45 / 75
43
しおりを挟む
白い刀は鋭い6の爪とぶつかり巧みなステップでその緑肌の身体が浮き上がるほどの猛突進の勢いを利用し流れるようにいなした。
「その硬さプレミアァァァ」
「突っ込んで来て第一声がそれかよ」
勢いをそのままにいなされた悪魔プカは炎の壁のギリギリで踏みとどまり反転しターゲットの黒スーツに向き直った。
「おしゃべりくんに一つ確認しておきたいんだけどいいか、お前は倒してもいい悪魔だよな?」
「ひゃははは倒してもいい悪魔!? なんだそのルールはァァ舐めラレテルあひゃひゃひゃ」
「そうそうルールだ、なんかゲームオーバーになったりしない?」
「するぜええええあひゃひゃ」
「そりゃ困ったな……」
「こまれコマレひゃはは」
「戦闘好きなのか?」
「好きでええええええす、心からひゃはは」
「いつまで人間と話しているのですプカ」
「あひゃひゃノセられていたぜええ! カエデたすかったぜええ」
「しゃべった分はバラバラのバラン」
お喋りに夢中になっていた緑肌は再び突進の勢いで脱げかけた羽帽子を深く被り直した。
「ナラ、悪魔ジバベルより弱い?」
「ン」
「ナ」
「ンナァァァァァァジバベルは死ねええええ」
さっきまでのお調子者のプカではない、多少の冷静さを失った狂犬が吠えるように叫んだ。
クロスさせた12の爪が抉るように宙を切り裂き赤い弧のオーラが黒スーツに向かい飛んで行った。そしてすぐさまプカは初撃と同じような動作で6の爪を伸ばし赤い弧を追いかけるように猛突進。
「オーケー!」
12の爪の粗いエックス字オーラが防御態勢をとった黒スーツにぶつかりその電子体を引き裂く。
「オーケけけけええええ」
プカは長い紫色の舌を左に垂らし自慢の技に直撃した敵を嘲笑うようにそのままの勢いで追撃を行った。
「爆炎斬」
美しい刀白蜜は宙を紅く彩る。
爆炎斬の連撃。
踊る、躍動する黒スーツ。いつもより多い、いや多すぎる爆炎斬が滑るようにその剣筋を疾らせていく。
18の紅い線が腕を伸ばした格好の緑肌を焼き切り、その勢いのまま両者はすれ違った。
「よしゃー新記録!! さぁヤろうぜおしゃべりくん! …………ってアレ?」
光の粒となり還っていく。振り返った視線の先にもうお調子者でお喋りなヤツは居なかった。
ふわり舞い上がった緑の羽帽子、プレイヤーはそれをキャッチした。
「思ったより弱いな、4000階だぞ?」
そう一通りの感想を喋り終えると少し失ったであろう体力をパイナップルパイナップル天然水を飲み回復したプレイヤー。次に起こる事態に対してしっかりと備える。
冷静沈着というよりは病持ちの彼にとってはいつもプレイしていたVRゲームの延長線上なんだろう。
赤肌の巨人がニヤリ、口角を上げる。その大きな口から覗く鋭い歯を一瞬見せた。その大きな右の拳は自然とチカラが入り握られている。
「ばバカナァァ!? プカが……!? 炎だと!? あり得ない!? 奴等の炎など!!!! 炎神などおおおお」
冷静さが売りの青肌の悪魔カエデはその予期せぬ事態に驚き低い声を張り上げるように叫んだ。
悪魔プカはプレイヤー山田燕慈にあっさりと斬り刻まれ殺された。
第1ラウンドはプレイヤーの勝利という形で終わり、電子世界でのゲームオーバーは免れた。
パーティーメンバーが父親の勝利に飛び跳ね喜んでいる。
圧倒的な力を見せつけ押せ押せムードは強まり、プレイヤー山田燕慈の声色にも余裕が見られる。
「隠しイベント第2ラウンドはあんたか」
「バカな!? 炎神だとおおおお」
そして逆に冷静さを失いつつある青肌の和装悪魔カエデ。悪魔プカと楽しげにしていた己の口調すら忘れているようだ。
「だからあんたら揃いも揃って違うって、炎神はもっと強いから」
「…………」
赤肌の巨人は押し黙っている。その目は黒スーツを睨み見つめ……やはりこの異界の支配者物言わずとも状況を握っている。
「炎使い……だと……!」
……炎ならその結託してそうな神様らしきやつも普通に使っているのにな。そんなに驚くか……? しかし炎神に関してコイツは何か知ってそうだな。
おもしれぇじゃねぇか!
