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「ふぅぅぃ。今日はじゃないぽいんと過剰摂取ですゥ……」
「たしかにフツウのことがなかなか起こらねぇな……ハハ」
倒した大戦艦の大戦果、甘多の上で祝杯を挙げるふたり。
黒いティータイムセットを電子の荷から取り出し珍しく父親が淹れることに成功したそのコーヒー。
香るコーヒーだ。いつもの飲み慣れたアメリカンではない勝利の苦み。
黒い木の椅子に座り、青い空の下白く甘い大地の上で飲むフツウじゃない格別の一杯。
「でもこんなに優雅に一服してていいんですか? メガミさんとイタさんが」
「あぁ、大丈夫だこっちの方が探すより速いだろう」
「そう? ですか?」
ふたりが、そんなどこか緩い空気のやり取りをしていると。
突如ガぃンと音を立てて何かが白い地に勢いよく着地した。
「ほら来たろ」
「ほらって王……しりあいです?」
「しりあ」
彼女が怪訝な表情で見つめる方に、目を瞑りながら優雅にコーヒーを味わっていた父親も目を向けてみると。
「なんだよこの星はおかしいじゃんバカかよ!!!」
「……ん? オマエら何?」
「……なんだ……こいつ!?」
「なんでしょー?」
2人の目の前に現れたどこか洗練されたデザインの黒紫色のメタリックな全身スーツを身に纏った小柄。男にしてはそこそこに長い黒い髪、切長の深い紫色の目、どこか憎たらしいまだ幼い顔つきをしている。
なんだこのキャラは……悪いが全く心当たりがないぞ……。
「あ? オマエらがなんだよ?」
「あ、あーー!! ピンク髪!!」
出会って早々の不機嫌モードから一変、突然大声を張り上げてサムを指差す少年。
大変なモノを見つけてしまったように大袈裟に。
「な、ナンデス!?」
「おいピンク髪だろオマエ!!」
「だからなんですか!?」
「オレに聞くなようるさいナァ!」
「おい、王がやっぱり手元に置いておきたいんだって、オマエ」
なんだこれ……俺の知らないサムのイベントか……? ありえな……イヤ、あり得るよな? あり得ようのない月のオカマまでいるんだ……ラヴあス完全版──。
「知り合いかサム?」
「いえいえ!? こんな子供さん全く知りませんよ」
「だよな……」
ぶっ飛んだ設定を盛ってメインストーリーを増やすのがエロいゲームの常套の手法だ油断はならない……もう既にルートに入っている可能性も──。
「とにかく来てもらうからオマエ、オレに手間かけさせんなよ」
「なんでです!?」
「いいから来いよバカおんな!!」
「え、バカおんなぁ!? ちょっと、ただ口が悪いのとフツウじゃないのは違いますよ!!」
「はあ? 意味不明、バカはバカでしょ」
「もうっわたし苦手ですあなた! 王も何かこの子供さんに? ……王?」
生意気全開の子供の言動に珍しくたじろぐサム。
王とか言っていたな? じゃあこいつはもしかしてどこかの亡国のお姫様だったり!? いや、そんなのエロいゲームで聞いたことないし。待てよ選択を誤るとヘタすりゃ詰むぞ? 月オカマのときと違ってラヴあスはガチで取り返しがつかないルートがあるからな……待て、てかこの妙にイラつく顔したガキはなんだ? どっか────。
顎に手をやり分かりやすい仕草で考え込んでいる父親。目を斜め上に時おりきょろきょろと、周りを気にせずに思考を展開していく。
なおもこのキャラの正体がイマイチ掴めず、プレイヤーは真剣な表情を深めていく。
墜落した巨大ショートケーキ戦艦:甘多の上に突如現れた謎の少年。予期せぬ来訪者によりまたも、父親とサムの優雅なティーブレイクは唐突に打ち切られてしまった。
「さっきから王おー、ってなんなの? お望みの王のところにさっさと帰ろうぜ」
「この変な星にいると頭がバグりそーだわ、だりぃ」
「あなたこそナンデス? 王は王ですよ!」
「頭……ハァ、まいいや姉ちゃんなんでもいいから来てよ。王もオマエがなんでか欲しいみたいだし」
