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GAME5
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お姉さん、山賊、ガキんちょ、
皆があこがれるカール王子の旅団の第一次にて最終面接も無事に終わった。
とりあえず始めたときより横線をいっぱい引いた黒くなったリストを返して、あとは仕事のはやいメイド長が見つけていい感じにやってくれることだろう。
「にしても追加キャラがやけにおもったより多いな? ま、ゲームはボリュームが多いにこしたこたぁねぇ。むしろ20年待ちだから遊びきれないほ・ど・がほぁぁ……ねむ」
▼
▽
昼下がり▽ベヌレの街の西の門前▽にて
王子という職業は勝手に選んだり部下に投げたり部下を気にかけたり……忙しいものだ。
もちろん上の立場の俺を便宜上手伝ってくれる優秀なメイドたちはいれど、王子を操作しているからにはこのすごい権限をもってあらゆるものを決めなければならない。
そして今、ずっと気に掛けていたひとりのオーラある従者。彼の身の回りのことを王子としてサプライズで決めたのだ。例のすごい王子権限で呼び出して。
「よーーーアモン呼び出してすまねぇな? たのしいデートの予定のひとつでもあったろうに」
「あはは、カール王子の誘いだ。まったくないデートの予定もすっぽかして飛び付くよ」
そう待ち合わせは門の前、うららかな春の陽射しのようなお天気のお外の野原。
俺は笑顔で現れた剣士アモン様という能力値と顔面値の高すぎる理想の男にすっかりお熱なのだ。
ゲーム開始から(毒マグロだったときをのぞき)ずっとアモンを中心に寝ても覚めても昨日も夜中も考えながら動いていたといっても過言じゃないのだ。
もちろん好きなキャラだがそっちの気はない、俺は王道だ王ヂだけに。
「ハッ」
「あはは、ところでさしているソレは? カール剣は売ったって?」
さすがに気付く。開幕から気付かれていたようだ、さすがアモンとはいちいち言わない普通の洞察力だ。
俺が腰に差している新品のコイツに興味津々なのが、ひとりの男の目からこの距離でも伝わってくる。
「あぁ、こいつが用ってヤツだ。お前にな」
あいにくもったいぶる必要もない。
余計な演出はいらないだろう。
俺はアモンに近付きすんなり腰に差していた似合わない装備を外し、何の未練もなく正しき持ち主の手元へと届けた。
俺が考えなしに買った店売りの鋼の剣だ。ドタバタがひと段落落ち着いたので、とりあえずソイツを二人きりのときに〝第一弾〟のサプライズプレゼントしておこうと思ったしだいだ。
「え、カール!? ……いいのか? 俺はこのメイヂ国を発つときに王から授かった鉄剣のテイラーをまだ極めちゃいないが??」
といいつつも、さっそく鞘から抜いてやがる……輝かせるつぶらな瞳で手に持つソレを抜いたり戻したり繰り返しているのは天然なのか。
笑いをこらえる腹筋が地味に痛いんだが。
「使い潰すことを極めるとは言わねーよ天然、どこのどいつの王の誰が言ったんだそんな貧乏くさい風習を。ハッ、俺様の剣しか取り柄がない側近がそんなふっるい装備じゃ頼りねぇからな。いいもなにもこれぐらい普通だろ? 俺が新しい剣さえ買い与えないケチな国の王子様にでもみえるのかアモン・シープルくん?」
そんな安物をいつまでももったいない精神で使われては戦力だだ下がりでこっちが困るのだよアモンくん。まさにどこのどいつ案件だが、従者と王と王子の関係ってのは立場とけったいな思惑が入り混じる一言では説明の難しい複雑なものだ。だが王子の俺がすこしぐらい介入して解消する分には問題はなかろう、同行する一番の戦力ユニットとして有効的に使っているだけだからな?
鋼の剣ひとつぐらいは安すぎるぐらいだ。
「カール……」
「野郎にそんなに見つめられてもうれしかねぇがな、その汗臭いお古は売るなり彼女にプレゼントするなり好きにしろ」
「あぁ──わかった、ありがとう。なるほど、てことは、カール?? このあとはさっそくあのときの勝負のつづきか!!」
「あぁそーそーアモ…ってなんでだよ!!! 馬鹿言ってないで慣らしとけ、気に入らねえようなら即刻返品にするぞ! まったくどんな爆弾級の〝てことは〟だよ」
「あはは、それはイヤだな。じゃぁちょっと慣らしてくる!! よぉぉし、これからよろしくな〝ハガー〟!!!」
鋼の剣を独特のセンスで命名する。左に旧友のテイラー、右に新入りのハガーを携えて……緑髪の男のマントが風に乗りはためき──元気だ、すこぶる。
「ちょっと慣らしてくるでひとりで魔物ぶっ殺しにいくヤツがいるかよ、ハッ──アモン・シープル、太陽の勇者」
そういえば手持ちの武器がねぇ。平原の彼方のお熱く危ないデートに誘われなかったのはちょっとざんねんか? はは。
光射す平原をゆく、若い勇者の背が、一介のVRゲームプレイヤーの目に……遠くまぶしい。
俺はひとつおおきく背伸びをした。
鋼の剣ひとつではしゃぐ規格外の従者のことより、一国の王子として大局を見て二手三手、これからに備え地道に椅子にすわり準備していくのも……
「プレイしがいがありそうだ、はは」
話題そのex《鉄剣のテイラー…?》
絵本にでてくるような勇者たち、英雄たちもそのようであったのだろうか。
血の色の似合わない緑髪をなびかせ、並いる魔物を平然と斬り裂く存在は、屠ったそばの魔物の屍とそのよごれた剣がよく似合う。
そんな盗み見しすぎた視線に、剣士は振り返った。
そして銀色の星が少年にすばやく向かいとび、毒蛾の魔物はその突き刺さる刃に──堕ちた。
「モスポイズンだ、じゃれつかれるとちょっとかゆくなるぞ」
「……後ろだ、緑髪の剣士」
「あはは、──分かってる!」
ひらひらマントの背に飛びついた灰鼠の魔物は、すばやく泳がせた鋼の剣にその前歯ごと斬り裂かれる。
美しい剣線と、流れるような体捌きをじっと見つめながら……
少年は地に刺さる鉄剣のテイラーを引き抜いた。
▼
▽
アモンに頼ればex魔物のライトニングビートルを狩るのは余裕だった?
