いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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本編

【16】約束の日

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 それからの二週間は慌ただしくも、ゆっくりと過ぎた。

 慌ただしかったのは仕事でも私生活でもなく、主にオレの心中だ。


 オレが久我に恋をしている? たった1回プレイしただけでそんなハズは。でも、あいつだって、一目オレのことを見ただけで好きって言ってきたし……

 でも、それだって勘違いかもしれない。

 久我とのプレイは……正直、すごく良かった。
 理性が溶かされて、本能を曝け出して、褒められて満たされて。またしたい、と思う。もう二度と出来なくなってしまったら……それはちょっと悲しいかもしれない。でも、久我とのプレイはなんか……ムラムラする。


 長冨が言ってた言葉が蘇る。


『Glareでドロドロに溶かしてセックスしたい』


 ……久我となら、してみたい……いやいや、何を考えてるんだ、オレは!


 久我のことを色々悩み過ぎて、時間が経つのがやけに遅く感じた。
 約束の二週間が来るのが怖いような、さっさとケリをつけたいような。そんな気持ちで二週間を過ごした。

 その間、ここ十年は常にあった体調不良はなかったけれど、予想もしていなかった欲求不満に陥った。
 ただ、久我のことを想いながら自慰をするなんてことはとてもできず、おかげで妙な禁欲生活を送る羽目になってしまった。

 色々考え、悩みに悩んで。そしてついに久我との待ち合わせ直前、欲求不満でちょっとおかしくなっていた頭で、オレはある決心をしたのだった。








「いらっしゃい。私服の有坂さんも素敵ですね」

 ドアが開かれ、二週間前に別れた男が目の前に立っている。
 約束の『二週間後の週末』……土曜日の昼過ぎ、オレはまた久我のマンションを訪れていた。
 前回出会ったときはお互いスーツを着ていたけれど、今日は二人とも私服だ。

「また来てもらえるなんて、夢みたいです」

 浮かれた顔をした久我に導かれて、リビングへと通される。尻から生えた尻尾が揺れる幻影が見えた気がした。

「何か飲みますか?」

 その言葉に首を振り、オレは無地で茶色の小さな紙袋を差し出した。
 中には不透明なビニール袋に包まれたものが入っている。ここに来る前、薬局で買ってきたものだ。
 渡されたものの包装を開けようとした久我を慌てて止める。

「……プレイの途中で必要になったら使え。それまでは絶対、開けんじゃねぇっ!」

 羞恥に顔が赤らむのを感じるが、中身がわからない久我はそんなオレの様子を見て首を傾げた。

「……じゃあ、もうプレイします?」

 その言葉にオレは頷く。

「セーフワードは前と同じ。だけど、今日は……NGなしでいい」
「有坂さん!?」

 驚いた顔をした久我を睥睨する。

「勘違いすんな。何をしてもいいわけじゃない。当然、不快だと思ったらセーフワードを言う。そしたら、金輪際おまえとはプレイはしない」
「えぇっ……!? じゃあ、せめて、絶対使っちゃダメなCommandくらいは……」
「……ないんだ」
「え?」
「今まで、ComeおいでKneel座ってしか使われたことないから、……他はわからないんだ」

 あまりの羞恥に、言葉に勢いがなくなる。三十路にも近い男が、初心者おこちゃま向けのCommandしか使われたことがないのが意外だったのだろう。

 だけど従兄とは子供騙しなプレイしかしていないし、長冨とのプレイでは、それをするだけでやっとだったから。
 それでも、小さな声でぼそぼそと言ったオレの言葉は久我には届いたようだ。

「そ、それじゃあ、Strip脱げとかLick舐めろとか使っちゃってもいいんですか? 前回NGだった、セックスを含めた性的接触もしちゃっていいんですか……?」


 ゴクリと、久我が生唾を飲み込むのが聞こえた気がした。
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