「わざわざオレが迎えにきたんだから」
「イヤですよ?」
「イヤだから! 連れて帰らないと王がさ、いい加減うざいんだけどオマエ! バカおんな!!」
「そんなしりもしない王はしりません!」
「わたしの仕える王は1人だけです。あとあなた口が悪すぎます!」
「こいつが?」
「みたいだな」
「じゃあ死ね」
話の噛み合わない憎たらしい顔をした少年は、想像期待通りの憎たらしい激しいイカれた表情に豹変した。
突如の事、黒紫色の【化言語機械スーツD3S】の広げた両の手の指先から瞬時に伸びた十の細い熱線ビームが黒スーツを目にも止まらぬ速さで貫いた。
まさかの不意打ち、父親はその古の兵器をバージョンダウンさせた熱量の爆炎に呑まれてしまった。
「うや、そんなに爆発するぅ!? アハハこの星雑魚すぎて笑えるう」
「王!?」
「アハハァァァ!! これで王はひとりだよオマエ姉ちゃんバカを治しましょー」
勝ち誇るそのガキの慢心に、
ゆらりと炎から覗く。
「だな」
「【爆炎斬】【爆炎斬】【爆破斬】【爆王斬】!!」
「ょンなああああああ」
巨大な炎球を貫き現れた黒スーツ。
熱線の威力を反射的に相殺し、爆炎の目隠しを利用し一気に敵に肉薄し炎の斬撃コンボを浴びせた。
不意打ちに対する不意打ちが敵を焼き切る。
「うおおおおこれも選択肢のひとつだろォォォォイカれたァァァ爆破斬」
黒紫色のスーツを紅い斬痕が熱く色付けていく。敵に反撃の隙を与えることはない、白蜜の勢いは止まらない。
「アツイアツイいいいいいぁぁ」
「──はぁはぁッざけんなマーメイシルド!!」
全身に薄い水の膜を張り受けるダメージを肩代わりさせることで一時的にコンボシステムの拘束が解け難を逃れた切長の眼の少年。
すぐさま慣れた身のこなしで化言語スーツの腰に搭載していた小さな筒を右手にし。
「アグニ!!!!」
「爆王斬!!!!」
一瞬の攻防。
かち合った伸びる熱線の刃と炎を纏った白い刀がぶつかり合い。
咲き誇った父親の得意技は両者を呑み込んでいった。
「アちゃイいいいいィィィィイイ」
「ぐびぃ……プハ何やってるサム! さっさとこのイラつくガキにデバフかけろ爆炎斬爆炎斬!!」
炎神は偽物の炎に技の熱量で押し勝ち、なおもターゲットに対して炎のコンボを繋ぎつづける。
「えは、ハイ王!! ……あはははは子供さん恨まないでくださいね【さくら斬り】【さくら斬り】【さくら斬り】【さくら斬り】!! あははがきんちょさん斬りはじゃない過ぎますあはははははは」
躊躇う時間はほぼなかった、瞬時に王命により参戦したサムが電子の荷から剣を取り炎の中で踊り狂う王の加勢に向かっていった。
白蜜と七枝刀は遠慮のない剣筋で謎の少年を斬り刻んでいく。不意打ちからの不意打ち返し、未知の敵との戦いでは敵の実力を出させる前に倒し切ることが重要だと父親山田燕慈は月で学習していたようだ。
「誰だかシラねぇがフザケタ光の粒へ還れええええエロいゲーム!!」
「あはははははははは────」
「おっさんがああああマーメイシルドおおおおお」
電子のセカイ、始めてのセカイのイカれた物語のページが炎神の剣風によりめくられていく。
コンボシステムによる拘束から抜け出すためまたも、水の膜の全身を覆うシールドを張りぬるりとした身のこなしで猛攻を逃れる。
「ぬるりぬるりとその技おもしろいなハハ!! 俺も欲しいぜ!!」
すぐさまバックステップで跳ねるように距離を取った少年。
それを見越し敵の技の発動タイミングですぐさまターゲットを追いかけ追撃を仕掛けようと前進し距離を詰めていった父親。
「バグってんのかァなんでアグニがァこんなヤツ!!」
「すまない特別な炎のエロいゲームだ!!」
腰に搭載されている2つの筒を両手に持ち。インファイトを仕掛けてきた黒スーツにまたもその熱線のビーム刃を振り下ろす。
今度は両刃で火力を上げたっていう計算か? ただのイカれたガキじゃないな、そんでもエロいゲームの炎なら!
