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58❹

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▼さんかく公園▼


「きえた……」

「王ーーーー!!!! 置いてかないでくださいィィィィ」

深夜の公園に響く女の絶叫、思いもよらない事態に届かない手を伸ばしたふたり。

「うそ……王……どこに……」

塞がらない空いた口、親に捨てられた小学生のような悲しみの眼で周辺をきょろきょろと探り、王の息子と目が合って動けなくなってしまった。

見つめ返す可黒美玲、狐に化かされたどちらの空いた口からも言葉は発されなかった。

そんなもたない間が流れつづけるさんかく公園にまた慌ただしい足音が耳と心臓を突き。

黒い髪をなびかせて何かをひとつひとつ確認するように移動していたソレが立ち止まった。

ソレを見つけた青年は急に身体をピンク髪にぴったりと寄せた。

「ひゃっ!? ひっ、息子さん……? え、あ、ひゃいっ……!?」

2、さん後ずさった青年。

「美玲ッ!! 居たか!!」

「誰だ貴様は!?」

突然、猛突駆けて来る黒のスーツと白と藤色のストライプシャツ。

「え!?」

しなりぶち当たった黒い鞭。
瞬時の判断に選択した七枝刀はソレを砂地へと弾き打ち落とした。

「防いだ……!」








「怪しいな」

「ほんとに真実しかいってないデス!! 王、はやく戻ってきて……」

理不尽な黒い鞭のご挨拶の後、ケイコが次の攻撃を仕掛ける間に可黒美玲がサムの前に出るカタチで一応の誤解は解かれた。

サムは経緯をケイコに伝えたが訝しむ刺すような眼が突き刺さりサムにとって非常に居心地の悪い空間が形成されつつあった。

「美玲ほんとうにお前の父親が来たというのか?」

「……アレは俺の父さん……俺は」

「ン……ここで話している場合じゃなかったようだな」

近づいて来た駆ける重なり合う足音。様々な者がさんかく公園に次々と引き寄せられてきた。

「いたいた可黒美玲くん心配したぞ」

「はぁはぁ……先生たち探していたのよ良かった無事で」

現れたのは各々私服姿の3人の大人たち男女。息を荒げ整えるものや、心配そうな顔を美玲にむけている者。

「なんだこいつらは」

「……」

ケイコの飴色あめいろの目は、どこかやつれた彼の目を覗き込み。

「フフ」

ずけずけとやさしげな顔をし青年に近づいた女は振り返った黒い蛇に一瞬のウチに5度打たれた。女は受け身を取り獣のような姿勢にしゃがみ、懐に忍ばせていたクナイを右手に構えた。

「どこに苦無を持った教師がいる、フフまったく古井戸はおもしろい」

「ぎゃああああ」

サムは男を迷いなく斬りつけた。七枝刀により薙ぎ払われた男は鮮血を散らしその場に真っ二つに倒れた。

「王の、えと、息子さんは、私が守ります!」

素早い身のこなしで真横に一閃、そのピンク髪の後ろ背を見てクビを傾げたケイコ。

「いきなりヒトを斬り捨てるか……エレメンタルDIVER!」

視線が外れた一瞬の隙を突いた女教師、7のクナイが忍の身のこなしで投げつけられた。

余裕の棒立ちから乱れ打ち付けられた黒い繭はクナイを弾き飛ばしたが右肩に突き刺さった1つ。少しよろめいたケイコの新たな隙は。

得物を短刀に切り替えた女が低い姿勢から一気に左脇腹を抉ろうとする。
差し迫る刃に間に合わないバックステップ。

戦闘真っ只中互いの踊る靴ザラつく音が混じり合う。圧されているはずが手に汗は握らない、突如、天から地に堕ちた黒雷が女を焼き払い唐突に終わりを迎えた。

「今日という日は大凶のようだな」

【エレメンタルDIVER】
エレメンタルウィップに次いでケイコが覚えたトラップ技。似たような技の爆柱斬よりは隙は少ないため使おうと思えば使える技である。エレメンタルで揃えたのは単なる思いつきでありDIVERは潜水士ではなくケイコのアイドル趣味である。

3人のうち2人が容赦のない攻撃により瞬く間にやられていった。分が悪いのは明らか、だが女が冷静な眼で見据えるターゲットに素速く構えた切り札の黒いハンドガンは連射され。

