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本編
【15】イイ男だと思うよ
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「何、唐突に」
面食らった表情の長冨に、少し留飲を下げてやる。
「好きなヤツ、居ねぇの?」
「居るっちゃ居るけど……」
今度は長冨のほうがオレから視線を逸らして、歯切れの悪い物言いになった。
最近では声を掛ければいつでもプレイの相手をしてくていたので、そんな相手がいたことが意外に思えてオレはまじまじと長冨の顔を覗き込む。
「告白とか、しねぇの?」
「好きな相手のことは、Glareでとろっとろに溶かしたいんだよなぁ。それで、オレのことしか考えられなくしてセックスするのが理想なんだけど」
「セッ……」
不意に出てきた単語に、思わず声が裏返る。
「……プ、プレイしながらのセックスって、気持ちいいのか……?」
昨日、久我とプレイをしたときに、妙にムラムラとした気分になったことを思い出した。
あそこまでGlareを感じたことが今までなかったからよくわからないのだが、みんなプレイ中はあんな状態になってしまうものなんだろうか?
少しの好奇心が顔を覗かせて、オレは思わず口にしてしまった。
「相手との相性次第だけれど、フツーにセックスするよか気持ちいい。それが惚れた相手だったら、なおさらなんじゃね? ……多分な」
既に多感なお年頃という時期はとっくの昔に過ぎ去っているのだが、今までそういった情報に触れてこなかったため、頭の中で情報と妄想が目まぐるしく錯綜する。
「普通は三大欲求だけど、D/S性のオレたちは四大欲求だろ? そのうちの2つが同時に満たせるんだから、気持ち良くて当然じゃね? オレは好きになった相手のことは、全部満たしてやりたいんだけど……」
そこまで言うと、長冨は切なげな溜息を宙に吐いた。
「……残念ながら、告白もできないまま失恋記録更新中だよ」
しばらく、オレ達の間に沈黙が落ちる。
「……告白すればいいじゃん。長冨は、イイ男だと思うよ」
「マジで? 有坂にそう言ってもらえるなんて、勇気でるわー」
冗談を言うような軽い口調になった長冨に、オレはじっとりとした視線を向ける。
「オレは真面目に……」
「有坂が久我くんに告白したら、考えるわ」
「オ、オレはあいつのことなんて別に……」
「ん? 有坂って、実は好きな子にはツンデレになっちゃうタイプ?」
「五月蠅いっ」
その後は、二人でとりとめのない話をし、賄いのお礼に今度差し入れすることを約束して店を出た。
その日の夜、オレは昔の夢を見た。
普段は乗らない電車を乗り継ぎ、終着駅でバスに乗る。初めて訪れる土地は緊張する。
緊張の理由は本当にそれだけだったのかは、自分自身でも判断ができなかった。
都心から辛うじて日帰り旅行ができるくらいの距離にあるニュータウンという名を冠する街には、真新しくておしゃれな家が立ち並んでいる。当時高校生だったオレには、街自体が新しい家族達の門出を祝福しているように見えた。
バスに揺られて10分程、メモに書かれたバス停で降りる。
手書きの地図に従って道を進むと、とてもかわいらしい造りの一軒家が現れた。
招き入れられて中に入ると、広くて明るいリビングに通された。淡い色のカーテン。優しい色合いのソファ。見るもの全てが幸せな家族の象徴みたいで、打ちのめされた。
それは、行ったことがないはずの従兄とお嫁さんの新居の様子だ。
オレは、結婚式の後は従兄とは会っていないはずなのに。
行ったことがないはずなのに、何故オレはその街並みを、家の中の具体的な様子を、まるで見たことがあるかのように覚えているのだろう?