「アグニィィィィ!!」
「爆王」
刃を形成していた熱線は白蜜とかち合う前に不意に消え。
両手に持った筒からぶつ切りにした熱のビーム弾が少年を斬りかかろうとした体勢の黒スーツに連射された。
切長の眼の少年はフェイントをいれまんまと父親を思惑に誘い込み想定外の射撃攻撃を見せハメたのであった。
「ザんっうおお、おお!?」
渾身の爆王斬をすかされ熱のビームの連射に直撃してしまった父親はその全てを貰い切る前に電子体に小ダメージを貰いつつ横移動しながら回避、そして再び体勢を立て直し斬りかかろうとする。
が、少年の戦闘センスは狙いを逃さない。
すぐさま横移動する黒スーツを偏差射撃しながら精密に捉えた。
「アハハバーカァァァああああ」
向けられた筒から出るぶつ切りの弾丸が標的を襲い続ける。
辺りに。
激しい火花が散っていく。
炎の剣撃は宙をいろどり。
「散々のチョコチップだ、目は慣れたぜ」
スタイリッシュな挙動で振り払われたその刀、黒スーツはニヤリと口角を上げ。
なんといつもより多い爆炎斬でビーム弾を弾き壊し、全てを相殺してみせる離れ業を魅せたのであった。
白蜜はその激しい刀捌きに息を乱すかのようにしろい煙を上げている。
「命賭けのゲームってのはどうもこんな俺すら進化させるらしい」
「うざいうざいィィィ!」
「こっちもだフェイントなんてお前の動きゲームらしくないぞ!」
父親は撃ち止めになった様子の敵に対し再び接近しようとする。
「いただきますよ!」
「いただかれるかァァァ!」
突如、息を潜め隙をつくように襲来したピンク髪。その十字架の剣筋をえがく【よしだ斬り】を軽やかな身のこなしで避け。
瞬時に放たれた蹴り、その足の裏からは針のような鋭い石の三角錐が伸び。
サムの電子体の脇腹に突き刺さっていった。
仕掛けたつもりが返り討ちを受けダメージを負ってしまったサム。
「ぅぐ」
「運痴は寄るなよ!」
「ウンチじゃないです!! サムです!!」
「バァァァカ」
少年がそのスーツの足で強く踏み締めた白い地から石の針が貫くように天に伸び出てきた。
石の針の山が一直線にダメージを負い体勢を崩したサムへと向かう。その時。
「運痴だがそこそこのゲーマーが来たぞ!」
【爆回斬】+【爆炎斬】その小技バカキャンの推進力で一気に距離を詰め近づいた父親。
切長の眼は足音もなしに急に横からフワッと現れた宙に浮かぶソイツと眼が合った。
「対人戦では隙をつく使い方もあるって! +爆王斬!!」
「イチイチアツイってのおおフルマーメイシルド」
少年の身を中心に包むように発生した大きな水球、構わず振り切った炎の剣は水を斬り裂き。
巨大な炎球は辺りの全てを呑み込んだ。
激しい爆発と蒸気が発生しその炎の威力の跡を残した。
「チッなんだこのおっさん……こっちはD3Sだぞ」
瞬時の判断で最大出力の水の言語で身を守りバックステップを踏んで要注意の敵との距離を取った。
「なんだそれ新作ゲームか?」
「うぜえきもい動きで寄んな! メザメウサギ!」
