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美玲の新たなオカルト石のレーダーでエリアを限定し効率が上がり楽になった反面。ここのところオカルト探偵部は毎夜のパトロールが続いていた。
ここが頑張りどころと踏んだオカルト探偵部はケイコ警部のアドバイスにより重要と思われる3つのエリアに怪異を捕まえるための石の罠を張った。

現役の刑事に一応の【アドバイス】をもらったものの。

それは、可黒美玲がパトロール後の朝7時にはケイコ警部に現状を報告する義務があるからであり。


「あの人ほんと何してんだろ。子供にバケモノと戦わせて自分は毎日寝てるって良心が痛まないのか…………なんて言ったら殺されるだろうな。いや殺されはしないけど自動的に暴力が飛んでくる装置だな」

と、そこそこの音量で愚痴った美玲。深夜の古井戸で毎夜のパトロールは自然と独り言も多くなっていく。
怪異相手とはいえ単独行動は危険。そうケイコ警部に言い付けられていた可黒美玲。だが虎白子春と美玲ともにそれを苦にしない戦闘の経験を積んでいた。

とにかくパトロールの効率を上げたい可黒美玲はソレも報告しケイコ警部から今日こんにちにしてやっと単独行動の許可が下りたのであった。その方が彼女にとって面白いからという単純な理由であった。

「効率が2倍に跳ね上がったのはいいけどなんだあいつ」

深夜の街路、いつからのオカルトか。古井戸にまつわる、住人にとっては常識であり。誰もその時間帯には車を走らせず静か過ぎるいつものその町は。

街灯に照らされた色は暗い緑。
そろり、何かを見つけたのは向こうも同じ。ゆらりと肩を揺らしながら、いきなり。

その怪異が街路を走り彼の元へと迫って来ていた。極上の獲物を見つけたかのような素速い動作で。

「こっちはまだ仕掛けてないんだけどおかしいな、当然敵だよな。そりゃ」

迫る状況に妙に落ち着いていた可黒美玲。
これまでの怪異相手の戦闘経験、それに似たような状況をつい最近彼が経験していたからであった。

「悪いけどもう射程圏内なんだよッ!!」
「後で文句言うなよお前!!」

容赦なしの石のマシンガン投法。
踊るような動作で投げ放たれた、全力石投球は緑にぶつかりつづけ。

よろけながらも走り続け飛び跳ねた。勢いよく並木を蹴り我を忘れた獣のように黒ジャージに飛びかかる緑。

「キヒァァァァァァ!!」

「マジでなんだよ!」

そのままダンシングマシンガン投法のメリットを利用し踊るように方向転換。攻撃落下地点を見極め素速く右に連続ステップ。
アスファルト道路へと逃れ。左右に踊るようバックステップを踏み続けながら石投げを再開。ザリザリとアスファルトに擦れ靴底を減らす深い青のスニーカーは1代目で何故か履き潰さずにモっていた。

ショーウィンドウは外した石の直撃で割れ散り。
可黒美玲は迫り来る緑の人型から本能で距離を取り戦いを優位に進める。

「ナァァァァしまったああああ!!!! てめぇ、俺を退学にする気か!  28枚目だぞおい馬鹿ァァ!!」

出来るだけ町の備品は破壊しないように日々心掛けていた可黒美玲。石のコントロールには自信がある本人であったが素早い怪異相手にはロックオンする感覚で投げても少なくない石を外してしまっていたのだ。


「人間は食う食うゥゥゥ!」

「はああ!? 知的生物はマジでシャレにならねぇって!」

「ココはゲンセゲンセシャレじゃねぇシャぶれーーーー!!」


緑の人型、人語を理解し喋る怪異。ギロり光る黄色い眼と鋭い爪の武装。開けた道路でもお構いなしで餓えた怪異は獲物をジグザグに踊りながら追いかけ続ける。

石のマシンガンを止めた可黒美玲は両手を握りしめじっと緑の怪異をその黒目に捉えて待つ。

「わかった俺のオカルトを避けてくれるなら……接近戦で相手してやる!! 来い、きたきたきたきた……」

右にふたつ、左にフタツ。

怪異バトルで繰り返された動作は血となり技となり電子のセカイで失敗はしない。

彼の両腕のクロスは防御体形ではない。

「こんにちキヒァァァァァァ」



「サンッ!! ダンッ!!」








「ったく石もサン弾も無限じゃねぇんだぞ」
「それにしゃべる怪異だけはダメだって言ったろ俺、気色の悪い……」

アスファルトに横たわり光の粒へと還っていった緑の怪異。
結果的に炸裂した可黒美玲のサン弾の連射24の石は緑の怪異に通用した。
美玲は素速く避ける相手の能力を見極めこれ以上の町への損害そして石の無駄になるマシンガン投法をやめたのであった。