なんならサナギの状態で手早く危険な賭けなく倒すことができる? もしも仕様が変わっていたらビッグサンダーが効かなかったら今頃イヨ……ポン!!! だった?
素人はこれだから困る。
なんてのは冗談で、やはり最強ユニットのアモンに頼るのはカール王子として癪だった。
というわけでもなく、
ただ単にギム、ホナ、チョコ、それにカール王子今ある戦力と装備とお金でどうにかなるピースが十分に揃っていたからそうした、だけのことである。
それでもアモンに頼れば?
なんならもっと多い戦力で挑めば?
たしかにアモンがいれば楽だったろう。
しかしライトニングビートルの成虫を拝むまでに倒してしまってはあの魔物の素材があの状態で手に入ったかは分からない。それにせっかくビッグサンダーの魔法書を一点もののカール王子の激レア初期装備を売ってまで買ったんだ、使ってみたくもなろう試してみたくもなろう、それがプレイヤーの性だ。それにそれに魔重の盾もランダムに並ぶショップで見つけたんだぞッッこんなのもうほにゃららごにゃらら……。
とまぁ言い訳なぞ立つわけはなく、〝なるべくバレずにたのしみつつサプライズしたいから馬鹿した〟が俺のここまでのプレイ記録だ。
ところで愚痴りつつやってきた。
例の鍛冶屋の家だ。縦長家屋で奥が広い工房につながっている。
俺はさっそく顔パスで入りつつ、いつものようにガンコ職人気質のじじいにめげずに茶々を入れにいった。
鉄床の上にはまだまだそれを武器と呼ぶには荒削りながらも、黒い宝石のような輝きがある。
魔物の素材は加工がそんなに難しいのか、そんな工程を拝める機会なぞこれまでの俺のゲーム体験ではなかったことなので、テンションは自ずと上がる。
俺がそれに触れようとするアクションをみせたそのとき、頑固な眼光が光り…煤のついた鍛冶師のハンマーを向けられてしまった。
「あと三週間で仕上げてやるわい。いちいち来るな、花嫁修行中じゃ」
花嫁修行中やら化粧中やら、なにかと女に例えやがる頑固じじいらしからぬ発言にくすりと笑いそうになるが、ヘソを踏ん張り堪えて。
「そっちこそぐちぐち何言ってんだ、俺たちがここにいるのはあと3日だ。花嫁がそんなのんびり修行しててどうする」
「……なんじゃと??」
防塵ゴーグルを頭の上にずらしはずしながら、じじいノルガ・ノームはさすがに俺のぶっこんだ時限式爆弾発言に驚いたようだ。
しかし俺は冗談を言っているつもりはないので最もらしくつづけた。
「最強の太陽の剣士様がこんなしょぼくれた序盤のカスみたいな街に三週間もいれるかよ。できなきゃこのまま店売りの鋼の剣でいかせてもらう。アレは原大陸産で未開の勇大陸なんかより品質も保証されてるからな。それでも足りなきゃ旅の途中でもっといい装備に段階的に乗り換えていけば何も問題はない、化粧直しに手間取る不細工な花嫁を待つ必要はないってわけだ?」
俺はその不完全な剣ともいえない黒い原石を一瞥して、盛大にながったらしい茶々を入れた。
目を渋く…丸くした爺さんは、俺に向けていた大きめのハンマーを肩に担ぐようにもどした。
そして自分の肩をもみほぐすように小刻みに打ち出した。
「……フンっ言ってくれおる! よしノゾミィ!!! ノゾミィどこだ手伝え!!! この街最高の魔剣を3日でじゃーー!!! 代金は三倍でじゃーー!!!」
「え、お爺ちゃん!? わたし手伝っていいの!??って三日ぁ!?? ままままたあんたァ!??」
じじいが叫び出し、孫を呼ぶ。
慌て駆けつけた赤髪に『おままごとじゃないぞ』と渋くカール王子は言ったが、『気が散る余計なお世話だから!』と返された。
ノゾミィ・ノームはノルガ・ノームの鍛治工房に加わり、慌ただしくすぐさま注文の品を完成させるための手伝いを始めた。
火を吹く炉の赤と跳ねるポニーテール、慎重に磨かれ削られていく黒と真剣な黒い眼差し。
そんな鍛冶師の本気の作業風景を俺はみながら、
「ハッ……代金が三倍だとは言ってねぇ、聞いてねぇ」
これから先の金策手段を四苦八苦、ごちゃついた頭んなかで火の音とハンマーを打つ音をBGMにしながら考えはじめた。
話題そのex《謎のカードゲーム?》
相手に一方的に好条件を飲ませ押し付けたつもりが、裏目に出てしまう。
そんな経験はないだろうか?
