GAME原魔勇

GAME4

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ライトニングビートル（蛹）:
【早起きの檄】
取り巻きの虫型モンスターを起こす小雷。
【虫雷の一角】
一角からするどい雷撃を放つ。
【栄養吸収】
取り巻きの虫を栄養にし、傷付いたサナギを回復補修する。さらに栄養にした虫の数だけより強固なかたさを得る。
【発光（赤）】
体内の雷属性の充電が変態するのに十分な状況を発光器を灯し敵を威嚇するように示す。
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大木を灼きかじりつくサナギの一角から、するどい雷撃を早い間隔であちこちに放ち始めた。

少数精鋭でもない少数ユニットの俺たちにできるのはexステージに挑むには火力不足のこの面子でサナギにたいして無駄な削りはせず、堅実に守りを固めること。あとは時間が作戦を練り上げて解決するはずだ。

ギムは【魔重まじゅうの盾】をどっしりと構えた。
APを消費するとかたさがあがるがその分重くなる。魔物の素材で鍛えた…原大陸では認められていない邪道でレアな魔盾だ。

「ぎむっ、【バクゥ】！」

【バクゥ】ギムの得意とする吸収の盾技。周囲の攻撃の属性値を食べるように吸収し、自分の属性値を微量上げる。魔法の含んだ攻撃に対して有効な防御手段だ。

雷撃に幾度も見舞われながらも、決してそのちいさな身はおおきなその盾をひかない。

「ほな、【バクゥガ】！」

【バクゥガ】豊かに芽吹く癒しの魔弾、その種を地に撃ちエリア回復するホナの得意とする範囲継続回復技。必要APは多く使い所がすこし難しい。
だが姉妹設計されたギムの【バクゥ】と合わせることで、過剰回復したエリア内盾後ろのホナとチョコの回復量をギムに集中し食べ残しなく分け与えることができる。つまり固まり陣形を組めば序盤にして上位回復魔法にも劣らない回復量を条件つきで発揮することができる。

そのはやさを犠牲にしたレア盾をもってしても決して楽じゃない雷に何度もさらされ失ったダメージ量を双子の連携AP消費技で失ったそばから大回復していく。

さらにその重々しい盾は、水の翼を広げる。
水の素質のあるギムのオーラに反応した盾が雷に焼かれた熱量を冷却しながら……水の両翼のエフェクトを輝く飛沫をあげながらひろげつづける。

「おおぉ、ギムてんさいの巻き」
「ホナ、凡才のショック、双子、差がつく」
「ホナもまぁまぁ、さいてん」
「ギムもまぁまぁ、さていん」

芽吹く回復エリアと、雷に打たれても構わず爽やかに広がる水盾。
ギムとホナは予想以上に機能している。
これならばサナギ状態の発狂雷撃も大丈夫だろう。

あとは────チョコのクソ長発練のビッグサンダーを然るべきタイミングで叩き込むだけだ。

雷のお熱い矢印と踊りながら、俺もマントを少々焼かれながらも耐え抜いた。
直撃はしていない、ちょっと足首が痺れたがな、ハハ。

「王子ぃーもさていん？」「王子ぃーもさてはさていん？」

「ハッ、一介の王ヂならこれぐらいのダンス講習、最低できててさていんだろ？」

あれが最後のサナギの発狂、じゃぁ……ここからがライトニング。

サナギを彩る発光器のラインが赤く狂ったように点滅する。
右手を大きく天に掲げた俺は、あとはベストのベストタイミングで────託す。

大木の周囲を刻むように落ちていく、速くなっていく雷のリズムに。
最後の天を裂くような雷が、その一角へとするどく滴り落ちた。

まさに最高潮の演出、最高潮のライトニング。
しっかりとおぎゃる様を見届けた親の元へと、生まれ飛び出したくもなるだろう。

間近でご対面するは黒い甲虫ボディー、禍々しい赤い雷光の模様をその身に走らせて。
フル充電の一角を高々と天に突き刺し、神様に感謝の咆哮を。

さぁ放て見せてみろ、その待ちに待ったお前の極大の雷撃を。

「今だ、こんにちはでヤっちまえーーーーー！！！」

「おだちん…おだちん…こんにちは…！　【ビッグサンダーチョコ】！！！」

「「こんばんはーー」」

溜めに溜め掲げた右手は、俺のVRゲームプレイ至上一、熱く振り下ろされた。
従者でメイドのチョコは既にへんてこな杖のへんてこに曲がった杖先まで完全に自分のオーラで満たし、王子の威厳ある命令と耳をつんざく大声で戦闘開始からここまで丁重に溜めに溜めた大魔法を発練した。