「そうそうただの炎使い、で強さ的に紅白袴のあんたが次で。第2ラウンドなんだろ?」
「たぶん緑のおしゃべりくんとセットのあんたは倒してもゲームオーバーにはならないっぽいから……どうする?」
「……面妖な戯言を、私を愚弄しているのですか」
「ジバベルより強いなら逃げてやってもいいが」
「ジバベル如きで語ってくれるナ!!」
「ハハ、すまない」
そいつしか知らないからな、ハハ。
どうやらそっちでも有名人のようだな。
「ところで……ゲーム的にはあんたら悪魔を殺し過ぎるとなんかヤバイみたいなんだが何か知っていたりしない?」
「さっきからズケズケと何を言っている貴様は!」
悪魔ジバベル、ラヴあスに登場するネームド悪魔はそいつだけでそいつはまぁ強いし色々ヤバいんだが他の悪魔に関しては深く語られてはいなかった。ストーリー的には暗躍する悪魔を倒しすぎると何故かいきなりゲームオーバー画面になるんだが……。
「さぁナ俺も分からんね! とにかくさぁ……逃げるなよ、決闘を申し込む」
クールな渋い声は凄み、びくりと後ずさる悪魔カエデを完全に呑み込んでいる。
美しい刀白蜜、その切っ先が青肌に向けられた。
「悪魔さんに決闘を申し込むなんてフツウじゃないですよ王……!」
「逃がして悪魔仲間を呼ばれても面倒だからな、てか超厄介」
ラヴあスのストーリーでのバトルでは敵が途中で逃げるパターンってのは割とよくある、主人公の火力が足らないだとか一定のエリア外に出られてそのままドロン。それがルート分岐になっていたり。
「ぐっ……」
「我の眼前での決闘を認めよう」
「アグニィィィィ偽神ごときに火を焚べたのは誰だと思っているのです! 今こそ同盟として」
「気が変わった。貴様ら地上人、鬼の決闘をもってその命の火を焚べ我に捧げよ」
「ンナッ!?」
鬼……? 悪魔のことだよな。てか同盟、そんで仲間割れ? 悪魔の同盟は……分からなくもないが訳がわかんねぇな。
「……さすが炎の神様理想的にアツイぜ! そう来ないとな!」
とにかく炎神やらこの神様の事より。
「悪魔退治だ、燃やしても構わないか!」
向き合った両者、もはや父親と戦いを見守る炎の神様によりつくられた状況は悪魔カエデを逃がさない。
同盟を組んでいたはずが一転して窮地、悪魔プカを一瞬にして滅し燃やした黒スーツと炎を司る神と語る者。悪魔カエデはこれ以上の状況の悪化を恐れ押し黙るのが賢明だと判断したのか、それとも腹を括ったのか。
びゅびゅんと素振りをしヤル気は満々。相棒の白蜜は彼の右手に握られている。
黒い烏帽子、白の水干の上、赤の袴の下。和装の悪魔カエデは何やらゆったりとした白い袖から素早くナニかを取り出した。
「燃えるのは貴様だ炎使い!!」
そしてそれらのお札は使用された。
五芒星の連打。お札を宙に叩きつけるように次々と。
五芒星の魔法陣により生まれた魔法。
雷が焦げ色の地に堕ちる。
予想内の飛び道具による敵のイニシアチブ、予想外、天から地に突き刺さる雷の連射をプレイヤーは絶えず動きステップを踏み勘で避け続けるが。
「フフンンーーッ!! 600年の雷を受けろ時代遅れの一族ガァァァ」
惜しみなく消費される悪魔カエデが自ら生み出したアイテム【セーマン】、簡易魔法陣をそのまま即構築、魔法を発動。
やがて地に刺す雷が重なり合い、豪雷の柱となり黒スーツを捉え焼き払い呑み込んでいった。
「これが600年でフリーターの1秒か」