俺は現在鍛冶師ノルガ・ノームの弟子に任せていた壊れた武器の修理依頼を放置され、街の外に出ることがあぶなっかしくてできない。
しかも武器制作を依頼したじじいには三倍の代金をふっかけられた始末だ。じじいがじじいなら弟子は弟子、ついに遊びに来る素人の俺はあの家を出禁となったようだ。
もちろん従者であるメイドたちのなかには武器の修理スキルを持つものもいるが、ゲームの仕様通りだと腕は純粋な鍛冶師未満であることは間違いない。そしてゲームとちがい…修理時間を要するので、結局おとなしく待つのが一番だろう。(失敗されてロストしたら目も当てられないからな)
しかし俺は今、王子カール・ロビンゾン。
あいにく武器がなくてもそのえらい地位と財力を使い万事をのぼりつめることができる、選ばれし星の元に生まれた存在。
王子に不可能はない。
たとえゼロからでも俺の残り少ない軍資金で、そっろそろ!!当たりの〝パトル〟を引けるはずなのだ。
まずは目んたまにコインを挿入する。
そして真実の口のようないかつくマヌケな顔の彫られた石板の口穴へと、手を突っ込んだ。
『虫パトル、虫パ、虫パ、虫パ』
俺は念じながら……祈っていたその手で何かをつかみ外へと引き抜いた。
【ライトニングビートル(本気)】
HP1070
AP710
くしざし 単体に180
虫雷の一角(90) 単体に330
虫雷の怒走(230) 全体に550(CT2)
ex能力
このユニット以外の虫系ユニットのAP技の攻撃力を90下げる。
天国の虫系ユニットのユニット数一体につきAP技の攻撃力を20上げる。
このユニットよりHPの低いユニットのAPを毎自ターン50吸収する。
このユニットの受ける敵ユニットからのダメージはバトル場に置いたときの経過ターン数1毎に10ずつ減少する。
手札から3枚虫系ユニットを天国に捨てることでこのユニットはバトル場に出す事ができる。
■
「駆け抜けた…王子の休日…俺の右手は真実の神御手……はーっはっは……ハッハーーーーー!!!」
ガッツポーズをしている俺がいる。
心からのガッツポーズを。
煌めくパラレル加工の激レアパトルを右手に、左手は唸り握りしめるガッツポーズを。
「何やってんの? 馬鹿ール……」
なにか感じたことのあるジトっとした視線を感じたが気にしない。俺は街のはじっこで、マヌケ顔あらためたいそうイケメン顔に見えてきたまるい石男を撫でていたわり…この日の神引きに感謝をした。
▼
▽
〝パトル〟とはなにか。
それはたぶんこのセカイでひそかに流行っているカードゲームのことだろう。
石の目に硬貨をぶちこみさっきの真実の口へと手をつっこんで念じれば、欲しい種類のカードをある程度排出してくれる。
俺が軍資金をずいぶん投入し狙っていたのは【ライトニングビートル(本気)】のパトルカード。
やはりこの地域の基本カードにくわえて倒したことのあるレアな魔物のカードは排出されるようになっていた読みは変わっていなく当たっていたようだ。
このままコレクターに売っぱらうのも軍資金を元の三倍以上に増やせてありだが、せっかくだそれは冠を手に入れたときに考えよう。
《パトルバトルの基本ルール》
30~60枚デッキ構成で同じカードはいくらでも積める。
先に7点を取った方が勝ち。
点の取り方はユニットカード1枚を撃破で1点。
空っぽの敵陣を攻撃できればユニット1体につき1点。
住民ユニットが特殊クエストを達成するとその能力に明記された点やアイテムを獲得。
ただし点数は両パトラー共通であり、合計で7点相手からとっても勝負が決まるとはかぎらない。例えば自分が相手ユニットを3体撃破したこれでこっちは3点、だが相手にそのあと自ユニットが2体撃破されてしまった!これでは自分の獲得点数はマイナス2されて1になる。さらにさらにそのあと追加で4体自ユニットがやられてしまった!こっちの獲得点数は相手が3点で実質マイナス3点だ。
さらに分かりやすくいえば7から-7のメモリの刻まれたロープがあり、1cmずつ自分の勝利のかかれたフラッグへと相手をひっぱり引き寄せていくそんな泥沼の長期戦も秒速決着もできうる運動会の綱引きのようなゲーム性だ。
さっそくバーの外テラス席で行われている参加した小規模トーナメントをあくびをしながら勝ち抜き、デッキを最適な枚数調整しつつ途中勝利報酬でぶんどったよさげなカードを選び加え、1時間足らずで決勝の舞台までたどりついた。
絶賛長期戦を繰り広げているお相手は、鼠の着ぐるみをきた懇切丁寧によくしゃべるおっさんだ。
「このままだとモスポイズンの毒で取り巻きが死んでいずれチェックメイトだがそれでいいのか? ベヌレの街のパトルチャンプさん?」
「ばーーか、かまわん!! ──ふふふ引いたぞ成ったぞ、アイテムカード【超高級回復シャワー】……これを装備したユニットと隣接するユニットは毎ターン70の継続回復でオマエの毒は帳消しなのだーーーーっはっはっは。ここまでこそこそ卑怯にも勝ち上がってきたようだが漢らしくない姑息なねちねち戦法はパワー&ラットでねじふっせる!! キングラット、APを220支払い〝王鼠尻圧余波〟だ!!!」
「よーしこれで、お前のバトル場はまさに虫の息。俺の魂のパトル、次の俺のキングラットの〝王鼠尻圧余波〟に耐えられるユニットはいない! なぜならば自分のバトル場に鼠ユニットが2体以上いるときにこの技は使用でき単体に440HPダメージ、さらに振ったダイスが偶数だと追加で全体に220ダメージだからだ!!! ちなみに奇数だと自ユニットに220ダメージだ……はっはっは俺は次もダイスロールできっと偶数をだすぞーーー姑息な虫野郎のチャレンジャー!!! その羽根、その脚、もがれていく苦しさを虫らしく味わえーーーー!!!!」
