いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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本編

【10】約束

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「お前、今日仕事は……? 何時にここを出る?」
「あ、先月の休日出勤分の代休を取ってるんでオレも今日は休みです。有坂さんも、今日は有給取ってるんですよね?」

 オレはため息交じりに頷いた。
 オレが有給を取っていることは、昨夜、タクシーに突っ込まれたときに長冨から久我に暴露されている。

「……ところで、お前のGlareはなんだ?」

 朝食を平らげ、食器を片付けてダイニングテーブルに戻ってきた久我にオレは問いかけた。
 昨夜、オレがおかしくなったのは、こいつのGlareを浴びてからだ。それに、店での長冨とのやり取り……思い当たる原因は、久我のGlareくらいしかない。

「オレのGlareをあんなに浴びて、ぶっ倒れなかったの、有坂さんが初めてです」

 なんだ、その物騒な発言は。
 うっとりしながら言うセリフではない気がする。

「あと、オレのGlareに蕩けた顔してる有坂さん、すごく可愛かったです。ぎゅーってしたり、撫で撫でしたりできなかったの、すごく残念でした……」
「そういうことは聞いていない」

 オレは久我のどうでも良い発言をバッサリ切り捨てた。
 しかし、悔しいことに、目を覚ましたときには、かつてないほど体調は良くなっていたし、朝食は美味しかった。それに、昨日した約束は全て守られている。むしろ、オレの方が暴走気味だったくらいだ。
 Glareを感じるということがこんなに心地良いことだなんて、今まで知らなかった。本人の性格以外に文句の付け所がないのが本気で腹立たしい。気を抜くと、昨夜のことを思い出して本能が疼きそうになるのも忌々しい。


「オレは……Glareをほとんど感じない。なのに、昨夜お前のGlareは問題なく感じられた。これはどういうことだ?」
「オレ達、相性がとってもいいんだと思います! 今すぐ恋人に……は無理でも、せめてパートナーになっていただけませんか?」

 なかなか質問に答えようとしない久我を、オレは無言で軽く睨みつける。

「……オレからの接触NGを解除して、またプレイしてくれるって約束してくれたら言います。未発表の論文の研究内容に係わることで、一応、守秘義務があるので」

 オレはその言葉に眉を顰める。

「あ、研究内容っていっても流石にガチでヤバいことは言えませんけど! 関係あるのは前提の部分だけなので、ちょっと喋るくらいは問題ありません。あと、またオレとプレイしていただけるなら、頑張って身体から攻略させていただきます!!」
「……研究とは?」

 後半の戯言は無視しつつオレが聞くと、久我は慌てたように鞄の中から名刺を取り出して、オレに差し出した。

「紹介が遅くなってすみません。オレ、ここの会社でD/S性とGlareをメインに研究をしています」

 受け取った名刺には、国内の有名な製薬会社……Nagatomi製薬の研究室所属であることが書かれていた。

「昨日は、研究のお手伝いをお願いしに長冨さんのお店に伺ったんですけれど……あ、長冨さんはオレの上司の甥っ子さんなんです」
 
 長冨の親戚が薬屋をしている……というのは、学生時代に聞いたことがある。たしか就活が始まったくらいの時期だった。
 具体的なことは聞かなかったが、親族経営している会社だと言っていた。ただ、長冨自身は直系ではないので、そこに就職する義務もない。どうしても就職先が見つからなかったら、アルバイトとして雇ってもらうかなーなんて軽口を叩いていたことを思い出した。
 口ぶりからして、何店舗かある薬局のチェーン店かと勝手に思っていたが、それがまさかこんな大企業だったなんて。……社名がローマ字表記だっただけで今まで全く気づいていなかったオレは、やや鈍感だったと認めざるを得ないようだ。

 そこで、昨日のやり取りを思い出す。久我があのタイミングで店に来たのは、あらかじめ長冨とのアポイントがあったのだろう。初対面であるにも関わらず、名刺を見ただけで長冨のガードが緩くなったのは、紹介者である叔父からどんな相手かという事前情報があったのと、何かあったときに久我の上司でもある叔父の権力を存分に使える相手だということが分かったからかもしれない。

「有坂さんはGlareが感じにくいと言っていましたが、抑制剤とかの薬も効きにくかったりしませんか?」
「……ああ、そうだ」
「そういった方々に対処する薬の開発のための研究です」

 そういうと、久我はじーっとオレを見つめた。
 雰囲気からして、これ以上のことが知りたければ次のプレイを約束しろということのようだ。
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