勝ち誇った青肌の視界に見えるは巨大な炎球、紅い炎その圧倒的なチカラの塊は焦げ色の大地に咲き誇り600年の雷を容易く消し飛ばした。
「忌々しきぃ……炎の一族メえええ」
巨大な炎球は消え父親はその圧倒的な威力を悪魔カエデに見せつけた。
ジリジリそろりそろりと黒い下駄を履いた悪魔カエデは父親を警戒しながら距離を取り左に流れていく。
「炎使いめ……イカれた奴等ガ何故今更に現れた!! 貴様ら一族が何故生きているのです!!」
「…………一族? 何言ってんだ妄想癖でももってんのか?」
やっぱり600年がどうたらだけあって物知りな設定だなこいつ。情報を引き出せるだけ──。
「無知め無知めェェェッ! 忌々しき炎の一族は無様に殺されイカれた鬼狂いもどこかへ消え失せた! 深海は閉じ籠り憂いは無くなり愚か者供は知りもしないッ停滞した歴史は今まさに変革の時を迎えているのですよ! ナノニィィィィ今更になって貴様という炎使い等はァァァ!!」
一族とおにぐるい……シンカイは閉じ籠り、変革なんつった?
「こりゃ詩的な説明をどうもッ!! でもお前おかしいぞっと!」
「炎ならおとなりの神様が盛大に使ってるだろうが、忌々しいんじゃなかったのか?」
「やはり無知!! もう消えてくれていい!! 貴様ら炎使いの一族はどいつも馬鹿で頭のオカシイ奴等ばかりだ!」
「NPCしかも敵にバカ認定されるとは!! 一族? ご先祖様ぁどんだけヒドイんだ驚いたぜ、ハハ」
お互いの思惑が重なり繰り広げられた敵とプレイヤーとのやり取り、そして隙を突くかのような一瞬の間に、青い手は何やら地に落ちていたモノを素早く手に取った。
そしてピンポン球程のサイズのソレを見つめ、ニヤリ。青肌は勝ち誇った恐ろしい鬼の形相に変わった。
「無知はこれも知らないだろう【悪魔球】だ! これを決闘前に取っておかなかったのは馬鹿な貴様のミスだ」
悪魔カエデはそのアイテムを手にし上機嫌になり一通りを言い終えると、あーん、と悪魔プカの置き土産である悪魔球を飲み込んでしまった。
「なんだってんだ!?」
「そんなの食べて大丈夫かよ」
「悪魔を舐めるなよ! 屋根裏は環境が違うのですよ! 地上という華々しい馬鹿馬鹿しい楽園とは!」
「ハハ悪魔社会も厳しいんだな!」
「ふふんふ、悪魔システムは脆弱な人の身より優れているのですよ、忌々しき炎に恵まれただけの貴様には分からないだろうこの一瞬でのパワーアップという段階的悪魔的快感が!!」
「悪魔的にそんなに自信があるならさっさと来いよっ」
刀は相手を挑発するようにビュンと素振りされ切っ先はまたも青肌に向けられた。
「相変わらず貴様達一族は忌々しい腹立たしい面をッ……では遠慮なく実験させてもらいまショウカッ!!」
「どいつもこいつも隠しキャラは実験が好きだな」
戦闘態勢に入った悪魔カエデの全身にイヤな雰囲気の赤いオーラが纏わりついた。
そして繰り出されたのは、12の爪の赤い弧のオーラだった。第1ラウンドで見せた悪魔プカの技と酷似した技だ。
更に連射6の爪の斬撃オーラの乱れ打ち。
標的は忌々しき血を引く黒スーツ、乱れ飛ぶ飛び道具が焦げ色のステージを斬り裂いていく。
しぶとく上手く回避行動をこなす敵に対し秘蔵の【セーマン】による着弾の速い雷魔法もおり混ぜ使い悪魔カエデの怒涛の攻勢、勢いは止まらない。
青肌の和装悪魔は飛び跳ね、舞い踊るように振る舞った飛び道具のフルコース。
