GAME原魔勇

山下敬雄

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GAME3

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《話題ex❶落雷の森の噂》


言い訳をさせてもらうが俺はただ序盤の街で装備をととのえるためだけに散財したわけじゃない。もちろん品揃えは満足いかない序盤の街にあるありふれたものだったが、思わぬ掘り出しものと隠されたヒントがひとつこの店には眠っていたのに俺は気付いてしまったのだ。


「変わったことですかい?」

「例えば商売中、魔物被害や異常気象だとかに困った経験はあるか」

「魔物被害……異常気象? ────あ、そういえばごく最近のこのところヘソを曲げ唸るような雷鳴が夜分によくきこえましてね……。たしか東の森のある方角から、私も近付かないように子飼いの商人キャラバンには一応通達しています。この新たな販路である魅力的な勇大陸には反面何があるか何が起こるわかりませんからなー一定以上の危険を察したら不用意に近づかないのがここで生き残るコツですぞ、山賊もゴロゴロ雷もゴロゴロあはははははゴロがつくものですなーはっははははは」


こんなところで商売をする商人は情報通だからな。これだけ買い物した神様には隠し事はしないだろう。
そしてやはりな。今回もちゃんとあるらしい。
なら、このままの通り予定変更だな。
え? 予定変更?
俺というVRゲーマーは感覚派なんだよ。プレイしながら閃いたり思い出すタイプのな!
だから鋼の剣なんて脳死で買っちまうんだよ! はは!
もちろん脳裏に浮かべるちゃんとした筋書きはあるが、このやけにリアルな生風の吹くVRセカイがプレイヤーの思い通りにノせてくれるとはまだ分からねぇ。
プレイヤーにできることはきっと止まらず発見しこのセカイを楽しむことだけだろう。


そうこう仲良くなった武器屋の商人と話し込んでいると、店内の試着室から茶色いカーテンを開きふたりそろって出てきた。

「「どう? カール王子?」」

「るせぇよ、──似合ってんな」

メイド服から衣装チェンジ。
しっかりと防具をととのえた鉄色の鎧スカートを纏った大盾を背に背負う重装気味のサイドテール娘と、ゴーグルを上げ小銃を手持ちスチームパンクな様相になったサイドテール娘がいっちょ前にかわいいポーズを決めている。

「王子、これ重いホナと同じがいい、かわいい」

さっそく愚痴垂れるのは双子の片割れのギム。
しかしコイツはそういう重めの運命と腰を据えた闘い方をする能力値なのでそんなかわいくくだらない戯言を聞き入れてる余裕とお金は今の王ヂにはない。

「かわいくて戦えるかよ」「たたかえるかよー」

「テツテツで重いとたたかえない」

「重い分かたさが上がってんだからおしゃれだろ? テツテツ」

「かたさ、だから、おしゃれ、つながってない、テツテツ」

「わかったわかったこのあと死にたいならホナと同じのをあとで買ってやる。だからそれでその試作の魔盾を構えれるようにしておけ、言っとくがAPをつかうともっと重くなるからな」

たしかに魔銃師のスチームパンク装備セットはかわいいと評判だろう、しかし女子っぽいおしゃれと硬さは両立しない前衛盾職の宿命なのだ。
口をだらっと開けながらきょとんとするテツテツ装備のギムの親愛度が下がったとしても、王子権限でこれで一旦行ってもらう他ないのだ。
これだけ金をかけてしまったからには後戻りは許されないのだ…!








バグって数値で見えない親愛度を上げたり下げたり、このままじゃカール王子としてのキャラとアイデンティティがぶれてしまうのであまり気にしすぎないことにした。
元々低くてもそこまで不都合はない、受け取れるメリットもデメリットも。その偉い立場からカール・ロビンゾン第九王子に関係する人物は多かれど、カール王子を知る者は少ない。誰にでもその心をすべて開くキャラではないのだ。
原魔勇の俺の知るストーリーラインで、彼の心を開かせれる可能性のあるキャラやイベントは普通にプレイしていては隠されてかつ限られている。
まぁ刺されるまでいく……俺にとってのバッドイベントだけは極力回避していた方がいいのは間違いない、といっても回避はできなかったところからこのデータは始まったよな……うん、まだ油断はできないのが本音だ。
しかしさっそく訪れた死亡フラグをへし折りこうして元気に生きているのでここまでは──100点!
俺が楽しいので100点! といったところか? ハハ。