「そうかそうかそいつはあつ苦しくてこまった俺の番【鈴蘭の森の駆け落ち】今おまえのあいた7枚制限のバトル場に横向きで設置した自然系フィールドカードで天国のモス系の数だけ継続毒ダメージを1体につき50アップ。そして街場にだしていた住民ユニット、【ポイズンレディ】のクエストはおぼえているか〝毒ダメージで相手ユニットを倒したとき追加で1点を獲得する〟えっと、このターン俺がエンドするとぉ毒ダメージは合計300に跳ね上がる。手札の残りの自ユニットでいい感じに削りを入れてナイトラット×3とキュートフェアリーがターンエンドの毒で死んだと仮定して合わせて俺の勝ちかな? いやーぁちょっとまて、不安だから念のために【ゲキ旨毒団子】毒状態のユニットの最終撃破点数を二倍にする、もその鼠に装備させてぇ」
「…………ほへへ? ひぃ…ふぅ…みぃ…ちゅー? チュぅうう!!?……ばっ、ばっばっかなーーーーぬおおおおおお!!!! やめろおおおお!!! 嘘だぁインチキだぁ!!! そんな姑息な戦法でよわい虫系ごときがこの俺の王鼠デッキに逆転なんてありえない!!!」
「なぁにがインチキだよ審判にかくにんして現実みやがれ。こんなことで取り乱すようじゃぁベヌレの街のパトルチャンプさんの名が泣いてるぞ? まったく思い通りに運びすぎてせっかく引き当てた切札を出すまでもねぇな、ハッ!!! さぁお前の罪を数えろカール王子の毒殺さんすうのじかんだ!!!」
自慢の激レアカードを見せびらかすつもりが、俺の毒モス天国戦法がこの脳筋ラット召喚しまくりゴリ押しデッキにがっちりとハマり、出すまでもなくチェックメイトに。
カードゲームをやると俺の性格はいつもよりちょっぴり悪くなるようだ。さっさとレアカードをいただいて、相手が嫌がるほどに思いやりのありすぎる人間になる前にこのおまけのカードゲームを終わらせるとするか。
「ほんとなにやってんの……馬鹿ール…」
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▽
「あなたの【王子毒殺手記】たしかにいただいたわ。うふふ、王子を刺し襲う無知の愛憎劇それに毒マグロとは新鮮な表現だったわ」
「これ、おだちん。また身の痺れ悶えるような美味しいお話を聞かせてくれたらお礼してあげる♡」
路地裏で鉢合わせた白傘をさした妖しい雰囲気の淑女に俺の手記を手渡し、かわりにおだちんとアイテムを受け取った。
持て余していた暇を有効活用し、見つけたこの街のサブクエストを淡々とこなしていく。
そんなこんなで例の約束の三日が過ぎ、俺は出禁のルールを堂々と破り再びあの鍛冶師たちの家兼工房へと乗り込んでいった。
ハンマーを打ついつもの慌ただしい女の声と力強い音は工房への長い廊下をゆく俺の耳には聞こえてこない。
ドキドキと俺の胸を、俺が打つ。
さぁて、この街最高の剣とやらの出来栄えはいかに──
「三日は無理じゃ馬鹿息子。代わりにコイツとその娘を連れて行け」
「お爺ちゃん!? そんなの!? ひとりで!?」
「お前も諸国の打ち方を学びに行きたいと常々言っておったろう、ならその小僧についていくのが近道じゃろう」
「ええーー!? いきなりそんな…」
工房についた途端、赤髪の娘は白布のベールに包まれたブツをじじいから押し付けられ受け取り、娘は驚きながらもその慌てる両腕両手はいっぱいいっぱい。
爺さんの手持つハンマーのでかいT時の矢印は絶賛俺の唖然とする顔へと向けられ、威圧している。
…………ちょっと待ってくれいきなり話が今の一瞬で5話ぐらい進んだぞ? あまりにも唐突すぎて俺、この茶番じみたサブクエスト読み飛ばしてねぇよな?
しかし俺は王子、カール王子。
街のパトルチャンプで幻の魔物ライトニングビートルを倒し引き当てた男。
この程度の運命の引きにおののいたりはしない。
やってきて早々に慌ただしく目まぐるしく、うながされた俺の発言ターン。
「もらっていいのか爺さん?」
「3日では最高の武器はつくれん。どこぞの馬鹿息子の言う通りこんな田舎街にいつまでもおられても困る。なんならノゾミィもいい歳じゃ、もらっていけ。相手が王子のはしくれならばワシもメイヂ王家に伝手ができてちょうどいいわい。わるくない親孝行じゃな」
なるほど、納期の3日は短すぎて代わりに手に入るおだちんがまだ未完成の武器とおまけのこれってわけか。
「ってなに言ってんのーー!!! 自分でかわいい娘をあったばかりのお、お、おと…にッ差し出して親孝行!??」
「ははは。その手札は予想になかったな」
世間的にはまったくイカれた話であるが、理屈としちゃ王道でもある。うん。
「じじいの仕返しじゃ。いくら金を積まれてもワシはもう打たん。こんな中途半端な仕事はの。じゃがこれと同じ素材を持って来れるようならまた考えてやろう」
「そいつぁ一点もんの無理な発注だぜ? はは、2ヶ月は待ってくれないとな」
「フッ、言うことだけは一人前の王子じゃ」
「っててててあたしの身で仕返ししないでーーー!!! お爺ちゃん馬鹿ーーーー!!!」
中途半端な仕事は弟子で愛娘、ノルガ・ノームからノゾミィ・ノームへと引き継がれた。
俺はわめく赤髪の肩を組み、『要するにおままごとか?』とささやいたら、『やややかましい!!!』と元気な怒声と腹筋にトンカチのいちげきを浴びせられた。
皆があこがれるカール王子の旅団の第一次にて最終面接も無事に終わった。
とりあえず始めたときより横線をいっぱい引いた黒くなったリストを返して、あとは仕事のはやいメイド長が見つけていい感じにやってくれることだろう。
