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机に齧り付いている者がいる。勉強ではなく食事行為だ。
茶色いテーブルのケーキの角を食べ腹を満たす。ビターなチョコ味は、逆に彼女にとってありがたいのかもしれない。

もうここに閉じ込められて何日でしょうか……うぅ、どこも甘いデス……。

「うぅ……もうお菓子やだ……」

「たすけて彼氏様……」








「サムようやくか」

3936階お菓子の世界、目に見えるのは小高い緑の丘にぽつんと佇む可愛いお菓子の家。
ついにたどり着いた目標、3936階。

予想よりはるかにじかんがかかっちまったが……。なんとか生きてここまで来れたようだ。

「違うな……。どうやらすっかり遊びすぎたようだな! ラヴあス完全版ってやつを!」

ひとりでニヤリと笑い声をあげ、それがひとつの区切りになったのか次の行動に移る。

「よし女神石像いこう」

女神石像は元気な顔でうんうんと頷いた。

「カードもな」

石の板はくるりとその場で宙返りしてみせた。








コンコン。

板チョコで出来た戸をノックし。ガチャリと音はしないが、その可笑しな戸を引き開けた。

「え、なに……!?」

「や、やぁ?」

ずっと閉じっぱなしだったドアが開かれ。
目の前に現れた黒スーツの渋い顔の黒髪。彼女に対し右手をひらりと振っている。

「か、かれしさま!? まさかの渋メン様!?」

「……え? なんて?」

「あ! いえこっちの……!」
「あ、あの! 後ろにモンスターが!?」

ピンク髪の彼女が驚いた顔で指で父親の後方を指し示す。

「あぁこれは俺の仲間だッ! 安心してくれ!」

女神石像が父親の肩に掴まり背伸びし中を覗き込もうと顔をひょっこり出している。

「痛たいたい……! 肩ぐいってぇ落ち着け女神石像」

「モンスターがなかま……? ソレっ……フツウじゃないですね!!」

「ハハ……だな!」

目を見開き、両手を開いてオーバーなリアクションしている彼女。

ゲーム同様のイカれたハイテンションキャラを予想していたんだが……まぁ大方合っているか?
モンスターが仲間だとこういう会話も発生するんだな? そりゃいきなりモンスター連れた渋い顔がお菓子の家にやって来たらそっちの方が意味がわからねぇよな、ハハ。

「あのー……なにか?」

ピンク髪のセミロング、赤いインナーカラーの組み合わせの彼女。青いジーンズにBAD ENDとおしゃれな桜色の文字の書かれた白いシャツを着ている。
そんなゲームのキャラクターが少し怪訝な上目遣いで見つめてきている。
おそらく父親の考え込むクセに対してだろう。

彼は口元にチョコがぺたりと可愛らしくついた彼女に対し、見つめて口を開いた。

「……」
「とりあえず……コーヒー飲む?」

「は、ハイ!」

ミジュクセカイの塔3936階にて、両者は出会い。とりあえずの一杯を提案し。彼女から入室の許可を得て、特にぶつかり合い荒事もなくぞろぞろと父親一行はそのお菓子の家の中へと入り込んで行った。






ティータイムセット、白い魔女との別れ際にいただいたそのセット。
どうやら魔女は何種類も取り揃えていたティータイムオタクだったようで快く譲ってもらえた。

黒いテーブルの上で女神石像が作業に取り掛かっている。お湯をジョボジョボと注ぎ香りと湯気がカラフルな甘いお菓子の部屋に立ち込める。

完全にコーヒー製造機、いや当番と化してしまった女神石像。父親がコーヒーを淹れようとするとすっ飛んで来るのでずっと彼女に任せっきりのようだ。
そして出来上がったお洒落な白いコップになみなみに注がれたコーヒーは石の板に乗せて角の欠けたビターな茶色い食卓テーブルの上に持ち運ばれてきた。

「うぅ、沁みますこの一杯……! メガミさんに淹れてもらえるなんてフツウじゃないです」

ピンクの髪をした彼女は手を使わずテーブルに口を近づけてぢューと吸い上げるようにそのコーヒーを飲んだ。顔をあげすぐ一安心したほっとした笑顔をこちらにみせた。

あのサムが本当にここにいて話しているんだよな、今俺。
やっと裏世界で出会えたエロいヒロイン、感動だな。

「そ、そうかそれは良かった」

「ところであなた様の……お名前は……?」

「俺か!? あ、あー」

フツウに考えれば可黒だが……そういや俺の下の名前が分からねぇな……。
ゲーム内ではまさかの父親だし。自分の名を名乗るのもなぁー、うーん──。

「あ! もしかして訳ありですね! あの……王とお呼びしても!」

「え、はい!?」

「ダメでしょーか!」

いや王はちょっとダメでしょ……。しかしこいつは言動やら行動がイカれたキャラだったはず。隠しヒロインなのでメインストーリーはなく多くは語られなかったが。

向かいの席に座った彼をじっと見つめる期待の黒い瞳に。


「好きにしていい」

「ありがとうございます、王!!」

まぁファンの間では2208王と呼ぶ者もいるしなてか俺もたまに呼んでいた。ここで断ってランダムで思いついた新しい変なニックネームを付けられるよりはいいか?