またも後方に大きく跳躍しながら更に距離を取る。少年は、一時的に動きの俊敏さが増す言語を化言語スーツのフィルターを通し使用した。
「うおっ、速いな!」
「接近戦はきらいか?」
「うざいんだよ!」
天からアグニを放つ。
「だしきれえええええ」
またも連射、持ち構えた両筒から熱のビームマシンガンがドカドカとケーキの地に発射された。黒スーツを近づけないように乱射している。
「滅茶苦茶だな、どうした天才くんの動きが雑になったぞ?」
「バァァァカ勝った気でいやがれおっさん」
大きく跳ねた身を華麗に着地させ。
憎たらしい幼い顔は怒りと戦闘の高揚感で狂気を増した。
「顔に似合わず今度はどんな手品を魅せてくれるんだ! ハハ」
「ウザイしつこい炎バカガ!」
「オマエらバカな頭で語ってみろよおおおおおお」
イカれた少年の左手のひらの上に現れた鉄の板。
その封は解かれ。鉄の板に見たこともない文字で刻み書き込まれていく。未完成の物語はドス黒く光輝き。
「ブックムシャ、【キキョウ】!!!!」
突如発生した黒い霧が妖しくうごき宙を犯していく。
晴れて姿を現したのは、黒紫色のボディーカラーの大きな人型であった。
その悪鬼のような存在は語られ白い地に降り立った。
「てててナンデスうううう!?」
「……おいおい馬鹿を」
「そんなマニアックなヤツまでサァ……! ラヴあス完全版はもうラヴあスじゃないってか……!!」
少年により語られた古い物語の存在。生身での交戦をやめたブックテラーは、父親たちとのバトルの第2章に突入しその本領を発揮する。
「たしかにフツウのことがなかなか起こらねぇな……ハハ」
倒した大戦艦の大戦果、甘多の上で祝杯を挙げるふたり。
黒いティータイムセットを電子の荷から取り出し珍しく父親が淹れることに成功したそのコーヒー。
香るコーヒーだ。いつもの飲み慣れたアメリカンではない勝利の苦み。
黒い木の椅子に座り、青い空の下白く甘い大地の上で飲むフツウじゃない格別の一杯。
「でもこんなに優雅に一服してていいんですか? メガミさんとイタさんが」
「あぁ、大丈夫だこっちの方が探すより速いだろう」
「そう? ですか?」
ふたりが、そんなどこか緩い空気のやり取りをしていると。
突如ガぃンと音を立てて何かが白い地に勢いよく着地した。
「ほら来たろ」
「ほらって王……しりあいです?」
「しりあ」
彼女が怪訝な表情で見つめる方に、目を瞑りながら優雅にコーヒーを味わっていた父親も目を向けてみると。
「なんだよこの星はおかしいじゃんバカかよ!!!」
「……ん? オマエら何?」
「……なんだ……こいつ!?」
「なんでしょー?」
2人の目の前に現れたどこか洗練されたデザインの黒紫色のメタリックな全身スーツを身に纏った小柄。男にしてはそこそこに長い黒い髪、切長の深い紫色の目、どこか憎たらしいまだ幼い顔つきをしている。
なんだこのキャラは……悪いが全く心当たりがないぞ……。
「あ? オマエらがなんだよ?」
「あ、あーー!! ピンク髪!!」
出会って早々の不機嫌モードから一変、突然大声を張り上げてサムを指差す少年。
大変なモノを見つけてしまったように大袈裟に。