「悪魔プカなど私の駒のひとつに過ぎません悪魔球となり駒は永久に使う事が出来るということです!! 炎使いなど所詮天からの頂き物、時代遅れはァァァふふんふゥゥゥ進化した悪魔システムで葬れるのだよッッ忌々しい馬鹿馬鹿しい一族ガ!!」
そのコンビネーション射撃にやられ電子体にダメージを負っていくプレイヤー。
悪魔球を食し取り込んだ悪魔カエデは確かに大きくパワーアップしているようだ。
「なるほどな」
クール渋い声が微かに聞こえる。何かを確かめたような、そんな。
黒スーツの動きが変わった。
美しいニホントウ白蜜は踊った、ゲーム本能で覚えてしまったヤツの中々の踊りに合わせて。
紅い剣線が宙を斬り刻み走る。
爆炎斬は、飛び迫る飛び道具を弾き消し飛ばし。
そして急接近、優雅に宙を舞いながら一転慌てふためく器用な敵に飛びかかった。
「速い!? ぬうおおおお」
「【爆炎斬】【爆炎斬】【爆炎斬】【爆破斬】【爆破斬】【爆王斬】!!」
「ぐぴるッ!!!!」
更にぐぴキャンを行使、爆王斬の隙を消しすぐさま爆炎斬の連打。
咲き乱れる荒ぶる紅い炎のフルコース。
スタイリッシュ過ぎる父親のゲームシステムを超えた実験コンボが決まった。
「悪魔球? まぁ知っていたけどな」
それはプレイヤー山田燕慈の作戦のひとつであった、悪魔球という切り札をあえて敵の足元に置き父親という強大な敵に挑ませるための。
それと悪魔カエデと圧倒的な力の差を感じていた父親は可能な限りの攻略情報を引き出すためゲーム的に己の命度外視で少し、遊んでいたようだ。
最後の捨て台詞はない。ヤツ、悪魔カエデは多くを語らされ白く美しい刀に斬り刻まれ燃やされコツンと地に落ちた悪魔球だけを残し、プレイヤー山田燕慈に殺されてしまった。
「その硬さプレミアァァァ」
「突っ込んで来て第一声がそれかよ」
勢いをそのままにいなされた悪魔プカは炎の壁のギリギリで踏みとどまり反転しターゲットの黒スーツに向き直った。
「おしゃべりくんに一つ確認しておきたいんだけどいいか、お前は倒してもいい悪魔だよな?」
「ひゃははは倒してもいい悪魔!? なんだそのルールはァァ舐めラレテルあひゃひゃひゃ」
「そうそうルールだ、なんかゲームオーバーになったりしない?」
「するぜええええあひゃひゃ」
「そりゃ困ったな……」
「こまれコマレひゃはは」
「戦闘好きなのか?」
「好きでええええええす、心からひゃはは」
「いつまで人間と話しているのですプカ」
「あひゃひゃノセられていたぜええ! カエデたすかったぜええ」
「しゃべった分はバラバラのバラン」
お喋りに夢中になっていた緑肌は再び突進の勢いで脱げかけた羽帽子を深く被り直した。
「ナラ、悪魔ジバベルより弱い?」
「ン」
「ナ」
「ンナァァァァァァジバベルは死ねええええ」
さっきまでのお調子者のプカではない、多少の冷静さを失った狂犬が吠えるように叫んだ。
クロスさせた12の爪が抉るように宙を切り裂き赤い弧のオーラが黒スーツに向かい飛んで行った。そしてすぐさまプカは初撃と同じような動作で6の爪を伸ばし赤い弧を追いかけるように猛突進。
「オーケー!」
12の爪の粗いエックス字オーラが防御態勢をとった黒スーツにぶつかりその電子体を引き裂く。
「オーケけけけええええ」
プカは長い紫色の舌を左に垂らし自慢の技に直撃した敵を嘲笑うようにそのままの勢いで追撃を行った。
