GAME原魔勇

山下敬雄

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GAME6

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さすがに遊び尽くした。
ちがった……準備は整った。
この街にはもうプレイヤーとしてやり残したことはないだろう。

合わせて5日ベヌレの街に滞在した成果が、今貸し切りにした昼の宿屋のホールで集った。

改心したかは怪しい山賊頭の女に、そのガタイのいいかたさステータス重視の部下の山賊男が3人腕を組み並ぶ。さいしょにノリで躾けた一匹もいる。
そして例の面接で俺に啖呵をきった切れ長目のガキんちょ、世話焼きのメイドたちにいい服を見繕ってもらったようだ。それに腰には、おさがりのお熱いプレゼントも。
さらに赤毛のポニーテール。さっきじじいから貰ってしまった鍛冶師見習いのノゾミィ、魔剣完成までの付き合いというツンデレな条件で同行してくれることになった。
あとはよくわからん妙齢のオレンジを一応の序盤の壁役として招き使えるとこまで使うよていだ。
それとベヌレ街にもともと潜伏していたメイド兵たちの一部が合流することになった。

増員したのは以上だ。
正直仲間にできそうな追加キャラが多くて悩んだが、そこはステータスと将来性と俺の独断でこの街の選りすぐりにしたつもりだ。

「ちょっとどうなってんのよ! カール! 山賊になんでこのオレンジまでついてきてんの!!」

増員したメンバーにさっそくツッコミが入った。
牧草色の緑もじゃ髪といえばクピン・シープル。カール王子の人選が不満のようだ。

「あ、あたし戦闘は……そんなに自信ないから困るんだけど…ラットの1匹ぐらいならなんとか…」
「……俺は旅団に入れればあとはなんでもいい…魔物が出たらこいつで殺す」
「久しぶりだねぇ田舎くさい緑の魔術師ちゃん、わたしのナイフで受けた傷でも舐めて慰めてやろうかい?」
「ふっふーん緑もじゃこあなたもここにいたのね♡王子様のおめがねにかなったの♡」

「一斉にごちゃごちゃうるさいちょっとだまってて!!!」

さっそく仲間割れかそれともじゃれ合いか、クピンは困惑するとボリュームをあげて叫ぶくせがあるらしい。さすが羊飼いの娘、新入りの別の群れの羊たちへのご挨拶に熱心だ。

「まぁいいじゃねぇか。魔物狩りをするんだ」

「知ってるわよ! そんな当たり前のこと」

「失礼ながらクピン様。この近辺より強力な魔物の群れを相手どるときに、壁や矢になる数があって害はありません。ターゲットが分散すればアモン様の剣も自由な攻め時が増えるというものです。もちろん群れが肥えるとその分今までのような機動力や柔軟性を取るのは難しくなるものですが、カール王子の人選は必要最小限で現在の旅団の足りない役割を補う堅牢さと援護力その他のオンリーワンの特技重視の理にかなったものです。それにここに寄ったのも元々当面の物資の補給とメイヂの地に眠る才ある人員のスカウトが目的でしたので、ここまで予定通りです。先日の山賊狩りで街の住人にも歓迎されカール王子の旅団への入団志望者は予想より多く、されど私がコーヒーを飲んでいる時間ができるほどにカール王子にはリスト立てた全員と面接をしてもらい自分の職務をまっとうしていただけました。この短期間の滞在でこれ以上の人選はこの街のポテンシャル的には難しいものだと存じ上げます」

「てこった」

「ぬぬぬ……」

カール王子は側近で旅団のブレイン役を現在務めてくれているメイド長クロウ・フライハイトお墨付きの援護射撃をもらった。
さっきまで俺に甘噛みしてきていたクピン様は借りてきた犬のように大人しくしている。