「な、ナンデス!?」
「おいピンク髪だろオマエ!!」
「だからなんですか!?」
「オレに聞くなようるさいナァ!」
「おい、王がやっぱり手元に置いておきたいんだって、オマエ」
なんだこれ……俺の知らないサムのイベントか……? ありえな……イヤ、あり得るよな? あり得ようのない月のオカマまでいるんだ……ラヴあス完全版──。
「知り合いかサム?」
「いえいえ!? こんな子供さん全く知りませんよ」
「だよな……」
ぶっ飛んだ設定を盛ってメインストーリーを増やすのがエロいゲームの常套の手法だ油断はならない……もう既にルートに入っている可能性も──。
「とにかく来てもらうからオマエ、オレに手間かけさせんなよ」
「なんでです!?」
「いいから来いよバカおんな!!」
「え、バカおんなぁ!? ちょっと、ただ口が悪いのとフツウじゃないのは違いますよ!!」
「はあ? 意味不明、バカはバカでしょ」
「もうっわたし苦手ですあなた! 王も何かこの子供さんに? ……王?」
生意気全開の子供の言動に珍しくたじろぐサム。
王とか言っていたな? じゃあこいつはもしかしてどこかの亡国のお姫様だったり!? いや、そんなのエロいゲームで聞いたことないし。待てよ選択を誤るとヘタすりゃ詰むぞ? 月オカマのときと違ってラヴあスはガチで取り返しがつかないルートがあるからな……待て、てかこの妙にイラつく顔したガキはなんだ? どっか────。
顎に手をやり分かりやすい仕草で考え込んでいる父親。目を斜め上に時おりきょろきょろと、周りを気にせずに思考を展開していく。
なおもこのキャラの正体がイマイチ掴めず、プレイヤーは真剣な表情を深めていく。
墜落した巨大ショートケーキ戦艦:甘多の上に突如現れた謎の少年。予期せぬ来訪者によりまたも、父親とサムの優雅なティーブレイクは唐突に打ち切られてしまった。
「さっきから王おー、ってなんなの? お望みの王のところにさっさと帰ろうぜ」
「この変な星にいると頭がバグりそーだわ、だりぃ」
「あなたこそナンデス? 王は王ですよ!」
「頭……ハァ、まいいや姉ちゃんなんでもいいから来てよ。王もオマエがなんでか欲しいみたいだし」
「わざわざオレが迎えにきたんだから」
「イヤですよ?」
「イヤだから! 連れて帰らないと王がさ、いい加減うざいんだけどオマエ! バカおんな!!」
「そんなしりもしない王はしりません!」
「わたしの仕える王は1人だけです。あとあなた口が悪すぎます!」
「こいつが?」
「みたいだな」
「じゃあ死ね」
話の噛み合わない憎たらしい顔をした少年は、想像期待通りの憎たらしい激しいイカれた表情に豹変した。
突如の事、黒紫色の【化言語機械スーツD3S】の広げた両の手の指先から瞬時に伸びた十の細い熱線ビームが黒スーツを目にも止まらぬ速さで貫いた。
まさかの不意打ち、父親はその古の兵器をバージョンダウンさせた熱量の爆炎に呑まれてしまった。
「うや、そんなに爆発するぅ!? アハハこの星雑魚すぎて笑えるう」
「王!?」
