ポメガバって異世界転移したら、冷酷王子に飼われて溺愛されました

夏芽玉

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13.変化

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 それから一週間が過ぎて、オレは少し焦っていた。
 オレはまだポメラニアンの姿のままだ。ヒトの姿に戻れる気配が全くない。

 いやいや、なんで!? そんなの、おかしいでしょう、絶対!!
 ポメ化したときは、だいたい数日から長くても一週間くらいで元の姿に戻れるって確かニュースで言っていたハズだ。だけどオレがこっちの世界に来てから、もうすぐ二週間になろうとしている。ちょっと長すぎない? ていうか、聞いてたのと話が違うんですけれど!?

 全力で甘やかされればもとの姿に戻れるらしいのだけど、それが叶わない……というわけではない。
 というのも、あの日以来、王子がなんかオレに甘いのだ。甘いというか、溺愛ムーブをしているというか……

 例えば。命がけで王子のベッドにもぐりこむようなことは二度としないぞ! と決意したにもかかわらず、何故かその日の夜から、寝るときはベッドに連れ込まれるようになってしまった。グエナエル王子はオレのことを抱き枕かゆたんぽだとでも思っているのだろうか?
 それだけじゃない。最近では、ごはんを毎回「あーん」で王子に食べさせられている。無表情でフォークに刺さった肉を突き出されたときには、毒味でもさせられるのかと思ったくらいだ。ちなみに、王子のために作られた料理は、いつもとても美味しい。
 さらに!! 寝る前には、王子と一緒に風呂に入るようにもなった。王子が自ら、オレのことを風呂に入れてくれるのだ。
 何このVIP対応……!!

 なんか毒で王子がおかしくなっちゃったんだろうか……とも思ったけれど、オレへの対応以外は今までと全く変わらない。

 オレも最初はビビりまくっていたけれど、なんだかんだ慣れてしまった。というか、王子と一緒に過ごす時間はめちゃくちゃ居心地がいい。いっそ、このままずっと、グエナエル王子のポメラニアンとして……って、いやいや。ないない!!
 でも、こんなに甘やかしてもらえたら、きっとすぐに人間の姿に戻れるはずなんだけど……


 今日も一日の終わりに、風呂場に連れて来られた。
 いつも湯船にいい匂いの香油が垂らされているのだけど、今日はもっと鮮明な花の香りがした。
 なんだろう、と王子の腕の中から覗いてみると、湯船いっぱいに真っ赤なバラの花びらが浮かんでいた。

「キャン!? キャンキャンッ!?」
(おおっ!? バラ風呂!?)

 バラ風呂なんて人生で初めて見た。ていうか、初めて入った。
 オレが一人で風呂に入ると足が届かないので、グエナエル王子に抱きかかえられながら風呂に入る。
 これも最初はおっかなびっくりだったけれど、一週間もしたら慣れたもんだ。

 ただ……慣れたら慣れたで、ちょっと困ったことがでてきた。
 グエナエル王子は、公務の合間に身体を鍛えているということもあって、細身ながらもしっかりと筋肉が付いている。服を着ていればスラリとした貴公子なのに、脱いだら結構凄いんです! という身体つきだ。細マッチョとでもいえばいいのだろうか。
 実を言うと……その身体つきは、オレの好みのど真ん中だったりする。
 オレが礼央のことを意識し始めたのも、体育の着替えのときに脱いだ姿が視界に入って、それが思ったよりもイイ身体つきをしていて……って、いやいや、オレは何を思い出しているんだ。これじゃあ、オレがオトコの身体に欲情する変態みたいじゃないか。

 ……いや、欲情しちゃうんだけど。

 そんな相手と一緒に風呂になんて入ったらどうなるか……
 ……ペニスが勃っちゃうんだよっ!!
 ポメラニアンの毛は長いし、もともとのサイズが小さいのと、ゆる勃ちなのでバレてはいないとは思うけれど……多分、バレてないはず……絶対に!! オレはそう信じている。

 今日も王子は、いい匂いのする石鹸でオレの身体を洗ってくれる。長い指がオレの地肌を撫でるのが気持ちいい。
 だけど、どんなにムラムラしても、オレは自慰行為オナニーができない。だってオレの両手(足?)はチンコを擦るには不向きな形状をしているんだもん。
 本物のポメラニアンがそーゆーことをしたくなった時、どーするんだ? そもそもオナニーなんてものは人間しかしないのか? と色々考えたときに、オレは気付いた。
 毛づくろいする要領でやれば、舌なら届くぞって。
 いやいやいやいや、絶対嫌だから!! いくら性欲が爆発しそうだからっていっても、セルフフエラチオとか絶対にしたくないから……!!

 オレは慌ててブンブンと首を振った。
 そしたら、ちょうどオレは泡だらけにされていたところだったようで、浴室中に泡を飛ばしてしまった。

 グエナエル王子の頭の上にも大きな泡の塊が乗っかっている。
 いや、頭だけじゃないな。ほっぺにも……それから、鼻のてっぺんにも泡がついている。

「キャンッ!?」
(怒られる……!?)

 慌てて首をひっこめたけれど、グエナエル王子は呆れたように息を吐いただけだった。

「……じっとしていろ」
「くぅん」
(はぁい)

 王子に窘められて、オレは大人しくされるがままになる。
 マッサージするかのような指先はとても気持ちいいし、泡を流すお湯の温度ですら熱すぎず温すぎず今日も最高だった。

 相変わらず王子は氷のような無表情だけど、こんなに優しくされたら、何か勘違いしてしまいそうだ。
 オレは王子に気まぐれに拾われて、ペットとして飼われているだけなのに……
 そう思ったら、なぜだかツキンと胸の奥が痛んだ。

 だってグエナエル王子はとにかく顔がいいんだ。顔だけじゃなくて、身体もいいけれど。
 仕事中はちょっと怖いときもあるけれど、悪い人じゃない。しかも、本物の王子様だ。

 それに対してオレはというと……今はポメラニアンの姿だからこうやって可愛がってもらっているけれど、元はといえば冴えない平凡サラリーマンだ。
 早く人間の姿に戻りたいという気持ちはあるけれど、グエナエル王子の前で元の姿に戻ってしまったら、どんな反応をされるのだろうか?
 このままグエナエル王子の側に居たら、今よりもっと仲良くなれるんじゃないかって思い始めていたのだけれど……
 また「魔物だ」って言われて殺されそうになるくらいなら、隙を見て逃げだしてしまったほうがいいのかもしれない。
 心の端ではそんなことを考えてはいるものの、いつの間にかオレにとって王子の側は居心地のいいものになってしまっていたんだ。
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