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第189死 みんなの市街地B

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 バベルBの下に広がるグリーンエリアは夏海ノ香水ベースキャンプ&電境探索者補助用品開発部が設けられそこそこ力を入れて整備されていた。

 このエリアで。

 呼び出された狩野千晶青年は、夏海ノ香水のリーダーである香と話し込んでいる。

 灰色のタープの下で、机上に並べた香自作のアイテムを手に取り一緒に確認。

 用途の違うトレッキングストックの石突の部分を青年へとまだ万全ではない腰を上げ立ち説明していった。


「──────トレッキング、ウォーキング、スノー、マッド各種キャップがあるのよ」

「なるほどこの杖と取り付けるキャップで、えっと、どんなフィールドの移動にも対応できるってことっすか! おもしろいですね」

「そうよ、私のストックは飛び道具の攻撃手段だけじゃないわ。あらゆるダンジョンの環境に対応出来る補助具にもなるの、もちろん伸縮も最小18cmから最大145cmまで可能よ」

 かちゃかちゃかちゃ、と音を立てながらグリップの中途にある硬い装置を外しストックは最小にまで縮まりコンパクトになった道具は香から青年へと手渡された。

 青年はその多機能さに頷き感心した。

「……すごいっ、なるほど。……えっと、飛ばした杖は【R】ウェポンホイホイとのコンボと夏海さんと水井露さんに回収してもらうんすね」

「ええそうよ。ラッキーボーイに負けたあの時は所持カードがランダムだったから運悪く息切れが早かったようね」

「そうだったんですか。はぁたしかに俺の方が少しツイていたみたいっすね……えっと……あの? まりじ先生じゃなくて……俺で良かったんですか? 先生ならもっと」

「先生はこのところ忙しいようでしょ。私たち下っ端の面倒で負担をかけたくないの。このグリーンエリア──十分ご好意は頂いているし、先ずは自分たち夏海ノ香水の電境探索者補助用品を作らなきゃね、ラッキーボーイもドッツの職員になったのなら私たち探索者に協力をしてもらうわよ」

 隣の香が微笑む。センターに分けたブラウンウェーブの髪が大人な雰囲気で、黒の無地インナーに赤いベストがこのベースキャンプに似合っている。

 自分もDODOの職員として彼女達に協力する必要がある、彼女に言葉にされて改めてそんな自覚が──

「それはもちろん、ハイ!!」

 元気に返事をする。それが彼の持ち味なのかもしれない。

 くすりと歳上の女性は笑った。


「で、あのローラーブーツは」

「これは使わないときにこんな風に可動して6つのコマを靴の側面によける事が出来るわ、探索者のパワーアップした体力なら多少の軽さより機能性が求められるから。汎用性のあるローラーブーツといったところかしらね。破損したコマの取り替えも容易よ」

「おお! すごいっすね、これは本気だ!」

「本気よ。この先の人生がかかってるんだからラッキーボーイ」

「本気……あのっ! これは!」

「ワイドミサイルリュック。主に私の飛び道具用に揃えた長さのストックを収納しているわ。防水性耐火性はもちろんこうやってチャックを下げて一面に広げてストックを立てれば日除けタープの代わりにもなるわ。更にここからしゃしゃっとティッシュを取り────」



