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68.温泉
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「はぁぁー……疲れた!」
とても長い一日だった。立て続けに色んなことが起こったせいで、もうクタクタだ。
ようやくグエンの部屋に帰って来ることができて、オレは一番にベッドに倒れ込んだ。
そういえば……今朝までここでグエンとセックスしていたんだよな……
ベッドのシーツが新しいものに交換されているということは、情事の痕跡を見られてしまったんだということに気付く。恥ずかしい。
「……巻き込んですまなかった」
グエンがベッドの前まで来たから身体を起こした。
ポンポンと隣を叩いて座るように促す。
「ううん。今回は少しは力になれたかな?」
婚約披露パーティーのときは一人で空回りしてしまったけれど、今回はちょっとでも役に立てたと思いたい。
「ああ。戦争を回避しただけでなく、思いがけない恩恵も得られそうだ。少しどころではない功績だよ。ありがとう」
「サージュン山だっけ……どんなところなの?」
グエンはその場所にこだわっていたみたいだけど、他の人たちは「なんでそんな場所を?」という反応をしていた。
「どうやら、そちらの世界でいう『温泉』というものがあるらしい。ジョゼフが気に入っていたようなので、もしかしたらショータも興味があるのではないかと思って……」
「温泉!!」
その言葉を聞いてテンションが上がる。
うわぁ……異世界の温泉ってどんなのなんだろう!!
「今はもう廃れているので少し手を入れないといけないが……開発権が手に入ったらショータの好きなように作らせよう」
「うん、出来上がったら一緒に行こう!!」
「そうだな」
グエンとの温泉旅行……!! すごく楽しみだ!!
ちなみに、この後サージュン山の開発が始まると、温泉だけではなく、希少価値のある宝石の鉱脈が見つかる。それは後々ラグマット王国に大きな富をもたらすことになるんだけど……そのおかげで温泉旅行が実現できるのが随分先になることを、この時のオレたちはまだ知らなかった。
「ところでさ。ジェレール王子は大丈夫かな……?」
「気になるのか?」
診察した医師によると、ジェレール王子は視力を失うことになるかもしれないらしい。今後は塔の中で治療が続けられるということだけど……
「だって。特別な人だって言ってたから……」
以前、グエンはジェレール王子のことを『恋愛感情はないけれど、特別な存在だ』って、言っていた。それに、ジェレール王子から与えられるものは全部に毒が入っているってわかっていても、一人で全部食べちゃってたし……
「ルグミアンの者はたった一人の番を溺愛する、ということは伝えたと思うが。私にとって、愛情とは執着することだと思っていた。幼いころからあんなにも強い感情を私に向け続けるのは、兄上だけだったから……」
確かに、愛情の反対は無関心だと言うけれど。ジェレール王子がグエンに向ける感情は、愛情じゃなくて殺意だった。それを愛情と勘違いして……?
「それは間違いだったと、ショータに出会ってからわかったよ。しかし、ニコルを殺したのが誰か知りたくて先程はあんな茶番に付き合わせてしまった。本当にすまなかった」
「ニコルって、ドニのお兄さんだよね?」
「そうだ」
「……何があったの?」
「それは……」
オレの問いかけに、グエンはポツポツと話してくれた。
ニコルはグエンと同じ年で、乳母の子供だったらしい。二人は一緒に育てられ、とても仲が良かった。
ある日、お城の皆をびっくりさせようとして、二人は寝室を交換した。グエンたちにとっては、ほんの些細なイタズラのつもりだったんだ。
しかし、翌日、グエンのベッドは血まみれになっていた。第二王子のベッドで眠るニコルをグエンと間違えた暗殺者がナイフで刺殺してしまったらしい。
「……あんなイタズラをしようなどと言い出さなければよかった。あの日、寝室なんて交換せずに、ちゃんと自分のベッドで寝ていればと、何度悔やんだことか……」
オレはグエンの手をぎゅっと握った。
「それ以来、たびたび私の食事に毒が仕込まれるようになった。私の世話をする者も立て続けに体調を崩したり、怪我をしたりといったことが続いたから、多くの使用人たちは辞めていったよ」
「……ジェレール王子から貰ったものを、いつもグエンが一人で食べてたのは、もしかして……」
「兄上がくれたものには必ず毒が入っていたからね」
その言葉を聞いてオレは顔を顰めた。
グエンには治癒能力があるから死ぬことはないと知っていても、やっぱりグエンが苦しむのは嫌だ。
「今ならわかる。兄上の私への執着は愛情なんかじゃなく、全く別のものだった」
殺意を愛情と間違えるなんて、酷い恋愛音痴だ。オレだって恋愛上手とは言えないけどさ。グエンにはいっぱい愛を伝えたい。そう言おうとしたんだけど……
「私はショータと出会って本当の愛を知った。私が心から愛しているのはショータだけだ。お願いだ。ずっと一緒に居てくれ。元の世界の恋人のことなんて、私が忘れさせるから……」
「……へ?」
唐突なグエンの言葉に、オレは間抜けな顔をしてしまったのだった。
とても長い一日だった。立て続けに色んなことが起こったせいで、もうクタクタだ。
ようやくグエンの部屋に帰って来ることができて、オレは一番にベッドに倒れ込んだ。
そういえば……今朝までここでグエンとセックスしていたんだよな……
ベッドのシーツが新しいものに交換されているということは、情事の痕跡を見られてしまったんだということに気付く。恥ずかしい。
「……巻き込んですまなかった」
グエンがベッドの前まで来たから身体を起こした。
ポンポンと隣を叩いて座るように促す。
「ううん。今回は少しは力になれたかな?」
婚約披露パーティーのときは一人で空回りしてしまったけれど、今回はちょっとでも役に立てたと思いたい。
「ああ。戦争を回避しただけでなく、思いがけない恩恵も得られそうだ。少しどころではない功績だよ。ありがとう」
「サージュン山だっけ……どんなところなの?」
グエンはその場所にこだわっていたみたいだけど、他の人たちは「なんでそんな場所を?」という反応をしていた。
「どうやら、そちらの世界でいう『温泉』というものがあるらしい。ジョゼフが気に入っていたようなので、もしかしたらショータも興味があるのではないかと思って……」
「温泉!!」
その言葉を聞いてテンションが上がる。
うわぁ……異世界の温泉ってどんなのなんだろう!!
