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ハル∀本社にて。
日曜日午前10時、曇天だが過ごしやすい気候の今日を迎え。
俺、山田燕児は受付のアバターAIの美人なお姉さんに案内されその地下にある広々としたメカニックな空間に来ていた。
俺という異物の存在に気付いた1人の男が作業を取り止め小走りの笑顔でこちらへと向かってきた。
「ありがとうよくぞ来てくれた、VRゲーム制作総合監督の狩野サハラだ」
うお、本物の狩野サハラ監督! え、まじ!?
無精髭を生やした白衣を着た男が目の前に立っている。
なかなかの渋さとさっぱりとした良い顔を持つ狩野サハラ、だが……髭は似合っていないな。貴重な髭サハラだ一枚撮らせてもらいたい!
「はい、あのーテストプレイヤーって」
「あぁ、ラヴあス2リミットメルトと魔法そーど少女の新作のテストだ」
「え。魔法じょーじょしょー?」
「あ、あぁ、すまない。魔法少女ド屑オンラインの裏設定みたいな、はははは、設定資料に書き殴ってたからマニアックな人じゃないと知らないねごめんね」
「いえ、へぇー。そういうのむしろワクワクするんで!」
ガチだったのかァ……!? ワンチャン信じていたがあの胡散臭いメッセ。内容に偽りがないみたいだ……! さすが狩野サハラだ!
うおおおお今という瞬間しあわせに満ちているぞお!
「それはよかった、えーっとねぇ。君以外にあと3人来る予定なんだけど、少し早かったようだ」
「あぁすみません! 興奮しすぎてちょっと早くきちゃいました」
「はは、いや構わないよ。むしろその方が……。できればなんだが、さっそく始めてもいいか」
「え!? もちろんもちろんヤラせてください!」
「協力的で本当助かるよ!」
こんなテンションの人なのか狩野サハラ。
なんかクールなイメージがあったんだけど意外だ。
めちゃくちゃ気さくでいい人じゃん。
「さっそくのさっそくだ。そこの∀Rに入ってくれ!」
「ふるVR?」
「いやーすまないすまない、これはねフルVR。VRヘッドセットの次のステージだ! ここに寝転んでくれ!」
次のステージ? イマイチ分からないが、才のある人の考えること言動と脳が追いつかないなんてよくあるよな……。これ以上口を挟んで怒らせたくないし、ちゃんとやろ。
それにしてもこれ──。
狩野サハラの指差したそこにあったのは鉄のメカメカしいベッドだった。
SFチックな未来的なその鉄と透明ケースの蓋のついたもの。その大掛かりな装置が3つ並んで置かれている。
実は入ったときからこの別世界には……。
俺はその光景に非常に驚きつつも臆せず。
彼が動向を見つめる中、その中へとすっぽりと収まって仰向けに寝転がってみせた。
さすがハルの本社だこんな設備まであるのか。
「よーしよしいい子だ」
いい子って。狩野サハラのイメージ崩壊なんだが。
おもしろいな。
「じゃあねキミそうだ、キミのなまえキミの……山田えんじくん! えんじ、えんじ、炎神! 本当か!? いいねええ君! はははは炎神、こんなところにも運命だ!」
「あ、ハハハ。どうもー」
テンション爆上がってんなぁサハラ。
「じゃさっそくのさっそくだ! 炎神くん!」
狩野サハラに炎神にされちゃってるよ。まぁ自分でもそう思ってたけど!
「よーし閉めるぞーーお」
「じゃあフルスキャンしてくれ!」
透明なケースの蓋は自動で合わさるように閉められ山田燕児の全身を覆っていった。
え、なにこれやば。
「あのーフルスキャン……?」
「あははははほんとすまないどうもね」
「瞬きしないでくれよ、手のひらは上向き、口も大きく開けよう! あ、順番でいい順番! ただの読み込み作業、下ごしらえこんなもの大した意味はもたない!」
「やっぱりいいや適当でいい! どうせこんなもの意味はない!」
「はぁ……分かりました!」
燕児はサハラに指示されたその一通りの下ごしらえをやってみた。
ゲームだからってこれはお仕事みたいなもんだろ失礼のないようにしよう。
「いいぞいいぞいい! じゃあ次はセカイだ、選べ!」
「え?」
「見えてるだろ! ラヴあスと魔法そーど少女が!」
「何もサボっているわけじゃない! コツも掴んだまだまだ追加予定だ! 間抜けなヤツはまんまと受け入れたようだがもうすぐソレも完了するんだ! 気に食わないのか?」
……やっべぇ、え、ちょっとキレてるよ……ちゃんとやろ!
