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40.偶然
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再びポメラニアンの姿に戻ってしまってから一週間が過ぎた。まだオレが人の姿に戻る気配はない。
結局、あの日以降もオレは今までと変わらない生活を送ることになってしまった。いや、変わらない生活……ではないかもしれない。というのも、王子のオレへの溺愛ぶりが加速したのだ。オレにはグエンからの愛情を受け取る資格なんてないのに……
オレはジェレール王子のこともミア姫のことも伝えられなかっただけじゃなく、グエンに自分の気持ちもちゃんと伝えられていない。だけど二人の企みを阻止するには、グエンの側を離れるわけにはいかなかった。
ジェレール王子は婚約披露パーティーのときまで何もしてこないつもりなのか、ヘンな匂いがする食べ物が出てくることはなくなったし、オレに対してもとくに手を出してくる様子はない。あの時あの場所で話を聞いていたのがオレだと気付いていないのだろうか。それとも、気づいていても、所詮ポメラニアンの姿では何もできないと高を括られているのか……
そのかわり、城内でミア姫に頻繁に出会うようになった。グエンはミア姫に興味がない様子で、声を掛けられても上手くあしらっているけれど。
ミア姫はヴァランシ国の第5王女だそうだ。ヴァランシ国はここラグマット王国の隣の国で、国の大きさはどちらも同じくらい。今まで国境で小競り合いが多発していたんだけど、今年に入って同盟を結ぶことになり、友好の証としてこの国に嫁いでくることになったらしい。
あの日、ティーサロンで話している場面に出くわさなかったら、オレはミア姫のことを完璧なお姫様だと思っただろう。
だけどあんな話を聞いてしまったら、グエンに近づけるわけにはいかない。
「あら、グエナエル様。おはようございますっ!」
ああ、また来た!!
グエンの前に飛び出すようにして現れたミア姫をオレはグエンの腕の中から睨みつけた。
そう。オレは今、グエンの腕の中に居る。今までは城内を移動するときは自分の足で歩いていたのに、最近はグエンがオレを抱いて歩くようになってしまったからだ。そんなことをしなくても逃げたりなんかしないのに。
それだけじゃない。執務中もオレの定位置はグエンの膝の上だ。あの日以来、グエンからのスキンシップは格段に多くなった気がする。
「こんなところで出会えるだなんて……私たち、気が合いますね」
そんなことはない。単に、事業の経過報告に来ていた商人が帰ったタイミングを見計らって、グエンの執務室の近くにミア姫がやって来ただけだ。
最近、来客が途絶えるとグエンは必ず行くところがある。だから、いつ誰がやってくるかさえ知っていれば、廊下でグエンに出会うことはそう難しくない。
「ミア姫、おはようございます」
「ねぇ、実家から美味しいお茶菓子が届いたんですの。もし休憩なさるのでしたら、お召し上がりになりませんか?」
「立て込んでいますので、失礼します」
身体に触れようと手を伸ばしたミア姫をスッと避けて、グエンは軽く会釈をして彼女の隣を通り過ぎた。
グエンがミア姫から視線を逸らした瞬間、彼女にはものすごい形相で睨みつけられたが、オレも牙をむいて威嚇し返してやった。
最近グエンは仕事の合間に、頻繁に禁書庫に足を運ぶようになった。オレが再度ポメ化したことについて、あの文献で何かを調べようとしているようだ。
オレのことを調べようとしてくれるのはありがたいんだけど、あまりにも熱心にグエンが文献を読むものだから、ちょっとだけ寂しくなってしまった。
もしかして、グエンが恋したのはオレじゃなくて、この文献に書かれている人物ではないだろうか? きっとそうだ。グエンはその人物にオレのことを重ねて見ているだけだ。
そう考えたら全ての辻褄が合う気がした。
そうか。グエンがオレのことを好きって言うのは、きっと思い込みか勘違いなんだ……
ズキンと痛む心に蓋をして、オレはそう納得した。
あの文献には、一体何が書いてあるのだろうか。そして、以前この世界に来た人物は、結局は元の世界に戻れたのだろうか? それとも戻れなかったのだろうか?
気になる……気になるけれど……
この国の言葉は読めないんだよなぁ……
オレは、はぁっとため息をついた。
次に人間の姿に戻ったら、グエンにこの国の言葉を教えてもらおう。そしていつか……いや、できるだけ早く、あの文献を自力で全部読めるようになりたいと思った。
結局、あの日以降もオレは今までと変わらない生活を送ることになってしまった。いや、変わらない生活……ではないかもしれない。というのも、王子のオレへの溺愛ぶりが加速したのだ。オレにはグエンからの愛情を受け取る資格なんてないのに……
オレはジェレール王子のこともミア姫のことも伝えられなかっただけじゃなく、グエンに自分の気持ちもちゃんと伝えられていない。だけど二人の企みを阻止するには、グエンの側を離れるわけにはいかなかった。
ジェレール王子は婚約披露パーティーのときまで何もしてこないつもりなのか、ヘンな匂いがする食べ物が出てくることはなくなったし、オレに対してもとくに手を出してくる様子はない。あの時あの場所で話を聞いていたのがオレだと気付いていないのだろうか。それとも、気づいていても、所詮ポメラニアンの姿では何もできないと高を括られているのか……
そのかわり、城内でミア姫に頻繁に出会うようになった。グエンはミア姫に興味がない様子で、声を掛けられても上手くあしらっているけれど。
ミア姫はヴァランシ国の第5王女だそうだ。ヴァランシ国はここラグマット王国の隣の国で、国の大きさはどちらも同じくらい。今まで国境で小競り合いが多発していたんだけど、今年に入って同盟を結ぶことになり、友好の証としてこの国に嫁いでくることになったらしい。
あの日、ティーサロンで話している場面に出くわさなかったら、オレはミア姫のことを完璧なお姫様だと思っただろう。
だけどあんな話を聞いてしまったら、グエンに近づけるわけにはいかない。
「あら、グエナエル様。おはようございますっ!」
ああ、また来た!!
グエンの前に飛び出すようにして現れたミア姫をオレはグエンの腕の中から睨みつけた。
そう。オレは今、グエンの腕の中に居る。今までは城内を移動するときは自分の足で歩いていたのに、最近はグエンがオレを抱いて歩くようになってしまったからだ。そんなことをしなくても逃げたりなんかしないのに。
それだけじゃない。執務中もオレの定位置はグエンの膝の上だ。あの日以来、グエンからのスキンシップは格段に多くなった気がする。
「こんなところで出会えるだなんて……私たち、気が合いますね」
そんなことはない。単に、事業の経過報告に来ていた商人が帰ったタイミングを見計らって、グエンの執務室の近くにミア姫がやって来ただけだ。
最近、来客が途絶えるとグエンは必ず行くところがある。だから、いつ誰がやってくるかさえ知っていれば、廊下でグエンに出会うことはそう難しくない。
「ミア姫、おはようございます」
「ねぇ、実家から美味しいお茶菓子が届いたんですの。もし休憩なさるのでしたら、お召し上がりになりませんか?」
「立て込んでいますので、失礼します」
身体に触れようと手を伸ばしたミア姫をスッと避けて、グエンは軽く会釈をして彼女の隣を通り過ぎた。
グエンがミア姫から視線を逸らした瞬間、彼女にはものすごい形相で睨みつけられたが、オレも牙をむいて威嚇し返してやった。
最近グエンは仕事の合間に、頻繁に禁書庫に足を運ぶようになった。オレが再度ポメ化したことについて、あの文献で何かを調べようとしているようだ。
オレのことを調べようとしてくれるのはありがたいんだけど、あまりにも熱心にグエンが文献を読むものだから、ちょっとだけ寂しくなってしまった。
もしかして、グエンが恋したのはオレじゃなくて、この文献に書かれている人物ではないだろうか? きっとそうだ。グエンはその人物にオレのことを重ねて見ているだけだ。
そう考えたら全ての辻褄が合う気がした。
そうか。グエンがオレのことを好きって言うのは、きっと思い込みか勘違いなんだ……
ズキンと痛む心に蓋をして、オレはそう納得した。
あの文献には、一体何が書いてあるのだろうか。そして、以前この世界に来た人物は、結局は元の世界に戻れたのだろうか? それとも戻れなかったのだろうか?
気になる……気になるけれど……
この国の言葉は読めないんだよなぁ……
オレは、はぁっとため息をついた。
次に人間の姿に戻ったら、グエンにこの国の言葉を教えてもらおう。そしていつか……いや、できるだけ早く、あの文献を自力で全部読めるようになりたいと思った。
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