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第218死 キングダムファイト!

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▼王都動物園ビースト サファリエリア▼


 猛獣が跋扈するこの広大な、動物たちとのふれあいエリアで──生き残った動物たち人間たちはセーフティスペースである檻の中に避難。

 来場客の隣にいるライオンも借りてきた猫のように大人しく、そのリアリティ味のない戦いのショーを眺めていた。


 遠くに見える大きな大き過ぎるシロサイ、巨大な二角の機獣要塞、寝そべる灰色の大きな横腹のハッチを開きその檻のナカから解き放たれた。


 出たる猛獣の群れと戦うのは────


 黒い獣へと変身した探索者は、独自の拳法を披露しデステナガザルの集を殴り散らした。

「チュチュぅぅんーやっぱ鼠じゃこんなもんかああ、これじゃぁ生身と変わらないっ!!!」

「鼠じゃなくてミケリスですよ来園者様」

「ミケリスなんそれ!?」

「黒白橙の体毛がほら三毛猫じゃないけど、世界一美しい毛並みを持つリスなんですよ」

「へ、へぇー言われて見ればセンスいいかもしれない。じゃなくてもっとかよわい小動物じゃなくて強いヤツを!」

 檻の中の飼育員は手元に帰ってきたミケリスを撫でながら、次の動物の厳選を始めた。悩み悩み────


 バサバサとやって来ては、黒い獣探索者の頭の上に止まり、上を目一杯見ると、下覗くその灰色の大きな鳥類との目が合った。

 驚きズレた眼鏡をくいっと直し、

「えこれなにデッカいオウム!? なんか強そうで良さげよし! 【ケモナル】」

 スキル【ケモナル】を行使、頭の上に止まった動物のチカラを借りて────みるみるフサフサと変身。


「オウムじゃなくてヨウムでインコですね。灰色の体毛と尾羽の赤色がとってもカッコいいですよね。人間の5歳児並みの知能を持つんで知能でいえば王都動物園に在籍する鳥類で最強のはずです」

 灰色の両翼を広げてちらりちらり、赤い尾羽を後ろ見確認した。眼鏡を大きな嘴に置きかけ直して、

「おおおおなるほどぅって5歳児並みじゃアタシの知能低下してるでしょおおおお!!!」

「まいいや翼があればこっちの!」

 鋭い眼光で気合を入れ広げた両翼をばさばさとするが……その場で跳躍、助走をつけて────

「これもしかして親鳥から習うやつ……」

「ですね。何もせず無知な人間が翼を持っただけでいきなり飛べるほどおそらくは甘くないですよー雛鳥さん」

「うるせぇええって鼠、じゃなくてシマリスよりやばいいいい両腕が手羽先でどう戦うのおおおお」

 両腕が使い方勝手の分からない翼では得意のつもりのどうぶつ拳法を披露する事は叶わない。探索者獣眼鏡は先程化けていたミケリスの時よりも弱くなってしまうという痛恨の選択ミスを犯してしまった。

「ヨウムの気持ちになって頑張ってください、いや飛翔できない鳥類も居ますダチョウやペンギンヤンバルクイナエミューダーウィンの気持ちで環境に適応しましょうキングダムファイト来園者様! 自然選択自然選択」

「自然淘汰でしょおおおおじゃなくて他の手羽先じゃないヤツをよこせええええ死ぬうううううう」

 なおも出て迫りくる猛獣たちに、ばっさばっさとグレーの羽を慌てさせながら慣れない鳥の脚で逃げ惑う獣眼鏡。

 そんなカオスな状況に垂れ流す────白い弾丸。獰猛なデステナガザルとデスコツメカワウソの群れを射抜き黒い光の泡粒へと葬った。

「出力強えれましんがん────」

「ヲヲヲ!!! ナナナナイス援護!!!」

 絶体絶命のピンチに目の前を掠めていった厚い援護射撃に対して手羽先でパチパチと拍手。

「……ふざけてないで集中して、敵も強くなっている油断していい相手じゃない死んじゃうよ」

「サンクスでも今は5歳児でぇ手羽先でぇヒトからはげしく退化だからァァァなんとかするからじゃあなんとかしてええええ」

「……わかった、えれほわチェンジコード!」

 重ねたバトルカードの束にプラグを刺してチカラを充電──色褪せていくカードを供物とし──ここぞの解放。

▽スキル
【チェンジコード】:
死のダンジョンのバトルカードに定められた得点を重ねることによって様々な選択を生む、最上級のスキルとされているスペース系のスキルである。掃除屋の脳内のスペース、四角いコートに定めた選択を構築し出力──数多のカードと引き換えに生成使用したコートカードを纏う事によりえれほわは違う形態へと変化する事が出来る。