透明ケースは青く光り、その全面モニターに映る宇宙空間のような景色には2つのタイトルのシンプルなアイコンが存在していた。まさにテスト中なのであろうか。
これか! なんだこれテンション上がるなぁ! サハラのテンションがおかしいのもこれのせいだな。うん。
「あの、ラヴあスをやりたいんですけどいいですか」
「かまわない! 炎神くん! キミならそれを選ぶ! はやく試せ!」
言動とテンションどこだよ。
にしてもヘッドセットなしでこの臨場感のある景色、すごいぞ期待できるぞォエロいゲーム!
「じゃあ、炎神くんキミにミッションを与える」
「え!? あ、はい!」
なんだろ? 全ハーレム目指せとかか? 赤蜜なしで蒼月に勝てとか? オカルト探偵部でもいいがそうなると厄介だぞあの先生は──。
「異物を排除しろ」
「はい! はい!?」
なんだ異物って? カサとサカサの組織のことか?
「ニシナだよニシ亡! 私のフルセカイに入り込んだ」
「ニシナ?」
ニシナ……? ゲームプログラマーで共同シナリオライターのことか。
もう1人のイカれた才だがナニコレ? オンライン対戦機能でもあるのか? 友達のニシ亡をボコれとか何言っちゃってんだサハラ。
「ニシナを排除してこいッッ」
「どうせやつ1人では何もできん。いつもそうだ。私なんだよ! セカイを作っているのは」
「そうだ、ほらみろ! ヤツは馬鹿だからセカイをつなぐのも私任せだ」
「ヤツは、ニシ亡は空っぽ。私の先を読んだつもりで勝った気になっているだけだ」
おいおいこれ本気でヤバくない……? サハラがバグってるんだが。
なんだゲーム開発で喧嘩でもしたのか……?
「ニシ亡をぶち殺してこい!!!! 炎神!!」
さすがに一線超えてるよな。
「え、あのちょっと……おかしいですよサハラ監督」
「おかしくはない! 炎神!」
「いやいや落ち着きましょ!? ほら水飲んで、俺もなんか喉かわいちゃったなぁ……なんて!」
「ははははは! それはいいな……。ありがとう」
「でしょ。じゃあココ開けてくださいよ、緊張して汗かいちゃいそうで」
「そうだ、ラヴあス完全版ってアレあります? 別所透蘭ルート。攻略できないのもったいないっすよ」
「ははははキミはなかなかのラヴあス。プレイヤーみたいだな。考えておこう。……もっともゲームのフルセカイ化は何が起こるか私にも分からん。もちろんゲームシステム自体は尊重したつもりだ。全てが同じだとつまらないだろ? 何が起こるかは……ニシ亡が、いやNPC達が好き勝手やる可能性もあるな!」
「ハハハ、フルセカイ? なんすかそれ」
「どうやら私が間違っていたようだ」
「え、間違いというか? いやーハハ。じゃ、そろそろ?」
「あぁラヴして恋して向こうでたらふく飲め炎神くん!」
地下空間に佇む巨大な鉄の装置、その上に浮かぶ青い大きな球体は静かな光を放ち続けている。
ニシ亡と狩野サハラ、ふたりの実験施設とも言えるハル∀本社にあるこの閉鎖空間。
リンクされたフルセカイシステムと∀R装置は、出力を上げていく。
「ちょちょちょ!!!! え、ナニ!?」
「ははははおめでとうキミが私のセカイ! プレイヤー第1号だ、あとやっぱりついでにニシ亡は殺しておいてくれ! ははは」
「いやいやマッテ!! これゲーム!?」
「これが新しいセカイでありゲームだ!!」
ダンダンダン! ダンっ!!