砂粒が進む足底に混じり始めた道をゆき、ついてきていた従者のヤル気の低そうなゲームじみた台詞と重なる声が考え事をしていた俺の耳に届いた。

「王子ぃー、そっちいくと街の外だよ」「だよ」

「あぁしってる。──ってなにやってんだ」

「「しんぺんけいご」」

小走りで声をかけた背後から俺の前へと回り、簡易な木の門前に例のサイドテール姉妹が両腕をひろげ通せん坊している。
メイド長から給わった〝カール王子のしんぺんけいご〟という最低限の仕事はできるようだ。
その辺の山賊団よりしっかり教育が行き届いているな。
さすが他国に派遣もしているメイヂ国の質メイドたちだ。

しかし、──しかしのしかしだ。
体を張るのはまだ少しばかり、あと数歩と数千歩は早いのだ。

「何言ってんだ? これから4人で仲睦まじく夕暮れのexピクニックに行くんだろうが、たのしいたのしいそこそこの警護するならそっからだ。テツテツ、スチパン、サンダー、──な?」

「ほへ?」「ほへぇ?」「ぬえっ…!??」

王子は微笑う、ピクニックメンバーをひとりひとり右、左、後ろ、指差ししながら。
そして物見やぐらから降りて来た見張り番の若い男に少額の賄賂のコインを指ではじき与えながら、チョコ、ギム、ホナを不思議な逆らえない引力で連れたカール王子はじゃりつくベヌレの街の東の門を発った。








ベヌレの街から東へ587歩
▽夕暮れの平原▽にて


「どらぁーー! さっきからぱんぱん玩具の銃鳴らして調子乗ってんじゃねーぞガキぃぃ! ドタマかち割って俺様パパが今すぐ寝かしつけてヤ・ル!!!」

「がんっ、ざんねん」「ぱんっ、かんねん」

「は!? ガキが増え!? 俺の【アクセスアックス】がカケて…ぶへぇーーー!??」

不意に現れた似たような顔立ちのガキが構えたレア盾に阻まれ、ご自慢のレア斧を欠けさせてしまったパープルバンダナの男はひょこっと盾の後ろから出てきた魔銃の魔力弾をおどろく顔面に受けてクリティカルダメージを貰い倒れた。

ギムはホナの近くにいつでも瞬間移動できる【ハングリーミラー】という特殊能力がある。なので今もなおネットの片隅でつづくギムホナ姉妹研究機関の長年のゲーム研究の末に、この優れた唯一無二の移動能力を活かした盾のギムと回復のホナでセット運用が最終決定版で基本のスタイルだと結論付けられている。最近の研究結果では燕の剣×2を用いたどちらも剣士運用もありらしいが、それは双子姉妹のキャラと能力の成り立ちの解釈が一致しないので俺は好きじゃないのだ。
ごほん…通常運用する1人では微妙に頼りないが装備ビルドを尖らせた2人ならば、この通り立派な盾と回復(たまに銃でぶっ殺す)両方役割が存分にこなせる。扱いにクセのある特殊ユニットだ、初見ではまぁ2ユニットで一人前のこいつらの出撃枠がもったいなくて戦力外にするプレイヤーも多いことだろう。(もっとお手軽につよいユニットがいるから必然的にな)
だが見た目が可愛らしいし楽しい双子属性もある、一部のわかってる男子は彼女らを外すなんて意地でもしないことだろう。
そしてこの比較的弱い双子に今まで興味がなかった者たちも、何故かゲームプレイ途中から急に育て出したヤツも多いんだとか? おもに能力以外の評価ががらっと変わるような……いったいなぜだろうか? ハハ。

「おだちんおだちん…【チョコボール】!!」

「たががガキとガキと雌だぁーーぶっ潰ごほぁーーー!??」

【チョコボール】:
チョコに似た玉を射出するシンプルでおかしな魔法だ。裏ステータスで本人にチョコを食べさせたぶん射出量が増えるなど強くなる効果がある。が無駄チョコ代で軍資金がかなり食ってしまうのでこのユニットをあまり育てる人はいない。だがきっちり育てれば弱いことはない。最終的には魔法師としてつよさ上位のユニットにも食い込める活躍を見込める。
ちなみに魔法で生み出したチョコは食パンに泥を塗ったような味らしい。ひもじいかな悲しいかな。


