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目の前に立つ黒スーツは振り返らない、その背は敵を見据えている。右手に刀、左手には。
「美玲これを使え! 飲め!」
「本当に……父さん……」
「何も信じれないだろうが目の前の現実を信じるしかない。今は俺に流れのまま従え」
「……はい……」
絶望、終わったサダメのはずが、突如現れた父親の起こした流れに従う可黒美玲がそこにいた。
美玲は、後ろ手のそれを受け取り言われるままにフタのないソレを飲んだ。
電子体が癒され失った体力を取り戻していく。
「…………!」
「少しはラクになったかよしよし、じゃあ危ないからいいって言うまで離れてろ」
「え……」
可黒美玲を狙い飛んできた青い三日月。
だがその美しい狂気を放つ月は目標を斬り裂く前に砕け散った。
繰り出された紅い剣線、いとも簡単にタイミングは合わさった。
「まだ息子を狙うってのか、行くぞ節穴鬼狂!!」
父親は分かっちゃいない敵にチカラを魅せつけるため仕掛けた。黒スーツは砂地を蹴り駆ける、喉元まで一気に詰め寄った。
鍔迫り合う。白蜜と黒い刃。
激しく、幾度も重なり合い、次第に戦いのテンションを上げ燃え上がった。紅く染まった刃の連続が黒い刃を弾き圧し込んでゆく。
「……これが父さん……はは」
火花を散らし咲かせ、生まれた隙。
人間の動きを超えた紅い剣線コンボ、7の刃が黒紫の胴を斬り刻んだ。
「──爆炎斬!! よし想定内だ美玲ヤレるぞ、ハハ」
敵を刻み大声で叫んでみせた父親。見物客の美玲はその背を見つめ口角を吊り上げて喜んでいる。
「どうした? 動きがトロいぞ? 俺をがっかりさせるなよ武芸者」
構える白蜜は鬼狂を挑発するようにその切っ先を刺し向けた。
父親のデタラメコンボをもらったあと素速く後ろへと踊り下がった鬼狂。
相手は、鬼狂。ミジュクセカイの塔5602階の隠しボスでありラヴあスオカルト探偵部ルートのバッドエンドに何故か出て来やがる死神。
というか、大半のプレイヤーは鬼狂の存在をここで先に知る、思い知る。エロいゲーム系統の過去作にも出張って来るんだが今はそんなことより。
黒スーツに狙い放たれた青い三日月。鬼狂は彼の挑発に乗り、敵と認めた。
飛び道具の魔青斬と黒い刀による近接斬撃。技はシンプルながら他とは一味違い厄介であり虚実を混じえゆったりと素速い。
プレイヤー、俺の心を折るために作られた死神だ。俗に言う絶対に勝てない強制イベントボスバトルってところか。
思考を展開しながらも、次々と描かれた青い三日月は爆炎斬で砕かれていく。
飛び道具は牽制、巧みな武芸者の動き。黒い刃が飛び掛かり。
「【爆破斬】【爆牙斬】」
フル相殺システム。剣と剣がぶつかり起こった中規模の爆発。仕掛けたはずがその炎の球に呑まれた黒紫に炎の牙が突き刺さった。
地から生えた炎の牙、突き刺さり浮き上がった彼女の身体。黒いスーツは飛び上がりながら右脚を振り抜き、一本角の兜を客にパフォーマンスでもするかのように蹴り飛ばしてみせた。
「こんな状況でお遊びするのは気が引けるけどな、ハハ。ゲーム的に今あんまり頑張られても困る。美玲、絶望の攻略法って知ってるか? 俺が教えてやるからよぉく見とけ」
臙脂色の学ランを着た観客は髪を掻き乱しながら、から笑い。地獄の舞台で突如始まった見せ物を今は壊れた心で眺めるしかなかった。
さんかく公園で巻き起こったバトル。待ち合わせていた舞台、夜の静寂に新たな足音が響き渡る。公園の明かりに照らされたピンク色が彼を見つけ不安から解放された様子で。
「いたッ王ーー!! 一匹残らず片付けておきましたーー!!」
「来たか!! よし王命だ。この黒紫の敵を弱い今のうちにデバフ斬れサム」
「え!? は、ハイ!?」
新たな王命は下された。彼女が驚いている時間は、覚悟をキメる時間。
目に映る火花を散らし絡み合う黒と黒紫。理解し難い動きで遊ぶ両者。
さんかく公園の砂地を駆け七枝刀を手に持ち、フツウじゃない戦闘に王を信じて身を投じた。
よしだ斬りとさくら斬りの組み合わせコンボにより攻防速の各種デバフは幾重にもかけられた。鬼狂を上回る動きをみせる父親の指示の下、サムの仕事はテキカクに隙を見て技をキメるだけであった。
「よし良くやったサム下がれ、美玲をなんとしても何があっても守れ最優先でたのむ」
「えと、えと、テキカクハイ!! あ、リミットメルトは?」
「必要あれば叫んでやるさ、ハハ!! かまわない行け」
サムは王命により戦闘を中断し確認した臙脂色の学ランの方へと下がっていった。
みれいさん? 学生さん? なんかやつれた、目もヤバイ雰囲気です……。王がなんとしても守れと言うならなんでしょうかカレは? あ、今は余計をせず王命にしたがうまででした!
