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本編

10話 好きな人の匂い

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 礼二さんのジャケットを頭から被せられて、慌ただしく会計を済ませた後、タクシーに突っ込まれた。タクシーの中でもオレはずっと礼二さんのジャケットの匂いを嗅いでいた。好きな人の香りに包まれて、既に後ろが濡れているのがわかる。早くそこに礼二さんのが欲しいと身体が訴えているみたいだ。座席に擦り付けたくなる衝動をなんとか抑える。タクシーの中では、二人とも何もしゃべらなかった。

 タクシーを降りたら、そこは礼二さんのマンションだった。エレベーターでも、玄関のドアを開けるときも礼二さんは無言だった。オレが玄関で靴を脱いだら、礼二さんが一番奥の部屋までオレの腕を引っ張って行った。オレは大人しく礼二さんについていく。
 連れて行かれたのは礼二さんの寝室だった。部屋に入った瞬間、礼二さんの濃い匂いに包まれる。ここが礼二さんのプライベートな空間であることを認識して、グシュリとまた後ろが濡れた。

「ねぇ、礼二さん……キスして……」

 オレは我慢できずに、部屋の入口で自分から礼二さんにキスを求めた。
 礼二さんの首に腕を回して、顔を寄せる。ああ、礼二さんはやっぱりカッコイイ。こんな至近距離から顔を見る機会なんて今までなかったからうっとりとして見つめてしまう。いつまでも眺めていたい。そんなことを考えていたら、唇に柔らかいものが触れた。礼二さんの唇だ。
 今まで誰とも付き合ったことのないオレは、勿論キスをするのも初めてだ。ふにふにと柔らかい感覚が気持ちイイ。その心地良さに酔い痴れて唇の力が抜けたところで、オレの口の中に温かいものが侵入してきた。礼二さんの舌がオレの口の中をグジュ、グジュと掻き回す。粘膜同士の触れ合いに、オレは更に興奮した。礼二さんに抱きつきながら、ギチギチに張り詰めてしまった股間を擦り付けてしまう。

「こっちにおいで」

 キスだけで腰砕けになりそうになっていたオレの手を引いて、礼二さんがオレをベッドに連れて行った。ベッドに背中から倒れ込むと、今までで一番強い礼二さんの匂いに包まれた。

「いい匂い……」

 オレは恍惚としながら、枕に手を伸ばした。礼二さんの匂いが一番濃く染みついているのはどれだろう。

「僕の匂いを探してるの?」

 声のした方を見上げると、礼二さんが見たこともない雄の顔をしてオレに覆いかぶさっていた。オレの発情ヒートにあてられて、礼二さんも発情ラットになっているのかもしれない。

「もっと、欲しいです……」
「茜祢くんは、今から僕たちが何をしようとしているのかわかってる?」
「セックスですよ」

 待ちきれなくて、オレは礼二さんのシャツのボタンを外し始めた。礼二さんの匂いが染みついた寝具もいいけれど、脱ぎたての礼二さんの服もきっといい匂いがするに違いない。

「そんなに煽って……どうなってもしらないよ」

 寝ころんだままだとやりづらくて、結局オレは礼二さんの服を脱がせることを諦めた。今度は自分のシャツのボタンを外していく。身体が火照って、なんだかとても熱いんだ。

「どうなってもいいから……」

 シャツのボタンを外し終えると、オレは自分のベルトに手を掛けた。だけど、酔いのせいか気が急いているからか上手く外せない。そんなオレを見かねたのか、礼二さんがオレが身に着けていたものを全部剥ぎ取るみたいにして脱がせてくれた。スラックスはパンツと一緒にベッドの下に投げ捨てられた。脱がされるときに、ぬちゃっと音がした。

「礼二さんも脱いで」

 自分だけ全裸になってしまったのが寂しくて、オレは礼二さんにそうねだった。その言葉を聞いた礼二さんが服を脱ぎ捨てる。脱いだものは貰おうと思っていたのに、オレの手が届かないところに投げ捨てられてしまった。
 ああ、勿体ない!! 絶対いい匂いがするハズだったのに……!!
 恨みがましい気持ちで礼二さんを見上げたら、礼二さんが獲物を捕らえた捕食者の目でオレを見ていた。そんな表情を見ると、普段は全然アルファっぽくないのに、やっぱり礼二さんはアルファだったんだなと思う。そして、オレのオメガの本能が疼いた。

「ねぇ早く、オレに種付けして?」

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