「こいつはまたしてもところでなんだが」

「はい?」

「サム、俺たちの仲間になってくれ」

突然の提案に口をあけ非常に驚いた目をしている。
彼女の横の席に座りすぐさまコーヒーを一気に飲み干す女神石像。
自身の椅子の背もたれのチョコをパキッと割り食し始めた。

彼女はその光景をしばし眺め考えた。
あまりにも唐突なうれしい言葉に彼女は目を輝かせ。

「ハイよろこんで、王!!」

彼女は右手を元気よく挙げ、その場の席を飛び上がるように立った。

うおおおお。嘘みたいにあっさりだな……! てか出会ってからずっとあっさりだがこんなキャラだったっけ? 最悪、戦闘、金やモノで釣るまで考えていたんだけど。
マァイイヤ! 今が最高だ! 


こうしてサムはあっさりと父親パーティーに新たな仲間として加わった。








「ミーヌ」



サム

ランク 紅炎

ラヴ ふつう


【さくら斬り】
【よしだ斬り】
【凪払い】
【チチチトウ】

リミットメルト技
【サム★スペシャル】



ゲーム同様のステータスのようだ。
サムの許可を得てミーヌでステータスを見させてもらった。
向かいの席のサムは彼を見つめてニコニコしている。


「どうやってここまで来たんだ?」

「うーん……わかんないです王。気がついたらここに居て……」

まぁよく考えたらそれは俺も同じだな。むしろ俺、父親の方がストーリーもなしで意味不明か。

「そのこの剣を取りに行って記憶がなくて」

電子の荷から取り出されお菓子の机の上に置かれたその剣。

七枝刀しちしとう
真っ直ぐの刀身から6つの枝が生えたように、6つの刃が互い違いの稲妻型に配置され伸びている。刃というには頼りない先の丸まった殺傷能力の低そうな。大昔の偉い人への贈り物にされた格の高すぎる剣だ。

あのニホントウ剣展覧会。
取りに行くというよりは盗りに行くなんだけど……やっぱイカれているなこのキャラは。

「そうか……」
「あ、そうだ他の剣は知らないか? 紅い鞘の剣とか。これの赤いバージョンなんだけど」

父親は電子の荷から白蜜を取り出しサムに見せてみせた。

「……赤い鞘? わからないです……私これだけしか取ってないので。すみません王……」

息子がどうなっているのか秘かに気になっている、赤蜜を逃すと一般プレイヤーにとっては苦行ルートもあるからな。
……オカルト探偵部、バトル関連はだいたいあのルートだ。
まぁさすがによっぽどがないと逃してはいないか。そもそも息子が存在するのかも謎なんだけどな。

「あのぉ……何か私不味いことをぉ……?」

1人のセカイに入り込んでいた父親の様子が彼女にはそうみえたのだろう。
少ししゅんと申し訳なさそうに問うている。

「……いやありがとう! 参考になった」

「ハイ!」

明るい返事にこちらも笑顔になり。
無限に作られているアメリカンコーヒーのお供に切り分けた珈琲チョコ味のタンスを白い皿に乗せ食べている父親パーティー。
優雅でポップなお菓子の家でのティータイムが続いていた。

「もぐもぐ……ふぅー。とりあえずこの塔の上を目指すしかないんだが」

「上ですか?」

「10000階だ」

「10000階!? えっとちなみに今何階」

「3936階だな」

「3936階!? わわそんなとこまで来てたの!? あ、でも遠い……」

「なにこの戦力ならいける!」

女神石像、石の板、サム、そして俺。ぶっちゃけエロいヒロインたちと遜色ないパーティーだと思うぜ。それに月オカマのデカブツと戦ってから父親が妙にパワーアップした感じがある。そんな寄り道のレベル上げの効果もあってか女神石像と石の板だけでここまで苦労なく来れたからな。

「……王」

「……なんだ?」

「行きましょう!!」

「……おう!!」

「私今凪いでないです!! 絶好調なんです!!」

「そ……そうか!!」

ばーんと、お菓子の机を砕き椅子から立ち上がったピンク髪、下手すればプレイヤーの俺よりヤル気を見せている。

やはりこのキャラの発言行動は読めない。せめて機嫌を損ねてパーティー離脱なんてことにならないように頑張ろう……。でもさすがエロいヒロイン笑顔と瞳の色は綺麗で癒されるな。


王、あなた様が終わらせてくれるのでしょう。この私の凪いだサダメを! ……怒らせないように気をつけないと……!! ここで王に見捨てられたら私きっと終わっちゃうー!! 王、わたし吉田さくらを、いえ! このサムを救ってください……!!
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