「ハハハ父さんはどうなって……」
「えと、父さん!? じゃなくて、えと、とにかく王に任せてれば大丈夫かと!! ……父さん? え……?」
「王……ハハハハハハハハハハハハ」
「ひ、なに!? えと……みれいさん……あ、前に出ないで! こっちデス、王にまかせて今は下がりましょー!!」
サムは不気味に思いながらもふらふらと歩き狂い笑う美玲を連れて公園の奥へと下がっていった。
「反則デバフの下ごしらえは完了だ」
「うおっ!?」
赤い三日月。突如放たれたソレに爆炎斬は競り負け。黒スーツをざっくりと斬り裂いた。
「痛てて……ここでもらっちまうとは……それに」
ギロリと光ったエメラルド、合図なのだろうか。父親の目には鬼狂がそのイチゲキでヤル気のスイッチを入れたように見えた。
赤い魔青斬、ゲーム通りだ! とはいかないのは知っている。コッチのこいつらは考え学習していく、あのオカマも、あのガキも、サムも。
鬼狂は動いた。滅茶苦茶に動き踊った、刃を振るい様々な角度をつけたモノを放ちながら。
青い三日月に混じった破壊不可能な赤い三日月。
青は壊し、赤は避ける。山田燕慈のVRゲーム本能はそう告げていた。
弾速の微妙に違う青、更に避けねばならない赤。
黒い刀からマシンガンのように放たれる超高難易度弾幕。
踊る黒スーツは、燃える白い刀を振るい踊らなければならない。
武術発表会ではない、ゲームながらホンモノの斬撃。
真剣勝負を制するのは。
青い月は星屑に赤い月は大地を刻み。
絶好のチャンスに迫った黒い刃は、キラキラと砕かれた青月から発生した巨大な炎球に呑み込まれた。
「俺もな」
ぐぴっとまりょくは補給され。ゲームプレイの息を継いだ。炎球のエフェクトは止み仕掛け返した黒スーツ。
「だが俺はヘタクソだ、お前に100回は挑んでるからなァァァ。結局勝てないなんてッ、先に言っておいてくれよな不親切だろ? ッおおおお」
素速い敵に対して爆炎斬を中心とした攻め立て。サムのデバフをその身に背負った鬼狂を圧倒する。徐々に徐々に削られた体力とともにその能力を上げる鬼狂をも凌ぐ父親の戦闘力。
「元のゲームのときよりこの時点で遥かにィィこの鬼狂は強いわけだがッッ。俺もっ、元のゲームよりッ、遥かに強いだろッ?」
俺は更にこの先があるのを知っている。世の中公式の攻略サイトの隅から隅まで見てるプレイヤーだけじゃない、気の遠くなるような作業で体力を7割削ったところで絶望がやってくる。挑むこと自体が無駄でしたなんて、なんともありきたりで趣味が悪いよな。
8の紅い剣線。またしてもプレイヤーに斬り刻まれた鬼狂は、ついにそのゲージへと達した。
様子がおかしい、それは山田燕慈の既に知っていることだ。
天に掲げた黒い刀の黒は剥がれ宙に散る。錆びた殻が剥けるように現れた美しい刃、月無。
時を越えてゆっくりと振り払われた月無は、炎神の子孫を突き刺し。
散った黒は散りながら形成され矢となった。本気の鬼狂の周辺へと集まり。
静かな号令の下、黒い矢は斉射された。
「容赦無しには容赦無し、こちとら5000階なんだよおおおお」
「身炎浄化乃武」
荒々しい紅に突き刺さった黒は掻き消された。
黒いスーツが更に着込むは荒々しい炎。元のVRゲームラヴが溶けるほどあなたがスキよ。2にはない。
【身炎浄化乃武】
「さて、ゲームを超えた今ならどこまで通用する!! ……たのしみだ!!」