「え銃!?」

弾丸は青年を貫く前に剣と斧の刀身に弾きかき消された。
到底理解出来ないあり得ない人間業。何か出会ってはいけないモノに出会ってしまったそんな愕然の表情、慌てふためき背を見せ逃げようとした女は既にその眼にロックオンされ。

エメラルドが突き刺さった。

そして近づき柄を伝った黒い炎はソレを燃やした。振り返らないその臙脂色の背が自身を納得させるように。

「……こうしたほうがいいんですよね……」

「フフ、逮捕だ」



彼の表情は分からない。だが自らの意志で発した黒い炎は、この場を片すように焼き払い。3分とも経たない間に葬られた3人の∀の組織員次々と押し寄せたイベント、積もる話は積もらせたままに、3人は物騒なさんかく公園を後にした。



▼黒柳邸宅▼


深夜にうるさい呼び鈴がひびく、そこは誰でも入る事の出来る────

「……姐さん……ソイツはナニ……」

「知らん」

「はぁ!? 知らないのまで上げられるとこま」

「サムです! 王命により息子さんを守るためについていかせてもらってます!」

「は……え……ま……。……え?」

サム……?

どこかおかしなテンションのピンク髪の黒目が黒柳に元気にこたえた。








寒風にやられた身に、気の利くあつい茶が出た。

「つまり可黒零児が古井戸に化けて現れて消えたということだな」

「かぐろれいじ? レイジ!? 王はレイジっていう名前なのデス!?」

「おい…………黙れ!!!!」

「ひ、ハイ……」

「…………」

まともに話せるケイコとサムを中心に話が続いていた。
家主はあくびも出せずただただ訳の分からない読めない会話の状況を見守る。
エメラルドの武器を握りながめ押し黙る可黒美玲。だれも彼には話しかけれないそんな負の雰囲気がただよっていた。

「…………」



しばらく続いた話し合いもケイコは黒柳に何かを言い付けて去り、サムと美玲はそのままこの家にとどまることとなった。








ケイコが去ったあとすぐ、美玲は黒柳に一言言い渡し。


路地をゆく青年の後をピンク髪は少し間をあけて歩いていた。


「なんでついてくるの」

振り返りもしない彼の陰のある声色に、後についていたサムはドキリと反応した。

「え!? ……王子を守るのが私の使命、あ王命です!!」

「……あっそ……」

「ハイ……ひゃれは!?」

ぴたっと立ち止まり電子の荷から取り出されたエメラルドハルバード。

「手は出さないでね」

「え、ハイ王!! あ、あれ!?」

群がる怪異たちに臙脂色の背はエメラルドを右手に狭い路地を突貫。


「ハハハハハハハハ、怪異なら斬って燃やしてもいいよなハハハハ」

狂い笑うように、突き刺す、斬る、叩き切る、投げつける。

「すごいよこれ父さん!! ハハハハなんで隠してるかなぁ!!」

まだ明けていない深夜の残党狩り、エメラルドハルバードを試すように光の粒の中、青年は踊り続けた。








古井戸の掃除を終えてたどり着いた可黒邸。に、そろりお邪魔したピンク髪。
入るやいなや、そそくさと彼は自室のベッドへと倒れ込んだ。
コップに入れた水を運び、心配なその方の元へと。

「俺はフツウじゃない……人をたくさん殺してそれを忘れていた」

「なぁ、俺ってフツウなのになんでフツウじゃないんだろうな……」


「終わりもしないし逃げたくてもう1人の俺を作って育ててみたけど、そいつも俺だった……逃げ場なんてどこにもねぇんだよおおおおおおおお」


「……みれいさん…………」


「大丈夫です! 王に任せてください!! あの人はフツウじゃないんデス!! 私を救ってくれました!! きっときっとみれいさんのダメダメのサダメもすくっ」

同情の表情からしだい、明るいトーンと笑顔で左手を差し伸べた。

明るいピンクのその髪色も彼にはない明るい笑顔も今はない、躁鬱を繰り返し狂人のフリをしても得られはしない、もう後戻りは出来やしない人生のカゲが射した人は人にないモノにすがりつく。


細い左手は強く引き込まれ、こぼすはずのないコップから水はこぼれた。



「王子……」

ぐっすりと眠る横顔がそこにはあった。
汗ばむ身体の乱れべたつく髪。

……これは王に会うためなのです。わ、私は王命を王命にしたがい王子を守りつづけます、王! じゃないぽいんとを貯めればまたアッチに行けるはずなのデス……!