雷の敵に雷？　耐性は？　吸収は？　──ハッ、普通にゲーム的常識にのっとり考えれば通じない。
だが……サナギがかっちょいいカブトムシに生まれておめでとう！　なんて祝福の雷をもう一発間髪なしにそのめでたい身に受ければどうなると思う？　うれしいか？　貰い得か？

いんやむしろ貰い毒。
ライトニングビートル、十分な雷の栄養で育ち、さらに厳しい条件を満たして極大の雷を一発浴びたときに生まれ変わるその幻の甲虫は2発目の祝砲に耐えれるバッテリーを積んじゃいない。
動かぬサナギが超上位ex魔物に変わりゆくその瞬間その刹那、一番雷属性値が高まったそのときこそ一番脆い雷魔法が唯一効くタイミングだ。見つけたヤツはさていんだぜ？

つまり──

過剰充電されたその一角のプラグは──

「こんばんはライビちゃん、のッ、ラスト【パワーブーメ】！！！　ハッ────！！！」

雷神様から生まれて一発、知らぬ親戚から祝いにもう一発。
天から降り注いだ極太の雷柱【ビッグサンダー】をもろに浴び、悶え狂う雷甲虫に、俺のすかさず投げ放った白いプレゼントは────その黒く焦げ付いたこの森の蟲王の象徴を飛び迫った白鳥が悠然とかっさらうように、砕き斬った。






物語を彩るのは勇者や王子だけじゃない。
たとえば暗い東の森の中、焦げ臭いにおいのたちこめる森の中。
俺と一緒に冒険している、よくしゃべり、よく喜ぶヤツらがいる。

角を砕き雷を失えど、勢い削いだが最後まで油断ならない森の主が今たおれた。
巨大甲虫がちからなく地を揺らし、雷に焼かれていた黒い大木が同時に折れる。

壊れた穴あきの盾に、ひびわれたゴーグルにうんともすんとも弾のでなくなった魔銃。
飾った最後のイチゲキ…手元には戻らず折れてしまったブーメラン、疲れた老婆のようにへんてこな杖をつきポッケのチョコが戦闘の熱にとけている。


4人で掴んだそれは、天にとどろいた俺たちの歓声は────勝利と呼ぶほかないだろう。


こんなところにも物語。
exステージ雷鳴の森で、特殊で凶悪なex魔物を討伐成功にみちびいたのは、
やっぱりプレイヤーのセンスと腕か。
見知らぬだれかとだれかがつみあげてきたゲーム知識か。
それとも────ハッ。ゲーム通りにはいかないゲームらしいセカイのがんばりか？

「「王子ぃー、なんかよさげのひろったーたべていーぃ？」」

「あぁいいぞ……ってそれ魔石じゃねぇかよ、かじるなばっちぃ。はは、ちょっと見せてみろ昔のSRPG版原魔勇にはなかった新しく配置された追加アイテムのレアもんかもしんねぇ」

「「ちょっとなにいってるかわかんない」」

「でしょうねェ！！　いいからかせぇぃ！　王ヂだぞ！」






▼▼
▽▽






夜道を引き返す。
新作ゲームを買った帰り道のようなわくわく感で、俺たちはベヌレの街の東門を生きてくぐり抜けていた。
眠そうにしていた物見櫓にはお小遣いをあげた門番の男と、メガネを魔光石の明かりに光らせているすらっとしたメイド服にも遠くからのご挨拶をし。
再びその少しじゃりつく靴底の今となってはなつかしい感触に、