再び生成。黒の斉射、完全にロックオンした矢は迫る炎に突き刺さり。
美しい月無の刃はエメラルドの瞳に映った綺麗な炎を真似るように赤く染まった。
鬼狂と呼ばれても武芸者ならば狂気をノセた剣と剣。
父親と呼ばれても炎神の子孫ならば炎をノセた剣と剣。
「浄化爆王斬!!!!」
深夜のさんかく公園は巨大な荒々しい炎球に呑み込まれた。
▼
▽
浄化のイチゲキ、炎とチカラをノセ疲れ息を荒げる白蜜を外気にさらし。
夜の公園に決着のしろい狼煙があがった。
狂い笑うのにも疲れ躁鬱を行き来していた可黒美玲を公園のベンチに腰掛けさせ。
事の顛末を話させた。
「まじか……悪魔ジバベルに石で……なるほど悪魔球を捨てなかったんだな」
しかし、まさか撃退するとは。コッチの可黒美玲の行動力半端ねぇな……舐めていた。正直主人公がここまでやるとは思わなかった。美玲の性格からして赤蜜を手に入れても何も起こさず暮らしているか、運悪く死んでいるか……それか物語が始まってもいないか、オカルト探偵部でガチガチにやってるとはな。にしても石でどうや──。
「…………」
黙って見上げている。その渋い顔をうかがう可黒美玲。
その主人公の表情にゲーム以上の人間味を感じすこしたじろいだ。
「おっと、とにかく現状は分かった、子春のことだがジバベルを倒さないといけないなおそらく」
「あいつを倒す……?」
あのフツウじゃない悪魔を倒すという、その思いがけない父親の発言に目を見開いた主人公。
「あぁ、だが安心しろジバベルはさっき戦ったヤツより弱い」
隣のベンチに目をやった父親。それに釣られて美玲もそれを見た。が、特に興味は示さず口を開いた。
「…………父さんはどうして、今までどこに? 海外出張じゃ?」
この場での1番の疑問がぶつけられた。可黒美玲にとって今それは避けて通れないものであった。
やっぱそうなるよな……。フツウに考えて馬鹿正直に話すと美玲の精神的にもたないだろう。とりあえず後回しだな。
「……あー、それは話すとすごく長くなる、それに父親じゃなくて……伝えなきゃいけない事もたくさんあるな…………とにかくそれは後だ。まぁ俺も色々裏でお前たちの事を調べていたんだが今はこのカオスな状況をなんとか整理しよう。必ずあとで全てを話す」
「全てを……は、はい……」
▼
▽
美玲と父親ふたりだけの話し合いは続いていた。
主人公、可黒美玲、こいつは実はフツウじゃない。訳の分からないバッドエンドに陥った経緯、それをある程度納得いくまで話してやることがおそらく【バッドエンド】取り返しのつかなくなった可黒美玲にとって重要だ。その上で本人なりの答えを出していく、芯のないヤツに見えて実はそういうヤツだ。
「美玲、見逃されたと言ったな。そいつがリーダーのAと呼ばれる組織がいるんだがそいつらはお前の味方だが敵だ。味方になると俺たちも破滅するからそいつらを倒さないといけない」
「味方で敵……あの人が?」
「そうだ。あの男はマリカスに恨みを持っている、訳が分からないだろうが……ざっくり言えばサカサとそれに対抗して出来たカサ、そして美玲お前たちオカルト探偵部3つの勢力がこの古井戸で密かに争っていた事になるな」
「3つの勢力……マリカス……」
「マリカスは古井戸から遥か遠くに存在する死神だ。さっき襲ってきたアイツよりも強い、今の俺じゃたぶん絶対に敵わない」
「父さんでもかなわない……」