起き上がり考えにふける身体がまた沈んだ。

「え!? 王子……あっ!」

ゆっくり押し倒すよう覆いかぶさった青年の身体。寝ぼけた眼で彼は迫り、艶かしい表情と状況に困りさがった目尻。すこしひらいた口はしだいに閉じ、重なり合った。流れ受け入れた彼女。流れのままに。

「王子ぃ、だめですぅ……」

甘えるように押し付けた。中に入り欲望のままに擦り付ける。

蕩けた彼女の黒目は嫌がっている様子もない。じっくりとその表情を観察するように無言のまま。

暗い部屋の緑のカーテンは陽を集め朝をしらせる。まぬけに鳴く烏の声にすら気付かない。



▼▼▼
▽▽▽



▼黒柳邸宅▼


父親たちが消えた深夜のさんかく公園あれから1日後の時刻は午前10時37分。ケイコ警部の連絡の下に集まった5人。畳の上、小さなちゃぶ台を中心に。

「ドリー見……さま!?」

「……あ、あぁ元気だったか」

銀ギラのマスクは懐かしい顔にご挨拶を済ませてそれを脱ぎ捨てた。




占いが始まっていた。黒紫色のカードは混ぜられ大海を成しサダメのカードは選べばれた。





可黒美玲

武器 騎士 悪魔





ケイコ

武器 騎士 悪魔





サン

凪 寂れた駅 メデューサ



「調子が悪いのか黒柳ドリー見。当たり前のことしか言っていないぞ。どうした、あの時のように私を当ててみせろ」

「……サダメが大きすぎて細部までは見えないということでしょう……」

うるせぇよ、今の美玲にヘタな事言えるかよ身勝手オンナ……。


「次は私の番ですね!! ドリー見様にまた占ってもらえるなんて感激デス!! ドリー見様は私の運命の、サダメの恩人なんです!!」

「…………はは久しぶり」

「おい黒柳貴様はこのイカ」
「ささお待ちしておりました占いましょうサムさん!」

「ハイよろしくお願いしますドリー見様!!」

シャッフルされていく大海からカードを選んでいき。サダメのカードは選ばれた。


城下町、鳩、塔。


「なんですこれ?」

「これは…………」

なんだこれ……稀に見るトンチンカンだぞ……。えっと、待て待てひねくりだせぇドリー見。

「これなら私にも分かる、城下町は古井戸、そしてサム貴様と消えた可黒零児のいたという塔だ」

「そ、そうなのですっさすが刑事の姐さん!!」

「おお、おおーーさすがケイコ様ドリー見様デス!!」

「フフ、下手に褒めるな。鳩、これは……あまり分からんな。平和か、平和には程遠いと思うが、あるいは警察? なんだ黒柳ドリー見?」

「安心してください全部……降りてますから降りまくってますから」

あっぶねぇー、なんだよその情報。鳩なら縁起の良いもの、スピリチュアルオカルト界では常識、調べたことが結構あるからかなり分かる。

「姐さん、意外と節穴なんですね」

「なんだと……? 黒柳シメられる覚悟はできているな」

「ははいやいや、鳩といえば平和の象徴、平和といえば警察、姐さんはどっぷり浸かりすぎて見えてないようです」

「ほぉ、はぁーー……」

