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1.ここはどこ、オレはポメラニアン!?
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ずっと好きだった相手に、告白することもなく失恋した。
もし好きだと告げることができていたら、オレは今とは違う未来を手にしていただろうか?
それとも、親友のポジションすら失うことになっていた?
何度自分に問いかけても、どうすることが一番良かったのかだなんてわからない。
わからないけれど……
気が付いたらオレは知らない場所にいた。
小径の両側の花壇には、色とりどりの草花。
目の前にはツタに覆われた東屋があり、ちょっと離れたところには大きな城が見えた。
え、城!?
オレ――氏木翔太は会社員だ。そして終電に乗るため駅のホームに居たはずなんだけど……なんでっ!?
パチリと目を瞬かせる。
しかも今は昼間のようだ。太陽は高いところで燦燦と輝いていて、まるで映画のワンシーンにでも放り込まれたみたいだ。
それだけじゃない。青い空には大きな島が浮かんでいた。島というより、大きさ的には大陸といったほうがいいのだろうか。
えええ、一体何がどうなってんの!?
うっかり寝過ごして辿り着いたにしても、この状況はあまりにも不自然すぎる。そもそも、オレには電車に乗った記憶すらないんだけど!?
それから、先程から気になっていることがもう一つ。視線がいつもより随分低い気がする。
自分の姿を確認しようと視線を下げたら、思っていた以上に地面が近かった。
ていうか、自分の身体を支えているのは茶色のもふもふの足だった。
タシタシと地面を叩くと、オレの意思に連動してその手(足?)も動く。
その様子を見てオレは確信した。
「キャンッ。キュウキュウゥゥウン……」
(あ。オレ、今、ポメラニアンになっちゃってるわ……)
想像していた通り、オレの口から漏れたのは犬の鳴き声だった。
『ポメガバース』。
ストレスの許容量を超えると、ヒトがポメラニアン化するという症例が最近になって世界中で確認されるようになってきた。なぜそうなるのか、予防法はあるのか……そういったことは不明である。
日本ではヒトがポメ化するのはまだまだレアケースのようで、知り合いがポメ化したという話はオレも聞いたことがない。当然、オレ自身もポメラニアンになったのは初めてだ。
ちなみに人の姿に戻るには、全力で甘やかされて、ストレスが取り除かれれば良いということがわかっている。
ストレスの原因に心当たりはある。ありすぎる。一番大きな原因は、間違いなく失恋だろう。
ということで、ポメラニアンになってしまったことはいいとしよう……あんまり良くないけど。なっちゃったものは仕方がないし。
ポメラニアンは可愛い生き物だし、出会った誰かがきっといっぱい甘やかしてくれるはずだ。あいつとしばらく距離を取ることができれば、失恋の傷も癒されてそのうち元の姿に戻ることができるに違いない。
こんな姿になってしまうくらいあいつのことが好きだったんだと自覚して胸がズキンとしたが、オレはその痛みには気づかないフリをした。
しかしなぁ……ここ、どこ!?
あたりをキョロキョロと見まわしても、なんだかファンタジー世界にでも迷い込んだ気分になる。まさか異世界だったりしてな、ははは。
いやいや、まさかそんなはずは。
なにか手掛かりになるようなものはないだろうか。もしくは、助けてくれる人は居ないかな、なんて考えながらオレは適当に走り回った。
黄色い花、赤い実をつけた木、小さな池……、庭には見たことがあるようなないような花が沢山咲いていた。その他には、木の枝に宝石の付いたネックレスが引っかかっていたのを見つけたくらいだ。
しばらく探索をしてみて分かったことは、ここが映画のセットなんかではなく、本物の庭っぽいということ。
うーん、困ったぞ。
いったいどうすれば……
その時、茂みの向こうから複数の男たちの声がした。
「おーい、見つかったか?」
「いえ。こっちにはありません」
「この広い庭でネックレスを探してこいだなんて。無茶言うなよなぁ」
「本当にあるのかな」
「でも、探すしかないだろう。グエナエル王子だって探しているのに」
「うひぃっ、マジかよ……」
「ネックレス様~! ちょっと出てきていただけませんかねぇ!!」
「呼んで出てきたら苦労しないっつーの」
ふーん、こんな広い庭で探し物か……大変だな。
他人事のように思った後、ふと気づく。
ネックレス……?
そういえば、向こうの木の枝に引っかかっていたアレのことではないだろうか。
なんか困っているみたいだし、見つけた場所を教えてあげようかな。
そう思って、オレは声がした方に向かって走り出した。
もし好きだと告げることができていたら、オレは今とは違う未来を手にしていただろうか?