オレはこの後、桜の咲いた公園でドロップアウトするはずだ。
そこからオレを救ってくれたのは、誰だったのだろうか。
あるはずのない記憶。
だけど、ただの夢だと忘れ去るにはあまりにも鮮明な記憶に、オレは目覚めた後もぼんやりとした頭で首を傾げたのだった。
面食らった表情の長冨に、少し留飲を下げてやる。
「好きなヤツ、居ねぇの?」
「居るっちゃ居るけど……」
今度は長冨のほうがオレから視線を逸らして、歯切れの悪い物言いになった。
最近では声を掛ければいつでもプレイの相手をしてくていたので、そんな相手がいたことが意外に思えてオレはまじまじと長冨の顔を覗き込む。
「告白とか、しねぇの?」
「好きな相手のことは、Glareでとろっとろに溶かしたいんだよなぁ。それで、オレのことしか考えられなくしてセックスするのが理想なんだけど」
「セッ……」
不意に出てきた単語に、思わず声が裏返る。
「……プ、プレイしながらのセックスって、気持ちいいのか……?」
昨日、久我とプレイをしたときに、妙にムラムラとした気分になったことを思い出した。
あそこまでGlareを感じたことが今までなかったからよくわからないのだが、みんなプレイ中はあんな状態になってしまうものなんだろうか?
少しの好奇心が顔を覗かせて、オレは思わず口にしてしまった。
「相手との相性次第だけれど、フツーにセックスするよか気持ちいい。それが惚れた相手だったら、なおさらなんじゃね? ……多分な」
既に多感なお年頃という時期はとっくの昔に過ぎ去っているのだが、今までそういった情報に触れてこなかったため、頭の中で情報と妄想が目まぐるしく錯綜する。
「普通は三大欲求だけど、D/S性のオレたちは四大欲求だろ? そのうちの2つが同時に満たせるんだから、気持ち良くて当然じゃね? オレは好きになった相手のことは、全部満たしてやりたいんだけど……」
そこまで言うと、長冨は切なげな溜息を宙に吐いた。
「……残念ながら、告白もできないまま失恋記録更新中だよ」
しばらく、オレ達の間に沈黙が落ちる。
「……告白すればいいじゃん。長冨は、イイ男だと思うよ」
「マジで? 有坂にそう言ってもらえるなんて、勇気でるわー」
冗談を言うような軽い口調になった長冨に、オレはじっとりとした視線を向ける。
「オレは真面目に……」
「有坂が久我くんに告白したら、考えるわ」
「オ、オレはあいつのことなんて別に……」
「ん? 有坂って、実は好きな子にはツンデレになっちゃうタイプ?」
「五月蠅いっ」
その後は、二人でとりとめのない話をし、賄いのお礼に今度差し入れすることを約束して店を出た。
その日の夜、オレは昔の夢を見た。
普段は乗らない電車を乗り継ぎ、終着駅でバスに乗る。初めて訪れる土地は緊張する。
緊張の理由は本当にそれだけだったのかは、自分自身でも判断ができなかった。
都心から辛うじて日帰り旅行ができるくらいの距離にあるニュータウンという名を冠する街には、真新しくておしゃれな家が立ち並んでいる。当時高校生だったオレには、街自体が新しい家族達の門出を祝福しているように見えた。
バスに揺られて10分程、メモに書かれたバス停で降りる。
手書きの地図に従って道を進むと、とてもかわいらしい造りの一軒家が現れた。
招き入れられて中に入ると、広くて明るいリビングに通された。淡い色のカーテン。優しい色合いのソファ。見るもの全てが幸せな家族の象徴みたいで、打ちのめされた。
それは、行ったことがないはずの従兄とお嫁さんの新居の様子だ。
オレは、結婚式の後は従兄とは会っていないはずなのに。
行ったことがないはずなのに、何故オレはその街並みを、家の中の具体的な様子を、まるで見たことがあるかのように覚えているのだろう?
オレはこの後、桜の咲いた公園でドロップアウトするはずだ。
そこからオレを救ってくれたのは、誰だったのだろうか。
あるはずのない記憶。
だけど、ただの夢だと忘れ去るにはあまりにも鮮明な記憶に、オレは目覚めた後もぼんやりとした頭で首を傾げたのだった。
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