「爆炎斬」
美しい刀白蜜は宙を紅く彩る。
爆炎斬の連撃。
踊る、躍動する黒スーツ。いつもより多い、いや多すぎる爆炎斬が滑るようにその剣筋を疾らせていく。
18の紅い線が腕を伸ばした格好の緑肌を焼き切り、その勢いのまま両者はすれ違った。
「よしゃー新記録!! さぁヤろうぜおしゃべりくん! …………ってアレ?」
光の粒となり還っていく。振り返った視線の先にもうお調子者でお喋りなヤツは居なかった。
ふわり舞い上がった緑の羽帽子、プレイヤーはそれをキャッチした。
「思ったより弱いな、4000階だぞ?」
そう一通りの感想を喋り終えると少し失ったであろう体力をパイナップルパイナップル天然水を飲み回復したプレイヤー。次に起こる事態に対してしっかりと備える。
冷静沈着というよりは病持ちの彼にとってはいつもプレイしていたVRゲームの延長線上なんだろう。
赤肌の巨人がニヤリ、口角を上げる。その大きな口から覗く鋭い歯を一瞬見せた。その大きな右の拳は自然とチカラが入り握られている。
「ばバカナァァ!? プカが……!? 炎だと!? あり得ない!? 奴等の炎など!!!! 炎神などおおおお」
冷静さが売りの青肌の悪魔カエデはその予期せぬ事態に驚き低い声を張り上げるように叫んだ。
悪魔プカはプレイヤー山田燕慈にあっさりと斬り刻まれ殺された。
第1ラウンドはプレイヤーの勝利という形で終わり、電子世界でのゲームオーバーは免れた。
パーティーメンバーが父親の勝利に飛び跳ね喜んでいる。
圧倒的な力を見せつけ押せ押せムードは強まり、プレイヤー山田燕慈の声色にも余裕が見られる。
「隠しイベント第2ラウンドはあんたか」
「バカな!? 炎神だとおおおお」
そして逆に冷静さを失いつつある青肌の和装悪魔カエデ。悪魔プカと楽しげにしていた己の口調すら忘れているようだ。
「だからあんたら揃いも揃って違うって、炎神はもっと強いから」
「…………」
赤肌の巨人は押し黙っている。その目は黒スーツを睨み見つめ……やはりこの異界の支配者物言わずとも状況を握っている。
「炎使い……だと……!」
……炎ならその結託してそうな神様らしきやつも普通に使っているのにな。そんなに驚くか……? しかし炎神に関してコイツは何か知ってそうだな。
おもしれぇじゃねぇか!
「そうそうただの炎使い、で強さ的に紅白袴のあんたが次で。第2ラウンドなんだろ?」
「たぶん緑のおしゃべりくんとセットのあんたは倒してもゲームオーバーにはならないっぽいから……どうする?」
「……面妖な戯言を、私を愚弄しているのですか」
「ジバベルより強いなら逃げてやってもいいが」
「ジバベル如きで語ってくれるナ!!」
「ハハ、すまない」
そいつしか知らないからな、ハハ。
どうやらそっちでも有名人のようだな。
「ところで……ゲーム的にはあんたら悪魔を殺し過ぎるとなんかヤバイみたいなんだが何か知っていたりしない?」
「さっきからズケズケと何を言っている貴様は!」
悪魔ジバベル、ラヴあスに登場するネームド悪魔はそいつだけでそいつはまぁ強いし色々ヤバいんだが他の悪魔に関しては深く語られてはいなかった。ストーリー的には暗躍する悪魔を倒しすぎると何故かいきなりゲームオーバー画面になるんだが……。
「さぁナ俺も分からんね! とにかくさぁ……逃げるなよ、決闘を申し込む」