「あぁ、そんなヤツがフツウに居るなんて笑うだろ? 俺はこれでもかなり強いと思うんだがどう思う?」
「……はは、父さんは最強だ」
「ハハ、だよな」
父親が大きく笑うと、息子は小さく笑ってみせた。
「そこでだ。この先はサム、お前を守ったあのピンク髪みたいな仲間を集めて協力していかないといけない。そのためにはできれば美玲、お前のチカラがいる」
「俺が……? それは……無理だよ……俺には何も……」
から笑い、少し見上げ見つめうつむく。黒髪をまたぐしゃっとし、戦いに疲れ果てた物語の主人公がそこにはいた。
「そうか……そりゃいきなり詰め込まれてもだな、よし一旦家に」
「可黒くん!?」
「うお、令月かほり!?」
「え、だれ……可黒くんみんな探してて」
突如、現れた私服姿の令月かほり。その声に振り向いた父親はゲームのヒロインを見つけ思わず驚き声を上げてしまった。
「王!?」
「父さん……!?」
「ん、なんだそんなに」
「透けてってます!! 身体ガ!!」
「ハ!? おわっ!? なんだこれ!?」
またも突如、まさかのヒロインの登場に驚いてる間にもイベントは次々と。サムは父親の身体を驚愕の表情で指差し、カゲのあるオーラを放っていた美玲ですらその状況に驚きを隠せない。
徐々に徐々に公園の光に照らされたその黒が肌が、色味を失って透けていく。
騒然、というよりは大慌て。理解できない事態にプレイヤー山田燕慈は大ピンチの大慌てだ。
「ちょ、ちょっと待て落ち着け……古井戸……俺は怪異じゃねぇぞおい!!」
「王!! ちょ、ちょちょっと!!」
「待て待て待て!! マジで、クッソなんだよこれ!! こうなりゃッ……可黒美玲!! ッ受け取れ!!!!」
「え、父さん!? どこに!!!!」
「美玲、とにかく生きろ!! 生きてればカ──────」
深夜の古井戸町、さんかく公園にて。
ミジュクセカイの塔から夜と死と絶望の炎のチカラで開かれたゲートを経て3人は古井戸にやって来た。
静かに渦巻いていたゲートはゆっくりと閉じ。3人はどこかへと消えていった。
投げ捨てられ、受け取ったエメラルドの光が。消えていった父親を見つめるその青年の手に握られていた。
「美玲これを使え! 飲め!」
「本当に……父さん……」
「何も信じれないだろうが目の前の現実を信じるしかない。今は俺に流れのまま従え」
「……はい……」
絶望、終わったサダメのはずが、突如現れた父親の起こした流れに従う可黒美玲がそこにいた。
美玲は、後ろ手のそれを受け取り言われるままにフタのないソレを飲んだ。
電子体が癒され失った体力を取り戻していく。
「…………!」
「少しはラクになったかよしよし、じゃあ危ないからいいって言うまで離れてろ」
「え……」
可黒美玲を狙い飛んできた青い三日月。
だがその美しい狂気を放つ月は目標を斬り裂く前に砕け散った。
繰り出された紅い剣線、いとも簡単にタイミングは合わさった。
「まだ息子を狙うってのか、行くぞ節穴鬼狂!!」
父親は分かっちゃいない敵にチカラを魅せつけるため仕掛けた。黒スーツは砂地を蹴り駆ける、喉元まで一気に詰め寄った。
鍔迫り合う。白蜜と黒い刃。
激しく、幾度も重なり合い、次第に戦いのテンションを上げ燃え上がった。紅く染まった刃の連続が黒い刃を弾き圧し込んでゆく。
「……これが父さん……はは」
火花を散らし咲かせ、生まれた隙。
