見た目詐欺アルファの優しい檻～会社の先輩とアプリでマッチングしたらいつの間にかがっつり外堀埋められて囲われていました

本編

１話 マッチングアプリ

　
　発情期ヒート休暇明けに出勤したら、会社のマッチングアプリに勝手に登録されていた。
　正直、自分のことながら、どーゆーことなのか、ちょっと意味が分からない。

　オレが登録されたのはうちの会社が配信するアプリだった。随分前に「インストールをしておくように」と言われていたのでオレも指示どおりインストールだけはしていた。あまりにも昔のこと過ぎて、そんなアプリがあったこともインストールしたことすらも覚えていなかったけれど。
　それが、いつの間にか開発が進み、試用ベータ版が配信されたので「社員は全員登録するように」という社長命令があったらしい。一応、配偶者やパートナーがいる人は免除されたようなのだけど。

　オレは発情期ヒート休暇で休んでいたので、社長命令で総務がオレの履歴書を見ながら勝手に登録しておいたということだ。そのことを、昼休み直前に総務の女子に伝えられた。そんな無茶苦茶な。

「事後承諾になっちゃってごめんね」

　総務の女子に可愛く舌を出して言われても、オレはただ唖然とすることしかできなかった。弊社の個人情報の取り扱いコンプライアンス、マジでどーなってんのっ！？

「一応聞いておくけど、付き合ってる人とか居なかったよね？」
「それは……居ないけど」

　居なくて悪かったですね。
　個人情報どころか、プライベート情報まで握られていたようで、オレはジト目で相手を見た。総務の子のせいじゃなくて、社長命令のせいだって、わかってはいるのだけど。この会社の情報管理、おかしすぎるでしょ。

「お付き合いする相手ができたら、退会していいんだって。だから、さっさとお相手を見つけて退会して！　がんばってね、奥村くん」

　ちょうど話の最後で昼休憩のタイミングになったので、総務の子はそうオレに言い残して去っていった。
　好きな人はいるけれど、告白する勇気なんてない。つまり、今後誰かとお付き合いする予定がないオレは、その後ろ姿を溜息と共に見送ったのだった。