「な、ななななんだこいつらーー!!! ガキとイキった雑魚男だから小遣い感覚で狩れるって話じゃなかったのかヨー!?」

「情報が古いぜ、ガセネタ掴まされたな、あばよ(後ろだよ紫シムラ)」

遠目で微笑む俺を見つめうろたえる紫バンダナの仲間の最後の1人は後ろを振り返ろうとするが、もう遅い。

赤焼けを浮かび飛んでいた白鳥が賊の無防備な頸をはげしくつついた。どさりと草地に倒れた未熟者が、ぴたりとも動かなくなった。

「この王ヂを小遣い感覚とはな。舐められたもんだぜ、ハッ。もう聞こえちゃいねぇか、ははは」

手元に戻ってきたボーンブーメランをよしよしと撫でながら労う。俺が沈む夕日と沈む賊どもを眺めていると、

「王子ぃー、めしー」「ピクニック、めしー」
「ふぅ…おだちん…感覚…!」

従者たちは腹を空かせていたようだ。
俺ははいはいと適当に返事をしながら、ひりつかない雑魚戦についあくびをしてしまった。

バイオレット山賊団とかいうどこかで見たような山賊団の色違いパクリ名乗り案件が発生したので。道中ついでに新装備を与えた双子たちの試運転を兼ねて狩っておいた。

まぁ予想以上に弱かったとは言うまでもない。昼間の山賊のアジト以下だ。おおかた頭がやられたから今がチャンスで成り代わってやろうっていう魂胆の山賊の残党だったんだろう。
まぁ、攻略道中サプライズにもならないこんなところで躓いていてはVRゲーム好きのプレイヤーとして…おっ──

横たわる山賊の身をごそごそとまさぐっていると、俺は山賊っぽいアイテムを発見した。
山賊が山賊っぽいアイテムを持っているとテンションが上がるのだ。海賊が海賊っぽいと上がるのも同じように。

「おっ、酒か」
「わーい、酒だよこせー」「酒よこせー、祝ーい」
「よこせるかよ、レーティングを考えろレーティングを」
「でーてぃんぐ、えろーい」「でーてぃんぐ、えろーい」
「あながち間違ってはない……お、よろこべおつぎはお高いチョコだぞ?」
「「わーい、お高いチョコだよこせー」」
「!? おだちん!?」
「ガキは干し肉で我慢しやがれ」
「「ガキは干し肉で我慢しやがれ、けっ」」
「けってなんだよ。そのカエルみたいな顔。そらよ、チョコ担当大臣はチョコだ」
「おっ!?おだちん…!! ありが…あり…ほっ……」

能力的に意味のないチョコをせがむ双子には干し肉を与え、チョコはチョコへと包み紙ごと投げ渡した。ソレを決して落とさない粗末しないパッシブ能力持ちなので、俺が乱雑に投げたチョコをメイドのおチョコさんがナイスキャッチしたのは必然の事象だろう。

こうして盗んだ飯を食う。盗んだアイテムを我が物顔で使用する愛用する。この世界勇大陸の上にのっかる住人はみなたくましいのだ。一歩でも街より外に踏み出しゃ日常が賊や魔物。
ちょっとしたピクニック感覚だ。襲いくる者を襲い、ぶっ殺し経験をつみながら食費代が浮くのは一石二鳥のお得だ。

俺たちは余さず倒したパープル山賊団からアイテムを回収しながら、さっそくスムーズに平原のど真ん中で夕食の準備を始めた。






従者のメイドたちの悪乗りで【つよいつよいアモン様をたおせれば賞金10万GEN】そんな手製の木看板が掲げられ、街の腕自慢たちが街道のひらけた中央広場に集った。
しかしこぞって集った者たちは木剣さばきに驚き次々とさばかれていき、さわぎに観戦にきた街の淑女たちも混じりアモン様への歓声がだんだんと厚みを帯びていった。

挑戦者を倒しアモンが一汗ぬぐったそのとき、背後から迫る足音を────受け止めた。

今度は大人ではなく、自分より若く見える少年が挑んできた。
殺気に反応したアモンは、メイドたちを手で制しながら少年の鉄剣を木剣のまま弾き返した。
少年は何も語らない。
そこに会話はない。だが目をみれば分かる、彼の目の色が違うと。
アモンはどこからでもかかってくるように、そんなオーラをただよわせ、少年を見つめ微笑み構えた。






