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本編
3話 上條さん
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昼休憩が半分過ぎた頃、オレはコンビニで買って来た弁当を自分のデスクに置いた。そうそう、昼休みの間にやっておかなければならないことがある。オレはスマホをポケットから取り出した。
「あ! それ、例のアプリ?」
「上條さん……」
オレのスマホを横から覗き込んで来た人影に、オレは顔を上げた。
上條礼二さん。オレが新人の頃からお世話になっている営業部の先輩で、アルファだ。上條さんは目鼻立ちがくっきりとしていて、とてもカッコイイ。見た目だけは完璧なアルファだ。そう、見た目だけは……
「上條さん、午前中に出してくれた書類、また不備がありましたよ。修正箇所に付箋貼って机に置いてあるんで、午後イチで直しておいてくださいね」
「あれー、今回は自信あったんだけどなぁ……ありがとう。後で見とくね」
困ったように笑う顔も様になっているので、笑顔を向けられたオレはモジモジしながら、「ああ」とか「ええ」とか口の中で答えて、視線をスマホに落とした。
上條さんはアルファなのに、びっくりするくらい仕事ができない。
ミスも多いし、書類の提出期限もよく忘れる。ただ、些細なミスが多い割には、大きな失敗をしたことはオレが知っている限りはない。そのあたりは、アルファの持っているポテンシャルなんだろうか。
上條さんはオレとは真逆で、見た目はアルファっぽいのに中身が全然アルファっぽくない。そのせいか、「見た目詐欺アルファ」って社内で呼ばれているらしい。それでも社内でも花形の第一営業部に在籍しているのは、重役の親戚でコネ入社のためだと聞いたこともある。あくまで噂だけど。
ちなみにオレの仕事は営業事務だ。入社して最初にオレの面倒を見てくれたのは上條さんのはずなのに、今ではオレのほうが上條さんの仕事のチェックとフォローをしてあげるような関係になっている。おかげでいつの間にかオレは上條さんの専属サポーターみたいになってしまっているし、オレと上條さんは社内で常にニコイチ扱いだ。
「ところで、奥村くん。そのアプリ、もう使った?」
上條さんがオレの持っているスマホを指して尋ねた。うーん、顔が近い。オレは何も感じていない風を装いながら、至近距離にある端麗な顔が視界に入らないようにスマホへと視線を落とした。
上條さんは帰国子女だからか、パーソナルスペースがかなり狭い。だから、話をするときは他の人より随分距離が近いし、スキンシップですぐに身体に触れてきたりする。オレはそのたびに心がドキドキしてしまって、平静を装うのに必死だ。
「まだ使ってないですけど……」
最初は上條さんはアルファだっていうことでオレは警戒していた。今まで出会ったことのあるアルファはなんか別次元の存在みたいで、どうしても気後れしてしまって。だけど、上條さんの人懐っこい性格も相まって、ずっと一緒でも居心地が悪くない。というか、上條さんはアルファなのに憎めないというか……なんか、可愛いのだ。
甘いもの好きでコンビニスイーツに詳しかったり(営業の合間に新作を買ってきてはよくプレゼントしてくれる。オレも甘いものが好きだから嬉しい)、スマホの待受はウサギの写真で(実家で飼ってるウサギで名前はチェリーというらしい。とても可愛い)、一人暮らししているマンションの寝室は実はウサギのぬいぐるみだらけだったりするらしい(オレもウサギ好きだから羨ましい。いつか見せてもらいたいと密かに思っている)。見た目は格好いいのに、中身は可愛いとか、本当ズルイ。ギャップ萌えというやつだろうか。そして、オレは上條さんのことを知っていくうちに、いつの間にか上條さんのことが好きになってしまっていたのだ。
「社長命令で全員登録とか本当、ふざけてますよね。だから、こんなアプリは今すぐ退会してしまおうかと思ってて……」
甘いオリエンタル系の香りがふわりと鼻をかすめる。今日もいい匂いだ。