「避けるってことはあの子より脆いってことだろ。オカルト探偵部可黒美玲を舐めるなよ緑怪異!!」

黒ジャージは、ビッ、と柄にもない中指を既に居なくなった敵に対して立てた。誰もいない深夜のテンション戦闘のテンションを彼なりに現実に表して見せたのだった。

「ハァって、はぁ……これ人殺しにはならないよな。いやこんなヘンなの倒してなるわけがない」

「んなことよりケイコさんに連絡! じゃなくて子春!」

初めて遭遇した喋る怪異を倒したことをケイコ警部に報告。そうではなく美玲は別行動中の子春の安否を心配しポッケのケータイを手に取った。

その時。

「ナンダ!?!?」

ビリリと来た! これはサヤカアヤカ……Aだ! オルゴナイトレーダーに何かかかっている間違い……ない。

「マジでこのタイミングかよ!」

素速く右耳にケータイをあて。

デタ!

「子春無事か!? AだA! 何か俺のオカルトに出やがった!」

『えぇ!? ブジに分かったよミレー』

「あ、待て初めてのパターンだ一旦合流して一緒にいくぞ! 変な知的生物も出て古井戸まじやべぇからな。そだおまッ」

『知的生物? なんかゲンセゲンセェェって奇声上げてた青い人?』

「アオ? じゃなくてミドリだ! ってお前無事か!?」

『うん返り討ち! なんかク』

「……積もりまくった話はアトアトだ! よしじゃあパイナップル自販機前で待ち合わせて急ぐぞ!」

『オッケーハイミレー!!』



「って、ん? なんだこれ?」








そこらにある売られている味の違う自動販売機は古井戸、オカルト探偵部の目印代わりになっていた。
唯一パイナップルパイナップル天然水の売られている自動販売機の前で美玲と子春は合流し、エリアAへと向かったオカルト探偵部。

深夜の古井戸は静かだ。知的敵対怪異の存在が確認されている今、2人は念のため足音を忍ばせながら。

「っておいどうした子春! おい待て!」

急に駆け出した。

青いオーラを纏い疾走する子春。

降ってきた何か。

青いオーラで地を蹴り弾け、人の枠を超えた跳躍。

白いジャージは勢いよく降ってきた小太りな男を宙でキャッチしそのままド派手に着地した。


「ッ痛ったーーーー!!!!」

びりびりと、腕と脚に再び纏ったオーラでただ事ではない電光石火の人命救助は成功した。

「おいっ子春ーーーー!? ってナンダおっさんが降ってきた!!?」

「たたた……そんな事よりミレー!!」

少し痺れダメージを負った全身で気絶した様子の小太りのおっさんを地に下ろし、子春が指差した方向。

「そんな事っておま! そうか!!!!」

マンションの付近、ネズミ色のフードは子春の方を驚いた様子でじっと見ていた。そして。

「あ、逃げた! ミレー!!」

「わかってるって!」

背を向けた、が可黒美玲の射程圏内。
素速いモーションで脳内でロックオンされた敵に投げ放たれる。
ネズミ色のパーカーに怒涛の石のマシンガンは炸裂した。

「よしっ、って!! しまったァァァやりすぎたァァ!!」

怪異相手と思い容赦なしの石投げを放ってしまった可黒美玲。相手はネズミ色のパーカーにジーンズの人型。遠目からでも先程倒したバケモノとは違うことが分かっていた。


「痛ぇなこのガキ……」

「まさか石投げて来るとは、どんな教育してんだよ最近の親は……」

石のマシンガンは直撃した。

逃げていた背を掻き。

ネズミ色はそろりと飛び道具を受けた方に向き直り、可黒美玲を顔をしかめ睨み付けていた。


「イテェで済むのか……てか怪異の正体はチンピラかよ!」

「俺様をチンピラ呼ばわりか」

パーカーのフードを脱ぎ、どこにでも居そうな汚い金髪のセンター分けに鋭い眼。20代~30代の中背。汚い口調も合わせて美玲にとってそれはチンピラと表現するのが適切だった。

「ったく、バッチリ見やがって。せっかく殺さずに殺せてカネも肉も貰える誰にも迷惑かけない美味い話だったのによ……」

赤く発光していた棒状の何かはマンション付近の茂みに投げ捨てられ。

「魚と子供は嫌いなんだよクソが」

男はパーカーの背の中に手を入れ、どこからかその刃渡りの長い……。

「お前ら全員魚屋うおや行きだ、覚悟しやがれ訳の分からねえうるさいガキ」

静かに凄む男。改造されたなたを手に持ちだらりと腕を下げ構えている。
こんな夜に人に刃物を向けられている、ドキリ美玲の心臓に味わったことのない緊張感が伝い高鳴る。

「魚屋!? なんなんだ今日の古井戸っテぇ! 訳分からねぇよ!」

「ちょっとかっこいい!」

「違う! 来るぞ子春!」
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