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第123死 風呂上がりの栄子

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『はじまりは突如、白い光~』

『レベル差なんて返り討ちで~』

『ガンガン上げてじぶん更新~』

『厳選ワタシ潜るセカイ~~』

『アオい装い夢の途中~』

『今日が終わってつづいていた~』

『ハック&スラッシュもぐってユメひろい~』

『はじまりきっと生きていくのダイバーイナー』

『深くても浅くてもみんなもぐってゆくものです~人生とはーーーーッ』


 ざーっと流れ打ちつける水音はちょうどいいリズムのBGM。風呂場でなつかしいアイドルソングを熱唱するのは気持ちいい。

 気がつけば37分はシャワータイムを味わっていました。

 おおきく厚いお気に入りのバスタオルの包容感はパパッとべらぼぅに頼りになる。

 4日ぶりのドライヤーがこんなにも幸福を感じることなのとは。

 がらりと脱衣所の引き戸を開けて、着替えを忘れていました。とりあえず野生人ではないのでパンツは履きましょう。


 風呂上がりのあたらしいグレーでクールなパンツ一丁栄子。なぜか黒いローテーブルに置かれていた、あるはずのない注文の品であるきんきんのコーラの瓶、を飲んだ。

「ふふ、一つだけすこししつこかったですが何か男? としてのプライドでもあったのでしょうか。勘弁してほしいです。ですがこれは素晴らしいですね、いいものです」

 栄枯がナイトに勧められたのはこの一杯。古参の悪運味というものを味わってみたくなったのだとか。

 スカッと、曇りは風呂場にしかないが晴れていく。見知らぬが倒しただれかに注文した炭酸の強すぎる瓶コーラ、冷たさが喉を通り砂漠帰りの長身女を質の良い心地で潤していく。

「そういえばこの子が居ましたね」

「メッセージというやつなのでしょうか」

「…………」

 栄子は無言でスパコンを閉じた。

「これもエンターテイんメント、リアルの空気とこの世でイチバンリアルな味をすこしは味わわせてください」

 飲み干した、瓶の残量を眺めたらゼロだ。これぐらい炭酸が強いと飲み干した満足感がすごくある。栄子はそれを物でごちゃついた部屋のローテーブルに置いた。ナイトの株は少しは上がり、栄子のキブンもあがっている。

 次に手持ち無沙汰になった彼女はスパホを見つけて手に取った。折り畳み式のそれを開き、電池残量が44%まだ残っていた。81%で外に出掛けていたので案外減っていないものだと思いつつも、ここ数日そこそこあった通知の束を確認をしていく。

 私の黄色いスパホに留守電が入っているようです。トラブルの無いように終わらせたことと言えば新聞と、道端でスカウトされ簡易なAI管理事務職をしていた会社は辞めて来ました、それでこれは──そこの先輩からですね。

 ベラという名前の同一人物から、たくさんある内の一件を再生した。

『おい栄子、どうなっている! いきなり事務をやめるなんて! それはまだいい、いやそんなのはどうでもいい! 私の劇のリハーサルにも来ていないじゃないか! 何故だ、イヤになったのか!? このセカイ折れるにはべらぼぅに早いぞ! そういえば口にはしていなかったな演技は芝居は嫌いか? 現代版石川五右衛門! とにかく来てくれ、来ればべらぼぅに分かる! 私1人だと華がありすぎて目立ち過ぎてしまうだろう? やはりこの日本で対等なスタイルとオーラで悪役として私を引き立たせられるのはお前だけだ! …………分かった言おう……お前のおかげで主役だってもらえたようなもんなんだ!! なぁ栄子!! わたしたちジム・スタイルズとしてたのむ! 一生のお願いだ!! 五味監督も怒ってはいたがそのひじょうなスタイルだ、お前が残した幻影のせいで代役が見つからなくて困っているぞ? 配役バランスって分かるか? お前が、たったひとりが、急にいなくなっただけでみんな調子がイマイチだ私も崖っぷちでひじょうに困っている! これを聞いたら……いつでもいつまでも1週間ぐらいはべらぼぅに待っている連絡してくれエイコ』

 この留守番電話は長すぎる……勢いよくさまざまなトーンをぶつけられてしまった。栄子も少し予想外だったようで。

「…………ぼこぼこチューブの死鳥舎……ほかにつながりのある中で私を心配してくれたのは、なんとも奇妙なことに鬱陶しいと思っていた彼女だけのようです、ふふ」

「お芝居、演技……今のわたしはどうでしょう? 余裕です。ひじょうな余裕を持て余しているようです…………彼女にとって私が必要ならばそんなにうれしいことも、そんなにないのでしょうね」

「でも待ってください冷静になれば4日ですよ? ……ふふ、さすが元祖べらぼぅですね、ふふふっ」



▼▼▼
▽▽▽



「あの師匠出てきたみたい……ですよ」

「……無茶を言うな、アレは人間じゃない……呑気なもんだ全部全員一瞬でヤツに壁越しモニター越しに睨まれたんだぞ、鍛えてない者は気付いていないだろうがな」

 それに舐められないように殺気を飛ばし仕掛けたが10度は見透かされて光速に殺されたぜ……。どう修行した、どうなってやがるこのリアルに帰ってきた想像以上の怪物は。こんなにハッキリとしたレーザーで貫かれた感覚は初めてだ。……それにこの感覚…………なるほど、まだ上があるということなのか甲賀流には────

 ぼたぼたと流れる汗。ぼさついた黒髪の50代の男はワラいぐっとヤケるような感覚の残る手を握りしめて。

「いい歳した女のおつかいなんてやってられるか俺は帰る、他は既に帰らせたお前が引き継げ。彼女に失礼のないようにしろ」

「え、師匠が逃げるのにわたしが……」

 黒髪を下ろした黒装束はトラディッショナルな忍者の姿。髪を束ねず下ろしているのは彼女の師匠の好みなのである。女忍者の彼女は師匠に少し苦い顔をし反応してみせた。

「女には女忍者だ、それが例えバケモノでもな」

「それとどうも性格に難ありらしい、強引な手段は取るなアレはスイッチが入ると10回殺されるだけでは済まないぞ、あと逃げてはいないこっちも本気なら1度は半殺せる」

「それ結局殺されてるんじゃ……」

「そうだだから今は逃げるぜ、お前はここで修行俺はヤツを殺せるように修行、役割を合理的に理解したな?」

「その修行って3日ぐらいで間に合いますか」

「なに怪物もダンジョンではなく非力なリアルならやりようはいくらでもある……そう十年もあればな。あと忍者があんぱんなんて牛乳でながして食うな女忍者にしてもだ。まったくお前は」

「……えほんとうに」

「ほんとうだ、どのみちドッツの野郎的にもこの国的にも訳の分からないオンナには監視は必要だろう。首輪をつけれるとは思わないがな、仲良く、出来れば友達になっとけ。俺もなりたいところだがッ」

 甲賀流忍者トシはあんぱんをひとつかっぱらいどこかへ消えるように帰り、残された甲賀流見習い忍者あやかは帰ってしまった白服と師匠の代わりに丘梨栄枯の監視観察を遠隔近場の上の部屋のモニターからつづけることとなった。

「なんとかなるよね……? ──すらっとスタイル……すご……あむ」

 その後、凪いだみずいろの視線を感じた栄子は特に気にする事もなく深い眠りへとついていった。
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