いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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本編

【28】名前を呼んで

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「キミは……?」
「オレ、Domなんです。お兄さん体調悪いなら、オレとちょっとだけプレイします? オレはまだあんまり上手にGlare使えないですけど……」

 少年がそう言うと、柔らかいGlareがオレを包んだ。

「……キミのGlareは気持ちいいな……」

 冷え切っていた心が直接温められていくような感覚に、オレは身を委ねた。

「ありがとうございます。あの、ぎゅーってしていいですか?」
「え?」
「ハグさせてください」

 真剣な眼差しにたじろいだが、ちょっとだけなら……と返事をした。
 相手は子供だ。きっと他意はないのだろう。

Commandコマンドを言いますね。Stayじっとしてて」

 立ち上がって、オレの正面に来た少年にぎゅって抱きつかれた。

 人のぬくもりが気持ちいい。
 ドクドクと心臓の音が聞こえてきそうな気がする。それは、オレの心音なのか、それとも目の前の相手のものなのか。

 うっかりとその温かさに縋りつきたい衝動に駆られたが、StayのCommandがあることを思い出して、オレは抱きついてくる相手に身体を預けてただじっとしていた。


「お兄さん、温かくて気持ちいいですね……オレ、今、お兄さんのことすごく可愛いと思ってます。オレだけのSubにしてしまいたい。これからずっと、オレのGlareだけ感じてくれればいいのに……なんて、流石にそれは無茶ですよね」

 それもいいかな、だなんて。一瞬、馬鹿なことを考えた。まだ出会ったばかりの、しかも相手は子供だ。

「お兄さん、さっき泣いてましたね。なんか悲しいことがあったんですか? もし、そうなら、今いっぱい泣いちゃっていいですよ。こうしていたら、誰からも見えないし……そして、いっぱい泣いたら今日あったことは全部忘れちゃいましょう」

 言われて、さっきまで悲しかったことを思い出す。

 今はもうその気持ちは感じていないのに、少年の言葉に誘導されてか、後から後から涙が溢れてくる。
 心の奥に残っていたわだかまりも全て洗い流すかのように、オレはしばらくそうやって、少年の腕の中で涙を流し続けた。






「もう、大丈夫だから……」

 泣きすぎて、少し目が痛いような気がする。
 オレの言葉を聞いて、少年がオレを閉じ込めていた手を解いた。

「スッキリしましたか? あ、Stayじっとするのはもういいですよ」

 言われて、オレは頷く。

「ならよかったです。えーっと、プレイのあとはご褒美リワードあげないといけないんですよね? うーん、何をするのがいいんだろ……すみません、オレ慣れてなくて……」
「名前、呼んで」
「え?」
「唯織って……」
「唯織さん、上手に出来ました。偉かったですよ」

 暖かい手で頭を撫でられる。
 心の寒さは、すっかりなくなっていた。
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