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41.文献

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「そういえば……ビジュはこれが読めるのだろうか?」

 今日はグエンはいつもとは違う本を手にしていた。声を掛けられて、オレは差し出された本を見る。
 その表紙には、“Journal intime”と書かれていた。

「キャンキャンッ!!」
(それ、読めるかも……!!)

 オレは表紙に綴られた文字を見て、思わず声を上げた。久しぶりに見る元の世界の文字に、テンションが上がる。ていうか、こんな本があったなんて。あるならもっと早く出してくれたらよかったのに! グエンには読めない本だらか、存在を忘れていたのだろうか?

 オレは、尻尾が千切れそうなくらい左右にブンブンと振ると、椅子から閲覧用の机の上に飛び乗った。早く、その本のページをめくって欲しい! オレは視線と動作でグエンを急かす。机の上に本を置いて椅子に座ったグエンの袖を口で引っ張って、オレは本の表紙を捲るように促した。

 ─────────
 Mon boulot est merdique, mon patron est merdique. Mon petit ami avait une liaison avec un type que je ne connaissais pas, et quand j'ai cru ne plus pouvoir le supporter, je me suis transformée en poméranien. Et puis je suis venue dans ce monde.
 Je ne sais pas pourquoi, mais je suis absolument happée! C'est le prince de ce pays. Je le préfère nettement à ce petit ami. J'ai pris ma décision! Je vais vivre dans ce monde pour le reste de ma vie!
 ─────────

 グエンが表紙を捲って、最初のページを見せてくれる。
 オレはその文字の羅列を見て、そして、二度見して、三度見して、自分の目を疑った。

 ……よ、読めない……
 えーっと……もしかして、これ、英語じゃない!?

 オレはがっくりと肩を落とした。
 書かれているのがアルファベットに見えたので地球上で使われている言葉だと思ったのだけど、残念ながらそれはオレの知らない言語だった。

「見たことのある言語ではあるものの、読むことはできないのか?」
「キューン……」
(そうだよ)

 オレは机の上で身体を丸めて、ポスポスと尻尾で机の上を叩く。

「それは、この姿をしているから……というわけではなさそうだな。それなら……ビジュが普段使っているのとは別の言語、つまり異国の言葉ということか」
「クゥンキューン……」
(全くその通りだよ)

 せめて英語だったら読めたのに……と思ったけど、よく考えたらオレは学生時代、英語は苦手だった。つまり、この文章が英語で書かれていたとしてもオレには読めたかどうかはわからないというわけだ。
 ま、まぁ、それでも英語ならきっと読める部分もあった……と思うんだ、ええと、これよりは沢山。きっと……多分……読めたらいいな……

 期待した分、それ以上に落ち込んだ。完全なぬか喜びだ。でも、書いてあることは全然分からなかったけれど、過去に元の世界からこの世界にポメガバって異世界転移してきた人が居ることは間違いないということだけはわかった。だから、グエンが普段読んでいる文献が誰かの創作話かもしれないという説は消えたわけだ。

 オレはしょんぼりとしながら、机の上で丸くなった。

「それでは、これは何か知っているか? もしかしてビジュの物か?」

 グエンは立ち上がって一度どこかに行き、そしてすぐに戻って来た。声を掛けられたオレは、先程のショックを引きずったままのろのろと顔を上げる。
 だけど、グエンが手にしていた黒い長方形の板を見て目を見開いた。

 それは――――オレのスマホだった。
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