人間の動きを超えた紅い剣線コンボ、7の刃が黒紫の胴を斬り刻んだ。
「──爆炎斬!! よし想定内だ美玲ヤレるぞ、ハハ」
敵を刻み大声で叫んでみせた父親。見物客の美玲はその背を見つめ口角を吊り上げて喜んでいる。
「どうした? 動きがトロいぞ? 俺をがっかりさせるなよ武芸者」
構える白蜜は鬼狂を挑発するようにその切っ先を刺し向けた。
父親のデタラメコンボをもらったあと素速く後ろへと踊り下がった鬼狂。
相手は、鬼狂。ミジュクセカイの塔5602階の隠しボスでありラヴあスオカルト探偵部ルートのバッドエンドに何故か出て来やがる死神。
というか、大半のプレイヤーは鬼狂の存在をここで先に知る、思い知る。エロいゲーム系統の過去作にも出張って来るんだが今はそんなことより。
黒スーツに狙い放たれた青い三日月。鬼狂は彼の挑発に乗り、敵と認めた。
飛び道具の魔青斬と黒い刀による近接斬撃。技はシンプルながら他とは一味違い厄介であり虚実を混じえゆったりと素速い。
プレイヤー、俺の心を折るために作られた死神だ。俗に言う絶対に勝てない強制イベントボスバトルってところか。
思考を展開しながらも、次々と描かれた青い三日月は爆炎斬で砕かれていく。
飛び道具は牽制、巧みな武芸者の動き。黒い刃が飛び掛かり。
「【爆破斬】【爆牙斬】」
フル相殺システム。剣と剣がぶつかり起こった中規模の爆発。仕掛けたはずがその炎の球に呑まれた黒紫に炎の牙が突き刺さった。
地から生えた炎の牙、突き刺さり浮き上がった彼女の身体。黒いスーツは飛び上がりながら右脚を振り抜き、一本角の兜を客にパフォーマンスでもするかのように蹴り飛ばしてみせた。
「こんな状況でお遊びするのは気が引けるけどな、ハハ。ゲーム的に今あんまり頑張られても困る。美玲、絶望の攻略法って知ってるか? 俺が教えてやるからよぉく見とけ」
臙脂色の学ランを着た観客は髪を掻き乱しながら、から笑い。地獄の舞台で突如始まった見せ物を今は壊れた心で眺めるしかなかった。
さんかく公園で巻き起こったバトル。待ち合わせていた舞台、夜の静寂に新たな足音が響き渡る。公園の明かりに照らされたピンク色が彼を見つけ不安から解放された様子で。
「いたッ王ーー!! 一匹残らず片付けておきましたーー!!」
「来たか!! よし王命だ。この黒紫の敵を弱い今のうちにデバフ斬れサム」
「え!? は、ハイ!?」
新たな王命は下された。彼女が驚いている時間は、覚悟をキメる時間。
目に映る火花を散らし絡み合う黒と黒紫。理解し難い動きで遊ぶ両者。
さんかく公園の砂地を駆け七枝刀を手に持ち、フツウじゃない戦闘に王を信じて身を投じた。
よしだ斬りとさくら斬りの組み合わせコンボにより攻防速の各種デバフは幾重にもかけられた。鬼狂を上回る動きをみせる父親の指示の下、サムの仕事はテキカクに隙を見て技をキメるだけであった。
「よし良くやったサム下がれ、美玲をなんとしても何があっても守れ最優先でたのむ」
「えと、えと、テキカクハイ!! あ、リミットメルトは?」
「必要あれば叫んでやるさ、ハハ!! かまわない行け」
サムは王命により戦闘を中断し確認した臙脂色の学ランの方へと下がっていった。
みれいさん? 学生さん? なんかやつれた、目もヤバイ雰囲気です……。王がなんとしても守れと言うならなんでしょうかカレは? あ、今は余計をせず王命にしたがうまででした!