「せーーーーぶ！」

「「せぇーーーーーぶ」」

「せぇ…ぶ？」

門前の玄関で叫んでもセーブされた音とメッセージは流れない。
俺の人生のように途中セーブは──できねぇ。


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▽


ピクニック帰りにまだ街中に用事があることを告げると、出迎えご苦労の気の利くメイド長クロウ・フライハイトはあっさりと了承し去っていった。
見知った顔の4人全員の生存確認ができていただけで確認は十分であったのだろう。
あとでメイド長権限でいくらでも聞くこともできるしな、まぁ俺はギムホナチョコに一応口止めをしといたが……ぜってぇ戸はたてられねぇだろうな。
まぁ今は助かるから、さっさと次へとむかおう。




俺はこの街の店を夕方にほぼ隅々までめぐってさらっと目を通している。
結局はじめの武器屋に帰ってきたのが記憶あたらしく思い返されるが、実は買った商品の中にへんてこな杖よりへんてこな売れないモノがあった。
そして既にすっかり仲良くなったあそこのほくほく顔の店主に、既にソレを作ったヤツの住所をきいている。


先ずはノックだ。一回、二回、三回の────高速ノック。
VRゲームで鍛え上げられた俺の高速ノックは、『あんたはイカれた目覚まし時計かい！』と言われるぐらい……すごいっ。

このドアなかなかいい音が鳴る。
夜分にキメる高速ノックに、たまらず誰かが飛び出してきた。

「なななななななななんだってんのーーーーーーーーーー！！！」

まるでその身を高速ノッキングされたかのように、騒がしい第一声を唾つきで浴びた。
出てきたのは若い女だ。ぼさぼさの赤毛で、かたさの低そうな薄布のパジャマはボタンまでほつれ取れている。

「たぶんお前じゃねぇわ、なんだかんだお邪魔しまーす」

「はぁあ！？？　なっなんなのいった──うにゃっ！？」

「これでも持ってろ。壊すなよ」

「って壊れてるーーーーー！！！　え、これは？　なに？　なんの…武器？　ってそっちいっちゃダメ！！」

パジャマ女に壊れたボーンブーメランを預け、ありがたいことに教えてくれた正解ルートの廊下をわたりそっちの部屋に行ってみる。

ばちばちと鳴る火の音は、暖炉に燃える薪木の音。
そんな橙色のあたたかな光のそばの古皮のソファーで眠りこけるじじいがいる。

ゆっくりとした足音で迫ると、

「この街は泥棒しか客がおらんのか」

「泥棒じゃねぇぞ、王子だ」

かけていたブランケットの中から謎のナイフがすっ飛んできたので、レザーグローブでタイミングよく摘んで、手に持ち直したナイフの出来をみながらご挨拶しておいた。

「王子であれなんであれ、馬鹿なお前に売る武器はここにこれしかないわいッ」

「ナイフはもうおあいにく腹いっぱいなんでね、はは」

2度目のキャッチは芸がないので、飛んできたじじいのナイフは手持ちのじじいのナイフで天井に弾き、気の利いたインテリアにした。

「ワシはもう普通の剣は打たん。作るのは魔物の素材を使った武器だけじゃ」

「この文鎮のことか。全然役に立たなかったが、なぁ？」

「ギムはてんさい、テツテツはしゅうさいどまり」

俺の背からひょこっと現れたギムは例の穴あきの魔盾を返品するよう、まだナイフを手に取りやがるナイフじじいに見せつけた。

「ほぉ？　ワシの打ったくだらん魔盾を壊す馬鹿がいたか。実力に見合わんものが装備するからじゃ、ま、それ自体意味のない置物じゃがの。代金は返さんぞ」

「意味はあったぜ？」「あったぜぇい」

「盾などいくら打っても剣には及ばぬ、盾だけではいくら打っても意味はないのじゃ」

「ギム、じじい、ちょっとわかる」
「剣が特別連中に神聖視されてるからか？」

「そうだ、原大陸の馬鹿どもはいくら言っても言うことをきかん。剣は神のもの、盾はいくら穢れ傷ついてもお咎めなしじゃ、まるで目に穴の空いた馬鹿どもの考えじゃ」

「なるほどな。だが、もっと馬鹿なヤツ──いるかもよ？」
「「いるかもよーん」」

じじいの御託やエピソードなぞあまりどうでもいい。
王子がぱちんと指を鳴らし、
遅れてじゃじゃんと現れた双子のホナは、白い布でくるんだ現物をじじいの膝上に届け渡した。

