、目の前に久我の顔があった。久我は床の上に座りベッドの端に頬杖をついて、寝ているオレを覗き込んでいた。
……こいつ、もしかしてずっとこの体勢でいたのか?
オレには布団が掛けられていて、さらに身体のどこにもベタついた感覚がないので、寝てしまったオレの分まで色々と事後処理をしてくれたようだ。部屋の時計を見ると夕方だった。
「おはよーございます。あと、おかえりなさい」
「……昔、住宅街の小さな公園で、金髪ツンツン頭の少年に会ったんだ」
オレは、身体を起こすとベッドから脚を降ろして座り直し、先ほど見た夢のことを口に出した。
夢に見たのは、きっと本当は夢ではなくて。
「金髪だったのは、若気の至りと言いますか……ちょっと、多感な時期に、色々ありまして……」
久我がバツが悪そうに頬を掻く。
「おまえ、あの時のチビなのか……?」
「チビ……確かに、中学入った頃まではちっこかったですけど……中2くらいから、一年で身長が20センチずつ伸び続けて、今ではこの通りです」
「……デカくなりすぎだろ……」
記憶の中の小さな少年と、目の前のバカでかい男が同一人物だというのは、例え記憶があったとしても一目見ただけで判断することは不可能だろう。
そのくらい、パっと見の印象は変わっていた。
ただ、頭を撫でるときの優しい手つきや、オレの名前を愛しそうに呼ぶ声は変わっていないような気がする。
「あの日、唯織さんとプレイした後、やっぱりどーしても唯織さんのことが忘れられなくて、近隣の高校は全部探しまくったんですけれど、探しても探しても見つけられなくて……」
それはそうだ。久我と出会ったのは、中部地方に属する県のとある街だ。当時オレが住んでいた場所からは、新幹線を使っても1時間以上はかかる。
しかし、中学生にして、たった一度会っただけの相手を見つけるために高校を探し回るとは……流石はDomの行動力、といったところだろうか。
「大学生になって、オレも都内に引っ越してきてしまったので、もう会えることはないと思って諦めてたんですけれど……この前バーに行ったときに、カウンターに座ってる唯織さんを見て、なんかもう『この人を絶対逃がしちゃダメだ』って思って。その時は、唯織さん本人って気づかなかったんですけれど……」
様子からして、久我がオレのことに気づいたのはプレイの途中だったのだろう。
オレが褒美にねだったことは……10年前と全く一緒だったのだから。
……こいつ、もしかしてずっとこの体勢でいたのか?
オレには布団が掛けられていて、さらに身体のどこにもベタついた感覚がないので、寝てしまったオレの分まで色々と事後処理をしてくれたようだ。部屋の時計を見ると夕方だった。
「おはよーございます。あと、おかえりなさい」
「……昔、住宅街の小さな公園で、金髪ツンツン頭の少年に会ったんだ」
オレは、身体を起こすとベッドから脚を降ろして座り直し、先ほど見た夢のことを口に出した。
夢に見たのは、きっと本当は夢ではなくて。
「金髪だったのは、若気の至りと言いますか……ちょっと、多感な時期に、色々ありまして……」
久我がバツが悪そうに頬を掻く。
「おまえ、あの時のチビなのか……?」
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「……デカくなりすぎだろ……」
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そのくらい、パっと見の印象は変わっていた。
ただ、頭を撫でるときの優しい手つきや、オレの名前を愛しそうに呼ぶ声は変わっていないような気がする。
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それはそうだ。久我と出会ったのは、中部地方に属する県のとある街だ。当時オレが住んでいた場所からは、新幹線を使っても1時間以上はかかる。
しかし、中学生にして、たった一度会っただけの相手を見つけるために高校を探し回るとは……流石はDomの行動力、といったところだろうか。
「大学生になって、オレも都内に引っ越してきてしまったので、もう会えることはないと思って諦めてたんですけれど……この前バーに行ったときに、カウンターに座ってる唯織さんを見て、なんかもう『この人を絶対逃がしちゃダメだ』って思って。その時は、唯織さん本人って気づかなかったんですけれど……」
様子からして、久我がオレのことに気づいたのはプレイの途中だったのだろう。
オレが褒美にねだったことは……10年前と全く一緒だったのだから。
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