 掃除屋は熱高まりこもる額を抑えながら、

 えれほわは黒い尾から赤い尾になった。身体も一回り大きくなり長く伸びた白い鼻の先は、

「ボーリングノズル!」

 ボーリングノズル。掃除屋が操る白く丸いえれほわの鼻先は右ストレートで飛びかかって来たデステナガザルにぶち当たり顔面ごとイチゲキで粉砕。

 リーチのあるモーニングスターのような武器を操り、勢いにノル。

 重い球は攻撃を当てる度に更にその大きさを増し、コートカードで強化された掃除屋とえれほわのコンビはそれまでと違いパワーでねじ伏せるような荒々しい戦い方にがらりと変わっていた。

 ぶち撒けるブチカマス、ボーリングノズル。鼻を振り回してどんな猛獣であろうと近寄るモノは砕き滅していく。

「すすすすすすごいこっちも負けてられない。どうぶつどうぶつライオンとかゴリラパンダをってほぁ!?」

 不意に頭に乗っかったナニか……。思わず何故かスキルを発動してしまい──

「アルマジロトカゲ、近年そのイケメンっぷりてぃっぷりから滅茶苦茶伸びてる子です見た目はほらまさに恐竜みたいで王都動物園ビーストで最強ですよ! 生態としては外敵から身を守るため尾を咥えて丸々防御姿勢を取ります、さぁ!」

 得意気な表情をした飼育員が檻の中から探索者獣眼鏡を見つめている。

「さぁ! の意味! たしかに見た目は最強感はあるかもだけど! ……………………ええい、はむっ!」

 その瞬間びりり、それは探索者獣眼鏡がどうぶつに変身し幾度か経験した事のあるラッキーな感覚。

「ん!? ごればどうぶづ的ひらべぎスキブ! ラッキーィィィィならなら」

「さぁ! 【ウロボロス】!!!」

 尾を咥えて円環を成す、すなわち無限。回り始めた棘付きの車輪は生電子と死電子のエネルギーを循環させながら宙に浮かび──勢いをつけて突貫。

 強大なエネルギー輪となり猛獣モンスターの群れを蹴散らしていく。アルマジロトカゲは∞の弧を描きながら暴走爆走ド派手に巻き込む。

「にゅおおおおおお感謝進化ァァァアルマジロおおおおおお!!!」

 その暴走劇が視界に入った掃除屋は驚き、その同業者の活躍に触発されるようにぐっと手に力を込め、両脚をしっかりと踏ん張り地に貼り付けた。

「チカラを隠してた!? ならっ私も行くよえれほわ! 冒険だよ!」

「ボーリングストライク」

 CCえれほわ:ノズルタイプBSSSボーリングスペアストライクスタイルは、主人の命令に了解し大技の準備に入った。

 どたどたと地鳴る音が汚く重なり、こちらへと近づいて来ている──

 檻から放たれ現れた敵の増援、4脚で地を蹴りその長い首を前傾させながら疾走するホワイトエンジェルラヴジュラーフに対して、掃除屋とえれほわは風纏う白い大玉をチカラをために溜めた長鼻から切り離し、発射。

 押し寄せる大玉に圧された白いキリンの群れがボーリングのピンのように雪崩れていく。更に付随する掃除機のように強烈な引き寄せる風はモンスターを吸い寄せていきどんどんと巻き込み膨らみ──一直線に────

 機獣要塞のグレーの横腹へと激しく鈍い轟音を上げぶち当たった。眠っていたシロサイが目を覚ます程にめり込みへこむ側面装甲。

 草原と風を貫き、

 サファリエリアに残る大玉が地を通りならした跡。

 奇怪なモンスターの鳴き声も嘘のように場面から消え去り。

 大技を放ったえれほわの温もる鼻とハイタッチのふれあい、掃除屋は一仕事を終え──不意に、二足歩行をしながら近寄って来たレッサーパンダのサンダくんに手渡された王都動物園オリジナルアイスコーヒーをえれほわと分かち合った。

 熱こもる一仕事のクールダウン。


 ウロボロスを制御出来なくなった身体はずってんころりんと地に転げていた、ふらふらに目が回る体調もなんとか回復──そう言えば無い! 黄褐色の鱗を持つトカゲは眼鏡眼鏡……と探してようやくに見つけた大事な眼鏡をかけ直した。

「はぁはぁはぁはぁは…………んん……め、メメメ滅茶苦茶強いじゃん探索者のッ女の子のッ掃除屋って……!!! ん、んんん? それにアルマジロトカゲもめちゃんこツヨかっこいいし! コレっ……家で飼えるのかな!? あるまじあるまじぃ……ジロウ、アルマ、あじろう、アルちゃん、アカゲ、アルトおっ!! ────────」


 獣眼鏡がスキル【ケモナル】で偶発的に変身したアルマジロトカゲはとてつもなく強かった。そして探索者にチカラを貸し与えていた小さな存在、アルマジロトカゲのアルトちゃんはちゃんと無事に微笑む飼育員の手元へと帰って来たようだ。
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