「ちょやば、おいッ出せ!! ガチでただごとでないってェ!! 狩野サハ──────」
鉄の揺籠は煙をあげ。
青い雷はそのプレイヤーのすべてを呑み込んでいった。
日曜日午前10時、曇天だが過ごしやすい気候の今日を迎え。
俺、山田燕児は受付のアバターAIの美人なお姉さんに案内されその地下にある広々としたメカニックな空間に来ていた。
俺という異物の存在に気付いた1人の男が作業を取り止め小走りの笑顔でこちらへと向かってきた。
「ありがとうよくぞ来てくれた、VRゲーム制作総合監督の狩野サハラだ」
うお、本物の狩野サハラ監督! え、まじ!?
無精髭を生やした白衣を着た男が目の前に立っている。
なかなかの渋さとさっぱりとした良い顔を持つ狩野サハラ、だが……髭は似合っていないな。貴重な髭サハラだ一枚撮らせてもらいたい!
「はい、あのーテストプレイヤーって」
「あぁ、ラヴあス2リミットメルトと魔法そーど少女の新作のテストだ」
「え。魔法じょーじょしょー?」
「あ、あぁ、すまない。魔法少女ド屑オンラインの裏設定みたいな、はははは、設定資料に書き殴ってたからマニアックな人じゃないと知らないねごめんね」
「いえ、へぇー。そういうのむしろワクワクするんで!」
ガチだったのかァ……!? ワンチャン信じていたがあの胡散臭いメッセ。内容に偽りがないみたいだ……! さすが狩野サハラだ!
うおおおお今という瞬間しあわせに満ちているぞお!
「それはよかった、えーっとねぇ。君以外にあと3人来る予定なんだけど、少し早かったようだ」
「あぁすみません! 興奮しすぎてちょっと早くきちゃいました」
「はは、いや構わないよ。むしろその方が……。できればなんだが、さっそく始めてもいいか」
「え!? もちろんもちろんヤラせてください!」
「協力的で本当助かるよ!」
こんなテンションの人なのか狩野サハラ。
なんかクールなイメージがあったんだけど意外だ。
めちゃくちゃ気さくでいい人じゃん。
「さっそくのさっそくだ。そこの∀Rに入ってくれ!」
「ふるVR?」
「いやーすまないすまない、これはねフルVR。VRヘッドセットの次のステージだ! ここに寝転んでくれ!」
次のステージ? イマイチ分からないが、才のある人の考えること言動と脳が追いつかないなんてよくあるよな……。これ以上口を挟んで怒らせたくないし、ちゃんとやろ。
それにしてもこれ──。
狩野サハラの指差したそこにあったのは鉄のメカメカしいベッドだった。
SFチックな未来的なその鉄と透明ケースの蓋のついたもの。その大掛かりな装置が3つ並んで置かれている。
実は入ったときからこの別世界には……。
俺はその光景に非常に驚きつつも臆せず。
彼が動向を見つめる中、その中へとすっぽりと収まって仰向けに寝転がってみせた。
さすがハルの本社だこんな設備まであるのか。
「よーしよしいい子だ」
いい子って。狩野サハラのイメージ崩壊なんだが。
おもしろいな。
「じゃあねキミそうだ、キミのなまえキミの……山田えんじくん! えんじ、えんじ、炎神! 本当か!? いいねええ君! はははは炎神、こんなところにも運命だ!」
「あ、ハハハ。どうもー」
テンション爆上がってんなぁサハラ。
「じゃさっそくのさっそくだ! 炎神くん!」
狩野サハラに炎神にされちゃってるよ。まぁ自分でもそう思ってたけど!
「よーし閉めるぞーーお」
「じゃあフルスキャンしてくれ!」
透明なケースの蓋は自動で合わさるように閉められ山田燕児の全身を覆っていった。
え、なにこれやば。
「あのーフルスキャン……?」
「あははははほんとすまないどうもね」
「瞬きしないでくれよ、手のひらは上向き、口も大きく開けよう! あ、順番でいい順番! ただの読み込み作業、下ごしらえこんなもの大した意味はもたない!」
「やっぱりいいや適当でいい! どうせこんなもの意味はない!」
「はぁ……分かりました!」
燕児はサハラに指示されたその一通りの下ごしらえをやってみた。
ゲームだからってこれはお仕事みたいなもんだろ失礼のないようにしよう。
「いいぞいいぞいい! じゃあ次はセカイだ、選べ!」
「え?」
「見えてるだろ! ラヴあスと魔法そーど少女が!」
「何もサボっているわけじゃない! コツも掴んだまだまだ追加予定だ! 間抜けなヤツはまんまと受け入れたようだがもうすぐソレも完了するんだ! 気に食わないのか?」
……やっべぇ、え、ちょっとキレてるよ……ちゃんとやろ!
