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62.レナガント

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「なっ……!! 私がそんなことをするとおっしゃるのです!?」
「ふざけたことを言うのはよせ。一体何を根拠に……」

 ジェレール王子とミア姫が揃って抗議したが、グエンは涼しい顔をしたまま続けた。

「普通、ハーブティーには葉を使いますが、これは花を使っていますよね」
「い、色をきれいに出すためにそうしているのですわ……」

 ミア姫が瞬きを繰り返しながら言う。

「レナガントの葉は薬に使われる植物です。が、大量に摂取すると心身に影響を及ぼすことがあります」
「これは花なんだろう? それなら関係ないじゃないか」
「花の方にはその成分が、葉の何倍も含まれているんですよ。それこそ、葉を大量摂取したのと同じ程度のね」
「ま……まさか。そんなはず、ありませんわ……」

 ミア姫の顔色が悪く見えるのは気のせいだろうか。

「グエナエル、妄言はよせ」
「兄上もご存知でしょう、私が病弱だったと」

 その言葉にジェレール王子が顔を顰めた。

「レナガントのハーブティーは、幼いころ良く出されていました。『身体を強くする薬だ』と言って。……まぁ、だいたい飲んだ後の方が体調は悪くなりましたが」
「しかし、グエナエルはこの通り元気だ。なら、毒などないのでは?」
「私は耐性がつきましたので」

 治癒能力のおかげで最悪の事態を回避できたのだろう。しかし、耐性が付いたと言っても疑われないくらい何度も子供のころからそんなものを飲まされていたのかと思うと、胸がぎゅっと苦しくなった。

「う、嘘ですわ……そんなはずありませんわ……」
「私が飲まされていたものと同じなら、シトラの果汁を垂らせば色が変わるかと」

 シトラというのは、こっちの世界でレモンみたいに酸っぱい果物だ。

「も……もし疑われるのでしたら、試されてみればいかがですの? 私は毒などは……」
「このハーブティーはいつも貴女が飲まれているものですか?」
「そ、それは……」

 気丈な態度を取っているが、ミア姫の顔面は蒼白だ。

「ドニ。シトラの果実はあるか?」
「……今、ご用意いたします」


 グエンの言葉に、ドニが言われたものを取りに行き、しばらくして戻って来た。

 テーブルの上にカットされたレモン色の果実が置かれる。それをグエンが手に取り、自分のカップに絞り入れると、ピンク色の液体はブルーへと変化した。
 その様子に、ミア姫が息を飲む。

「他のも、試してみましょうか」

 そう言ってグエンが全てのカップに果実を絞り入れると、全員のハーブティーの色が変わった。

「う……嘘だわ!! これが毒だなんて……何かの間違いよっ!! だって、これは……」
「これは、何だと思っていたのですか?」
「……こ、これは……惚れ薬のはずよっ!!」

 グエンの冷たい声音に観念したのか、ミア姫が自棄になって叫んだ。

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