オレは、上條さんのつけてる香水の匂いも好きだ。その匂いをいつまでも嗅いでいたいという衝動を押さえながら、オレはわざと大きく溜息をつきながら言った。
「あ! それ、例のアプリ?」
「上條さん……」
オレのスマホを横から覗き込んで来た人影に、オレは顔を上げた。
上條礼二さん。オレが新人の頃からお世話になっている営業部の先輩で、アルファだ。上條さんは目鼻立ちがくっきりとしていて、とてもカッコイイ。見た目だけは完璧なアルファだ。そう、見た目だけは……
「上條さん、午前中に出してくれた書類、また不備がありましたよ。修正箇所に付箋貼って机に置いてあるんで、午後イチで直しておいてくださいね」
「あれー、今回は自信あったんだけどなぁ……ありがとう。後で見とくね」
困ったように笑う顔も様になっているので、笑顔を向けられたオレはモジモジしながら、「ああ」とか「ええ」とか口の中で答えて、視線をスマホに落とした。
上條さんはアルファなのに、びっくりするくらい仕事ができない。
ミスも多いし、書類の提出期限もよく忘れる。ただ、些細なミスが多い割には、大きな失敗をしたことはオレが知っている限りはない。そのあたりは、アルファの持っているポテンシャルなんだろうか。
上條さんはオレとは真逆で、見た目はアルファっぽいのに中身が全然アルファっぽくない。そのせいか、「見た目詐欺アルファ」って社内で呼ばれているらしい。それでも社内でも花形の第一営業部に在籍しているのは、重役の親戚でコネ入社のためだと聞いたこともある。あくまで噂だけど。
ちなみにオレの仕事は営業事務だ。入社して最初にオレの面倒を見てくれたのは上條さんのはずなのに、今ではオレのほうが上條さんの仕事のチェックとフォローをしてあげるような関係になっている。おかげでいつの間にかオレは上條さんの専属サポーターみたいになってしまっているし、オレと上條さんは社内で常にニコイチ扱いだ。
「ところで、奥村くん。そのアプリ、もう使った?」
上條さんがオレの持っているスマホを指して尋ねた。うーん、顔が近い。オレは何も感じていない風を装いながら、至近距離にある端麗な顔が視界に入らないようにスマホへと視線を落とした。
上條さんは帰国子女だからか、パーソナルスペースがかなり狭い。だから、話をするときは他の人より随分距離が近いし、スキンシップですぐに身体に触れてきたりする。オレはそのたびに心がドキドキしてしまって、平静を装うのに必死だ。
「まだ使ってないですけど……」
最初は上條さんはアルファだっていうことでオレは警戒していた。今まで出会ったことのあるアルファはなんか別次元の存在みたいで、どうしても気後れしてしまって。だけど、上條さんの人懐っこい性格も相まって、ずっと一緒でも居心地が悪くない。というか、上條さんはアルファなのに憎めないというか……なんか、可愛いのだ。
甘いもの好きでコンビニスイーツに詳しかったり(営業の合間に新作を買ってきてはよくプレゼントしてくれる。オレも甘いものが好きだから嬉しい)、スマホの待受はウサギの写真で(実家で飼ってるウサギで名前はチェリーというらしい。とても可愛い)、一人暮らししているマンションの寝室は実はウサギのぬいぐるみだらけだったりするらしい(オレもウサギ好きだから羨ましい。いつか見せてもらいたいと密かに思っている)。見た目は格好いいのに、中身は可愛いとか、本当ズルイ。ギャップ萌えというやつだろうか。そして、オレは上條さんのことを知っていくうちに、いつの間にか上條さんのことが好きになってしまっていたのだ。
「社長命令で全員登録とか本当、ふざけてますよね。だから、こんなアプリは今すぐ退会してしまおうかと思ってて……」
甘いオリエンタル系の香りがふわりと鼻をかすめる。今日もいい匂いだ。
オレは、上條さんのつけてる香水の匂いも好きだ。その匂いをいつまでも嗅いでいたいという衝動を押さえながら、オレはわざと大きく溜息をつきながら言った。
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