ケイコは、ハナで笑い少し自慢気な金髪に対して拳をあたためだした。
だが、それを気にせずドリー見は占いを続けた。

「そうでありそうとも言えないのです、古来から鳩といえばスパイ、伝書鳩!」

「なに……フフ」

「平和である以上鳥獣保護法により鳩は殺せません、殺そうとしても平和を乱す準備が必要なのです。つまり現状が安全ということです」

「鳥獣保護法? 占いで何をトンチンカンを言っている黒柳、どこが平和だ、このところおかしな事しか起こってないぞ」

「それは聞かされました。占いではありますが私が見るのはサダメです、情報が多いほど細部が見えてきます」

「姐さんたちは今平和のバランスの中にいるのです」

「だからそれが違うと言っている、変なヤツらを葬ったばかりなのだぞ」

占いどころか口論に発展しそうな雰囲気、ちらりちらり気付かれないようにドリー見は助け舟をうかがう。


「…………いや平和なのかもしれない……父さんは。サカサとカサ、オカルト探偵部この3つが古井戸で争ってるって、カサのリーダーの男は俺の味方で敵らしい……」

「なに!? なんだそれは何故そんな情報を今まで黙っていた美玲!!!!」

「……あんたの計画したゲームにまた巻き込まれたら面倒くさい……あのとき黙っていないとまた勝手に動いてただろ……? ……俺はこれ以上準備もなしに頭がおかしくなるのはごめんだ……」

狭い部屋、壁の隅でエメラルドハルバードをじっと眺めて遊んでいた青年は声を荒げるケイコを軽く睨み付けてまた元に戻った。

「ナ、なんだと!?」

まさかの彼の態度にケイコは柄にもなく呑まれただただ驚いてしまった。飴色の眼が見開かれる。

「そデスネ……王子は繊細ですし……」

「ぶっ」

「…………黒柳、ビンタだ」

「え!? なんで美玲がッ」








「もう占いじゃなくなっているな黒柳ドリー見」

「サダメですから、悩め考えられるうちは占いよりこちらの方が」

「私の占いはドリー見様!?」

「サム、つまりあなたがノアの鳩なのです!! 以上ーーーー」

「ええ!? 終わったのです!?」

議論は深められ、表舞台で状況は整理されていった。


「情報をまとめた……振り回されるのはごめんだ」

相変わらず他者と離れたスペース、壁際でその辺にあったスケッチブックに情報をまとめ書き上げたという可黒美玲。


「美玲貴様は随分と私を恨んでいるようだな」

「恨んでいないよケイコさん。ただ、俺がリーダーだからこれからは勝手なことはしないでくれ」

「ほぉ、あの可黒美玲がこうも偉くなるとはな」

「偉いとかどうでもいい、だけどオカルト探偵部のリーダーは俺だ」

目と目を合わせ会話をするふたり。間をおかずにテンポ良くぶつけ合い流れていった。

「フフ」

「王子……」

まえとなんか雰囲気が違う、何かを吐き出しそうとはおもっていたけど美玲こいつのキャラはほんとうに読めないなこいつ。てかこのところおかしな事に次々巻き込まれてる気が……慣れたのかドリー見……。