「にしても追加キャラがやけにおもったより多いな? ま、ゲームはボリュームが多いにこしたこたぁねぇ。むしろ20年待ちだから遊びきれないほ・ど・がほぁぁ……ねむ」
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昼下がり▽ベヌレの街の西の門前▽にて
王子という職業は勝手に選んだり部下に投げたり部下を気にかけたり……忙しいものだ。
もちろん上の立場の俺を便宜上手伝ってくれる優秀なメイドたちはいれど、王子を操作しているからにはこのすごい権限をもってあらゆるものを決めなければならない。
そして今、ずっと気に掛けていたひとりのオーラある従者。彼の身の回りのことを王子としてサプライズで決めたのだ。例のすごい王子権限で呼び出して。
「よーーーアモン呼び出してすまねぇな? たのしいデートの予定のひとつでもあったろうに」
「あはは、カール王子の誘いだ。まったくないデートの予定もすっぽかして飛び付くよ」
そう待ち合わせは門の前、うららかな春の陽射しのようなお天気のお外の野原。
俺は笑顔で現れた剣士アモン様という能力値と顔面値の高すぎる理想の男にすっかりお熱なのだ。
ゲーム開始から(毒マグロだったときをのぞき)ずっとアモンを中心に寝ても覚めても昨日も夜中も考えながら動いていたといっても過言じゃないのだ。
もちろん好きなキャラだがそっちの気はない、俺は王道だ王ヂだけに。
「ハッ」
「あはは、ところでさしているソレは? カール剣は売ったって?」
さすがに気付く。開幕から気付かれていたようだ、さすがアモンとはいちいち言わない普通の洞察力だ。
俺が腰に差している新品のコイツに興味津々なのが、ひとりの男の目からこの距離でも伝わってくる。
「あぁ、こいつが用ってヤツだ。お前にな」
あいにくもったいぶる必要もない。
余計な演出はいらないだろう。
俺はアモンに近付きすんなり腰に差していた似合わない装備を外し、何の未練もなく正しき持ち主の手元へと届けた。
俺が考えなしに買った店売りの鋼の剣だ。ドタバタがひと段落落ち着いたので、とりあえずソイツを二人きりのときに〝第一弾〟のサプライズプレゼントしておこうと思ったしだいだ。
「え、カール!? ……いいのか? 俺はこのメイヂ国を発つときに王から授かった鉄剣のテイラーをまだ極めちゃいないが??」
といいつつも、さっそく鞘から抜いてやがる……輝かせるつぶらな瞳で手に持つソレを抜いたり戻したり繰り返しているのは天然なのか。
笑いをこらえる腹筋が地味に痛いんだが。
「使い潰すことを極めるとは言わねーよ天然、どこのどいつの王の誰が言ったんだそんな貧乏くさい風習を。ハッ、俺様の剣しか取り柄がない側近がそんなふっるい装備じゃ頼りねぇからな。いいもなにもこれぐらい普通だろ? 俺が新しい剣さえ買い与えないケチな国の王子様にでもみえるのかアモン・シープルくん?」
そんな安物をいつまでももったいない精神で使われては戦力だだ下がりでこっちが困るのだよアモンくん。まさにどこのどいつ案件だが、従者と王と王子の関係ってのは立場とけったいな思惑が入り混じる一言では説明の難しい複雑なものだ。だが王子の俺がすこしぐらい介入して解消する分には問題はなかろう、同行する一番の戦力ユニットとして有効的に使っているだけだからな?
鋼の剣ひとつぐらいは安すぎるぐらいだ。
「カール……」
「野郎にそんなに見つめられてもうれしかねぇがな、その汗臭いお古は売るなり彼女にプレゼントするなり好きにしろ」
「あぁ──わかった、ありがとう。なるほど、てことは、カール?? このあとはさっそくあのときの勝負のつづきか!!」
「あぁそーそーアモ…ってなんでだよ!!! 馬鹿言ってないで慣らしとけ、気に入らねえようなら即刻返品にするぞ! まったくどんな爆弾級の〝てことは〟だよ」
「あはは、それはイヤだな。じゃぁちょっと慣らしてくる!! よぉぉし、これからよろしくな〝ハガー〟!!!」
鋼の剣を独特のセンスで命名する。左に旧友のテイラー、右に新入りのハガーを携えて……緑髪の男のマントが風に乗りはためき──元気だ、すこぶる。
「ちょっと慣らしてくるでひとりで魔物ぶっ殺しにいくヤツがいるかよ、ハッ──アモン・シープル、太陽の勇者」
そういえば手持ちの武器がねぇ。平原の彼方のお熱く危ないデートに誘われなかったのはちょっとざんねんか? はは。
光射す平原をゆく、若い勇者の背が、一介のVRゲームプレイヤーの目に……遠くまぶしい。
俺はひとつおおきく背伸びをした。
鋼の剣ひとつではしゃぐ規格外の従者のことより、一国の王子として大局を見て二手三手、これからに備え地道に椅子にすわり準備していくのも……
「プレイしがいがありそうだ、はは」
話題そのex《鉄剣のテイラー…?》
絵本にでてくるような勇者たち、英雄たちもそのようであったのだろうか。
血の色の似合わない緑髪をなびかせ、並いる魔物を平然と斬り裂く存在は、屠ったそばの魔物の屍とそのよごれた剣がよく似合う。
そんな盗み見しすぎた視線に、剣士は振り返った。
そして銀色の星が少年にすばやく向かいとび、毒蛾の魔物はその突き刺さる刃に──堕ちた。
「モスポイズンだ、じゃれつかれるとちょっとかゆくなるぞ」
「……後ろだ、緑髪の剣士」
「あはは、──分かってる!」
ひらひらマントの背に飛びついた灰鼠の魔物は、すばやく泳がせた鋼の剣にその前歯ごと斬り裂かれる。
美しい剣線と、流れるような体捌きをじっと見つめながら……
少年は地に刺さる鉄剣のテイラーを引き抜いた。
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アモンに頼ればex魔物のライトニングビートルを狩るのは余裕だった?
