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本編
23話 優しい檻
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「うちの会社のCEOだけど。知らなかった?」
うちは外資系企業の日本支社なので、本社はアメリカにある。うん、そういえば礼二さん言ってた。「今、両親は日本にいない」って。どこにいるのかと思ったら、本社か! そりゃ、社長も頭が上がらないよな!!
後から聞いた話だと、オレたちがマッチングした直後の社長の謎行動も、『マッチングできたら、お祝いに来てくださいね』と礼二さんが唆した結果だそうだ。オレはいつの間にか、社長まで使って社内全体から固められていたようだ。
「で、でも、秘書課のコが告白したら『好きな人がいる』って言って断ったって……」
「秘書課? ああ、茜祢を狙っていたあの雌か。茜祢はオレを好きになる予定だったから釘を刺しておいただけだ」
め、メス!? ……さっきから思ってたんだけど、礼二さんの言葉遣いがいつもと全然違う。
「あ、あの……礼二さん、自分のこと『オレ』って……それに、いつもとなんか雰囲気違う……」
「だって、茜祢は『アルファらしいアルファ』ってのは好きじゃないでしょ? だから、『アルファっぽくないアルファ』を演じてみたんだ。どう、僕のこと好きになってくれた?」
職場でのダメダメな礼二さんは、オレの気を引くための演技だったなんて。
「なんでそんなこと……」
「好きな人に好きになってもらうためだったら、自分を偽るなんて造作もないことだよ。茜祢が好きになってくれるなら、僕は一生自分を偽ってもいいよ」
オレはふるふると首を振った。今まで見てきた礼二さんの姿が偽りのものだったと知って、オレは前までと同じように礼二さんに接することができる気がしない。それなら素のままのほうが断然イイ。
「そ、そのままでいいです……でも、礼二さんみたいな人がオレのことなんて好きになるハズがないし」
「酷いな。いつもあんなに愛を囁いていたのに、通じてなかったなんて」
「嘘だ……」
結婚してから囁かれる愛の言葉は、全部、優しい礼二さんのリップサービスだと思っていた。
「嘘じゃないよ。それでアプリだって社長を使って社員は全員強制入会にしたんだから。アプリの完成がちょうど茜祢の発情期休暇と重なったのは誤算だったけど……」
礼二さんがオレの腕を引っ張って、ベッドに押し倒した。
オレたちの寝室には大きなベッドがあるのに、礼二さんの部屋にもシングルベッドがあって、そこには洋服が散乱していた。その服は、どれも見覚えがあるものばかりだった。というのも、以前オレが着ていたものや、洗濯をしているときになくしてしまった下着とかだからだ。どこでなくしたんだろうと不思議に思っていたけれど、こんなところにあったなんて……。そして、週末にオレが使ってしまった……隠していたはずの礼二さんのパジャマとパンツ。それからジャケットも、ベッドの上に積まれていた。
ここにあるのは全部オレのものだったはずなのに、いつの間にか礼二さんのものになってしまっていた。一つ一つに礼二さんの匂いが染みているのがわかる。礼二さんが夜、寝室から抜け出して、ここでしていたことは……匂い付けだったのだとオレは気付いた。
「ほら、これでオレの巣は完成だ」
濃い礼二さんの匂いに包まれて、オレの身体は震えた。
オレの上に伸し掛かってきた礼二さんが、にっこりと微笑んだ。その笑みに、会社で見る頼りない礼二さんの面影は全くなかった。
「やっと手に入れたんだ。どんなに怖がっても、絶対に逃がさないからね」
うちは外資系企業の日本支社なので、本社はアメリカにある。うん、そういえば礼二さん言ってた。「今、両親は日本にいない」って。どこにいるのかと思ったら、本社か! そりゃ、社長も頭が上がらないよな!!
後から聞いた話だと、オレたちがマッチングした直後の社長の謎行動も、『マッチングできたら、お祝いに来てくださいね』と礼二さんが唆した結果だそうだ。オレはいつの間にか、社長まで使って社内全体から固められていたようだ。
「で、でも、秘書課のコが告白したら『好きな人がいる』って言って断ったって……」
「秘書課? ああ、茜祢を狙っていたあの雌か。茜祢はオレを好きになる予定だったから釘を刺しておいただけだ」
め、メス!? ……さっきから思ってたんだけど、礼二さんの言葉遣いがいつもと全然違う。
「あ、あの……礼二さん、自分のこと『オレ』って……それに、いつもとなんか雰囲気違う……」
「だって、茜祢は『アルファらしいアルファ』ってのは好きじゃないでしょ? だから、『アルファっぽくないアルファ』を演じてみたんだ。どう、僕のこと好きになってくれた?」
職場でのダメダメな礼二さんは、オレの気を引くための演技だったなんて。
「なんでそんなこと……」
「好きな人に好きになってもらうためだったら、自分を偽るなんて造作もないことだよ。茜祢が好きになってくれるなら、僕は一生自分を偽ってもいいよ」
オレはふるふると首を振った。今まで見てきた礼二さんの姿が偽りのものだったと知って、オレは前までと同じように礼二さんに接することができる気がしない。それなら素のままのほうが断然イイ。
「そ、そのままでいいです……でも、礼二さんみたいな人がオレのことなんて好きになるハズがないし」
「酷いな。いつもあんなに愛を囁いていたのに、通じてなかったなんて」
「嘘だ……」
結婚してから囁かれる愛の言葉は、全部、優しい礼二さんのリップサービスだと思っていた。
「嘘じゃないよ。それでアプリだって社長を使って社員は全員強制入会にしたんだから。アプリの完成がちょうど茜祢の発情期休暇と重なったのは誤算だったけど……」
礼二さんがオレの腕を引っ張って、ベッドに押し倒した。
オレたちの寝室には大きなベッドがあるのに、礼二さんの部屋にもシングルベッドがあって、そこには洋服が散乱していた。その服は、どれも見覚えがあるものばかりだった。というのも、以前オレが着ていたものや、洗濯をしているときになくしてしまった下着とかだからだ。どこでなくしたんだろうと不思議に思っていたけれど、こんなところにあったなんて……。そして、週末にオレが使ってしまった……隠していたはずの礼二さんのパジャマとパンツ。それからジャケットも、ベッドの上に積まれていた。
ここにあるのは全部オレのものだったはずなのに、いつの間にか礼二さんのものになってしまっていた。一つ一つに礼二さんの匂いが染みているのがわかる。礼二さんが夜、寝室から抜け出して、ここでしていたことは……匂い付けだったのだとオレは気付いた。
「ほら、これでオレの巣は完成だ」
濃い礼二さんの匂いに包まれて、オレの身体は震えた。
オレの上に伸し掛かってきた礼二さんが、にっこりと微笑んだ。その笑みに、会社で見る頼りない礼二さんの面影は全くなかった。
「やっと手に入れたんだ。どんなに怖がっても、絶対に逃がさないからね」
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