やけにおおきくながい……白布を、しわついた硬い指先でほどいて広げていく。

そしてやがてあらわれた尖った真っ黒な宝石を、みひらいた裸眼で穴があくほどに────
お爺さんはその魔気孕む美しい光沢と鬼の角のようなフォルム……その逞しさと禍々しさをいつまでも眺めていた。






▽鍛冶師ノルガ・ノームの家▽にて


朝飯は他人んちのあまっていたシチュー。
さっきまで寝ていたナイフ投げ爺さんは飯も食わず寝ずに設計図を書いたり古い机の中の素材を引っ張り出したり俺の茶々を聞いたり、老いぼれていた目の色を変えて働きっぱなしだという。


そんなことよりやっぱり、このVRシチューはうまい。

俺に武器制作のスキルはゲームでもリアルでも全くないので、もはや優雅に他人んちのシチューを温めておかわりするぐらいしかカール王子はやることはないのだ。

「「王子ぃー、おかわり」」
「俺は王ヂだぞ？　ったくかせ、じゃがいもは？」
「「もち、きもちおおめ、にんじんはパス」」
「ハッ、俺もだ」


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昔ながらの職人気質の爺さんに部屋に入って来るなとガチ目に怒られたので、仕方なく、コンパクトな魔法の炉の前で鉄床にハンマーを打ちつけおままごとをしている女に声をかけた。

俺たちのライトニングビートル相手に壊れた武器はどうやら弟子っぽいコイツの担当のようだ。
しかしゲームならば一瞬で直るとことを、やけに鍛冶師っぽい恰好でハンマーを熱心に叩いている。

「一瞬で直らないのか」

「ヒャッ！？　え？？　ななななそんな無茶な！！」

「あーわかったぞ。あと30秒ぐらいでなおる？」

「30秒なんて冗談でしょ！？？　きっ、気が散るから！　とりあえずあと2時間待って！　黙ってて！」

「2時間か？　えらい丁寧な仕事だな、ははは」

「もぅなんなの……──！　えっとやっぱりこの構造だと熱をもちすぎる？　この葉脈のように広がる魔力管も試作ってお爺ちゃんが────」


見つめる背の、後ろに纏めた赤毛、白肌のうなじに汗が垂れている。

じじいがじじいなら弟子は弟子だな。
これ以上の茶々入れはやめといたほうがよさそうだ。



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昼頃▽貸し切りの宿屋カンキツ亭▽にて


王子の仕事は鍛冶屋へのご挨拶と寄り道だけではない、山積みだ。
昨日の夕方から夜にかけた盛大なピクニックをし休んでいたぶん働かなければならない。

さっそく俺は仕事のできるメイド長の助力で名簿リストを得て、スカウト面接（ベヌレの街編）を志望者を募り開始した。

さっそくしがない宿屋のVIP室にて、ドアを大きく叩き乗り込んできた──


「オレンジアイドルお姉さん戦士のぉぉ、イヨ……ポン！！！　フレッシュフレッシュ…ということであなたた────────」

「次いってみよー」
「ったあかつきには緑のもじゃこなんかに今度は負けないわよ！　バリバリのブイブイやら…ってゴラぁ！！！」


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オレンジ帽子の妙齢アラサー戦士の次に入って来たのは、素敵な手枷足枷のアクセサリーをつけたつい先日床に押し倒したことのある気がする……銀髪女だった。

「調子よくはいかないものだねぇこれが宿命かい、ひりつく闘いに負けたあとは強いものに巻かれろが世の常だねぇ。ぼんぼん坊や、あたしの山賊団をぶっ壊した責任を取ってもらうよ（ついでにこのふざけた枷も）」

「んー、ぶっちゃけいらねーんだけどな。だってたかが序盤のぽっとでの山賊だし、メイヂ国の衛兵に引き取ってもらうか？」

「なななんだい！？　このあたしが役不足だっていうのかい、たかが序盤のぽっとでの山賊？　はんっ、買っていたのに節穴かい？　このお上品なオリーブ・ウッドシャー様がやる薄汚い山賊の頭なんて原大陸の連中に名を売るためのたかがお遊びよ。魔大陸にも踏み入れて生きて帰ってきたことがあるこの実力者のあたしが？　年季の足りないガキどもの騎士様ごっこに足りないわけないでしょ？」