「アハハァァァ!! これで王はひとりだよオマエ姉ちゃんバカを治しましょー」
勝ち誇るそのガキの慢心に、
ゆらりと炎から覗く。
「だな」
「【爆炎斬】【爆炎斬】【爆破斬】【爆王斬】!!」
「ょンなああああああ」
巨大な炎球を貫き現れた黒スーツ。
熱線の威力を反射的に相殺し、爆炎の目隠しを利用し一気に敵に肉薄し炎の斬撃コンボを浴びせた。
不意打ちに対する不意打ちが敵を焼き切る。
「うおおおおこれも選択肢のひとつだろォォォォイカれたァァァ爆破斬」
黒紫色のスーツを紅い斬痕が熱く色付けていく。敵に反撃の隙を与えることはない、白蜜の勢いは止まらない。
「アツイアツイいいいいいぁぁ」
「──はぁはぁッざけんなマーメイシルド!!」
全身に薄い水の膜を張り受けるダメージを肩代わりさせることで一時的にコンボシステムの拘束が解け難を逃れた切長の眼の少年。
すぐさま慣れた身のこなしで化言語スーツの腰に搭載していた小さな筒を右手にし。
「アグニ!!!!」
「爆王斬!!!!」
一瞬の攻防。
かち合った伸びる熱線の刃と炎を纏った白い刀がぶつかり合い。
咲き誇った父親の得意技は両者を呑み込んでいった。
「アちゃイいいいいィィィィイイ」
「ぐびぃ……プハ何やってるサム! さっさとこのイラつくガキにデバフかけろ爆炎斬爆炎斬!!」
炎神は偽物の炎に技の熱量で押し勝ち、なおもターゲットに対して炎のコンボを繋ぎつづける。
「えは、ハイ王!! ……あはははは子供さん恨まないでくださいね【さくら斬り】【さくら斬り】【さくら斬り】【さくら斬り】!! あははがきんちょさん斬りはじゃない過ぎますあはははははは」
躊躇う時間はほぼなかった、瞬時に王命により参戦したサムが電子の荷から剣を取り炎の中で踊り狂う王の加勢に向かっていった。
白蜜と七枝刀は遠慮のない剣筋で謎の少年を斬り刻んでいく。不意打ちからの不意打ち返し、未知の敵との戦いでは敵の実力を出させる前に倒し切ることが重要だと父親山田燕慈は月で学習していたようだ。
「誰だかシラねぇがフザケタ光の粒へ還れええええエロいゲーム!!」
「あはははははははは────」
「おっさんがああああマーメイシルドおおおおお」
電子のセカイ、始めてのセカイのイカれた物語のページが炎神の剣風によりめくられていく。
コンボシステムによる拘束から抜け出すためまたも、水の膜の全身を覆うシールドを張りぬるりとした身のこなしで猛攻を逃れる。
「ぬるりぬるりとその技おもしろいなハハ!! 俺も欲しいぜ!!」
すぐさまバックステップで跳ねるように距離を取った少年。
それを見越し敵の技の発動タイミングですぐさまターゲットを追いかけ追撃を仕掛けようと前進し距離を詰めていった父親。
「バグってんのかァなんでアグニがァこんなヤツ!!」
「すまない特別な炎のエロいゲームだ!!」
腰に搭載されている2つの筒を両手に持ち。インファイトを仕掛けてきた黒スーツにまたもその熱線のビーム刃を振り下ろす。
今度は両刃で火力を上げたっていう計算か? ただのイカれたガキじゃないな、そんでもエロいゲームの炎なら!