なんならサナギの状態で手早く危険な賭けなく倒すことができる? もしも仕様が変わっていたらビッグサンダーが効かなかったら今頃イヨ……ポン!!! だった?
素人はこれだから困る。
なんてのは冗談で、やはり最強ユニットのアモンに頼るのはカール王子として癪だった。
というわけでもなく、
ただ単にギム、ホナ、チョコ、それにカール王子今ある戦力と装備とお金でどうにかなるピースが十分に揃っていたからそうした、だけのことである。
それでもアモンに頼れば?
なんならもっと多い戦力で挑めば?
たしかにアモンがいれば楽だったろう。
しかしライトニングビートルの成虫を拝むまでに倒してしまってはあの魔物の素材があの状態で手に入ったかは分からない。それにせっかくビッグサンダーの魔法書を一点もののカール王子の激レア初期装備を売ってまで買ったんだ、使ってみたくもなろう試してみたくもなろう、それがプレイヤーの性だ。それにそれに魔重の盾もランダムに並ぶショップで見つけたんだぞッッこんなのもうほにゃららごにゃらら……。
とまぁ言い訳なぞ立つわけはなく、〝なるべくバレずにたのしみつつサプライズしたいから馬鹿した〟が俺のここまでのプレイ記録だ。
ところで愚痴りつつやってきた。
例の鍛冶屋の家だ。縦長家屋で奥が広い工房につながっている。
俺はさっそく顔パスで入りつつ、いつものようにガンコ職人気質のじじいにめげずに茶々を入れにいった。
鉄床の上にはまだまだそれを武器と呼ぶには荒削りながらも、黒い宝石のような輝きがある。
魔物の素材は加工がそんなに難しいのか、そんな工程を拝める機会なぞこれまでの俺のゲーム体験ではなかったことなので、テンションは自ずと上がる。
俺がそれに触れようとするアクションをみせたそのとき、頑固な眼光が光り…煤のついた鍛冶師のハンマーを向けられてしまった。
「あと三週間で仕上げてやるわい。いちいち来るな、花嫁修行中じゃ」
花嫁修行中やら化粧中やら、なにかと女に例えやがる頑固じじいらしからぬ発言にくすりと笑いそうになるが、ヘソを踏ん張り堪えて。
「そっちこそぐちぐち何言ってんだ、俺たちがここにいるのはあと3日だ。花嫁がそんなのんびり修行しててどうする」
「……なんじゃと??」
防塵ゴーグルを頭の上にずらしはずしながら、じじいノルガ・ノームはさすがに俺のぶっこんだ時限式爆弾発言に驚いたようだ。
しかし俺は冗談を言っているつもりはないので最もらしくつづけた。
「最強の太陽の剣士様がこんなしょぼくれた序盤のカスみたいな街に三週間もいれるかよ。できなきゃこのまま店売りの鋼の剣でいかせてもらう。アレは原大陸産で未開の勇大陸なんかより品質も保証されてるからな。それでも足りなきゃ旅の途中でもっといい装備に段階的に乗り換えていけば何も問題はない、化粧直しに手間取る不細工な花嫁を待つ必要はないってわけだ?」
俺はその不完全な剣ともいえない黒い原石を一瞥して、盛大にながったらしい茶々を入れた。
目を渋く…丸くした爺さんは、俺に向けていた大きめのハンマーを肩に担ぐようにもどした。
そして自分の肩をもみほぐすように小刻みに打ち出した。
「……フンっ言ってくれおる! よしノゾミィ!!! ノゾミィどこだ手伝え!!! この街最高の魔剣を3日でじゃーー!!! 代金は三倍でじゃーー!!!」
「え、お爺ちゃん!? わたし手伝っていいの!??って三日ぁ!?? ままままたあんたァ!??」
じじいが叫び出し、孫を呼ぶ。
慌て駆けつけた赤髪に『おままごとじゃないぞ』と渋くカール王子は言ったが、『気が散る余計なお世話だから!』と返された。
ノゾミィ・ノームはノルガ・ノームの鍛治工房に加わり、慌ただしくすぐさま注文の品を完成させるための手伝いを始めた。
火を吹く炉の赤と跳ねるポニーテール、慎重に磨かれ削られていく黒と真剣な黒い眼差し。
そんな鍛冶師の本気の作業風景を俺はみながら、
「ハッ……代金が三倍だとは言ってねぇ、聞いてねぇ」
これから先の金策手段を四苦八苦、ごちゃついた頭んなかで火の音とハンマーを打つ音をBGMにしながら考えはじめた。
話題そのex《謎のカードゲーム?》
相手に一方的に好条件を飲ませ押し付けたつもりが、裏目に出てしまう。
そんな経験はないだろうか?