それとも、親友のポジションすら失うことになっていた?
何度自分に問いかけても、どうすることが一番良かったのかだなんてわからない。
わからないけれど……
気が付いたらオレは知らない場所にいた。
小径の両側の花壇には、色とりどりの草花。
目の前にはツタに覆われた東屋があり、ちょっと離れたところには大きな城が見えた。
え、城!?
オレ――氏木翔太は会社員だ。そして終電に乗るため駅のホームに居たはずなんだけど……なんでっ!?
パチリと目を瞬かせる。
しかも今は昼間のようだ。太陽は高いところで燦燦と輝いていて、まるで映画のワンシーンにでも放り込まれたみたいだ。
それだけじゃない。青い空には大きな島が浮かんでいた。島というより、大きさ的には大陸といったほうがいいのだろうか。
えええ、一体何がどうなってんの!?
うっかり寝過ごして辿り着いたにしても、この状況はあまりにも不自然すぎる。そもそも、オレには電車に乗った記憶すらないんだけど!?
それから、先程から気になっていることがもう一つ。視線がいつもより随分低い気がする。
自分の姿を確認しようと視線を下げたら、思っていた以上に地面が近かった。
ていうか、自分の身体を支えているのは茶色のもふもふの足だった。
タシタシと地面を叩くと、オレの意思に連動してその手(足?)も動く。
その様子を見てオレは確信した。
「キャンッ。キュウキュウゥゥウン……」
(あ。オレ、今、ポメラニアンになっちゃってるわ……)
想像していた通り、オレの口から漏れたのは犬の鳴き声だった。
『ポメガバース』。
ストレスの許容量を超えると、ヒトがポメラニアン化するという症例が最近になって世界中で確認されるようになってきた。なぜそうなるのか、予防法はあるのか……そういったことは不明である。
日本ではヒトがポメ化するのはまだまだレアケースのようで、知り合いがポメ化したという話はオレも聞いたことがない。当然、オレ自身もポメラニアンになったのは初めてだ。
ちなみに人の姿に戻るには、全力で甘やかされて、ストレスが取り除かれれば良いということがわかっている。
ストレスの原因に心当たりはある。ありすぎる。一番大きな原因は、間違いなく失恋だろう。
ということで、ポメラニアンになってしまったことはいいとしよう……あんまり良くないけど。なっちゃったものは仕方がないし。
ポメラニアンは可愛い生き物だし、出会った誰かがきっといっぱい甘やかしてくれるはずだ。あいつとしばらく距離を取ることができれば、失恋の傷も癒されてそのうち元の姿に戻ることができるに違いない。
こんな姿になってしまうくらいあいつのことが好きだったんだと自覚して胸がズキンとしたが、オレはその痛みには気づかないフリをした。
しかしなぁ……ここ、どこ!?
あたりをキョロキョロと見まわしても、なんだかファンタジー世界にでも迷い込んだ気分になる。まさか異世界だったりしてな、ははは。
いやいや、まさかそんなはずは。
なにか手掛かりになるようなものはないだろうか。もしくは、助けてくれる人は居ないかな、なんて考えながらオレは適当に走り回った。
黄色い花、赤い実をつけた木、小さな池……、庭には見たことがあるようなないような花が沢山咲いていた。その他には、木の枝に宝石の付いたネックレスが引っかかっていたのを見つけたくらいだ。
しばらく探索をしてみて分かったことは、ここが映画のセットなんかではなく、本物の庭っぽいということ。
うーん、困ったぞ。
いったいどうすれば……
その時、茂みの向こうから複数の男たちの声がした。
「おーい、見つかったか?」
「いえ。こっちにはありません」
「この広い庭でネックレスを探してこいだなんて。無茶言うなよなぁ」
「本当にあるのかな」
「でも、探すしかないだろう。グエナエル王子だって探しているのに」
「うひぃっ、マジかよ……」
「ネックレス様~! ちょっと出てきていただけませんかねぇ!!」
「呼んで出てきたら苦労しないっつーの」
ふーん、こんな広い庭で探し物か……大変だな。
他人事のように思った後、ふと気づく。
ネックレス……?
そういえば、向こうの木の枝に引っかかっていたアレのことではないだろうか。
なんか困っているみたいだし、見つけた場所を教えてあげようかな。
そう思って、オレは声がした方に向かって走り出した。
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