「アグニィィィィ!!」
「爆王」
刃を形成していた熱線は白蜜とかち合う前に不意に消え。
両手に持った筒からぶつ切りにした熱のビーム弾が少年を斬りかかろうとした体勢の黒スーツに連射された。
切長の眼の少年はフェイントをいれまんまと父親を思惑に誘い込み想定外の射撃攻撃を見せハメたのであった。
「ザんっうおお、おお!?」
渾身の爆王斬をすかされ熱のビームの連射に直撃してしまった父親はその全てを貰い切る前に電子体に小ダメージを貰いつつ横移動しながら回避、そして再び体勢を立て直し斬りかかろうとする。
が、少年の戦闘センスは狙いを逃さない。
すぐさま横移動する黒スーツを偏差射撃しながら精密に捉えた。
「アハハバーカァァァああああ」
向けられた筒から出るぶつ切りの弾丸が標的を襲い続ける。
辺りに。
激しい火花が散っていく。
炎の剣撃は宙をいろどり。
「散々のチョコチップだ、目は慣れたぜ」
スタイリッシュな挙動で振り払われたその刀、黒スーツはニヤリと口角を上げ。
なんといつもより多い爆炎斬でビーム弾を弾き壊し、全てを相殺してみせる離れ業を魅せたのであった。
白蜜はその激しい刀捌きに息を乱すかのようにしろい煙を上げている。
「命賭けのゲームってのはどうもこんな俺すら進化させるらしい」
「うざいうざいィィィ!」
「こっちもだフェイントなんてお前の動きゲームらしくないぞ!」
父親は撃ち止めになった様子の敵に対し再び接近しようとする。
「いただきますよ!」
「いただかれるかァァァ!」
突如、息を潜め隙をつくように襲来したピンク髪。その十字架の剣筋をえがく【よしだ斬り】を軽やかな身のこなしで避け。
瞬時に放たれた蹴り、その足の裏からは針のような鋭い石の三角錐が伸び。
サムの電子体の脇腹に突き刺さっていった。
仕掛けたつもりが返り討ちを受けダメージを負ってしまったサム。
「ぅぐ」
「運痴は寄るなよ!」
「ウンチじゃないです!! サムです!!」
「バァァァカ」
少年がそのスーツの足で強く踏み締めた白い地から石の針が貫くように天に伸び出てきた。
石の針の山が一直線にダメージを負い体勢を崩したサムへと向かう。その時。
「運痴だがそこそこのゲーマーが来たぞ!」
【爆回斬】+【爆炎斬】その小技バカキャンの推進力で一気に距離を詰め近づいた父親。
切長の眼は足音もなしに急に横からフワッと現れた宙に浮かぶソイツと眼が合った。
「対人戦では隙をつく使い方もあるって! +爆王斬!!」
「イチイチアツイってのおおフルマーメイシルド」
少年の身を中心に包むように発生した大きな水球、構わず振り切った炎の剣は水を斬り裂き。
巨大な炎球は辺りの全てを呑み込んだ。
激しい爆発と蒸気が発生しその炎の威力の跡を残した。
「チッなんだこのおっさん……こっちはD3Sだぞ」
瞬時の判断で最大出力の水の言語で身を守りバックステップを踏んで要注意の敵との距離を取った。
「なんだそれ新作ゲームか?」
「うぜえきもい動きで寄んな! メザメウサギ!」
またも後方に大きく跳躍しながら更に距離を取る。少年は、一時的に動きの俊敏さが増す言語を化言語スーツのフィルターを通し使用した。
「うおっ、速いな!」
「接近戦はきらいか?」
「うざいんだよ!」
天からアグニを放つ。
「だしきれえええええ」
またも連射、持ち構えた両筒から熱のビームマシンガンがドカドカとケーキの地に発射された。黒スーツを近づけないように乱射している。
「滅茶苦茶だな、どうした天才くんの動きが雑になったぞ?」
「バァァァカ勝った気でいやがれおっさん」
大きく跳ねた身を華麗に着地させ。
憎たらしい幼い顔は怒りと戦闘の高揚感で狂気を増した。
「顔に似合わず今度はどんな手品を魅せてくれるんだ! ハハ」
「ウザイしつこい炎バカガ!」
「オマエらバカな頭で語ってみろよおおおおおお」
イカれた少年の左手のひらの上に現れた鉄の板。
その封は解かれ。鉄の板に見たこともない文字で刻み書き込まれていく。未完成の物語はドス黒く光輝き。
「ブックムシャ、【キキョウ】!!!!」
突如発生した黒い霧が妖しくうごき宙を犯していく。
晴れて姿を現したのは、黒紫色のボディーカラーの大きな人型であった。
その悪鬼のような存在は語られ白い地に降り立った。
「てててナンデスうううう!?」
「……おいおい馬鹿を」
「そんなマニアックなヤツまでサァ……! ラヴあス完全版はもうラヴあスじゃないってか……!!」
少年により語られた古い物語の存在。生身での交戦をやめたブックテラーは、父親たちとのバトルの第2章に突入しその本領を発揮する。
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