酒臭い酒場が、今日ばかりはとってもフルーティー。
酒も剣もジュースも挑戦者というものは尽きない。人はなんでもくだらないなにかを賭けて遊ぶことができる生き物だ。

クピン・シープルは円机で睨み合いながら、自称オレンジアイドルお姉さん戦士のイヨ・ポンと飲み干したグラスを次々と積み重ね並べながらその数を争っている。

甘酸っぱいプライドとベヌレの街1点ものの景品であるオレンジの王冠をかけて、口元の汁をお互い拭いながら熾烈な孤独の闘いがつづいている。






オレンジの日が沈んでいく、もうすぐ夜がくるその前に。

腹を満たしたカール王子、チョコ、ギム、ホナの一行はチーズをとかし干し肉を炙ってディップした…焚火の元を離れて東へと進んでいった。

一歩一歩だが目的はまだ先。
野良の魔物と賊の残党を王子の放つ逃れられない不思議な引力に付いてくる従者と一緒にたおしながら。
俺カール王子は熱心に守りの陣形の確認とレクチャーをしていく、ギムとホナはわかっているのかわかっていないのか、うんうんと頷きながらしんぺんけいごから新たに与えた俺の仕事をこなしていく。
チョコには無駄チョコを使うなとだけ簡単な作戦を伝えておき、頷かせた。

雑魚戦ですこし動きは把握できた。
だが、相変わらず視点変更はできない。このゲームが元SRPGの血を継いでいる部分の視点変更と便利なショートカットコマンドがバグってできないのははっきり言って不確定要素がこんもりできつい。

だが、

「王子ぃー、これすると動けない、テツテツおもい」

「はは文鎮みたいに動けなくていいんだよ、その状態でもホナのところに一瞬で動ければな。それにかたさ、はやさ、ぱわー、まほう、最初からきように全部できたらおもしろくねぇだろ? 全部やろうとすればきっと中途半端で穂先は実らない、そうやって足りない部分をカバーし合うのがお前たち双子のスライだろ、ギム、ホナ」

「王子ぃー、せんちめんたる? きゅん」「めんたるおせんち? きゅん」

「親愛度が上がったならそう言ってくれ、はは」

デキしだいでは引き返すのも正直70%ぐらいはありだったが……崩れなければ、いけるんじゃねえか?

「王子ぃー、ちょっときもい」「きもいちょっと、おもい」

「なんでだよ!!(たしかに!!)」

親愛度なんて口に出すべきじゃあなかった。
今の『ちょっときもい』でちょっと下がったならいい話損じゃないかちくしょー、はは。

「かか、カール王子さま……ひ、ほ、ほほ本当にココココに入るんデス…? ひっ、なんか鳴って!?」

さっき喋りすぎた王子は反省し生のプレイに反映し、今度は多くを語らない。
先頭でランタンを片手に、そこに明るく浮かぶ王子の微笑みでソバカス顔のキュートな従者の不安顔を……もっと苦く不安にさせて────

「なに、そんな不安がるな。ここから先はちょっとしたex肝試しだ。いくぞっ」

結局しゃべる。沈黙と必黙の爽やかな王子スマイルよりそれがいい。

鬱蒼としげる道をとまらずゆき、
魔が蠢く夜の森の中へと、俺たちを歓迎するように近くにおちた雷鳴のゴングと共に入場していった。








■【雷鳴の森のライトニングビートル】:
不自然に集中する落雷が観測された。ベヌレの街の東の森の方だ。
勇大陸の地は魔大陸ほどではないが依然不浄である。天の雷よりも怖い魔物が跋扈するたくましい世界だ。
しかし、なにやらイヤな風と震動をその肌に感じた西の山の頭の命令で東の森の調査に向かった緑頭巾の者たちは──なんとだれひとり帰っては来なかった。
『気味が悪いねぇ、あんたたちあの東のこげくさい森に不用意に遊びにいくんじゃないよ』
『姐さんきいてくれよっ俺の魔石を盗んで消えたんだよコングの野郎! ぜってぇそこでこそこそ立ちしょんべんしながらかくれ』
『そんな光る石ころと濁った屑よりあんたの命の方が大事さガング。広くなった部屋と2段ベッドはひとりで使いな』
『ね、姐さん!!!』
この世で最も繁栄した種族とは何か。人間、鳥類、魚類、否それは昆虫である。
実に多種多様、実に多くの特殊能力を持つ種に枝分かれし、土中水中空中木中、様々な環境を住処とするかぞえきれないほどの進化に富んだ種だ。
さらにそんな中でも幼虫から成虫へと変態する能力を持つものがいる。
サナギが蝶へと生まれ変わるように。
その存在を示すかのよう妖しく灯る発光器のついたサナギの中に潜む黒光りの甲殻は、灼ける大木に掴まりながらながくするどい角を天へと伸ばし突き出す。
天からの怒れる恵、降り注ぐ雷を角のストローで痺れる最上の栄養としながら今か今かと、地を大木を疼かせ……神に愛された魔虫はとどろく胎動をつづけている。
そのときまで……。






