いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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本編

【26】思い出していいですよ

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「……あれ? 唯織さん、サブスペースに入っちゃってますか……?」

 ピッタリとくっついていた身体が離れると、久我がオレを見ながらそう言った。
 ふわふわとした多幸感。前と同じだ。ただ前と違うのは、身体を酷使したからか……ちょっと眠い。

「え、オレとセックスしてサブスペースに!? え、マジで……? 夢?? じゃないです、よね?」

 ペタペタと久我が顔に触れるので、オレはふにゃりと笑った。

「……あー、えーっと。今なら答えてくれますか? なんで急に一切の接触NGからセックスもOKになったのか……」
「……んー、好きな人とプレイしながらのセックスは、気持ちいいって聞いたから……」

 久我とのセックスは本当に気持ち良かった。ふわふわとした気持ちのまま、オレは言われたことに答えていく。

「いったい誰にそんなこと……いや、それはいいとして。え、えーっと……オレとのセックスは気持ち良かった、ですか?」

 戸惑いながらも、緊張した面持ちで聞いてくる久我にオレは笑った。

「とっても、気持ち良かった」

 久我がゴクリと唾を飲み込んだ。

「唯織さん、オレのこと、好きなんてすか……?」
「なんか、そーみたい」
「……マジですか?」

 オレが好きだと言えば、久我はもっと喜ぶかと思ったけれど、ただ驚いた顔をするだけだった。

「だって、セックス気持ち良かったし」
「……唯織さんの判断基準って、もしかしてそれだけ……?」

 微妙に顔を顰められて、ムッとした気持ちになる。身体から落とすって言ったのは久我なのに。だから、プレイしながらセックスして気持ちよかったら恋人ってのになってもいいって決心したのに。
 だけど、それだとまるで望んでいるのが身体だけの関係みたいだと思ったので、もう少しだけ心の裡を話すことにした。
 
「それだけ……じゃないと思うけど。久我のGlareは好きだし。プレイは気持ち良くて、ムラムラするし。久我がオレのこと好きなのは嬉しいけど、他の人を好きなのは嫌だし。それがなんて気持ちなのか、考えても答えなんてわかんねーから、久我とのセックスが気持ち良かったら、多分オレは好きなんだろうって思ったから……」

 この二週間、とりとめなく思考がぐるぐると回って、結局答えが出なかった気持ちをそのまま伝える。

「……好きだから、セックスしてもいいって思ってくれたんじゃなくて?」

 そう言われて、ようやく気付いた。出ない答えがようやくストンとオレの中で落ち着いた。
 ああ、そうか。オレは、久我のことが好きだからセックスしたかったんだって。

「オレのGlareとプレイが好きで、オレの気持ちが他の人に向くのはイヤで、セックスしたいって……もしかして、唯織さん、本当にオレのことめちゃくちゃ好きです?」
「ああ……久我になら処女捧げても構わないって思うくらい、好きだよ」

 ようやく久我の嬉しそうな顔が見れた。
 ぎゅうぎゅうと、息苦しいくらい強く抱きしめられる。
 その息苦しさすら心地よく思いながら、オレは目を閉じた。

 ああ、もう寝そうだ。
 このまま寝てしまっても、この幸せが続くのだと思うと嬉しい。





 オレに頬を摺り寄せていた久我が、不意に口を開いた。

「あー、そういえば、つかぬことをお伺いしますが……○△ニュータウンって地名に心当たりありません? 行ったことがある……かどうかは覚えてなくてもいいんですけれど、例えば誰か知り合いが住んでたりとか……」

 唐突な話題転換に、一度閉じた目を渋々開く。

 そこは従兄が結婚した後、新居を構えた街だ。内心、首を傾げながらも、その場所に行ったことはないけど従兄が住んでいたということを答えた。

「やっぱり、あの時出会ったのは唯織さんだったんですね」
「あの時……?」

 久我の言葉の意味を考えようとするけど、頭がぼんやりする。とても……眠い。

「行ったことがないってことは……あの時のオレの言葉Command、まだ覚えててくれたんですね。嬉しいです。唯織さん、とってもGood Boyいいこでしたよ」

 久我に優しく頭を撫でられて、ついに睡魔に負けたオレは瞼を閉じる。

「あの時出したCommandは全部解除しますね。遅くなってごめんなさい。もう、あの日のことはですよ」


 完全に夢に落ちる前に、辛うじて久我の言葉が聞こえた。
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