クールな渋い声は凄み、びくりと後ずさる悪魔カエデを完全に呑み込んでいる。
美しい刀白蜜、その切っ先が青肌に向けられた。
「悪魔さんに決闘を申し込むなんてフツウじゃないですよ王……!」
「逃がして悪魔仲間を呼ばれても面倒だからな、てか超厄介」
ラヴあスのストーリーでのバトルでは敵が途中で逃げるパターンってのは割とよくある、主人公の火力が足らないだとか一定のエリア外に出られてそのままドロン。それがルート分岐になっていたり。
「ぐっ……」
「我の眼前での決闘を認めよう」
「アグニィィィィ偽神ごときに火を焚べたのは誰だと思っているのです! 今こそ同盟として」
「気が変わった。貴様ら地上人、鬼の決闘をもってその命の火を焚べ我に捧げよ」
「ンナッ!?」
鬼……? 悪魔のことだよな。てか同盟、そんで仲間割れ? 悪魔の同盟は……分からなくもないが訳がわかんねぇな。
「……さすが炎の神様理想的にアツイぜ! そう来ないとな!」
とにかく炎神やらこの神様の事より。
「悪魔退治だ、燃やしても構わないか!」
向き合った両者、もはや父親と戦いを見守る炎の神様によりつくられた状況は悪魔カエデを逃がさない。
同盟を組んでいたはずが一転して窮地、悪魔プカを一瞬にして滅し燃やした黒スーツと炎を司る神と語る者。悪魔カエデはこれ以上の状況の悪化を恐れ押し黙るのが賢明だと判断したのか、それとも腹を括ったのか。
びゅびゅんと素振りをしヤル気は満々。相棒の白蜜は彼の右手に握られている。
黒い烏帽子、白の水干の上、赤の袴の下。和装の悪魔カエデは何やらゆったりとした白い袖から素早くナニかを取り出した。
「燃えるのは貴様だ炎使い!!」
そしてそれらのお札は使用された。
五芒星の連打。お札を宙に叩きつけるように次々と。
五芒星の魔法陣により生まれた魔法。
雷が焦げ色の地に堕ちる。
予想内の飛び道具による敵のイニシアチブ、予想外、天から地に突き刺さる雷の連射をプレイヤーは絶えず動きステップを踏み勘で避け続けるが。
「フフンンーーッ!! 600年の雷を受けろ時代遅れの一族ガァァァ」
惜しみなく消費される悪魔カエデが自ら生み出したアイテム【セーマン】、簡易魔法陣をそのまま即構築、魔法を発動。
やがて地に刺す雷が重なり合い、豪雷の柱となり黒スーツを捉え焼き払い呑み込んでいった。
「これが600年でフリーターの1秒か」
勝ち誇った青肌の視界に見えるは巨大な炎球、紅い炎その圧倒的なチカラの塊は焦げ色の大地に咲き誇り600年の雷を容易く消し飛ばした。
「忌々しきぃ……炎の一族メえええ」
巨大な炎球は消え父親はその圧倒的な威力を悪魔カエデに見せつけた。
ジリジリそろりそろりと黒い下駄を履いた悪魔カエデは父親を警戒しながら距離を取り左に流れていく。
「炎使いめ……イカれた奴等ガ何故今更に現れた!! 貴様ら一族が何故生きているのです!!」
「…………一族? 何言ってんだ妄想癖でももってんのか?」
やっぱり600年がどうたらだけあって物知りな設定だなこいつ。情報を引き出せるだけ──。
「無知め無知めェェェッ! 忌々しき炎の一族は無様に殺されイカれた鬼狂いもどこかへ消え失せた! 深海は閉じ籠り憂いは無くなり愚か者供は知りもしないッ停滞した歴史は今まさに変革の時を迎えているのですよ! ナノニィィィィ今更になって貴様という炎使い等はァァァ!!」
一族とおにぐるい……シンカイは閉じ籠り、変革なんつった?
