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アイテムを回収し城を出て行った一行は────だだっ広い草原を歩きベレー帽を被った石像の背を追う。

そして見えてきた。

アトリエのキャンバスに描かれていた景色が広がっている。
傘状の樹形じゅけいをした銀色の木が緑の地にぽつんと堂々と立っていた。

「ふぅ、これにてやっとだなぁ、ハハ」

父親は笑いながらその木の元へと歩き進んで行く。その背をぴったりといつものようについて行く女神石像。

珍しい銀色の木の下へと移動した3人。

「ついさっきのことだけど、この階層を思ったよりしっかり遊んじまったな」

「おっと、画家石像くん案内ありがとうな。世話になったなぁ」

画家石像は石の歯を見せ父親にお得意のグッジョブそれから察してバイバイのジェスチャーを送っている。
その一連の動作を終えるとすぐに背を見せながら石の街の方へと戻っていった。
父親は慌ててその石の背に手を振ってみせた。女神石像も彼に元気よく両手で手を振っているようだ。

「ハハ、画家石像くんキミはゲームっぽくて実にいいと思うぜ!」

「さてと」

「予想外の事ばかり起こってしまったがなんとか次への階段を見つけられたな」

「では」

電子の保管庫からグレープグレープ天然水を取り出しそれを。

なんと木に注ぐ。

銀色の幹へと注がれた、いやびちゃっと豪快にぶっかけられた紫色の液体。

「ほんとに格好から入りたがるよなこのエロいゲームは。VRゲーだから何かしらの格好付けポイントを政府から課せられていたり? なんなの? 性癖ソレ?」

吐かれた汚い言葉にも……銀色の木は、木の枝から花の房を咲かせていった。
魔法にでもかかったかのように。

パッと。

明るい幻想を超えた満開の銀の桜が咲き誇る。

「ま、綺麗だけど」

見上げた銀色の景色。

女神石像はじっと銀の天を見つめている。
キラキラと美しい花を気に入ったのか、見入っている。

「ふっ。これエロいゲームなんだよなぁ……でも本当に」

だだっ広い草原、銀の桜の木の下。

そんな中急ぐことのない静かな、じかんは流れ。

「よし女神石像、そろそろ行くか!」

天を見上げていた彼女はもうじっとは眺めない。声のした彼の方へ向き直りうんうんと元気良く頷いている。

「ふっ」

「さて通常だと10階までしか飛ばせないが……お水を注いでやると100階まで可能なはずだぜ? 花も女の子も愛でていけってな」

「イクゾ! 念のため離れるなよ女神石像、このエロいゲームガバいからな」

女神石像は頷きぴたりと父親の方へと石のその身を寄せた。

「……お、おう!」

フム、女神石像ファンクラブの奴らはこのプレイヤーにキレていることだろう。女神モード搭載の次回作にご期待ください。

ふと目をやる。

となりの彼女は石の笑顔だ。


なんとなく最終確認、かるくスーツの前を直した俺は次のステージへと向かう。

「よーしィィ、せーのッ!!」


2308にせんさんびゃくはちィッ!!」

銀の桜の木の下、緑の地は白い光でまるく染まり。

湧き上がる光。

大きな光の柱はふたりを包んでいき、指定通りの天へと伸びていった。



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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



仄かに青く照らされている。暗がりに2人の男がいた。

ゲーム。その主流は変わっていった、最新のVRヘッドセットは軽量化をやめ大型化している傾向がある。世間は手軽さより臨場感を求めもっと深くそのセカイに溺れていくことを望んでいるようだ。人口密度が高く狭い土地の日本国もこの流れに従っていき発展目覚ましいVR市場はテレビに成り代わり一般家庭を支配しているそんな指摘をする社会学者もぽつぽつと出てきた。

そしてついに人の全身を覆い鉄の揺籠の中、2人の子供たちを寝かしつけ夢を見せるかのように。


『ふれいむボム・えんど!!』

『さぁキミも、魔法そーど少女なら止まらず……行こう!』


揺籠の中、ビカビカとポップな光を浴び通じ話し合う2人がいる。


魔法少女ド屑∀オンラインまさかここまでの反響とはな……。

あぁ売れたな。

まだ俺は信じられないが。

はは、たかがアニメ世間なんてそんなものだ。エロがあろうがなかろうが。

自信があったのか?

