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第190死 スキルロボットEGG

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▼市街地B内、スキルバトル演出場▼


 広大なグラウンドに片膝を立て座るグレーのプロトタイプ。

 その瞳の無い無機質な巨人の中に、彼女は居た。

 突貫で造られた球体コックピットは女性1人が乗るには十分なスペースがある、手足を伸ばしジャブやハイキックをするのには十分である。サブカメラの全面モニターに映る広大なグラウンドの景色と、貼り紙のように別窓に小さく映る金髪の白衣。


「なんですかこれは明智マリア」

『すまない事務局長試しに操縦方法にマリオネットシステムを搭載したこのスキルロボットEGGに試しに! フ、キミのマイライフNTカードを挿入しロードしたところ気に入られてねぇ、あっは、キミの以外受け付けなくなってしまった。フフふ、あっはっは!』

「私は使えるようにしろと言いました。ふざけなさいとは言っていません」

『あっはっは! ……ふっはぁ。とにかくテストパイロットを頼むよそこらの探索者よりキミのスキルは優れているんだからな、準備はいいか?』

「……はぁ、準備は私ではなくこのEGGです。ちゃんと動くのですか」

 呆れながらもコックピット内の周囲を確認していく。水平な灰色の床に白いブーツでしっかり立つ事が出来ている。大雑把に操縦方法は事前に開発者に説明されていたが、狗雨雷叢雲は半信半疑だ。

『安心してくれ事故があってもダメージを受けるのは生電子のキミだ、死んでも生き返るさ遺書はいらないぞ、こわいか? ふふ、フ、あは』

「上司でDODOのトップをテストパイロットにするとは呆れます。準備は出来ましたさっさと始めてください」

『あっはっは失礼した。ンンっ……ではロード開始だ、カードを挿入して機体を立ち上げてくれ』

「ロード」

 白い制服の胸ポッケから取り出した。マイライフNTカードを「ロード」。そう唱えるとかるく指で挟み掲げたカードは生命を得たかのように舞い飛び──狗雨雷の足元の床にざくりと突き刺さった。

 広がっていく黒、走る蛍光の白線。彼女の周囲にグリッドな空間を成した。

 そして彼女の目にはいつもの2つの目より良く見えている、広く見えている──足は地に接している。サブカメラではないスキルロボットEGGの頭部の側頭まで横走るメインカメラから。

 カラフルに泡立つ粒光のように横線の目が輝きの生命を得る。

 そして、機体は立ち上がり────

「ぐっ!? ッ……姿勢を正してからにしなさい!」

『おっと!? すまないこちらのミスだ……EGGの初期姿勢の差異に引っ張られたようだな、フフ、ふ大丈夫か事務局長』

「……少し右の脇腹がこそばゆくなった程度です。続行に支障はありません、さぁ次は屈伸運動ですか?」

 グレーのロボットは10の手指を数えるようになめらかに握り確認、トン、トン、とブーツを履き締めるようにレッグパーツの硬いつま先でグラウンドを抉り確認。

 狗雨雷叢雲本人の動きをトレースするように寸分の狂いも無く立ち上がったEGGは動いているように見える。

『ふ、あはっは。痛い痛いだったが今のでマリオネットシステムのバランサーがパイロットに適したモノに自動調整されたハズだ、良く動いている』

「糸吊りのマリオネットなら痛みが伴うのは、売り物にはなりませんよ」

『地に足つく感覚があるだろ、そこからでもマリオネットの気持ちがわかるだろう、フフフふふっ』

「……ターゲットはどれです」

 首を左右、無い制帽の虚空の鍔を正すグレーのプロトタイプEGG。仄かに黄色いメインカメラを光らせている。

『あっはっは気が乗ったか? マァ、焦るなよ事務局長。今日はそこにあるコンテナの物資運送訓練がメインだ、この子はまだ名のないスキルロボットでEGGだからね、では目標の地点まで物資を運搬してくれ、訓練開始だテストパイロットくん、ふ、ふふふフ』

「…………ッ」

 慣れない広くなった高くなった視点視野の視界端で笑っている金髪白衣を視界から消す方法は無いものか。

 狗雨雷叢雲テストパイロット生は、丸腰のテスト機で走りナニかを発散したい気持ちを抑え、グラウンドを速歩きで進んでいく。

「何故こうも地味な」

『ロボットの夢は一歩一歩だよ、ふふふ、フフっ、あふッ』

「……チッ。コンテナの中身はなんです! 初めてでは手荒くなってしまいそうです!」

『おっとそうだな、それはだな…………ひ・み・つ。たまごか弾薬かもしれない気をつけてくれテストパイロット。ふ、あっはふ!』

「あとで事務局長室に来てください明智マリア」

『あっはっはっは────』

 目標まではまだ遠い──巨人ロボットは地を蹴り手を構えて姿勢を正し砂塵を舞い上げ疾っていった。黒髪を靡かせて、ループするように設定されたグリッド床を白いブーツが走る。
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