「こりゃ詩的な説明をどうもッ!! でもお前おかしいぞっと!」
「炎ならおとなりの神様が盛大に使ってるだろうが、忌々しいんじゃなかったのか?」
「やはり無知!! もう消えてくれていい!! 貴様ら炎使いの一族はどいつも馬鹿で頭のオカシイ奴等ばかりだ!」
「NPCしかも敵にバカ認定されるとは!! 一族? ご先祖様ぁどんだけヒドイんだ驚いたぜ、ハハ」
お互いの思惑が重なり繰り広げられた敵とプレイヤーとのやり取り、そして隙を突くかのような一瞬の間に、青い手は何やら地に落ちていたモノを素早く手に取った。
そしてピンポン球程のサイズのソレを見つめ、ニヤリ。青肌は勝ち誇った恐ろしい鬼の形相に変わった。
「無知はこれも知らないだろう【悪魔球】だ! これを決闘前に取っておかなかったのは馬鹿な貴様のミスだ」
悪魔カエデはそのアイテムを手にし上機嫌になり一通りを言い終えると、あーん、と悪魔プカの置き土産である悪魔球を飲み込んでしまった。
「なんだってんだ!?」
「そんなの食べて大丈夫かよ」
「悪魔を舐めるなよ! 屋根裏は環境が違うのですよ! 地上という華々しい馬鹿馬鹿しい楽園とは!」
「ハハ悪魔社会も厳しいんだな!」
「ふふんふ、悪魔システムは脆弱な人の身より優れているのですよ、忌々しき炎に恵まれただけの貴様には分からないだろうこの一瞬でのパワーアップという段階的悪魔的快感が!!」
「悪魔的にそんなに自信があるならさっさと来いよっ」
刀は相手を挑発するようにビュンと素振りされ切っ先はまたも青肌に向けられた。
「相変わらず貴様達一族は忌々しい腹立たしい面をッ……では遠慮なく実験させてもらいまショウカッ!!」
「どいつもこいつも隠しキャラは実験が好きだな」
戦闘態勢に入った悪魔カエデの全身にイヤな雰囲気の赤いオーラが纏わりついた。
そして繰り出されたのは、12の爪の赤い弧のオーラだった。第1ラウンドで見せた悪魔プカの技と酷似した技だ。
更に連射6の爪の斬撃オーラの乱れ打ち。
標的は忌々しき血を引く黒スーツ、乱れ飛ぶ飛び道具が焦げ色のステージを斬り裂いていく。
しぶとく上手く回避行動をこなす敵に対し秘蔵の【セーマン】による着弾の速い雷魔法もおり混ぜ使い悪魔カエデの怒涛の攻勢、勢いは止まらない。
青肌の和装悪魔は飛び跳ね、舞い踊るように振る舞った飛び道具のフルコース。
「悪魔プカなど私の駒のひとつに過ぎません悪魔球となり駒は永久に使う事が出来るということです!! 炎使いなど所詮天からの頂き物、時代遅れはァァァふふんふゥゥゥ進化した悪魔システムで葬れるのだよッッ忌々しい馬鹿馬鹿しい一族ガ!!」
そのコンビネーション射撃にやられ電子体にダメージを負っていくプレイヤー。
悪魔球を食し取り込んだ悪魔カエデは確かに大きくパワーアップしているようだ。
「なるほどな」
クール渋い声が微かに聞こえる。何かを確かめたような、そんな。
黒スーツの動きが変わった。
美しいニホントウ白蜜は踊った、ゲーム本能で覚えてしまったヤツの中々の踊りに合わせて。
紅い剣線が宙を斬り刻み走る。
爆炎斬は、飛び迫る飛び道具を弾き消し飛ばし。
そして急接近、優雅に宙を舞いながら一転慌てふためく器用な敵に飛びかかった。
「速い!? ぬうおおおお」
「【爆炎斬】【爆炎斬】【爆炎斬】【爆破斬】【爆破斬】【爆王斬】!!」
「ぐぴるッ!!!!」
更にぐぴキャンを行使、爆王斬の隙を消しすぐさま爆炎斬の連打。
咲き乱れる荒ぶる紅い炎のフルコース。
スタイリッシュ過ぎる父親のゲームシステムを超えた実験コンボが決まった。
「悪魔球? まぁ知っていたけどな」
それはプレイヤー山田燕慈の作戦のひとつであった、悪魔球という切り札をあえて敵の足元に置き父親という強大な敵に挑ませるための。
それと悪魔カエデと圧倒的な力の差を感じていた父親は可能な限りの攻略情報を引き出すためゲーム的に己の命度外視で少し、遊んでいたようだ。
最後の捨て台詞はない。ヤツ、悪魔カエデは多くを語らされ白く美しい刀に斬り刻まれ燃やされコツンと地に落ちた悪魔球だけを残し、プレイヤー山田燕慈に殺されてしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
88
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる