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39.ミア姫

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 今聞いた話をグエンに伝えないと……!!

 グエンと距離を置こうと思ってこんなところまで来てしまったけれど、今はそんなことを言ってる場合じゃない! ジェレール王子の企みを阻止できなければ、グエンに二度と会えなくなってしまう。それは絶対に嫌だ!!

 全速力で薄暗い通路を駆け抜けて、通路を隠していた扉から飛び出す。そのまま来た道を戻ろうとしたんだけど、無我夢中で走っていたのでどこを通ったのかよく覚えてない。だからオレはとにかく明るい場所を目指して走った。


 そして、ようやく見覚えがある場所にたどり着いた。ティーサロンだ。
 ここを通り抜けて、奥の階段を上がればグエンの部屋に行けるはず……と思ったのだけど……

「ねぇ、メグ!! 先程の方がグエナエル様よね!!」

 中に先客が居ることに気づいて、オレは入口で足を止める。

「ジェレール王子も格好いいと思ったけれど、グエナエル様のほうがイイじゃない!! もっとお喋りしたかったのに、急ぎのご用事があるだなんて残念……!!」

 その女性は、大きな瞳にぷっくりとしたピンク色の唇をしていて人形のように可愛い。レースがふんだんに使われたピンクのドレスに、ウェーブがかったピンクゴールドの髪に大きなリボンの飾りをつけているのも相まって、まるで絵に描いたようなザ・お姫様といった出で立ちだ。
 彼女は高いテンションで、隣の侍女に向かって話しかけていた。

「ねぇ、なんとかしてグエナエル様の婚約者になる方法はないかしら?」
「グエナエル様にはすでに婚約者がいるとか……」
「私は姿を見ていないわ! 獣憑きの婚約者なんて、きっと恥ずかしくて私に紹介できなかったのよ。ああ、可哀想なグエナエル様!」
「しかし、ミア姫はすでにジェレール王子の婚約者でいらっしゃいますので……」

 そういえば、グエンと禁書庫に行った日に、ジェレール王子が「今日、ヴァランシ国からミア姫がやってくる」と言っていた。そうか、彼女がジェレール王子の……

「そうなのよ!! 私はジェレール様が第一王子だから婚約したのよ!! それなのに、まさかグエナエル様のほうが将来国王になるだなんて……話が違うじゃない!! 信じられないわ!!」

 侍女がミア姫を窘めるような言葉をかけるが、ミア姫のヒートアップは止まらない。

「そうだわ!! 既成事実を作ってしまえばいいのよ」

 キラキラした目でミア姫が言った。

 ……は? きせいじじつ……? それはつまり……

「それで運よく子供でもできれば、私はこの国の王妃だわ!」

 その言葉を聞いて、カッと頭に血が上った。
 グエンにはグエンの気持ちがあるんだ!! それなのに、見た目がイイだとか将来国王になるからだとか、そんな理由でグエンと結婚したいだなんて……!! オレは、グエンにはお互いが心から想い合える相手と幸せになって欲しいと思っているのに……!!

 しかしジェレール王子だけではなく、ミア姫もグエンのことを違う意味で狙っているとは……
 もしかして王城ってこんな人ばっかりなの!? グエンってこんな殺伐とした世界で生きてきたの!? もしそうだとしたら、グエンが人間嫌いと言われる理由がわかる気がする。だって、周りは敵だらけじゃないか!!
 グエンが心を許しているように見える人物といえば、ドニとお母さんくらいだろうか。グエンの父親である国王とはまだ会ったことがないし。

 だから、グエンは何のしがらみもない異世界からやってきたポメラニアンに癒しを求めていたのかもしれない。
 そう思ってしまうのは、オレにとって都合のいい考えだろうか?


 オレはこの部屋を通り抜けることを諦めて、踵を返した。
 確か反対側にも階段があったはずだ。少し遠回りになるけれど、そちらからでもグエンの部屋には行けたはず……
 走り出したオレは、とにかくグエンの部屋を目指した。

 途中で何度か迷いそうになりながらも、部屋には無事辿りつくことができたし、オレの姿を見た護衛騎士がドアを開けてくれたので中に入ることもできた。
 グエンはオレを探しに行ってくれていたようなんだけど、オレが部屋に戻ったという知らせを聞いたらしく、しばらく後に無事再会することができた。

 だけど、ポメラニアンの姿のオレは、ジェレール王子の企みについてもミア姫の思惑についても、何一つグエンに伝えることができなかったのだった。
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