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9.第一王子
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「グエナエル、居るか!?」
大声と共に、突然執務室のドアが開いた。今日は乱暴な客が多いなと思いながら扉の方を見る。
「兄上」
あ・に・う・え。
オレは思わずドアの方を見た。そこには、がっしりとした体格で精悍な顔立ちをした青年が立っていた。髪はダークブラウンの短髪で、グエナエル王子とは全く印象が違う。以前、廊下ですれ違った女性と雰囲気が似ている気がする。そういえば、彼女はグエナエル王子が第二王子だと言っていた。ということは、この人が第一王子のジェレール王子ということか?
じっと彼を見ていたら、うっかり目が合ってしまった。不快そうに、太い眉毛がクイッと上がる。
わわわっ!!
鋭い目つきで睨まれて、オレは慌てて首をひっこめた。
……って、前もこんなことがあったような……
「それがお前が拾ったという魔物か」
「魔物ではありません。ビジュといいます」
グエナエル王子が立ち上がって出迎えると、ジェレール王子は手にしていた包みをグエナエル王子に押し付けた。
「おまえに土産だ。その魔物とでも一緒に食うんだな」
「……ありがとうございます」
「あとで味の感想を聞かせろよ」
それだけ言い残すと、ジェレール王子は執務室を出て行った。
えっ!! ええっ!?
それだけの用事のためにここに来たの……?
まるで喧嘩を売るような態度だったけれど、わざわざお土産を持って来たということは、ジェレール王子は実はグエナエル王子のことが好きだったりするんだろうか?
「クゥン……?」
(ツンデレなのか……?)
「……ふ」
首を傾げたら、かすかに笑い声がした気がした。
え……?
今、グエナエル王子が笑ったのか……?
思わずまじまじとグエナエル王子を見てしまったけれど、彼の笑った表情を見ることはできなかった。
うーん、今、王子が笑ったと思ったんだけど、気のせいだったのかなぁ……?
「せっかくの差し入れだ。少し休憩にしよう」
グエナエル王子はソファに腰かけて包みを開いた。
中から出てきたのはビスケットだった。
「いけません!!」
一枚摘んで口に運ぼうとしたグエナエル王子の手を、ドニが慌てて掴んだ。
「何か問題が?」
「あ、いえ……しかし、毒見がまだです」
王子の視線にドニは勢いを削がれたようだが、それでも掴んだ手を離しはしなかった。
「兄上から直々に頂いたものを、毒見に渡すわけにはいかないだろう」
「し、しかし……」
兄弟間での贈り物にも警戒が必要なのか? 王族の人たちって色々大変なんだなぁ……
この時のオレは呑気にもそんなことを考えていた。
「それに、後で味の感想を伝えないといけないらしいからな」
「それなら、私が毒味をいたします」
「必要ない」
何やら言い合っている二人の横をすり抜けて、オレはローテーブルの上に置かれた包みに顔を近づけた。
ビスケットの甘い匂いと、なんかツンと鼻を突くような臭いがした。ヘンな匂いだけど、こっちの世界の香辛料か何かなんだろうか?
「ドニ。紅茶を煎れてきてくれ」
「……かしこまりまりした」
グエナエル王子がビスケットを包みの中に戻したら、ドニが引き下がった。お茶の準備をするため、そのまま部屋から出ていく。
それと同時に、オレの顔の前からも包みを遠ざけられた。
「兄上からの贈り物は、誰にも渡さないよ」
そう言ったグエナエル王子の唇の端が持ち上がった。
大声と共に、突然執務室のドアが開いた。今日は乱暴な客が多いなと思いながら扉の方を見る。
「兄上」
あ・に・う・え。
オレは思わずドアの方を見た。そこには、がっしりとした体格で精悍な顔立ちをした青年が立っていた。髪はダークブラウンの短髪で、グエナエル王子とは全く印象が違う。以前、廊下ですれ違った女性と雰囲気が似ている気がする。そういえば、彼女はグエナエル王子が第二王子だと言っていた。ということは、この人が第一王子のジェレール王子ということか?
じっと彼を見ていたら、うっかり目が合ってしまった。不快そうに、太い眉毛がクイッと上がる。
わわわっ!!
鋭い目つきで睨まれて、オレは慌てて首をひっこめた。
……って、前もこんなことがあったような……
「それがお前が拾ったという魔物か」
「魔物ではありません。ビジュといいます」
グエナエル王子が立ち上がって出迎えると、ジェレール王子は手にしていた包みをグエナエル王子に押し付けた。
「おまえに土産だ。その魔物とでも一緒に食うんだな」
「……ありがとうございます」
「あとで味の感想を聞かせろよ」
それだけ言い残すと、ジェレール王子は執務室を出て行った。
えっ!! ええっ!?
それだけの用事のためにここに来たの……?
まるで喧嘩を売るような態度だったけれど、わざわざお土産を持って来たということは、ジェレール王子は実はグエナエル王子のことが好きだったりするんだろうか?
「クゥン……?」
(ツンデレなのか……?)
「……ふ」
首を傾げたら、かすかに笑い声がした気がした。
え……?
今、グエナエル王子が笑ったのか……?
思わずまじまじとグエナエル王子を見てしまったけれど、彼の笑った表情を見ることはできなかった。
うーん、今、王子が笑ったと思ったんだけど、気のせいだったのかなぁ……?
「せっかくの差し入れだ。少し休憩にしよう」
グエナエル王子はソファに腰かけて包みを開いた。
中から出てきたのはビスケットだった。
「いけません!!」
一枚摘んで口に運ぼうとしたグエナエル王子の手を、ドニが慌てて掴んだ。
「何か問題が?」
「あ、いえ……しかし、毒見がまだです」
王子の視線にドニは勢いを削がれたようだが、それでも掴んだ手を離しはしなかった。
「兄上から直々に頂いたものを、毒見に渡すわけにはいかないだろう」
「し、しかし……」
兄弟間での贈り物にも警戒が必要なのか? 王族の人たちって色々大変なんだなぁ……
この時のオレは呑気にもそんなことを考えていた。
「それに、後で味の感想を伝えないといけないらしいからな」
「それなら、私が毒味をいたします」
「必要ない」
何やら言い合っている二人の横をすり抜けて、オレはローテーブルの上に置かれた包みに顔を近づけた。
ビスケットの甘い匂いと、なんかツンと鼻を突くような臭いがした。ヘンな匂いだけど、こっちの世界の香辛料か何かなんだろうか?
「ドニ。紅茶を煎れてきてくれ」
「……かしこまりまりした」
グエナエル王子がビスケットを包みの中に戻したら、ドニが引き下がった。お茶の準備をするため、そのまま部屋から出ていく。
それと同時に、オレの顔の前からも包みを遠ざけられた。
「兄上からの贈り物は、誰にも渡さないよ」
そう言ったグエナエル王子の唇の端が持ち上がった。
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