「それにきいたこともねぇ山賊団を倒したぐらいじゃ家に帰ってもたいした成果にはならねぇ。ナ?」

「言ってくれるねぇ? フッフ」

「はい。このままメイヂ国へと帰還しても王のご性格から鑑みて、満足な評価にいたるには厳しいと存じ上げます」

「ごめん遅くなったカール! もうみんな集まってたか! あ、タオルありがとうメイル」

「もしかして今までせこせこ外で慣らしてたのかアモン?」

「あぁ? そうだぞカール! あはは! すこしは〝ハガー〟も手になついてきたみたいでさ? あははは」

「ハッ、これからみんなでお出かけってのに自由なガキなこった、ちゃんとしょんべんいっとけよ?」

「ちょっとそんなのここで言わなくていいの! ってどこに行くとかまだ全然わたし聞いてないんだけど??」

そう言えばだれにも言っていない。
やはり次に目指すは────

「まずはクロウの情報を耳に入れとくか」

「ってなにも決めてないの馬鹿ール……!? はぁ……あんたってねぇ……」


「やはりおおきな手柄をあげるとなれば、勇大陸と魔大陸そこにあるその鏡界きょうかいに近付くほどいいものですが。いささか──じっくり行きたいものです。ここより東の街スルールにはラットのよく出る洞窟が近辺にあるといいます、かの太陽の勇者も修行したスポットと噂です。南下していけば原大陸に近い街サウスダインにつきます。さらに南には大森林があり、魔物討伐の依頼が今も絶えないようです。きっとスムーズに歓迎をされることでしょう」

「ふむ……なるほどな」
「今なるほどになられても困るんだけど…」
「太陽の勇者の修行スポット? ちょっと気になるな、あはは」

要は東でレベル上げか、南で名声稼ぎかの二択をご丁寧に提示してくれたわけだ。
ここは原作と一緒、その自由度に感動した経験がよみがえってくるな。

といってクールに悩んでいる素振りをしているが、実は既に決めている。
最短で向かいたい国だ。
魔を祓った太陽の勇者の従者である6人の英雄。
水波の魔法剣士トリトン・ウェブルが勇大陸に建立した国だ。

「よし決めた、西の波の国ウェブルにご挨拶にいくぞ」

「──波の国へ? ……カール王子?」

クロウはポーカーフェイスで驚く。提案した東でも南でもない、仕える王子が選んだのは西。
説明するために机に広げていた勇大陸メイヂ国周辺の地図が自ずと丸まっていく──それをもう一度伸ばし、クロウは何をおもったのかまた目を通していく。

「なぁに仲が悪いわけでもあるまい。馬鹿正直に魔物を狩るだけが近道じゃねぇぜ」

「あはは、波の国か!! おどろいたいいねカール! 任せてくれ現れるどんな敵でも〝ハガー〟でやるぞ!!」

汗をふいていた白いタオルを投げ上げ、メイド兵が花嫁ブーケばりにありがたそうにキャッチする。
いつもの空剣舞で踊り始めた男がいる。
しかしその単純明快な脳筋思考は頼りになるが、危なっかしくもある。

「戦争しにいくわけじゃねぇよ早まんなよアモン、はは」

「カール!? もうメイヂを出るの!? 最初ののらりくらりってわたしたちに言ってたのと話がちがうじゃない???」

「ばーかのんびりしてると同じ考えに至るヤツが出るかもしんねぇだろうが、おとなしく競い走る群れを出し抜く最初の一匹になるんだよ羊飼い。頭をじゅうなんに使えよ他国の手をかりちゃいけねぇなんてルールは──誰も言ってねぇ、ははははは」

「はぁぁ?? 脱線の脱走じゃない!! そんなのッッ……えええ!??」

案の定ツッコんでくれたクピンにさりげなくヒントを出してあげるも、まだ庭を出るというだいたんな進路変更を飲み込めない様子だ。

「波の国、お爺ちゃんも昔仕事で訪れたことがあるって……お、おもしろそう…」

概ねノリ気、理解度はそれぞれながらも王子の決めたノリに反対するものはそこまで見受けられない。山賊どもが馬鹿にみたいに笑ってやがる、ツボだったのだろう。

「「さていん王子ぃー、せなかをかせ、波乗りー、すぃー」」

「なにやってやがっっ…俺は王ヂだぞ?? ──ってどっかでみたなこれ、はは」

突然駆け寄ったギムホナ双子が俺の背中に乗りこみながら、両手を翼のように広げ俺という波に乗っている。今は威厳があるのかないのか分からない王子に様々な声と視線が集まり……。

俺たちカール王子の旅団は五日間世話になったベヌレの街を発ち、とりあえずの次の目標をメイヂ国のお隣さん波の国ウェブルと旅路を決め、はるか西を目指して旅立つことになった。
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