17 / 91
17.不審者
しおりを挟む『もうすぐグエナエル王子が帰ってくるはずだ』
『手順はわかってんだろうな』
『部屋に入ってきた王子を捕まえたら、裏門の馬車まで連れていく。従者はモンゼル様が足止めしてくれるはずだから……』
グエナエル王子が自分の部屋に入ろうとしたとき、中から声が聞こえてきた。知らない男が二人、小声で話しているようだけど、ポメラニアンのオレにはそんなことは関係ない。会話は丸聞こえだ。
「クゥンクゥン」
(ちょっと待って)
王子がドアを開ける前に、彼のズボンの裾を咥えて引っ張った。オレを見下ろした王子に向かって、ふるふると首を横に振る。言いたいことが伝わったようで、王子はドアノブに触れていた手をひっこめてくれた。
ええと……今の話だとこの近くにもう一人仲間が居るってことだよな?
どうやら、中に居る二人と外の協力者で王子を誘拐しようとしているらしい。
近くで不審な物音がしないか、オレは耳を澄ませた。
斜め前の部屋でなんかゴソゴソ音がするから、あそこかな?
ドニに顔を向けて合図をすると、オレは音のする部屋の扉をチョイチョイと前足で示す。
静かにドアに近寄ったドニが片手を短剣にかけてもう片方の手でドアを開くと、ゴンッと音がした。すぐ側に誰かがいて、勢いよくぶつかったみたいだ。
そんなことは気にせず、強引にドアを押し開けて部屋に入っていったドニにオレも続く。
「あいたたたたた……!!」
室内に入ると、ドアに弾き飛ばされたのか、でっぷりとしたタヌキみたいな男が床に転がっていた。
うーん、どこかで見たことがある気がするけど……
「モンゼル殿。何故こんなところに? ここは使用人の控室ですが……」
床に転がる男相手に、ドニが冷たい声で言った。
ああ、そうだ。思い出した! こいつは、以前、橋の建築事業から外されたことに対して文句を言いに来た事業資金横領商人だ!!
「ちょっと気を付け……あっ!! グエナエル様!! ど、どうもこんにちは……」
身体を起こしながらドニに対して文句を言おうとしていたモンゼルは、グエナエル王子の姿を見ると慌てて立ち上がった。
「ちょうど良かった。おまえに用事がある。今すぐ私の部屋に来てくれ」
「あ、いえ……あの、その……」
「急いでください」
有無を言わさないグエナエル王子の口調とドニに促されて、よたよたとモンゼルは廊下を歩いた。
そして、グエナエル王子の部屋の前まで来ると、ドニがドアを開けてモンゼルを部屋に放り込んだ。
『動くな!!』
『やった、捕まえたぞ!!』
『袋をかけて顔を隠せ!!』
『おまえら、なにをやっとるか――――っ!!』
『……あれれ!? もしかして、モンゼル様ぁ!?』
『なんでモンゼル様がこの部屋に?』
ドタバタと物音が聞こえたあと、中から言い争う声が聞こえてくる。
「侵入者だ!!」
グエナエル王子が叫ぶと、すぐに衛兵たちが駆けつけてくる足音がした。
『ヤバイ、窓から逃げろ!!』
『おい、オレを置いていくんじゃなぃっ!!』
中の会話が聞こえてきて、オレはドアに体当たりをした。
「キャン!! キャンキャンキャン!! グルルルルルルル……!!」
(おい!! ちょっと待て!! 逃がすかよ……!!)
全力で走って男たちより早く窓辺にたどり着くと、オレは唸りながら牙を見せた。
「ひぃぃぃ!! 魔物ぉ!!」
「た、助けてぇ……!!」
窓から逃げようとしていた男たちは、オレの姿を見て慌てて引き返す。今度は部屋の入口に向かったけれど、そちらには王子とドニが居る。しかもタイミング良く、衛兵たちも集まってきたところに三人は自ら突っ込んでいくことになった。
「こいつらを捕まえろ」
グエナエル王子の指示で、あっさりと三人は捕まった。
オレはそれを見届けると裏門に向かい、そこに居た御者と馬車もドニと衛兵に引き渡したのだった。
64
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人リトと、攻略対象の凛々しい少年ジゼの、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です(笑)
本編完結しました!
『伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします』のノィユとヴィル
『悪役令息の従者に転職しました』の透夜とロロァとよい子の隠密団の皆が遊びに来る、舞踏会編はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
舞踏会編からお読みいただけるよう、本編のあらすじをご用意しました!
おまけのお話の下、舞踏会編のうえに、登場人物一覧と一緒にあります。
ジゼの父ゲォルグ×家令長セバのお話を連載中です。もしよかったらどうぞです!
第12回BL大賞10位で奨励賞をいただきました。選んでくださった編集部の方、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです。
心から、ありがとうございます!
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる