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第231死 ドーナツ、ドレス、ホットプレート

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 この堺市に散らばった────ベクトルは違えど躍動する意志、死のダンジョンを生き抜いてきた探索者達のスキル。

 スペース系スキルを発動。

 可動した──音を上げ両翼をひろげたホットプレートが円を成し。プラグコードを自分の身へと接続。成した巨大なタイヤの中に乗り込むその武装する乗り物スキルは夏海とお揃いの系統。だが、クールに重厚感のある黒鉄の機械。

「なにこれ……」

「追いますホットプレートバイクです、念のため捕まっててくださいアカリさん!」

「ホットプレートバイク……!?」

 2人乗り可能、狩野千晶の発動したスペース系スキル【ドナ・ヤキプス】。硬いシートへと腰を下ろし、

「浮いてる!」

 地から少し浮き上がったホットプレートバイクに背のアカリはオカッパの黒髪を乱しながら驚いた。

「こんなのあったなら最初から使えば」

「スペース系スキルはちょっと俺の脳内スペースと実力だと練り上げるまでに時間かかっちゃうんで! あっ、アカリさんに攻撃任せれたのでなんとか俺でも出来ました!」

「それはどうもだけど、スペース系スキル?」

 スペース系スキル、その聞いた事のないスキルに、この乗せられた光景に、アカリは単純に疑問に感じてしまい。

「えっと、まりじ先生が言うには深層スキルとも言うみたいっす! 人間には普通に生きてちゃ把握できない無数の空間、つまりスペースが個人個人あるらしくってその一つを夏海さんや掃除屋さんと、ってあの、説明してる場合じゃ……アカリさん!」

「あっ……ごめん。とにかく追って! アイツの行動意味分かんないから!」

「たぶんあいつは芸術家でアート戦車で、さっきで俺らに興味が無くなっちゃったみたいで……」

「芸術家でアート戦車で……ホットプレートバイク……」

「えっとじゃイキマス! 舌噛まないようにしっかり俺に捕まってて!」

「うん……!」

 背越しの会話をしている場合ではなく街を爆走するアートな戦車を追わなければならない。

 エネルギーは充填完了、黒いドーナツ状の機体はアスファルトをフロートしながら熱源を追いかけ飛ばしていった。

「────ちょとちょ、これ速すぎるんじゃない!」

「────え!? 夏海さんはもっとトバせってええ!」

「────ナツミだれそれ!?」

「────え、えっと、うおおぶつか────ふぃぃッ! えっと集中するんでアカリさんッあんまり質問しないでください!!!」

「────はぁぁ!? これ私がワル────」

 カゼに乱れる2人乗りの黒い髪。

 ぎゅっとそのカーキの背に捕まってみた、吹けば振り落とされそうな可笑しな状況にしっかりとその細い身を委ねて────。



▼▼▼
▽▽▽



 飛ばしすぎたドーナッツバイクはひとりでに進み、やがて大破。ぽっかりと空いた横穴から黒いマネキンが火の輪を潜るようにパイロットのお姉さん目掛けて矢のような鋭いドロップキック──夏海は手痛く蹴り飛ばされてしまった。

 アタマを討ち取る事には失敗。だが周りの雑魚マネキンモンスター達は火だるまと化し蹂躙されほとんどが倒された。

 すっかり荒れ果てた街路、ファッションパレードエリアにて。

 1人奮闘する前衛の夏海を援護すべく後衛の女子3人はリーダーの香の指示の下、探索者のカードとスキルを駆使した弾幕で追い込んでいく。水井露にはフィンガーバルカンを撃ち尽くすように、香自身はリュックに温存していたストックを惜しみなく解放、葬儀屋には必ずやって来る隙を狙うように作戦を言い渡していた。

 しかし敵の総長であるドレス姿の黒マネキンは素速く軽やかに強い。その戦い方はまるで今までのモンスターとは異質。次々とドレスを着替えていき、なんとも一人芝居の鮮やか、弾幕をかすり傷で掻い潜り舞台は見知った屋内へと眉間に皺を寄せ鼻息荒く金属バット片手に追いかけ回す夏海を翻弄し振り切り──見つけた白いウェディングドレス。

「てめぇ、ソレはお前のもんじゃねぇぞおおおお乙女夏海ちゃんのさっきご予約済みィィィィ」

 その純白を纏えば気分は最高潮どんなドレスよりも高ぶり火照る乙女ココロ、下着姿の女の罵言などなんのその。

 黒いシルエットは純白を纏い、するり、逃げる逃げる花嫁姿に似合わない嫉妬の金属バットなど当たりはしないのだ、このドレスが似合うのはこんな鼻息荒く荒れ果てたドレスルームではない、駆けてゆくアウトドア仕様のウェディングドレスは走りやすい、気持ち良く走っていく──そして上階のガラスを割って天を舞っていく。

「今、ターゲットキョーシャル!」

 無駄に放ち外したストックは全て計算済みで配置済み、放つ際に二重にスキル効果をノセていた──ひとりでに動き出した数多のストックが飛び出て来た白いターゲットに対して一点集中、香の号令の下に様々な方向から取り囲み、吸い寄せられるように乱射。

 そのストックのミサイルを有り得ない空中姿勢制御テクニックでやり過ごすウェディングドレス。花嫁に似合わないそんな横槍は食らってやらないわとでも言わんばかりに、純白を着こなした者の美しい余裕を見せ、──更なる横槍に対しても、

 チカラ任せに真っ直ぐ飛んだ──隙を狙っていた飛び道具金属バットさえ予感していた。花嫁に対して殺気がだだ漏れでは気付かれて当然。嘲笑うかのような純白翻す空中サーカスで、後は華麗に着地をこなして拍手喝采────。

 黒いスーツの背に手を置きバチバチと──成されたのはこのタイミング。成ったのは表から裏へと、裏のスペースを使えるのならば。

 本来備わっている体内の電量をおおきく吸い上げて、放出する。

 灰色の弾丸はウツ。

 翳した右の手のひらから、浴びせた灰色は純白を飲み込んだ。

 やがて、ドタリと背中から舞い落ちた灰かぶりの花嫁。浴びせられた電量にビリビリと痺れ身動きが取れない。

 葬儀屋の女の放った灰色のスキルが香の狙い通りに勝負を決めた。

「はははっ、す、すごいじゃんソウギヤ」

「はははハっ!!! しゃしゃっと上手くいったわね……!」

『おーい、葬儀屋ちゃんやっるゥゥゥひょおおおおフゥゥゥーーーー!!!』

 仲間たち夏海ノ香水のメンバーの歓声が上がる中、

 敵を最後に打ち倒した本人は息を荒げて自分がやった事に納得していない。何かすっきりと溢れ出た右の手のひらを確認する、これは熱くなっている……? もはやそれすらもよく分からない。


「これは……あ────」


 しらず膨大な電量を失い脱力していく、身体の異変に気付かず────後ろに倒れた身体は吹いた風にがっちりと支えられていた。


「おっと丘梨くんっ大丈夫かね!!! っと……キミは……すまない人違いだったようだ。大丈夫かなお嬢さん?」

「……え……はい」


 黒い電磁キックボードをあやつり颯爽と現れたのはおとぎではなく銀色の騎士様────、葬儀屋円山塔子はその背をその肩をダンディに微笑むナイスな人物に支えられていた。
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