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18.完璧な王子様

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 はぁぁぁ……

 王子の誘拐騒ぎがひと段落して、ようやくオレは大きなため息をついた。

 今日モンゼルが王子を誘拐しようとしたのは、橋の建築事業から外された腹いせの嫌がらせだったらしい。しかも、誘拐した王子をタイミング良く発見して助け出し、恩を売ることでまた事業の受注をしようという企みもあったようだ。まったく、ロクでもない奴だ。

 最近、こんなことばかりが立て続けに起こっている。頭上から鉢植えが落ちてきたり、ごはんに変なものが混ぜられたり……
 オレが音と匂いに敏感だから、ことごとく危険を回避することができているけれど、いくらなんでもちょっと頻度が高すぎじゃないか!?

 最初に毒入りのビスケットを持って来たのがジェレール王子だったから、オレは最初は彼を疑っていたんだけど、これって本当に全部ジェレール王子の仕業なのだろうか? それとも、グエナエル王子を良く思わない人物がこの王城内に複数居るのだろうか? もしくは、ジェレール王子のせいに見せかけて二人を仲違いさせようとしているのだったり……?

 どれも可能性としてはあり得そうだ。うーん、王族って大変だな……今回の件に関してはジェレール王子は関係なさそうな気もするけれど……

 そうそう、ジェレール王子といえば。
 グエナエル王子はジェレール王子に対して好意を抱いてるっぽいんだけど、二人が結ばれる未来なんてあるのだろうか?
 ジェレール王子はもうすぐ結婚するみたいだし、それ以上にどう見てもグエナエル王子に好意を持っている様子は微塵もない。
 こんな状態なのに、グエナエル王子はジェレール王子のいったいどこを好きになったというのだろうか? 昔、二人の間に何かあったとか……?

 でも例えそうだとしても、正直、グエナエル王子にはもっとふさわしい人がいるんじゃないかってオレは思ってしまうんだ。

 そりゃ最初は殺されそうになって怖い思いもしたけれど、ずっと一緒に過ごしているうちにただ怖いだけの人じゃないって気付いたんだ。グエナエル王子は実は情に厚かったりするようだ。この前から立て続けに変な客ばっかりやって来たから冷徹な部分ばかり見てしまったけれど、兵士たちからの評判は意外と悪くない。というのも、オレがこちらの世界にやってくる前に隣の国と小競り合いがあったようなのだけど、その時に怪我で動けなくなった下っ端の兵士をさり気なく助けてあげたらしい。
 どうやら、一度懐に入れた相手には懐くタイプのようだ。お母さんやドニには気を許しているみたいだし、最近はオレにだって優しい気がする。
 この王城内にはグエナエル王子に敵が多くて、そんな相手には冷徹な態度を取り続ける必要があったのだろう。

 それに、グエナエル王子には他にもいいことろがたくさんある。
 まず最初に、とにかく顔がいい。長い睫毛に縁取られた切れ長の目は宝石みたいなアイスブルーだ。そして、スッとした鼻立ちと形の良い唇。それらが、まるで芸術家が作ったのかと思えるくらいに完璧な黄金比で顔に配置されている。
 サラサラの金髪は、光の加減によっては天使の輪っかが出現するくらいのキューティクルを保っていて、運動した後ですらその長い髪が絡まった様子を見たことが一度もない。
 それから身体つきだって。どんな服でも完璧に着こなすスタイルでありながら、脱いだらしっかりと鍛え上げられた筋肉が現れる。細マッチョ好きなオレとしては垂涎モノだ。あ、いや。オレの趣味は関係なかった。とにかく、グエナエル王子はとてもいい身体つきをしている。そして、チンコも結構デカイ。あ、これもあんまり関係ないな。ええと。それじゃあ……陶磁のように透き通った色白の肌は、傷ひつつなく、瑞々しくて程よい弾力を保っている。思わず舐めまわしたくなるような……
 ……いやいや、何を考えているんだ、オレは!!

 しかも、使用人たちの噂話によると、兄のジェレール王子よりも弟であるグエナエル王子の方が頭も良くて仕事もできるらしい。つまり、グエナエル王子はちょっと愛想が足りないだけの完璧な王子様というわけだ。


「ビジュ、今日はありがとう」
「クウゥゥン」
(どういたしまして)

 いつものように王子と一緒に風呂に入って、一緒にベッドにもぐりこむ。
 今日グエナエル王子が着ているのは普通の寝巻だ。昨日は、オレにピアスを渡すためだけに正装を着てくれたようだ。
 わざわざそんなことをしなくても良かったのにという気持ちと、特別感があって嬉しいような気持ちで、なんだか胸がくすぐったくなる。

「あの日、おまえと出会えて良かった」
「キュ……キュウン!」
(お……おうっ!)

 オレも王子に出会えて良かったと思う。
 人間の姿に戻ったらオレは姿を消すことになると思うけれど、例えオレが居なくなってもグエナエル王子には幸せになって欲しいと思う。

 ……なんだ。オレって結構、王子のことが好きなんじゃないか。まぁ勿論、それは飼い主として好きってことなんだけどな。

 一緒の布団に潜り込んで、隣に横たわったグエナエル王子がオレの耳に触れた。ピアスのついている部分を優しく撫でる。その手触りが、なんだかくすぐったくて、オレは目を細めた。
 優しい手つきにうっとりとしているうちに、オレはウトウトと微睡む。

「おまえと話が出来たらいいのにな」

 うん、そうだね。オレもグエナエル王子とちゃんとお喋りしてみたかったな。
 もし人間の姿で出会えていたら、オレたちは今頃どんな関係だったのだうろかと想像してみる。
 ……見つかった瞬間、牢屋にぶち込まれてたかもしれないな……うん、それは十分あり得そうだ。

 だけど、なんだかんだ一緒に居て、おしゃべりをして……
 それも楽しそうだなって思いながら、オレはいつしか眠りについたのだった。
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