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本編
20話 真実と虚構の狭間で
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何が本当のことなのかわからない。オレはふらふらとしながら営業部に帰った。
せっかく給湯室まで行ったのに、お茶を持ってくるのを忘れてしまったことは、上司に指摘されてようやく気付いた。
もう一度取りに戻ろうとしたけれど、オレがぼんやりしている間に他の人が代わってくれた。
その後も、あんまりにも使い物にならないものだから、オレはついに上司に早退させられてしまったのだった。
「茜袮くん、お帰り」
なんとか家までたどり着いて玄関のドアを開けたら、リビングから出てきた礼二さんに出迎えられた。頬にお帰りのキスをされる。
礼二さんのニコニコとした笑顔を見てほっとした瞬間、『腹黒』という言葉が頭に浮かんだ。
今日は早退をしたから、本来ならオレがこんな時間に帰ってくるハズはないのに。それを気にする風でもなく、オレがこの時間に帰ってくるのがまるで自然なことであるかのように礼二さんが振舞っていることに今更ながら違和感を覚える。
「そろそろ発情期だよね。寝室に僕の服で、巣を作っておいたよ!! あと、明日から一週間、二人で発情期休暇も取ったから!」
礼二さんの服でできた巣!?
普通、巣作りはオメガがするものだ。
大好きなアルファの服とか、匂いが付いたものを集めてそこで発情期を過ごす。
礼二さんの部屋に入れなくて服を集められなかったオレは、今回は巣を作ることはできないと思っていたけれど、それを礼二さんがオレのために作ったの?
何も知らなければ、オレはすごく喜んでいたと思う。礼二さんがオレのために作ってくれた巣で、礼二さんの匂いに包まれたらどんなに幸せだろう。
だけど、礼二さんには好きな人が居る。だから、その巣にオレはふさわしくないんじゃないだろうか。
礼二さんの愛が篭った巣を、オレなんかが使っちゃいけないんじゃないか、って思ってしまったんだ。
「そーゆーの、いらない。勝手なことしないで!」
身体が熱い。発情期が始まる兆候だ。
好きな人がいるって何? 見た目詐欺って? 猫かぶりって? 腹黒って?
オレが見ている礼二さんの……知っている礼二さんの何が本当なの?
今、礼二さんの側に居たら、何を言ってしまうかわからない。オレはそれが怖くなって、家を飛び出した。
せっかく給湯室まで行ったのに、お茶を持ってくるのを忘れてしまったことは、上司に指摘されてようやく気付いた。
もう一度取りに戻ろうとしたけれど、オレがぼんやりしている間に他の人が代わってくれた。
その後も、あんまりにも使い物にならないものだから、オレはついに上司に早退させられてしまったのだった。
「茜袮くん、お帰り」
なんとか家までたどり着いて玄関のドアを開けたら、リビングから出てきた礼二さんに出迎えられた。頬にお帰りのキスをされる。
礼二さんのニコニコとした笑顔を見てほっとした瞬間、『腹黒』という言葉が頭に浮かんだ。
今日は早退をしたから、本来ならオレがこんな時間に帰ってくるハズはないのに。それを気にする風でもなく、オレがこの時間に帰ってくるのがまるで自然なことであるかのように礼二さんが振舞っていることに今更ながら違和感を覚える。
「そろそろ発情期だよね。寝室に僕の服で、巣を作っておいたよ!! あと、明日から一週間、二人で発情期休暇も取ったから!」
礼二さんの服でできた巣!?
普通、巣作りはオメガがするものだ。
大好きなアルファの服とか、匂いが付いたものを集めてそこで発情期を過ごす。
礼二さんの部屋に入れなくて服を集められなかったオレは、今回は巣を作ることはできないと思っていたけれど、それを礼二さんがオレのために作ったの?
何も知らなければ、オレはすごく喜んでいたと思う。礼二さんがオレのために作ってくれた巣で、礼二さんの匂いに包まれたらどんなに幸せだろう。
だけど、礼二さんには好きな人が居る。だから、その巣にオレはふさわしくないんじゃないだろうか。
礼二さんの愛が篭った巣を、オレなんかが使っちゃいけないんじゃないか、って思ってしまったんだ。
「そーゆーの、いらない。勝手なことしないで!」
身体が熱い。発情期が始まる兆候だ。
好きな人がいるって何? 見た目詐欺って? 猫かぶりって? 腹黒って?
オレが見ている礼二さんの……知っている礼二さんの何が本当なの?
今、礼二さんの側に居たら、何を言ってしまうかわからない。オレはそれが怖くなって、家を飛び出した。
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