俺は現在鍛冶師ノルガ・ノームの弟子に任せていた壊れた武器の修理依頼を放置され、街の外に出ることがあぶなっかしくてできない。
しかも武器制作を依頼したじじいには三倍の代金をふっかけられた始末だ。じじいがじじいなら弟子は弟子、ついに遊びに来る素人の俺はあの家を出禁となったようだ。
もちろん従者であるメイドたちのなかには武器の修理スキルを持つものもいるが、ゲームの仕様通りだと腕は純粋な鍛冶師未満であることは間違いない。そしてゲームとちがい…修理時間を要するので、結局おとなしく待つのが一番だろう。(失敗されてロストしたら目も当てられないからな)
しかし俺は今、王子カール・ロビンゾン。
あいにく武器がなくてもそのえらい地位と財力を使い万事をのぼりつめることができる、選ばれし星の元に生まれた存在。
王子に不可能はない。
たとえゼロからでも俺の残り少ない軍資金で、そっろそろ!!当たりの〝パトル〟を引けるはずなのだ。
まずは目んたまにコインを挿入する。
そして真実の口のようないかつくマヌケな顔の彫られた石板の口穴へと、手を突っ込んだ。
『虫パトル、虫パ、虫パ、虫パ』
俺は念じながら……祈っていたその手で何かをつかみ外へと引き抜いた。
【ライトニングビートル(本気)】
HP1070
AP710
くしざし 単体に180
虫雷の一角(90) 単体に330
虫雷の怒走(230) 全体に550(CT2)
ex能力
このユニット以外の虫系ユニットのAP技の攻撃力を90下げる。
天国の虫系ユニットのユニット数一体につきAP技の攻撃力を20上げる。
このユニットよりHPの低いユニットのAPを毎自ターン50吸収する。
このユニットの受ける敵ユニットからのダメージはバトル場に置いたときの経過ターン数1毎に10ずつ減少する。
手札から3枚虫系ユニットを天国に捨てることでこのユニットはバトル場に出す事ができる。
■
「駆け抜けた…王子の休日…俺の右手は真実の神御手……はーっはっは……ハッハーーーーー!!!」
ガッツポーズをしている俺がいる。
心からのガッツポーズを。
煌めくパラレル加工の激レアパトルを右手に、左手は唸り握りしめるガッツポーズを。
「何やってんの? 馬鹿ール……」
なにか感じたことのあるジトっとした視線を感じたが気にしない。俺は街のはじっこで、マヌケ顔あらためたいそうイケメン顔に見えてきたまるい石男を撫でていたわり…この日の神引きに感謝をした。
▼
▽
〝パトル〟とはなにか。
それはたぶんこのセカイでひそかに流行っているカードゲームのことだろう。
石の目に硬貨をぶちこみさっきの真実の口へと手をつっこんで念じれば、欲しい種類のカードをある程度排出してくれる。
俺が軍資金をずいぶん投入し狙っていたのは【ライトニングビートル(本気)】のパトルカード。
やはりこの地域の基本カードにくわえて倒したことのあるレアな魔物のカードは排出されるようになっていた読みは変わっていなく当たっていたようだ。
このままコレクターに売っぱらうのも軍資金を元の三倍以上に増やせてありだが、せっかくだそれは冠を手に入れたときに考えよう。
《パトルバトルの基本ルール》
30~60枚デッキ構成で同じカードはいくらでも積める。
先に7点を取った方が勝ち。
点の取り方はユニットカード1枚を撃破で1点。
空っぽの敵陣を攻撃できればユニット1体につき1点。
住民ユニットが特殊クエストを達成するとその能力に明記された点やアイテムを獲得。
ただし点数は両パトラー共通であり、合計で7点相手からとっても勝負が決まるとはかぎらない。例えば自分が相手ユニットを3体撃破したこれでこっちは3点、だが相手にそのあと自ユニットが2体撃破されてしまった!これでは自分の獲得点数はマイナス2されて1になる。さらにさらにそのあと追加で4体自ユニットがやられてしまった!こっちの獲得点数は相手が3点で実質マイナス3点だ。
さらに分かりやすくいえば7から-7のメモリの刻まれたロープがあり、1cmずつ自分の勝利のかかれたフラッグへと相手をひっぱり引き寄せていくそんな泥沼の長期戦も秒速決着もできうる運動会の綱引きのようなゲーム性だ。
さっそくバーの外テラス席で行われている参加した小規模トーナメントをあくびをしながら勝ち抜き、デッキを最適な枚数調整しつつ途中勝利報酬でぶんどったよさげなカードを選び加え、1時間足らずで決勝の舞台までたどりついた。
絶賛長期戦を繰り広げているお相手は、鼠の着ぐるみをきた懇切丁寧によくしゃべるおっさんだ。
「このままだとモスポイズンの毒で取り巻きが死んでいずれチェックメイトだがそれでいいのか? ベヌレの街のパトルチャンプさん?」
「ばーーか、かまわん!! ──ふふふ引いたぞ成ったぞ、アイテムカード【超高級回復シャワー】……これを装備したユニットと隣接するユニットは毎ターン70の継続回復でオマエの毒は帳消しなのだーーーーっはっはっは。ここまでこそこそ卑怯にも勝ち上がってきたようだが漢らしくない姑息なねちねち戦法はパワー&ラットでねじふっせる!! キングラット、APを220支払い〝王鼠尻圧余波〟だ!!!」
「よーしこれで、お前のバトル場はまさに虫の息。俺の魂のパトル、次の俺のキングラットの〝王鼠尻圧余波〟に耐えられるユニットはいない! なぜならば自分のバトル場に鼠ユニットが2体以上いるときにこの技は使用でき単体に440HPダメージ、さらに振ったダイスが偶数だと追加で全体に220ダメージだからだ!!! ちなみに奇数だと自ユニットに220ダメージだ……はっはっは俺は次もダイスロールできっと偶数をだすぞーーー姑息な虫野郎のチャレンジャー!!! その羽根、その脚、もがれていく苦しさを虫らしく味わえーーーー!!!!」
