いつか、愛に跪くまで

夏芽玉

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本編

【5】Glare不感症

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 オレのSubとしての特殊事情……Subであるにも関わらずGlareグレアを感じにくいという困った体質のオレは、プレイ相手を探すのに苦労していた。

 DomとSubが抱える欲求は、性癖のようなものではなく、食欲や睡眠欲のように本能に則った欲求だと科学的に証明されている。そしてDom性やSub性の欲が発散されないと、人間の三大欲求のバランスも崩れて体調不良になり、最悪、死に至ることもあるとさえ言われている。

 この欲を解消できるのが、Glareを介したプレイによるコミュニケーションだ。DomがCommandコマンドを出し、Subがそれを遂行することでお互いの欲は解消される。その時に、DomがGlareというフェロモンみたいなものを出すのだが……

 オレは、そのGlareを極端に感じにくい体質をしている。つまり、まともにプレイができないことになる。プレイができないと、オレの場合は食欲不振になり不眠に陥る。人によってはセックス依存症になることもあるらしく、それよりはマシだとは思うのだが……この状態を解消するには、Domとプレイするしかない。しかし、オレは、Glareが感じ取れずにプレイが成り立たない、という悪循環を起こすのだ。

 今までオレがプレイのときにまともにGlareを感じることができた相手は、長冨とオレの従兄だけだった。


 少し年の離れた母方の従兄がDomで、学生の頃はお互い電車で1時間程度の距離に住んでいた。だからオレは、体調不良のたびに彼と時々プレイをしていた。
 オレが未成年かつ特定のパートナーが居なかったからだ。
 D/S性の欲は第二次性徴が現れる時期から発露し始めると言われている。性に未成熟な間はそんなに強い欲求も出ないため、未成年だとパートナーができるまでは身近な人物同士で相手をするのが一般的なようだ。

 親戚内でD/Sの二次性を持つのはオレと従兄だけで、お互いの両親はNormalだ。

 人口の約3割がDomかSubなのだから、普通に考えたら40人学級であればクラスの12人程度がD/Sの二次性をもつということになる。左利きが国民の1割程度と言われているので、それよりずっと多い。このくらいの比率なら、家族や親戚内に何人かDomやSubが居ても不思議ではなさそうなのに、実際はそうはならない。

 「Domが生まれやすい家系」「Subが生まれやすい家系」というのが存在するようで、しかも何故か旧家や富裕層に多い。そういった家の子供は、D/S性に特化した私立に幼稚園や小学校から通っていることが多く、小学校から高校まで公立で過ごしたオレの同級生達にD/S性を持つものはほとんど居なかった。

 それでも従兄が相手をしてくれる間はなんとかなっていた。



 だけどその関係は、従兄が結婚をするときに解消された。オレが高校3年生のときだ。従兄が結婚した相手は、思わず守ってあげたくなるような小柄で美しいSubの女性だった。

 オレは親戚として結婚式に招待された。花嫁と花婿が並ぶ幸せそうな姿を見てしまったら、二人の間に入り込むのは気が引けてしまったので関係を解消することにした。二人はお嫁さんの実家の近くに新居を構えたので、うちから簡単に行ける距離ではなくなったという物理的な事情も存在する。 

 今思えば、最初に相手をしてもらったDomということで、オレは従兄に淡い初恋未満な感情を抱いていたのかもしれない。だけど、結婚式の後、関係を解消してからはオレは一度も連絡を取っていない。
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