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本編

22話 アルファの巣作り

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が完全に堕ちるまで、いつまでも待つつもりでいたけれど……逃げようとするなら、いっそのこと閉じ込めちゃおうかな」
「えっ?」

 マンションのドアを開けた礼二さんは、オレの腕を引っ張って、自分の部屋まで連れて行った。ガチャリと開いたドアから、入口のすぐ横の部屋に押し込まれる。
 部屋の中の様子を見て、オレは目を見開いた。
 初めて入る礼二さんの部屋は、オレの想像を遥かに逸したものだったからだ。

「ウサギのぬいぐるみ……」
「茜祢が好きって言ったから、集めるのにハマっちゃって」

 部屋の真正面に並んだ棚には、大量のウサギのぬいぐるみ。確か、以前オレが好きって言ったやつだ。
 だけど、量がおかしい。
 三つも並んだ棚の上から下までみっちりと詰まっている。
 礼二さんが以前職場で「うさぎが好きで、実は寝室にぬいぐるみがたくさんあるんだ」とはにかみながら言っていたときの表情と目の前の量現実が一致していない。
 こんなの、頬をほんのりと染めながら言う量じゃない。ある種の狂気を感じる。

「これは……」

 隣の棚には何か見たことがあるようなものが並んでいた。
 お揃いのマグカップは最初のデートに買ったものだ。だけど、毎朝、朝食で使っているのはキッチンにあるはず。

「いつも使ってるのはスペアだよ。こっちは正真正銘、茜祢とのデートで買ったもの。初デート記念に飾ってるんだ」

 いつの間にすり替えられていたのか、全く気付かなかった……隣にあるパジャマは、多分、オレが礼二さんと番になったときに着せられていたものだろう。首輪ネックガードが一緒に置いてあった。あの日、自分で外した後は使う必要がなかったので、なくしたことを気にしていなかったけれど、こんなところに保管されていたなんて……
 礼二さんが何かコメントしたそうにウズウズしていたので、オレはわざとスルーした。
 そして、その隣には大量の書類。

「えーっと、これは……」
「茜祢からのラブレター」

 うん、多分違うと思う。
 オレの勘違いじゃなければ、これらはオレが礼二さんに修正を依頼した書類の束だ。しかも、丁寧に付箋までとってある。

「他に気になるものはない?」

 部屋中が恐らくオレの関連品で埋められたこの状況、気になるものしかないけれど……
 オレはあえて視界に入らないように努めていたものにようやく視線を向けた。
 壁と天井を埋め尽くすおびただしい数のオレの写真。異様な光景だ。しかも、オレは礼二さんの前でカメラにポーズを取ったことがないから、多分隠し撮り。
 よく見ると、風呂とか寝顔とかの写真がある。だけど、今使っているシーツとは色が違う。ってことは……

 え、これ、ここに引っ越してくる前のアパートのだよね!? いつの間に撮ったの!?

「気になるものしかないですけれど……なんで、こんなことしたんですか?」

 これじゃあ、まるで礼二さんがオレのストーカーみたいじゃないか。

「アルファだって、好きな人のものを集めて巣作りしてもいいと思わない?」

 集め方にかなり問題があるように思えるけど。それに、巣作りするアルファなんて聞いたことがない。
 でも、さっき礼二さんは間違いなく「巣作り」って言った。
 ていうことは、この部屋は丸ごと礼二さんの巣?
 それに礼二さんは「好きな人」って……そして、ここにあるのは全部オレのもので……

「……礼二さん、オレのこと好きなの?」
「初めて会った時から、ずっと好きだよ」
「え、それっていつから……?」

 初めてというと、入社して配属先に紹介された日だろうか。

「茜祢が入社説明会に来た時から」
「うそ……」

 思っていたよりも随分と前だった。
 確か今の会社を受けたきっかけは、入社説明会に行った直後に『オメガ枠採用』の案内が大学に来て、就職課からものすごく勧められたからなんだけど……

「会社のロビーで見かけたときに、一目惚れした。これが運命に違いないって思ったよ。だから、茜祢を採用するために『オメガ枠採用』を作って、茜祢に安全に働いて貰うために部署編成を見直して……」
「えっ? え!? ええっ!? 何の話してるの!?」

 そう言えば、今の部署はオレが新卒で入社した時に新設された新しい部署だって聞いたことがあるようなないような……

「ていうか、それ、一会社員ができることだっけ!?」
「それは、コネ親の力を最大限に利用した」

 礼二さんがちょっとだけ苦い顔をした。

「……えーっと、礼二さんの親御さんって、何をされてる方でしたっけ……?」

 重役の親戚か何かって、噂で聞いたことがある気がするけれど……

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