俺の命令に従え





不意にケイコに見せつけたスケッチブックには大きな字で書かれていた。

「まとまってないぞ美玲」

「これは念押しで書いた」

「フフ、ここまで来ると病気だな」

「病気でけっこう、じゃ今から命令するから」

「ほぉ、どんな命令だ? 鞭で朝までしばいてやろうか?」

「そうだな……そうしてくれ。じゃサムを徹底的に調べろ」

「王子落ち着い、え!? 王子!?」

「何か持ってるかもしれない、サムお前は1番怪しい。俺と同じオカルトも」

どこからか取り出した石、カラフルを両手からばらばらと畳の上にこぼしていく美玲。サムを見つめ微かに微笑んだ。

「ええ!? 王子誤解です!?」

「すまないサム全部出せ、何か父さんに繋がるものがあるかもしれない」

「フフふふ、まずは身内からか。とんだ王子だな」

必死で誤解を主張し慌てふためくサムの頭上にいつの間にか、黒い鞭を手に持った女が妖しい笑みを浮かべピンクをカゲで覆った。



黒柳の部屋でケイコ警部の取り調べは続いていた。
出てきたのは蓋のない透明容器に入った紫と黄色の液体であった。

「ジュースか? 何故どれもフタがない? 怪しすぎる……」

「ひ、ひゃ、速く飲めるかららしいデス!」

正座をさせられたサムの供述に対しての疑いが膨らんでいく。

「これはなんだ、ただの刀じゃないな」

ちゃぶ台に並べられていく彼女の私物。怪しい液体の次にケイコが目を付けたのは真っ直ぐ伸びた刀身に6つの丸い枝、それで1つを成すおかしな剣。

「ち、チチチトウです!」

「ちちち? なんだそれは」

「たぶん……七枝刀……ニュースで盗まれたってやっていた……気がする」

可黒美玲は訝しむような表情で、よくよく思考しそのニュースを思い出しその剣と関連付けた。

「ニホントウ剣展覧会、アレか。アレは私も気になっていた事件だ」

次々とそれぞれに訳あり怪しい物品が出揃っていき。より一層、キッと彼女を睨みつけ覗き込んでいくケイコ警部。

その圧が近づき顔を背けて反る、不味い表情のままフリーズしていき一旦ケイコをかわし可黒美玲へと必死に訴えて助けを求めた。

「ち、ちがいます王子! じゃないぽいんとを貯めていただけです! 盗んでません!」

「何を訳の分からないことを言っている……コイツは」

「…………」

家主は遠目にそれを無言で眺めながらしばらく、内容の知らない漫画本で顔を隠した。
どこからともなく出てきたのは謎の焼きおにぎりや、家具のようなケーキ。そして大事そうに終始手に持ちそっと抱えていた。

「最後だ、その紙ペラは」

「ダメです! これは王と私だけの思い出モノなのです!」

「ほぉ…………よこせっ!」

「イヤデスッ!!」

バッとするどく奪おうとしたその右手を猫のような反射神経と身のこなしで後ろに回避。
ドタドタと走りだし、黒柳家で追いかけっこが始まってしまった。

「そのピンクを捕まえろ美玲!!」

追いかけ合い。ガシャリガシャリ、その経路にあるモノが散らかっていき家主は呆然とそれを眺めた。パリンと割れる音が聞こえても怒鳴れはしない。

「王子ィィどいて下さいィィ!!」

「……」

無言で立ち阻む王子には手を出せない、進路を変えたピンク髪、その一瞬の隙に警察官は襲いかかった。

「わぷっ!? …………ああっ!!!!」

ケイコの猛烈なタックルそのままのしかかりにうつ伏せの彼女。
捕まった、それどころではなくぐしゃっとした紙をあわてて畳に擦り付け涙ぐみながら伸ばしたサム。

「観念してみせっ」





神器を5つ集めろ。合言葉はカミュラ

ミジュクセカイの塔

5202階

5602階

6000階

いずれかで 可黒美玲 サム ケイコ 蒼月霞 宝光 仲間たちを待つ。

by父親 令月かほりはこちらにいる、全員無事だ。この紙を見つけたらなんでもいい目印を残してくれ。

さいごに可黒美玲、エメラルドハルバードは刀よりつよい最強だ。





一枚の紙ペラには、よく分からないゲームみたいな情報。そしてその余白と思われる部分には後で丁寧に加えられたような不自然な筆跡。

その騒ぎと静寂の中心に集まった各々は覗き込み読み上げる。



「……フフふふふふ、可黒零児!!!!」

「エメラルドハルバード……ハハ……さすが父さん……! またゾクゾクした……ハハハハハハハハ」

「え…………王、王!!!! これは通じ合っていたのですね!! ドリー見様すごいです!! また私のダメダメのサダメを救ってくださりました!!!! 王ううううううやはり私を今でもさがし見捨てていなかったのですねええェェ」

「…………」

なんだこれ……。ありえねぇ……。ホンモノのオカルト?

「ンン……さわがしいぞ、黒柳……」

騒ぎに目を覚まし他の部屋から出てきた昼起きのサン、寝ぼけ眼をごしごしと拭いながら大きな欠伸をし。

 

「おい、裏面だピンク。かせっ」

ピンクに覆いかぶさる黒が畳の上のそれを奪いひっくり返した。
ずらずらと書かれた何らかの自分たちに語りかけている情報。笑みを浮かべながら飴色の目を輝かせる大人少女は、隅々まで。




あとケイコ警部には見張りをつけろ。美玲、お前たちの中で1番心配だ。




「…………」

「ハハハハさすが父さんハハハハハハハハハハハハ」

「ぶっ」

「え!? ちょっ王ッふふっ……」



その一枚の紙ペラにこの場の誰もが齧り付いた。ここには居ないはずの人物、可黒零児がサムに送り届けたロングラヴレターは古井戸の希望の光が長々と書き記されていた。



ピンクの上の黒の上、寝ぼけた白が覆いかぶさった。
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