「そうかそうかそいつはあつ苦しくてこまった俺の番【鈴蘭の森の駆け落ち】今おまえのあいた7枚制限のバトル場に横向きで設置した自然系フィールドカードで天国のモス系の数だけ継続毒ダメージを1体につき50アップ。そして街場にだしていた住民ユニット、【ポイズンレディ】のクエストはおぼえているか〝毒ダメージで相手ユニットを倒したとき追加で1点を獲得する〟えっと、このターン俺がエンドするとぉ毒ダメージは合計300に跳ね上がる。手札の残りの自ユニットでいい感じに削りを入れてナイトラット×3とキュートフェアリーがターンエンドの毒で死んだと仮定して合わせて俺の勝ちかな? いやーぁちょっとまて、不安だから念のために【ゲキ旨毒団子】毒状態のユニットの最終撃破点数を二倍にする、もその鼠に装備させてぇ」
「…………ほへへ? ひぃ…ふぅ…みぃ…ちゅー? チュぅうう!!?……ばっ、ばっばっかなーーーーぬおおおおおお!!!! やめろおおおお!!! 嘘だぁインチキだぁ!!! そんな姑息な戦法でよわい虫系ごときがこの俺の王鼠デッキに逆転なんてありえない!!!」
「なぁにがインチキだよ審判にかくにんして現実みやがれ。こんなことで取り乱すようじゃぁベヌレの街のパトルチャンプさんの名が泣いてるぞ? まったく思い通りに運びすぎてせっかく引き当てた切札を出すまでもねぇな、ハッ!!! さぁお前の罪を数えろカール王子の毒殺さんすうのじかんだ!!!」
自慢の激レアカードを見せびらかすつもりが、俺の毒モス天国戦法がこの脳筋ラット召喚しまくりゴリ押しデッキにがっちりとハマり、出すまでもなくチェックメイトに。
カードゲームをやると俺の性格はいつもよりちょっぴり悪くなるようだ。さっさとレアカードをいただいて、相手が嫌がるほどに思いやりのありすぎる人間になる前にこのおまけのカードゲームを終わらせるとするか。
「ほんとなにやってんの……馬鹿ール…」
▼
▽
「あなたの【王子毒殺手記】たしかにいただいたわ。うふふ、王子を刺し襲う無知の愛憎劇それに毒マグロとは新鮮な表現だったわ」
「これ、おだちん。また身の痺れ悶えるような美味しいお話を聞かせてくれたらお礼してあげる♡」
路地裏で鉢合わせた白傘をさした妖しい雰囲気の淑女に俺の手記を手渡し、かわりにおだちんとアイテムを受け取った。
持て余していた暇を有効活用し、見つけたこの街のサブクエストを淡々とこなしていく。
そんなこんなで例の約束の三日が過ぎ、俺は出禁のルールを堂々と破り再びあの鍛冶師たちの家兼工房へと乗り込んでいった。
ハンマーを打ついつもの慌ただしい女の声と力強い音は工房への長い廊下をゆく俺の耳には聞こえてこない。
ドキドキと俺の胸を、俺が打つ。
さぁて、この街最高の剣とやらの出来栄えはいかに──
「三日は無理じゃ馬鹿息子。代わりにコイツとその娘を連れて行け」
「お爺ちゃん!? そんなの!? ひとりで!?」
「お前も諸国の打ち方を学びに行きたいと常々言っておったろう、ならその小僧についていくのが近道じゃろう」
「ええーー!? いきなりそんな…」
工房についた途端、赤髪の娘は白布のベールに包まれたブツをじじいから押し付けられ受け取り、娘は驚きながらもその慌てる両腕両手はいっぱいいっぱい。
爺さんの手持つハンマーのでかいT時の矢印は絶賛俺の唖然とする顔へと向けられ、威圧している。
…………ちょっと待ってくれいきなり話が今の一瞬で5話ぐらい進んだぞ? あまりにも唐突すぎて俺、この茶番じみたサブクエスト読み飛ばしてねぇよな?
しかし俺は王子、カール王子。
街のパトルチャンプで幻の魔物ライトニングビートルを倒し引き当てた男。
この程度の運命の引きにおののいたりはしない。
やってきて早々に慌ただしく目まぐるしく、うながされた俺の発言ターン。
「もらっていいのか爺さん?」
「3日では最高の武器はつくれん。どこぞの馬鹿息子の言う通りこんな田舎街にいつまでもおられても困る。なんならノゾミィもいい歳じゃ、もらっていけ。相手が王子のはしくれならばワシもメイヂ王家に伝手ができてちょうどいいわい。わるくない親孝行じゃな」
なるほど、納期の3日は短すぎて代わりに手に入るおだちんがまだ未完成の武器とおまけのこれってわけか。
「ってなに言ってんのーー!!! 自分でかわいい娘をあったばかりのお、お、おと…にッ差し出して親孝行!??」
「ははは。その手札は予想になかったな」
世間的にはまったくイカれた話であるが、理屈としちゃ王道でもある。うん。
「じじいの仕返しじゃ。いくら金を積まれてもワシはもう打たん。こんな中途半端な仕事はの。じゃがこれと同じ素材を持って来れるようならまた考えてやろう」
「そいつぁ一点もんの無理な発注だぜ? はは、2ヶ月は待ってくれないとな」
「フッ、言うことだけは一人前の王子じゃ」
「っててててあたしの身で仕返ししないでーーー!!! お爺ちゃん馬鹿ーーーー!!!」
中途半端な仕事は弟子で愛娘、ノルガ・ノームからノゾミィ・ノームへと引き継がれた。
俺はわめく赤髪の肩を組み、『要するにおままごとか?』とささやいたら、『やややかましい!!!』と元気な怒声と腹筋にトンカチのいちげきを浴びせられた。
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