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第232死 ひじょうなエリア

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 炎熱天へとつきのぼる。

 さっきまで有った古い店の雰囲気などそこには無く、明けて────開けた。

 緩く構えた人差しと中指は紅く──やがてその色は失せ、紅い外套の男が其処に直立したまま。


「弱いな曲芸はやはり」


 紅が見据える先──灼けた甲羅はボロボロと黒く崩れ去り黒装束の男が崩されたブロックからその姿を現して、


「──ふざけんなよ一振りでコレか、こっちの準備を」

「お前もアレコレ手をつけるより剣を少しは磨いた方がいい」

 それは咄嗟の判断。緑亀黒漠で自らを呑み込み黒い砂のスペースに逃げ込み質の良い甲羅のオーラで紅い外套のワザを防いだものの──、浴びせられとどいた眩むほどの熱量。

 甲賀流忍者トシは白煙吹き上がり続ける身にスキルで天から雨を降らしながら伝う全身の汗をクールダウン、そしてニヤけ見据え直すその──、


「ハッ、出来ねえだけだろ」

「スペース系スキルといったか、やるなら気付かれないようにした方がいい」

「マジナイは属性の指定、得意の属性を指定して他を弱める。古いマジナイだなどこかで似たようなモノを見たことがある、意外とシンプルなんだな最近の忍者は。それとわざわざスキルの分解をしているな、昔やった事があるが馴染んだ技で斬った方が速い」

 マジナイとは白嵐紫貼。スキルを分解したイロ手裏剣で練り上げた甲賀流忍者トシのオリジナル甲賀流スキル忍法。紅い外套の男の読み通り、アオとハネ、ミドリとクロの複合属性の意味を強め他の属性を弱めるという複雑に練り上げたモノであった。そしてもう一つの密かなプランであるこの雨も──、


 のたまいながら……パラパラと降り続ける雨を右手のひらで確認し、人差しをさっと舐め上げた。

「てめぇ……まさかここ全部」


「無闇にチカラを見せると厄介な吸血鬼に気付かれてしまう、お前のハメンガンシ思い出して使わせてもらった。名前は違ったようだがな」


 これが波綿岩死だと、違うッ。強いだけの武人かと思えば……気付けない程の広大なスペースが既にこいつの術中だったってわけかよ。……イヤ、スペースじゃなくこの雨でも鼻に残る空気…………香りか! ……ふざけやがって。

 忍者は顔を顰め大袈裟に鼻をつまみながら、

「はぁ……楽しいかお前」

「忍者相手はあまりな」

「お前の剣技はさっき盗んだ、次会ったら俺は確実にお前より強くなるぜ」

 とは言ってもヤツは無刀、剣技と言えどヤツから剣は見えはしなかった。ただ鋭く放たれるのを予感した、イヤ予感させられた。

 だが、突き刺すその黒刀の切っ先は震えてはいない。ビタっとただヤツを貫くように。波綿岩死、忍びの心。戦いにおいて決して動じてはいけない海となれ。例え相手が────、

「そうか、ならもう一太刀盗めば確実にオマエは強くナレルナ」

 その虚勢を見据えてハナで笑ったのか、

 その男の右手へと、キラキラと集まっていく。

 砕けたコーヒーカップは集まりカラフル味わい深く煌めく剣と成す。

 その男の剣、その男の剣技とは──これ以上の先を魅せるという。

 ワラう紅い外套のヤツと、高鳴っていく忍びの心────、その先は────。


「ハハハハっ、……絶対嫌だな一人でやってろ! 【金飛剣山きんひけんざん】ッ」


 膨大な電量を消費して地から隆起する金色の針。

 やがて一瞬にて成す金色の針の山が全てを押し付け押し潰していった。

 飛べない越えられない金のヤマは天高く聳えて────、紅く崩壊────。


 轟音はるか天を突き抜けていく。そしてそれが耳を鋭く貫くよりも早く、


 逃げ帰る古木の扉など既に無い、ただニヤリ願いながら黒装束は粉塵散る街を駆けていく。

「神様ってのは居なくてもとんでもないバケモノってのがこの世には存在したんだな、ははははは、甲賀流忍者トシおまえ見なければよかったぜ……!」

 嗅ぎつけた鍵のない古木の扉をくぐり待ち受けていた希薄だった存在はあまりにも強大。妖でもぬるく、武人では鈍。時を越えて広く深く熱く────、未だ鼻に残るコーヒーの匂いはふざけている。

 甲賀流忍者トシは背を見せ圧倒的な存在に勝負を預けながらそのひじょうなエリアから逃げていった。
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