巨大サナギの角から発せられた小雷が地を揺らす。
特殊な雷を浴びた卵から虫は急速に孵り、生まれ出たビッグキャタピラーたちは禁断の森に我が物顔で踏み入れた人間たちに襲い掛かった。
ビッグキャタピラーのクリティカルポイントは節足体にある赤い○模様、俺はVR仕込み同じ会社の他ゲーム仕込みの巧みなブーメラン操作術で遠距離からずばずばと赤い的を目掛けてクリティカルヒットさせてゆく。
「急造のビッグキャタピラーは全然ビッグじゃねぇハリボテだ、生まれてすぐハイハイできて偉いねぇそらよっ!」
俺はさらに戻って来たブーメランに再度APを消費し【パワーブーメ】で火力をあげて確実に卵を潰して未来の増援を絶っていく。

しかし土中から、サナギの親の喝が聞こえたのか、ダンゴムシアースが飛び出してきた。
敵はビッグキャタピラーだけではない。
丸まって下から体当たりを仕掛けてきたこいつのクリティカルポイントはさてなぁんだ?
正解は繋ぎ目──繋ぎ目があっちゃぁそのご自慢のダンゴムシ装甲も完璧じゃぁねぇ!

「完璧にしてくれなかった神様を恨みな、ハッ」

鎌を振るようにボーンブーメランを握り振り、丸々繋ぎ目を不思議な原理で強引にこじ開けて、中身をクリティカルで抉った。ブーメランで近接戦闘できないと誰が決めた? SRPGからタクティカルアクションへとシステムは昇華されたのしみ方はもはや無限大、できないことなどこのセカイにはないのだ。


しかし雷の喝に飛び出したダンゴムシは一匹だけではない。

「がんっ、おもくてたすかる」「ぱんっ、ばんざいたすかる」

丸く突っ込んできたダンゴムシを大盾を突き出したギムがはじき返し、地に寝そべり万歳をしたダンゴムシのCTPをホナがチャージした魔弾が撃ち抜いた。

「ついでにぱんっ、王子あまい、ダンゴムシ」「あまい、つめが、ダンゴムシ」

「ハッ、横槍さんきゅー!」

俺が倒し損ねていた必死に起き上がろうとしていた瀕死のダンゴムシをホナがほふり、詰めが甘いらしい俺は視点変更できない頼もしい後ろの状況と〝へんてこな杖〟の細っこい枝の底から溜まる魔力の具合を確認した。
そして再びブーメランを生まれたての赤○目掛けて、投げ放つ。

「寄る雑魚は殺せ、サナギにはそのときまで手を出すな。ギムは守れ俺以外を、ホナは回復を怠るな俺以外を、チョコは無駄チョコを打つなよあっせるなよー。じっくりじっくり作戦はサナギが蝶になったとき、ホンモノの勝利の雷鳴は近いぜ!」

暗い森の中で、食らいついてくる虫どもを滅していく。
大木にかじりつく角のはえたサナギを守る雷の号令にめざめる虫どもと、ソバカス顔のメイドを過保護に守るカール親衛隊。

最後に鳴り響くのはどちらのけたたましい雷鳴か、それは────俺のみぞ、知る。

「王子ぃー、みっちゃくしんぺんけいご」
「あぁ、みっちゃくしんぺん……って今すぐ戻りやがれ!」
「──じょーだん、テツテツ」
「無駄に瞬間移動してんじゃねぇぞ……ハッ! 王子の俺にかまうな敵にかまえ! ヤるぞ!!」
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