「ハハハ父さんはどうなって……」
「えと、父さん!? じゃなくて、えと、とにかく王に任せてれば大丈夫かと!! ……父さん? え……?」
「王……ハハハハハハハハハハハハ」
「ひ、なに!? えと……みれいさん……あ、前に出ないで! こっちデス、王にまかせて今は下がりましょー!!」
サムは不気味に思いながらもふらふらと歩き狂い笑う美玲を連れて公園の奥へと下がっていった。
「反則デバフの下ごしらえは完了だ」
「うおっ!?」
赤い三日月。突如放たれたソレに爆炎斬は競り負け。黒スーツをざっくりと斬り裂いた。
「痛てて……ここでもらっちまうとは……それに」
ギロリと光ったエメラルド、合図なのだろうか。父親の目には鬼狂がそのイチゲキでヤル気のスイッチを入れたように見えた。
赤い魔青斬、ゲーム通りだ! とはいかないのは知っている。コッチのこいつらは考え学習していく、あのオカマも、あのガキも、サムも。
鬼狂は動いた。滅茶苦茶に動き踊った、刃を振るい様々な角度をつけたモノを放ちながら。
青い三日月に混じった破壊不可能な赤い三日月。
青は壊し、赤は避ける。山田燕慈のVRゲーム本能はそう告げていた。
弾速の微妙に違う青、更に避けねばならない赤。
黒い刀からマシンガンのように放たれる超高難易度弾幕。
踊る黒スーツは、燃える白い刀を振るい踊らなければならない。
武術発表会ではない、ゲームながらホンモノの斬撃。
真剣勝負を制するのは。
青い月は星屑に赤い月は大地を刻み。
絶好のチャンスに迫った黒い刃は、キラキラと砕かれた青月から発生した巨大な炎球に呑み込まれた。
「俺もな」
ぐぴっとまりょくは補給され。ゲームプレイの息を継いだ。炎球のエフェクトは止み仕掛け返した黒スーツ。
「だが俺はヘタクソだ、お前に100回は挑んでるからなァァァ。結局勝てないなんてッ、先に言っておいてくれよな不親切だろ? ッおおおお」
素速い敵に対して爆炎斬を中心とした攻め立て。サムのデバフをその身に背負った鬼狂を圧倒する。徐々に徐々に削られた体力とともにその能力を上げる鬼狂をも凌ぐ父親の戦闘力。
「元のゲームのときよりこの時点で遥かにィィこの鬼狂は強いわけだがッッ。俺もっ、元のゲームよりッ、遥かに強いだろッ?」
俺は更にこの先があるのを知っている。世の中公式の攻略サイトの隅から隅まで見てるプレイヤーだけじゃない、気の遠くなるような作業で体力を7割削ったところで絶望がやってくる。挑むこと自体が無駄でしたなんて、なんともありきたりで趣味が悪いよな。
8の紅い剣線。またしてもプレイヤーに斬り刻まれた鬼狂は、ついにそのゲージへと達した。
様子がおかしい、それは山田燕慈の既に知っていることだ。
天に掲げた黒い刀の黒は剥がれ宙に散る。錆びた殻が剥けるように現れた美しい刃、月無。
時を越えてゆっくりと振り払われた月無は、炎神の子孫を突き刺し。
散った黒は散りながら形成され矢となった。本気の鬼狂の周辺へと集まり。
静かな号令の下、黒い矢は斉射された。
「容赦無しには容赦無し、こちとら5000階なんだよおおおお」
「身炎浄化乃武」
荒々しい紅に突き刺さった黒は掻き消された。
黒いスーツが更に着込むは荒々しい炎。元のVRゲームラヴが溶けるほどあなたがスキよ。2にはない。
【身炎浄化乃武】
「さて、ゲームを超えた今ならどこまで通用する!! ……たのしみだ!!」
再び生成。黒の斉射、完全にロックオンした矢は迫る炎に突き刺さり。
美しい月無の刃はエメラルドの瞳に映った綺麗な炎を真似るように赤く染まった。
鬼狂と呼ばれても武芸者ならば狂気をノセた剣と剣。
父親と呼ばれても炎神の子孫ならば炎をノセた剣と剣。
「浄化爆王斬!!!!」
深夜のさんかく公園は巨大な荒々しい炎球に呑み込まれた。
▼
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浄化のイチゲキ、炎とチカラをノセ疲れ息を荒げる白蜜を外気にさらし。
夜の公園に決着のしろい狼煙があがった。
狂い笑うのにも疲れ躁鬱を行き来していた可黒美玲を公園のベンチに腰掛けさせ。
事の顛末を話させた。
「まじか……悪魔ジバベルに石で……なるほど悪魔球を捨てなかったんだな」
しかし、まさか撃退するとは。コッチの可黒美玲の行動力半端ねぇな……舐めていた。正直主人公がここまでやるとは思わなかった。美玲の性格からして赤蜜を手に入れても何も起こさず暮らしているか、運悪く死んでいるか……それか物語が始まってもいないか、オカルト探偵部でガチガチにやってるとはな。にしても石でどうや──。