自信? はははは。


刺激だよ刺激ィィ!! 世間は!! このノーマルな世界は!! 飢えているのさ!! そうだろ?


……やはり私はあのようなこれまでの積み上げを台無しにするようなやり方は好かん。

はははは。嘘を言え、いつもおまえが一番楽しんでいるんだろう。

いつもお前が勝手にやっていることだ。私ではない。

ははは、まぁいいだろう。好みが違えど目的が同じなら些細なことだ。魔法そーど少女このゲームも完成した、そして。


……世界の全てがワタシの目の前、ここにある。


巨大な鉄の装置、その上に浮かぶ青い大きな球体は静かな光を放ち続けている。


スベテは気が早すぎるフルセカイはまだまだ未完成だぞ。


ふ、未完成?
それのナニがいけない、完成したら取り上げられて糞の役にも立たないだろう。

今度は何を考えている!?

何からナニまでだ、じゃあな。はははははは


おい、無茶だやめろオオオおお!!


鉄の揺籠は煙をあげ。

青い雷はその狂気に満ちた男のすべてを呑み込んでいく。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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まばゆい白い視界は変わりやがて次のステージへと。

「うおおおおまぶしいぃ、くはないぞVR病持ちの俺には!」

その景色が目に映り姿を現す。

「……って、ここは……」


視界に広がる、薄暗い中にあるオレンジ色の光と照らし出された岩肌。
そこはダンジョン、このゲームの中ではそう呼ばれている。

「いいねぇ。だだっ広いのには飽きていたんだよ、俺って日本人!」

父親と女神石像が降り立ったダンジョンの石の通路。背は行き止まり、すぐ後ろに石の壁が構えている。

「そしてこいつが懐中電灯か」

暖色系、電球色の小さな光の玉がふわりと父親の前方右上に浮かんでいた。

このダンジョンを照らす案内人。プレイヤーに付き添い視界を確保しサポートしてくれるなんとも頼りになる光の玉だ。

「よろしくっ、て返事はしないか」

返事はしないが従順。光の球は暖かみのある色を放ちふわりとその場に浮かびつづけている。

「……そうだ! 女神石像!」

後ろをバッと振り返ると。

呼ばれたから、腕をたたみ石の左手をちょんと挙げている彼女がいた。

「ハハ、出席確認オッケー!」

「じゃあさっそく行きますかー」

女神石像はうんうんと元気良く頷いている。

父親はくるりと身体を向き直し、さっそく通路の前方の暗がりへとその歩を進めて行った。そしてその後ろをぴたりと離れることなく彼女はついて行く。

光の玉は並走するように父親の歩く道を光量しっかりと足元や進路の先を照らし出している。

静寂の中をふたりのその足音だけが響き渡る。

もはやそうなんだろうけど……VRでやっていたときよりも臨場感がある気しかしないな。さておき特別な階層ではないしランダム生成のはずだが、ここも俺の知らないセカイだったりしないよな……。

「ダークファンタジーな雰囲気はあるが」

「相変わらず意味わかんネェよな」

父親は立ち止まり鞘からその刀を抜いた。

敵が5体、その姿形は光の玉に照らし出された。

【タチモグラ】
モグラが巨大な直立二足歩行生物になった、だけの超モンスター。

「今度はモグラが一丁前に歩いちゃって人間様かよ」

「めんどくさいからモグラ文明は築いていないでくれよぉ」

そう言うと、父親は駆け出した。

茶色の石床を蹴り一気に突撃。奥の通路で待ち受ける敵へと白蜜を右手に肉薄して行く。

 その存在に気付いていたタチモグラたちは反応し長い爪の大きな6指の手を構える、素手上等のファイティングポーズだ。
堂々と迎え討つ。

「ダンジョンの通路では先手を取った方の勝ちなんだよォ!! 爆王斬!!」

刀と素手リーチの差は明らか、父親はタチモグラの長い鼻っ柱を炎の刃で斬り裂いた。

ダンジョンの通路が巨大な炎に塗り潰され呑み込まれていく。

エロいゲーム、父親と女神石像のパーティー。新しい舞台の新しい敵とのたたかいがはじまった。
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