16 / 49
本編
【16】約束の日
しおりを挟む
それからの二週間は慌ただしくも、ゆっくりと過ぎた。
慌ただしかったのは仕事でも私生活でもなく、主にオレの心中だ。
オレが久我に恋をしている? たった1回プレイしただけでそんなハズは。でも、あいつだって、一目オレのことを見ただけで好きって言ってきたし……
でも、それだって勘違いかもしれない。
久我とのプレイは……正直、すごく良かった。
理性が溶かされて、本能を曝け出して、褒められて満たされて。またしたい、と思う。もう二度と出来なくなってしまったら……それはちょっと悲しいかもしれない。でも、久我とのプレイはなんか……ムラムラする。
長冨が言ってた言葉が蘇る。
『Glareでドロドロに溶かしてセックスしたい』
……久我となら、してみたい……いやいや、何を考えてるんだ、オレは!
久我のことを色々悩み過ぎて、時間が経つのがやけに遅く感じた。
約束の二週間が来るのが怖いような、さっさとケリをつけたいような。そんな気持ちで二週間を過ごした。
その間、ここ十年は常にあった体調不良はなかったけれど、予想もしていなかった欲求不満に陥った。
ただ、久我のことを想いながら自慰をするなんてことはとてもできず、おかげで妙な禁欲生活を送る羽目になってしまった。
色々考え、悩みに悩んで。そしてついに久我との待ち合わせ直前、欲求不満でちょっとおかしくなっていた頭で、オレはある決心をしたのだった。
「いらっしゃい。私服の有坂さんも素敵ですね」
ドアが開かれ、二週間前に別れた男が目の前に立っている。
約束の『二週間後の週末』……土曜日の昼過ぎ、オレはまた久我のマンションを訪れていた。
前回出会ったときはお互いスーツを着ていたけれど、今日は二人とも私服だ。
「また来てもらえるなんて、夢みたいです」
浮かれた顔をした久我に導かれて、リビングへと通される。尻から生えた尻尾が揺れる幻影が見えた気がした。
「何か飲みますか?」
その言葉に首を振り、オレは無地で茶色の小さな紙袋を差し出した。
中には不透明なビニール袋に包まれたものが入っている。ここに来る前、薬局で買ってきたものだ。
渡されたものの包装を開けようとした久我を慌てて止める。
「……プレイの途中で必要になったら使え。それまでは絶対、開けんじゃねぇっ!」
羞恥に顔が赤らむのを感じるが、中身がわからない久我はそんなオレの様子を見て首を傾げた。
「……じゃあ、もうプレイします?」
その言葉にオレは頷く。
「セーフワードは前と同じ。だけど、今日は……NGなしでいい」
「有坂さん!?」
驚いた顔をした久我を睥睨する。
「勘違いすんな。何をしてもいいわけじゃない。当然、不快だと思ったらセーフワードを言う。そしたら、金輪際おまえとはプレイはしない」
「えぇっ……!? じゃあ、せめて、絶対使っちゃダメなCommandくらいは……」
「……ないんだ」
「え?」
「今まで、ComeとKneelしか使われたことないから、……他はわからないんだ」
あまりの羞恥に、言葉に勢いがなくなる。三十路にも近い男が、初心者向けのCommandしか使われたことがないのが意外だったのだろう。
だけど従兄とは子供騙しなプレイしかしていないし、長冨とのプレイでは、それをするだけでやっとだったから。
それでも、小さな声でぼそぼそと言ったオレの言葉は久我には届いたようだ。
「そ、それじゃあ、StripとかLickとか使っちゃってもいいんですか? 前回NGだった、セックスを含めた性的接触もしちゃっていいんですか……?」
ゴクリと、久我が生唾を飲み込むのが聞こえた気がした。
慌ただしかったのは仕事でも私生活でもなく、主にオレの心中だ。
オレが久我に恋をしている? たった1回プレイしただけでそんなハズは。でも、あいつだって、一目オレのことを見ただけで好きって言ってきたし……
でも、それだって勘違いかもしれない。
久我とのプレイは……正直、すごく良かった。
理性が溶かされて、本能を曝け出して、褒められて満たされて。またしたい、と思う。もう二度と出来なくなってしまったら……それはちょっと悲しいかもしれない。でも、久我とのプレイはなんか……ムラムラする。
長冨が言ってた言葉が蘇る。
『Glareでドロドロに溶かしてセックスしたい』
……久我となら、してみたい……いやいや、何を考えてるんだ、オレは!
久我のことを色々悩み過ぎて、時間が経つのがやけに遅く感じた。
約束の二週間が来るのが怖いような、さっさとケリをつけたいような。そんな気持ちで二週間を過ごした。
その間、ここ十年は常にあった体調不良はなかったけれど、予想もしていなかった欲求不満に陥った。
ただ、久我のことを想いながら自慰をするなんてことはとてもできず、おかげで妙な禁欲生活を送る羽目になってしまった。
色々考え、悩みに悩んで。そしてついに久我との待ち合わせ直前、欲求不満でちょっとおかしくなっていた頭で、オレはある決心をしたのだった。
「いらっしゃい。私服の有坂さんも素敵ですね」
ドアが開かれ、二週間前に別れた男が目の前に立っている。
約束の『二週間後の週末』……土曜日の昼過ぎ、オレはまた久我のマンションを訪れていた。
前回出会ったときはお互いスーツを着ていたけれど、今日は二人とも私服だ。
「また来てもらえるなんて、夢みたいです」
浮かれた顔をした久我に導かれて、リビングへと通される。尻から生えた尻尾が揺れる幻影が見えた気がした。
「何か飲みますか?」
その言葉に首を振り、オレは無地で茶色の小さな紙袋を差し出した。
中には不透明なビニール袋に包まれたものが入っている。ここに来る前、薬局で買ってきたものだ。
渡されたものの包装を開けようとした久我を慌てて止める。
「……プレイの途中で必要になったら使え。それまでは絶対、開けんじゃねぇっ!」
羞恥に顔が赤らむのを感じるが、中身がわからない久我はそんなオレの様子を見て首を傾げた。
「……じゃあ、もうプレイします?」
その言葉にオレは頷く。
「セーフワードは前と同じ。だけど、今日は……NGなしでいい」
「有坂さん!?」
驚いた顔をした久我を睥睨する。
「勘違いすんな。何をしてもいいわけじゃない。当然、不快だと思ったらセーフワードを言う。そしたら、金輪際おまえとはプレイはしない」
「えぇっ……!? じゃあ、せめて、絶対使っちゃダメなCommandくらいは……」
「……ないんだ」
「え?」
「今まで、ComeとKneelしか使われたことないから、……他はわからないんだ」
あまりの羞恥に、言葉に勢いがなくなる。三十路にも近い男が、初心者向けのCommandしか使われたことがないのが意外だったのだろう。
だけど従兄とは子供騙しなプレイしかしていないし、長冨とのプレイでは、それをするだけでやっとだったから。
それでも、小さな声でぼそぼそと言ったオレの言葉は久我には届いたようだ。
「そ、それじゃあ、StripとかLickとか使っちゃってもいいんですか? 前回NGだった、セックスを含めた性的接触もしちゃっていいんですか……?」
ゴクリと、久我が生唾を飲み込むのが聞こえた気がした。
19
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。



別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる