いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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本編

【13】賄いランチ

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 久我の初恋話を聞いた後、オレはなんとなくその場に居づらくなって、なんとか理由をつけて久我の家から逃げ出した。

 相性の良さは、同ランクだから。一目惚れというのは、初恋の身代わりなのか。

 口を開けばとどまることを知らず溢れ出してくる好意に、絆されかけていたのかもしれない。




 家に帰ろうと電車に乗ったものの、一人になるとどこまでも気分が沈んでいきそうだったので、長冨に連絡を取った。一人暮らしの家に帰っても、することは特にない。

 今日は休みを返上してランチタイムからディナーまで店にいると返事があったので、長冨のバーに行く電車に乗りなおした。




 店についたのは、ちょうどランチタイムが終わった頃だった。

 ドアに「closed」の看板を掛けた長冨と遅めのランチを食べる。
 長冨が作った賄いを、カウンターに並んで座って二人でつついた。出されたエビとアスパラガスのトマトクリームパスタは、新メニューの試作品らしい。

 今日のアルバイトはランチタイムまでだったようだ。この後すぐに大学の講義があるのだと言って、賄いを掻き込むと足早に去っていった。今、店には長冨とオレの二人だけだ。


「今までになく顔色はいい気がするんだけど、なんでそんなに表情が暗いんだ? お試しは大成功だったんだろ?」
「……プレイの様子はモニターで見てたんだろ?」
「いやー、流石に同意はあったとしてもガッツリ出歯亀するのは気が引けて」
「はぁ?」
「久我くんが出したGlareを有坂が拒絶しなかった時点で、音声チェックくらいしかしてないよ」
「……おい。何かあったらどーするつもりで……」
「あんなにトロットロに甘く蕩けた有坂なんて、今まで見たことねーし。その時点で何もないと思ったよ」
「トロッ……」

 監視をしていることを強調していたにも関わらず、実際はあまりにお粗末なチェックしかしていなかったことを暴露されて眉を顰めていたオレは、長冨の弁明内容に絶句する。
 
「でも、サブスペースに入るくらい満たされたんだろ? 相手パートナーが見つかって良かったじゃん」

 残り半分ほどになったパスタに視線を落として、オレは口を開く。

「……サブスペースに入ったらパートナーになるってのはあいつが勝手に言っただけで、オレは了承してない」
「なんで? 勿体ない」

 長冨がこちらを覗き込んでくるが、顔が上げられない。

「あの状態で、『二度とプレイしたくない』ってことはないだろ?」
「うう、……まぁ、そうだな……」

 あまり素直に認めたくないが、その通りだ。
 オレはその言葉に渋々頷く。

「相性が良ければパートナーに、情があれば恋人になればいいと思うんだけど。身元がしっかりしてて、有坂のことが大好きで、プレイでも満たしてくれる。一体、何が不満なんだ?」
「……長冨はあいつのこと、叔父さんからなんて聞いてたんだ?」

 オレは、気になっていたことを口にした。

「んー、『優秀だけど不憫な部下が行くから、イイヒトが居れば紹介してやって』って言われたくらいだな」
「不憫……?」

 外見も良く、有名企業勤務で尚且つ将来有望。そして、高級マンション在住。十分に恵まれた環境に居るようなのだが、何か不憫なことがなにかあるのだろうかと首を傾げる。

「ちょっとした特異体質らしくてな。Glareが強すぎるんだ。有坂はわかんなかったかもしんないけど……いや、逆に言えば、有坂がわかるくらい強いGlareが出せるってのがな、問題なんだわ」

 SubにとってGlareを感じられないのは死活問題だけれど、Domにとっては思うようにGlareが使えないののもやはり問題があるらしい。
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