見た目詐欺アルファの優しい檻~会社の先輩とアプリでマッチングしたらいつの間にかがっつり外堀埋められて囲われていました

夏芽玉

文字の大きさ
上 下
3 / 38
本編

3話 上條さん

しおりを挟む
 昼休憩が半分過ぎた頃、オレはコンビニで買って来た弁当を自分のデスクに置いた。そうそう、昼休みの間にやっておかなければならないことがある。オレはスマホをポケットから取り出した。

「あ! それ、例のアプリ?」
「上條さん……」

 オレのスマホを横から覗き込んで来た人影に、オレは顔を上げた。

 上條かみじょう礼二れいじさん。オレが新人の頃からお世話になっている営業部の先輩で、アルファだ。上條さんは目鼻立ちがくっきりとしていて、とてもカッコイイ。見た目だけは完璧なアルファだ。そう、見た目だけは……

「上條さん、午前中に出してくれた書類、また不備がありましたよ。修正箇所に付箋貼って机に置いてあるんで、午後イチで直しておいてくださいね」
「あれー、今回は自信あったんだけどなぁ……ありがとう。後で見とくね」

 困ったように笑う顔も様になっているので、笑顔を向けられたオレはモジモジしながら、「ああ」とか「ええ」とか口の中で答えて、視線をスマホに落とした。
 上條さんはアルファなのに、びっくりするくらい仕事ができない。
 ミスも多いし、書類の提出期限もよく忘れる。ただ、些細なミスが多い割には、大きな失敗をしたことはオレが知っている限りはない。そのあたりは、アルファの持っているポテンシャルなんだろうか。

 上條さんはオレとは真逆で、見た目はアルファっぽいのに中身が全然アルファっぽくない。そのせいか、「見た目詐欺アルファ」って社内で呼ばれているらしい。それでも社内でも花形の第一営業部に在籍しているのは、重役の親戚でコネ入社のためだと聞いたこともある。あくまで噂だけど。
 ちなみにオレの仕事は営業事務だ。入社して最初にオレの面倒を見てくれたのは上條さんのはずなのに、今ではオレのほうが上條さんの仕事のチェックとフォローをしてあげるような関係になっている。おかげでいつの間にかオレは上條さんの専属サポーターみたいになってしまっているし、オレと上條さんは社内で常にニコイチ扱いだ。

「ところで、奥村くん。そのアプリ、もう使った?」

 上條さんがオレの持っているスマホを指して尋ねた。うーん、顔が近い。オレは何も感じていない風を装いながら、至近距離にある端麗な顔が視界に入らないようにスマホへと視線を落とした。
 上條さんは帰国子女だからか、パーソナルスペースがかなり狭い。だから、話をするときは他の人より随分距離が近いし、スキンシップですぐに身体に触れてきたりする。オレはそのたびに心がドキドキしてしまって、平静を装うのに必死だ。

「まだ使ってないですけど……」

 最初は上條さんはアルファだっていうことでオレは警戒していた。今まで出会ったことのあるアルファはなんか別次元の存在みたいで、どうしても気後れしてしまって。だけど、上條さんの人懐っこい性格も相まって、ずっと一緒でも居心地が悪くない。というか、上條さんはアルファなのに憎めないというか……なんか、可愛いのだ。
 甘いもの好きでコンビニスイーツに詳しかったり(営業の合間に新作を買ってきてはよくプレゼントしてくれる。オレも甘いものが好きだから嬉しい)、スマホの待受はウサギの写真で(実家で飼ってるウサギで名前はチェリーというらしい。とても可愛い)、一人暮らししているマンションの寝室は実はウサギのぬいぐるみだらけだったりするらしい(オレもウサギ好きだから羨ましい。いつか見せてもらいたいと密かに思っている)。見た目は格好いいのに、中身は可愛いとか、本当ズルイ。ギャップ萌えというやつだろうか。そして、オレは上條さんのことを知っていくうちに、いつの間にか上條さんのことが好きになってしまっていたのだ。

「社長命令で全員登録とか本当、ふざけてますよね。だから、こんなアプリは今すぐ退会してしまおうかと思ってて……」

 甘いオリエンタル系の香りがふわりと鼻をかすめる。今日もいい匂いだ。
 オレは、上條さんのつけてる香水の匂いも好きだ。その匂いをいつまでも嗅いでいたいという衝動を押さえながら、オレはわざと大きく溜息をつきながら言った。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

よく効くお薬〜偏頭痛持ちの俺がエリートリーマンに助けられた話〜

高菜あやめ
BL
【マイペース美形商社マン×頭痛持ち平凡清掃員】千野はフリーのプログラマーだが収入が少ないため、夜は商社ビルで清掃員のバイトをしてる。ある日体調不良で階段から落ちた時、偶然居合わせた商社の社員・津和に助けられ……偏頭痛持ちの主人公が、エリート商社マンに世話を焼かれつつ癒される甘めの話です◾️スピンオフ1【社交的爽やかイケメン営業マン×胃弱で攻めに塩対応なSE】千野のチームの先輩SE太田が主人公です◾️スピンオフ2【元モデルの実業家×低血圧の営業マン】千野と太田のプロジェクトチーム担当営業・片瀬とその幼馴染・白石の恋模様です

オメガの騎士は愛される

マメ
BL
隣国、レガラド国との長年に渡る戦に決着が着き、リノのいるリオス国は敗れてしまった。 騎士団に所属しているリノは、何度も剣を交えたことのあるレガラドの騎士団長・ユアンの希望で「彼の花嫁」となる事を要求される。 国のためになるならばと鎧を脱ぎ、ユアンに嫁いだリノだが、夫になったはずのユアンは婚礼の日を境に、数ヶ月経ってもリノの元に姿を現すことはなかった……。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

処理中です...