「…………」
黙って見上げている。その渋い顔をうかがう可黒美玲。
その主人公の表情にゲーム以上の人間味を感じすこしたじろいだ。
「おっと、とにかく現状は分かった、子春のことだがジバベルを倒さないといけないなおそらく」
「あいつを倒す……?」
あのフツウじゃない悪魔を倒すという、その思いがけない父親の発言に目を見開いた主人公。
「あぁ、だが安心しろジバベルはさっき戦ったヤツより弱い」
隣のベンチに目をやった父親。それに釣られて美玲もそれを見た。が、特に興味は示さず口を開いた。
「…………父さんはどうして、今までどこに? 海外出張じゃ?」
この場での1番の疑問がぶつけられた。可黒美玲にとって今それは避けて通れないものであった。
やっぱそうなるよな……。フツウに考えて馬鹿正直に話すと美玲の精神的にもたないだろう。とりあえず後回しだな。
「……あー、それは話すとすごく長くなる、それに父親じゃなくて……伝えなきゃいけない事もたくさんあるな…………とにかくそれは後だ。まぁ俺も色々裏でお前たちの事を調べていたんだが今はこのカオスな状況をなんとか整理しよう。必ずあとで全てを話す」
「全てを……は、はい……」
▼
▽
美玲と父親ふたりだけの話し合いは続いていた。
主人公、可黒美玲、こいつは実はフツウじゃない。訳の分からないバッドエンドに陥った経緯、それをある程度納得いくまで話してやることがおそらく【バッドエンド】取り返しのつかなくなった可黒美玲にとって重要だ。その上で本人なりの答えを出していく、芯のないヤツに見えて実はそういうヤツだ。
「美玲、見逃されたと言ったな。そいつがリーダーのAと呼ばれる組織がいるんだがそいつらはお前の味方だが敵だ。味方になると俺たちも破滅するからそいつらを倒さないといけない」
「味方で敵……あの人が?」
「そうだ。あの男はマリカスに恨みを持っている、訳が分からないだろうが……ざっくり言えばサカサとそれに対抗して出来たカサ、そして美玲お前たちオカルト探偵部3つの勢力がこの古井戸で密かに争っていた事になるな」
「3つの勢力……マリカス……」
「マリカスは古井戸から遥か遠くに存在する死神だ。さっき襲ってきたアイツよりも強い、今の俺じゃたぶん絶対に敵わない」
「父さんでもかなわない……」
「あぁ、そんなヤツがフツウに居るなんて笑うだろ? 俺はこれでもかなり強いと思うんだがどう思う?」
「……はは、父さんは最強だ」
「ハハ、だよな」
父親が大きく笑うと、息子は小さく笑ってみせた。
「そこでだ。この先はサム、お前を守ったあのピンク髪みたいな仲間を集めて協力していかないといけない。そのためにはできれば美玲、お前のチカラがいる」
「俺が……? それは……無理だよ……俺には何も……」
から笑い、少し見上げ見つめうつむく。黒髪をまたぐしゃっとし、戦いに疲れ果てた物語の主人公がそこにはいた。
「そうか……そりゃいきなり詰め込まれてもだな、よし一旦家に」
「可黒くん!?」
「うお、令月かほり!?」
「え、だれ……可黒くんみんな探してて」
突如、現れた私服姿の令月かほり。その声に振り向いた父親はゲームのヒロインを見つけ思わず驚き声を上げてしまった。
「王!?」
「父さん……!?」
「ん、なんだそんなに」
「透けてってます!! 身体ガ!!」
「ハ!? おわっ!? なんだこれ!?」
またも突如、まさかのヒロインの登場に驚いてる間にもイベントは次々と。サムは父親の身体を驚愕の表情で指差し、カゲのあるオーラを放っていた美玲ですらその状況に驚きを隠せない。
徐々に徐々に公園の光に照らされたその黒が肌が、色味を失って透けていく。
騒然、というよりは大慌て。理解できない事態にプレイヤー山田燕慈は大ピンチの大慌てだ。
「ちょ、ちょっと待て落ち着け……古井戸……俺は怪異じゃねぇぞおい!!」
「王!! ちょ、ちょちょっと!!」
「待て待て待て!! マジで、クッソなんだよこれ!! こうなりゃッ……可黒美玲!! ッ受け取れ!!!!」
「え、父さん!? どこに!!!!」
「美玲、とにかく生きろ!! 生きてればカ──────」
深夜の古井戸町、さんかく公園にて。
ミジュクセカイの塔から夜と死と絶望の炎のチカラで開かれたゲートを経て3人は古井戸にやって来た。
静かに渦巻いていたゲートはゆっくりと閉じ。3人はどこかへと消えていった。
投げ捨てられ、受け取ったエメラルドの光が。消えていった父親を見つめるその青年の手に握られていた。
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