透明ケースは青く光り、その全面モニターに映る宇宙空間のような景色には2つのタイトルのシンプルなアイコンが存在していた。まさにテスト中なのであろうか。
これか! なんだこれテンション上がるなぁ! サハラのテンションがおかしいのもこれのせいだな。うん。
「あの、ラヴあスをやりたいんですけどいいですか」
「かまわない! 炎神くん! キミならそれを選ぶ! はやく試せ!」
言動とテンションどこだよ。
にしてもヘッドセットなしでこの臨場感のある景色、すごいぞ期待できるぞォエロいゲーム!
「じゃあ、炎神くんキミにミッションを与える」
「え!? あ、はい!」
なんだろ? 全ハーレム目指せとかか? 赤蜜なしで蒼月に勝てとか? オカルト探偵部でもいいがそうなると厄介だぞあの先生は──。
「異物を排除しろ」
「はい! はい!?」
なんだ異物って? カサとサカサの組織のことか?
「ニシナだよニシ亡! 私のフルセカイに入り込んだ」
「ニシナ?」
ニシナ……? ゲームプログラマーで共同シナリオライターのことか。
もう1人のイカれた才だがナニコレ? オンライン対戦機能でもあるのか? 友達のニシ亡をボコれとか何言っちゃってんだサハラ。
「ニシナを排除してこいッッ」
「どうせやつ1人では何もできん。いつもそうだ。私なんだよ! セカイを作っているのは」
「そうだ、ほらみろ! ヤツは馬鹿だからセカイをつなぐのも私任せだ」
「ヤツは、ニシ亡は空っぽ。私の先を読んだつもりで勝った気になっているだけだ」
おいおいこれ本気でヤバくない……? サハラがバグってるんだが。
なんだゲーム開発で喧嘩でもしたのか……?
「ニシ亡をぶち殺してこい!!!! 炎神!!」
さすがに一線超えてるよな。
「え、あのちょっと……おかしいですよサハラ監督」
「おかしくはない! 炎神!」
「いやいや落ち着きましょ!? ほら水飲んで、俺もなんか喉かわいちゃったなぁ……なんて!」
「ははははは! それはいいな……。ありがとう」
「でしょ。じゃあココ開けてくださいよ、緊張して汗かいちゃいそうで」
「そうだ、ラヴあス完全版ってアレあります? 別所透蘭ルート。攻略できないのもったいないっすよ」
「ははははキミはなかなかのラヴあス。プレイヤーみたいだな。考えておこう。……もっともゲームのフルセカイ化は何が起こるか私にも分からん。もちろんゲームシステム自体は尊重したつもりだ。全てが同じだとつまらないだろ? 何が起こるかは……ニシ亡が、いやNPC達が好き勝手やる可能性もあるな!」
「ハハハ、フルセカイ? なんすかそれ」
「どうやら私が間違っていたようだ」
「え、間違いというか? いやーハハ。じゃ、そろそろ?」
「あぁラヴして恋して向こうでたらふく飲め炎神くん!」
地下空間に佇む巨大な鉄の装置、その上に浮かぶ青い大きな球体は静かな光を放ち続けている。
ニシ亡と狩野サハラ、ふたりの実験施設とも言えるハル∀本社にあるこの閉鎖空間。
リンクされたフルセカイシステムと∀R装置は、出力を上げていく。
「ちょちょちょ!!!! え、ナニ!?」
「ははははおめでとうキミが私のセカイ! プレイヤー第1号だ、あとやっぱりついでにニシ亡は殺しておいてくれ! ははは」
「いやいやマッテ!! これゲーム!?」
「これが新しいセカイでありゲームだ!!」
ダンダンダン! ダンっ!!
「ちょやば、おいッ出せ!! ガチでただごとでないってェ!! 狩野サハ──────」
鉄の揺籠は煙をあげ。
青い雷はそのプレイヤーのすべてを呑み込んでいった。
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