バンダナのない女山賊は手枷をはめながらも、対面して座る俺の眉間に虚空のナイフを投げる真似をしている。

「あー、ちょっとお試しで他人んちの敷地またいでみてヤバくてすぐ帰ったぁ…ただのモブだろ？　あと役不足の使い方地味にちげぇ」

「こっこのアタシがたっただのモブ！？？」


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この街には気の強い女とむさくるしい男しかいないのか、順々にくる善良だが弱いやつら悪党だが弱いやつらを捌きながら、だんだんと飽きてきたそんな頃。

見た目は最年少、イヨカンやオリーブ畑やひげ面じゃない。
中学生ぐらいに見えるガキが俺の部屋にあらわれた。

「俺の親父が死んだ。あんたらのせいで」

鋭い切れ長の目で俺を睨んでいる。
それは中学生のガキがしていい目ではないだろう。

「親が山賊か」

「クソ野郎だ。────酒浸りの」

そう言って席から立ち上がり、薄汚れた服布を上げた、その華奢なカラダのキャンバスには痣や傷がパッと見では数えきれないほどある。
しかも、戦士が戦場で負ったような傷ではない、そのようには見えない痛々しいものだった。

「復讐か？」

「見てわからないのか？　そんな感情ひと粒だって湧いてこない。ただ、親父を殺したヤツを確かめただけだ」

俺は知っている。知っているが冷静に、感情を平坦にして問うた。

「確かめてみてどうだった？　及ばず悔しかったか？」

「悔しい……俺が殺すつもりだった。クソをいつか殺す……それが俺の人生のすべてだった」

憎しみの演技か、両拳をぎゅっと握りさらにその黒目の切れ味が増している。

「だったら一体どうしたい？　そのすべてが今はこの世にないわけだ」

「あんたらに同行して、殺しの剣をぬすむ！」

「殺しの剣？　……アモンの剣が？　お前がか？」

「あぁ、このしょぼい街にアイツより強いやつなんていない。あと10回は見れば盗める！　俺は強くなれる！」

「一応これでも俺の旅はガキの夢見る砂場の遊びじゃないつもりだが」

「知っている魔物を狩るんだろ！　あんたが王子であの緑髪の剣士と！」

「あぁそうだ。情報が早いな。だからなんのスキルもないその辺のメイド兵以下のヤツに出番はねぇな。お前を連れて行くぐらいなら即戦力になるぽっとでの山賊頭を連れて行く。序盤で惨たらしく魔物や賊のエサになって死ぬのがオチだからな、ガキの死体は胸糞わりぃ」

「山賊頭、死んだクソ親父……そんなのマジで眼中にねぇよ。どうでもいい。嫌といってもついていく。俺をお前の旅団に入れろ！」

そう言うと俯きながらいた黒髪のガキは──靴底に忍ばせていたナイフを手に取った。
その切っ先を余裕をかまし座っていたどこぞの王子へと向けている。

「なんだ同情を誘うだけの演技だったか。よくできてるなアカデミー賞もんだ」

俺は左手をあげ、覗き見をしていたすけべな従者に要らないと合図をした。

「死んだクソに興味はない。あの時本気で試した時点でそんな感情は何回も何度も吹っ飛ばされた！　とっくに気付いた、俺までクソに染まっていたんだって！！　だからついていく！　えらい王子だろうと俺の邪魔ならいらねぇ！　俺を旅団にくわえろ！！！」

啖呵を切るとはまさにこのことか。
そんな小さなナイフ一本で、一国の王子に対して勇ましく本気で。

「はは、」

名演技には名演技で──俺はさっきまで退屈していた席をゆっくりと立ち、そいつに近づく。
そしてやがて、それ以上近づけない────。

「俺はアモンみたいに手加減しねぇぞ？　反抗的なガキだ、死ぬほどこき使ってやる」

「……！　望むところだ！　クソ王子！！」

安いナイフの切っ先は喉元に突き立てられた、俺は少年の汗吹く手を強く掴み。
ちかくちかく面と面で睨み合う黒髪のガキとカール王子は────醜い良い表情で笑いあっていた。