「今はもう廃れているので少し手を入れないといけないが……開発権が手に入ったらショータの好きなように作らせよう」
「うん、出来上がったら一緒に行こう!!」
「そうだな」
グエンとの温泉旅行……!! すごく楽しみだ!!
ちなみに、この後サージュン山の開発が始まると、温泉だけではなく、希少価値のある宝石の鉱脈が見つかる。それは後々ラグマット王国に大きな富をもたらすことになるんだけど……そのおかげで温泉旅行が実現できるのが随分先になることを、この時のオレたちはまだ知らなかった。
「ところでさ。ジェレール王子は大丈夫かな……?」
「気になるのか?」
診察した医師によると、ジェレール王子は視力を失うことになるかもしれないらしい。今後は塔の中で治療が続けられるということだけど……
「だって。特別な人だって言ってたから……」
以前、グエンはジェレール王子のことを『恋愛感情はないけれど、特別な存在だ』って、言っていた。それに、ジェレール王子から与えられるものは全部に毒が入っているってわかっていても、一人で全部食べちゃってたし……
「ルグミアンの者はたった一人の番を溺愛する、ということは伝えたと思うが。私にとって、愛情とは執着することだと思っていた。幼いころからあんなにも強い感情を私に向け続けるのは、兄上だけだったから……」
確かに、愛情の反対は無関心だと言うけれど。ジェレール王子がグエンに向ける感情は、愛情じゃなくて殺意だった。それを愛情と勘違いして……?
「それは間違いだったと、ショータに出会ってからわかったよ。しかし、ニコルを殺したのが誰か知りたくて先程はあんな茶番に付き合わせてしまった。本当にすまなかった」
「ニコルって、ドニのお兄さんだよね?」
「そうだ」
「……何があったの?」
「それは……」
オレの問いかけに、グエンはポツポツと話してくれた。
ニコルはグエンと同じ年で、乳母の子供だったらしい。二人は一緒に育てられ、とても仲が良かった。
ある日、お城の皆をびっくりさせようとして、二人は寝室を交換した。グエンたちにとっては、ほんの些細なイタズラのつもりだったんだ。
しかし、翌日、グエンのベッドは血まみれになっていた。第二王子のベッドで眠るニコルをグエンと間違えた暗殺者がナイフで刺殺してしまったらしい。
「……あんなイタズラをしようなどと言い出さなければよかった。あの日、寝室なんて交換せずに、ちゃんと自分のベッドで寝ていればと、何度悔やんだことか……」
オレはグエンの手をぎゅっと握った。
「それ以来、たびたび私の食事に毒が仕込まれるようになった。私の世話をする者も立て続けに体調を崩したり、怪我をしたりといったことが続いたから、多くの使用人たちは辞めていったよ」
「……ジェレール王子から貰ったものを、いつもグエンが一人で食べてたのは、もしかして……」
「兄上がくれたものには必ず毒が入っていたからね」
その言葉を聞いてオレは顔を顰めた。
グエンには治癒能力があるから死ぬことはないと知っていても、やっぱりグエンが苦しむのは嫌だ。
「今ならわかる。兄上の私への執着は愛情なんかじゃなく、全く別のものだった」
殺意を愛情と間違えるなんて、酷い恋愛音痴だ。オレだって恋愛上手とは言えないけどさ。グエンにはいっぱい愛を伝えたい。そう言おうとしたんだけど……
「私はショータと出会って本当の愛を知った。私が心から愛しているのはショータだけだ。お願いだ。ずっと一緒に居てくれ。元の世界の恋人のことなんて、私が忘れさせるから……」
「……へ?」
唐突なグエンの言葉に、オレは間抜けな顔をしてしまったのだった。
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