 ▼▼▼
 ▽▽▽



 リーダーの香に、DODOの職員としてしゃしゃっと様子を見に行った方がいいんじゃない? と言われ狩野千晶はメンバーの夏海に会いにいく。

「んー私はねぇ。金属バァット!! これだねぇぇ」

「なんか男らしいっすね……」

 グリーンエリアの野原でビュンビュンと風を切る──鉄色のシンプルでありふれた金属バットで我流の素振りをし終えた。

「んー、ま、あははそうだね。女の子もチョコっとスカッとしたぁぁい!! が夏海ちゃんのモットーなもので!!」

「そうすかぁ……」

「ま、ゴタゴタしたのはいらないねぇ。そういうのはうちのリーダーが、しゃしゃっとやってくれるからね」

「たしかに香さんはすごいっすね。アイテム開発もきっと上手くいくと思います」

「わ?」

「え?」

「夏海もすごいよ少年」

「よぉしいっちょ勝負すっか!!」

「ええ!?」

 茶と赤のメッシュ髪のイカしたお姉さんがいきなりぶっ込んだ。右に金属バットを地に引き、左に手銃をつくり上を向け手の甲を見せている。

 舌は出さないが舌を出せば昔の日本というファンタジー世界のレディース総長のようであり。


「タイマンだタイマン負けた方が尻にブッ刺される罰げええええむ!!」

 手銃は天へと伸ばし、地をガラガラと引いていた重量感のあるバットの先端がカーキのジャケットを着た青年を突き刺す。

「はぁ!?」

「あの日以来夏海の夏海ちゃんは壊れた……乙女夏海ちゃんは死んだ……何故だ許さない! ハピハピ女子は邪悪に堕とされ火力もスキルもパワーアップしたおにゅーな夏海が変態アナルプラグ少年を倒す!! リベンジ報復デスマッチ!! チョコっとそのツラボコらせて♡」

「なんでぇ!?」

 プリティーに首を傾げて微笑む27歳夏海女子にロックオンされた青年はこのバトルから逃げられないのかもしれない。



 ▼▼▼
 ▽▽▽



「仕込み杖……はじめてじっくり見た……渋いっ……これはどこで?」

「ん……香に選んでもらったんじゃん」

「へぇー」

 仕込み杖。護身道具や暗殺道具に使われていたという。人を助け支えるための道具のはずが人を欺き殺す道具に……そのバランスがなんとも不思議な魅力を持っている。

 香が選んだという水井露の武器である仕込み杖は、アンティーク感のある桜の木で作られたL字型のグリップタイプ。彼女の黒髪と雰囲気になんとなくマッチしているモノであった。


「オトウトのホットプレートは?」

「え、俺? 俺は……本当にこれ偶然で……スキルもホットプレート関連なのもたぶん……栄枯さんのおかげかな、ははは」

「ふ……」

 野原に置かれた公園にありそうな味のある木製ベンチに横並び座る。彼女の質問に答えて、探索者同士の自己紹介といった雰囲気。

「でも俺こいつがメインウェポンだけど、なんか他にも栄枯さんみたいにナイフとかサブウェポンあった方がいいかなぁって、ナイフなら香さんアウトドア用品は詳しいので頼めないかなって? あっ、どう思います? 水井露さん?」

 考え込みながら話した青年はさいごには水井露に聞いていた。

「……ん……そのままが、きっと。いい」

 ポニーテールでもサイドテールでもない今日はそんな水井露の黒髪が、野に吹く風にそっと揺れなびいた。

 そんな彼女のやわらかなトーンと表情をくらった彼は────

「そのまま……なるほど。なんか今のぐっと来ました! ……たしかに俺って全く栄子さんや香さんみたいに器用じゃないよなぁ」

「ん、そのほうが死鳥舎もいいかもじゃん」

「死鳥舎……あぁ、そこまで考えてませんでした……水井露さんありがとうございます! そっかぁぁあ! ゼッタイそっちのがいいっすよね!」

 青年はベンチから立ち上がり言葉にしたエネルギーを野に発散。水井露の発言でアタマに無かった死鳥舎の事を思い出したのだ。彼は腐ってもあの丘パ、彼を見た死鳥舎のし得るタイピングあっての彼なのである。

「うん。余計なことすると、炎上、こわいかもじゃん」

「え……たしかに。絶対そうします……!」

 ベンチから見つめる何故かそのダークサファイアの瞳には妙な説得力があった。

「……ここは単純に……ブラックホットプレートに改良を加えた方が、んー、さっきのストックみたいに伸縮できれば本当にうれしいんだけど、とにかく扱い方にクセがありすぎてさぁ、もうちょっと慣れた自分がいるのはアレだけど……イヤ、やっぱりここは……それにリュックみたいに持ち────」
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